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海賊の男の言葉に、動きの止まる少年。男は町を巡る中で、症状の様々な違いと、見た目にはそれ程病に冒されていなくとも、動けぬほどの重症な患者を見てきた。
この町の住人達は、誰一人病にかかっていな者は見当たらなかったのだ。多少の違いこそあれど、皆身体の何処かに症状を患っていた。たった一人、この少年を除いて・・・。
「漁師の連中は比較的動けていたが、それでも何処かしらに症状を抱えて働いていた。だが、お前の身体には何処にも症状が出ていない・・・。それともお前は、内部に症状があるとでもいうのか?」
「俺はッ・・・!先生の薬があったからッ・・・」
「それは違う。スミスの薬はあくまで予防の効果しか得られない。その証拠に、漁師の者達も病を患っていた。長期の予防や感染者を抱える身で、病に冒されないなんてことはないんだ。なのにお前は、感染したスミスと一緒に暮らしていながら、頻繁に外に出ているにも関わらず感染していない・・・」
薬を服用していたという理由で、感染しなかったというのであれば、条件は漁師の者達も同じ筈。それでも彼らは病に冒されてしまった。
そしておかしな点はそこにもある。病にかかった後は、個人差はあれど病の進行に身体を蝕まれていくのが、この病の特徴だった。だが、漁師達は病にかかろうと食料を確保する為の漁をやめる訳にはいかなかった。
感染者と共に暮らし、尚且つ病にかかりながらも外に出て仕事をしていながら、進行度は町長サイドの者達や町の住人達に比べ遅い。単純にスミスの薬が、予防だけではなく服用し続けることで進行度を遅らせる効果があった可能性もある。
それでもこの違いは見過ごせない。漁師達に薬を届けていたのは、スミス本人ではなくアンスティスの仕事になっていた。交換条件で漁で獲れたものを分けて貰っていたのも、この少年だ。薬を別のものにすり替えて渡していたとしても不思議ではない。
「スミスの助手をしながら、町中を動き回れるお前は、スミスと同等かそれ以上に病のことを詳しく知っていた・・・」
「・・・・・」
スミスが病に冒されてから、身体が思うように動かせなくなり、代わりにアンスティスが使いをすることが増えた。薬を持っていったり、患者の容態を診てきたり。医療に関する知識こそスミスの方があるかもしれないが、この病のことについてだけは、実際にその目で見てきたアンスティスの方が多くの情報を掴んでいる。
「港の外れにある入り江に洞窟がある。その奥には白骨化した死体がいくつもバラバラになって散らばっていた。これは海賊をやっている中で、感覚として身につけたものだが、その骨の中には死んで間もない遺体のものがいくつかあった」
地上や土の中に埋められていた死体とは違い、満潮時には海水で満たされる洞窟。その海水に含まれる塩分により、陸とは異なる速度で白骨化が進む。デイヴィスはその違いに気づいていたのだ。
「それに、そこには食器のようなものもあった。町長んとこの書物で、だいぶ昔には、儀式で生贄を海の神への供物として捧げていた風習があったそうだ。初めは生贄になった人間の為のものかとも思ったが、それはおかしい。生贄ってのは大抵、“生きたまんま“供物にするもんだ。フォークやナイフなんかがあったんじゃ、自分で命を絶っちまう」
人間に限らず、命あるものを使った生贄を行う際、それは大抵生きたまま行うのが俗にいう生贄だ。その生贄が波に攫われるまでの間に死なぬよう、料理も共に持ち込んだと考えれば、それもなくはないのかと思える。
しかし、神を丁重に扱おうとも、生贄に選ばれた供物をそこまで丁重に扱うだろうか。それにその場合は、余計なことをしないように監視役も必要になってしまう。どう考えても、洞窟にあった食器類は不自然だ。
「あれは誰かが、儀式や生贄なんて風習が風化した後に、誰かが持ち込んだものだろうな」
「一体何の為に・・・?まさか食事って訳じゃ・・・」
デイヴィスの考察に漸く反応を示したアンスティス。フォークやナイフなど、どこの家庭にもあるようなもの。とても特定の人物を特定できるような証拠ではない。
「ふっ・・・まさか。“そういう物“しか持ち込めなかったんだろう。本来はもっとちゃんとした物でやりたかったんだろうが、それじゃぁ足が付くからな・・・」
「代用したってこと・・・?」
「そうだ。あそこで行われていたのは、人の身体を使った研究・・・。所謂、人体実験って奴だ。当然、最後はバラして解剖までしたんだろうな」
研究や実験、解剖などする人間はある程度絞られる。もちろん、スミス医師の先の見えぬ研究に痺れを切らした者がやったとも考えられなくはないが、知識なしにそんなことをしても、得るものは少ない。
再び黙り込んでしまうアンスティスに、デイヴィスは更に犯人へと迫る証言を口にする。
「そして俺が洞窟内を調べていると、俺が邪魔になったのか始末しようとした者がいる。危うく死にかけたが、伊達に海を旅しちゃいねぇからな俺は。何とか生き延びた俺は、水が押し寄せてきた方へ向かった。そこには堰き止めていた水を解放する装置と、出口に通じる通路があった」
水が流れ込んで来たということは、その流れに逆らって進めば、何処から流れ込んで来たのかがわかる。そして犯人は通路を通って地上に出ると、証拠を集め調べる者の死を確認することなく、足早にその場を去った。重要な証拠を残して・・・。
「地上に出ると、地面に動物の足跡のようなものがあった。俺は動物に詳しくはねぇが、どうにも歩幅がおかしいことに気づいたよ・・・」
デイヴィスはここで、漁師のログハウスで見た変わった履き物のことを語り出す。それは少年が薬を持ってくる際に履いていたもので、いつもとは違う音と足跡にダミアンがアンスティスだと気づかなかったことを思い出す。
「音も足跡も、動物に見せかける為のもの。そんなものを履いているのは、俺の知る限りでも一人しかいねぇよ。最後の最後に姿を晦ましたことで、スミスを疑う羽目になっちまったが、今となっては、コイツが人の命を使った実験なんぞする筈もなかったな。病が蔓延する町で、その治療法を見つけていながら何もしなかった元凶は・・・。お前だったんだな、アンスティス・・・」
この町の住人達は、誰一人病にかかっていな者は見当たらなかったのだ。多少の違いこそあれど、皆身体の何処かに症状を患っていた。たった一人、この少年を除いて・・・。
「漁師の連中は比較的動けていたが、それでも何処かしらに症状を抱えて働いていた。だが、お前の身体には何処にも症状が出ていない・・・。それともお前は、内部に症状があるとでもいうのか?」
「俺はッ・・・!先生の薬があったからッ・・・」
「それは違う。スミスの薬はあくまで予防の効果しか得られない。その証拠に、漁師の者達も病を患っていた。長期の予防や感染者を抱える身で、病に冒されないなんてことはないんだ。なのにお前は、感染したスミスと一緒に暮らしていながら、頻繁に外に出ているにも関わらず感染していない・・・」
薬を服用していたという理由で、感染しなかったというのであれば、条件は漁師の者達も同じ筈。それでも彼らは病に冒されてしまった。
そしておかしな点はそこにもある。病にかかった後は、個人差はあれど病の進行に身体を蝕まれていくのが、この病の特徴だった。だが、漁師達は病にかかろうと食料を確保する為の漁をやめる訳にはいかなかった。
感染者と共に暮らし、尚且つ病にかかりながらも外に出て仕事をしていながら、進行度は町長サイドの者達や町の住人達に比べ遅い。単純にスミスの薬が、予防だけではなく服用し続けることで進行度を遅らせる効果があった可能性もある。
それでもこの違いは見過ごせない。漁師達に薬を届けていたのは、スミス本人ではなくアンスティスの仕事になっていた。交換条件で漁で獲れたものを分けて貰っていたのも、この少年だ。薬を別のものにすり替えて渡していたとしても不思議ではない。
「スミスの助手をしながら、町中を動き回れるお前は、スミスと同等かそれ以上に病のことを詳しく知っていた・・・」
「・・・・・」
スミスが病に冒されてから、身体が思うように動かせなくなり、代わりにアンスティスが使いをすることが増えた。薬を持っていったり、患者の容態を診てきたり。医療に関する知識こそスミスの方があるかもしれないが、この病のことについてだけは、実際にその目で見てきたアンスティスの方が多くの情報を掴んでいる。
「港の外れにある入り江に洞窟がある。その奥には白骨化した死体がいくつもバラバラになって散らばっていた。これは海賊をやっている中で、感覚として身につけたものだが、その骨の中には死んで間もない遺体のものがいくつかあった」
地上や土の中に埋められていた死体とは違い、満潮時には海水で満たされる洞窟。その海水に含まれる塩分により、陸とは異なる速度で白骨化が進む。デイヴィスはその違いに気づいていたのだ。
「それに、そこには食器のようなものもあった。町長んとこの書物で、だいぶ昔には、儀式で生贄を海の神への供物として捧げていた風習があったそうだ。初めは生贄になった人間の為のものかとも思ったが、それはおかしい。生贄ってのは大抵、“生きたまんま“供物にするもんだ。フォークやナイフなんかがあったんじゃ、自分で命を絶っちまう」
人間に限らず、命あるものを使った生贄を行う際、それは大抵生きたまま行うのが俗にいう生贄だ。その生贄が波に攫われるまでの間に死なぬよう、料理も共に持ち込んだと考えれば、それもなくはないのかと思える。
しかし、神を丁重に扱おうとも、生贄に選ばれた供物をそこまで丁重に扱うだろうか。それにその場合は、余計なことをしないように監視役も必要になってしまう。どう考えても、洞窟にあった食器類は不自然だ。
「あれは誰かが、儀式や生贄なんて風習が風化した後に、誰かが持ち込んだものだろうな」
「一体何の為に・・・?まさか食事って訳じゃ・・・」
デイヴィスの考察に漸く反応を示したアンスティス。フォークやナイフなど、どこの家庭にもあるようなもの。とても特定の人物を特定できるような証拠ではない。
「ふっ・・・まさか。“そういう物“しか持ち込めなかったんだろう。本来はもっとちゃんとした物でやりたかったんだろうが、それじゃぁ足が付くからな・・・」
「代用したってこと・・・?」
「そうだ。あそこで行われていたのは、人の身体を使った研究・・・。所謂、人体実験って奴だ。当然、最後はバラして解剖までしたんだろうな」
研究や実験、解剖などする人間はある程度絞られる。もちろん、スミス医師の先の見えぬ研究に痺れを切らした者がやったとも考えられなくはないが、知識なしにそんなことをしても、得るものは少ない。
再び黙り込んでしまうアンスティスに、デイヴィスは更に犯人へと迫る証言を口にする。
「そして俺が洞窟内を調べていると、俺が邪魔になったのか始末しようとした者がいる。危うく死にかけたが、伊達に海を旅しちゃいねぇからな俺は。何とか生き延びた俺は、水が押し寄せてきた方へ向かった。そこには堰き止めていた水を解放する装置と、出口に通じる通路があった」
水が流れ込んで来たということは、その流れに逆らって進めば、何処から流れ込んで来たのかがわかる。そして犯人は通路を通って地上に出ると、証拠を集め調べる者の死を確認することなく、足早にその場を去った。重要な証拠を残して・・・。
「地上に出ると、地面に動物の足跡のようなものがあった。俺は動物に詳しくはねぇが、どうにも歩幅がおかしいことに気づいたよ・・・」
デイヴィスはここで、漁師のログハウスで見た変わった履き物のことを語り出す。それは少年が薬を持ってくる際に履いていたもので、いつもとは違う音と足跡にダミアンがアンスティスだと気づかなかったことを思い出す。
「音も足跡も、動物に見せかける為のもの。そんなものを履いているのは、俺の知る限りでも一人しかいねぇよ。最後の最後に姿を晦ましたことで、スミスを疑う羽目になっちまったが、今となっては、コイツが人の命を使った実験なんぞする筈もなかったな。病が蔓延する町で、その治療法を見つけていながら何もしなかった元凶は・・・。お前だったんだな、アンスティス・・・」
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