World of Fantasia

神代 コウ

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事件の勃発

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 何の変哲も無い壁の中から、一人の男が姿を現す。まるで壁を透過するように歩く男は、夜の繁華街を両のポケットに手を入れながら静かに進む。

 街は何事もなく日常という歯車を回している。男が壁をすり抜けた時、歩道には昼間ほどではないが多くの人が行き交っていた。それでも、誰もその異質な光景に反応を示さない。

 彼らにはその男の姿が見えていなかったのだ。それどころか、壁から出てきた男は行き交う人々を透過して直進している。男にとって、街の住人達にとってそれは当たり前のことでしかない。

 すると男は、路地裏の方からする声に耳を傾ける。通り過ぎ様に路地の方へ視線を送る。そこには、一人の男が壁際に追いやられ、数人の男達に囲まれている光景が見えた。

 男は大きく溜息をつく。この街に転移して来てから何度も目にする光景に、男はうんざりしていた。

 モンスターに襲われるWoFプレイヤーを探す彼らにとって、こういった小さな小競り合いは紛らわしくて仕方がない。

 突然モンスターに襲われる者達は、大抵の場合大声を出して喚いたり逃げ出したりするケースが多い。怒号や奇声には特に注意しなければならない中、何故人間同士で紛らわしい事を起こしているのか。

 ちんけな者達が碌でもない悪事に手を染めているのを、正しい道へ指導する義理もないと、男はそのまま見て見ぬふりをした。

 だが、通り過ぎてから暫くすると、一人の男に対し怒号を飛ばしていた者達の声が消える。そして沈黙はすぐに悲鳴へと変わった。

 路地裏から数人の男達が、悲鳴をあげて逃げ出してきた。様子の変わった雑音に仕方がなく男は振り返る。すると、悲鳴をあげて走る男達に対し、街行く人達が全くの無反応であることに気がつく。

 「おいおい、マジかよッ・・・!」

 逃げる男達の姿が見えていないのは、現実世界に侵食してきたモンスターが使う呪いか結界のようなものの効果なのだ。現実世界から存在を切り抜かれた彼らは、WoFの世界へ転移出来るようになった者か、アサシンギルドの者達のように別の世界からこちらへ転移してきた者達にしか認識出来なくなっている。

 今巷を騒がせている事件の犯人も、恐らく同じ手段を用いている。人目につかなければ、警察組織が足取りを掴むことなど不可能であり、助けようとする正義感のある者でもない限り邪魔には入らない。

 そして邪魔に入る者は、WoFのキャラデータを自身に投影する手段を知っていることになる。つまり、モンスターと戦う者がいるということは、その存在を周囲に知らせてしまうことに繋がるのだ。

 モンスターとは別に事件を起こしている者の存在がある以上、目立つ行動は控えるよう白獅に言われたばかりの男。出立ちや態度は粗暴なものの、男の中にある正しい心が、思わず逃げる男達を助けようと身体を動かす。

 無意識の反応を止めた男は、逃げる男達を追うモンスターの影を捉えた。アスファルトで固められた道路の中を、鮫のようにヒレを出して泳ぐ数体のモンスターが、逃げる男達を食い散らかそうと追い詰める。

 必死に助けを求める男達は、街中の人々に片っ端から声をかけ触れようとするが、声は届かずその手は人の温もりに触れることを許さない。

 子供のように泣きじゃくり悲鳴をあげて逃げる男達。その中の一人が、モンスターに追いつかれ動けなくなってしまう。

 飛びかかったのは大小様々な形態をしたモンスターの中でも、特に小さく素早いピラニアのようなモンスターだった。

 逃げ惑う男の足を削ぎ落とすように食らい付き、脹脛の肉を食い千切る。シンの時と同じく、その存在を切り抜かれようと痛覚や出血は現実のようにその肉体へ襲いかかる。

 激痛のあまり、喉を枯らしそうになるほどの悲痛な叫び声をあげる一人の男。血の匂いを嗅ぎつけ、周囲にいた他のモンスター達も集まりだし、瞬く間に男の姿は食いカスのような肉片へと変わり、道路に血溜まりを作る。

 別の獲物へターゲットを変えるように、モンスター達はすぐに残りの逃げた男達を追いかけ始める。

 「ッ・・・!何処かに・・・狙ってる奴がいるのか・・・!?」

 一部始終を目にしていた粗暴な男は、その光景が見えていることを悟られないように、瞳だけを世話しなく動かし周囲に同じく様子を伺う者がいないか探す。

 しかし、これは男にとって何もさせてもらえない状況になってしまっているのだ。例え、モンスターを囮に戦おうとする者を探す人物がいたとしても、こちらの存在をバラしてしまうため、行動に起こすことが出来ない。

 何より、目の前で起きている現場を見張る者が確実に居ないという保証はない。例え見つけられずとも、粗暴な男ができることなど何もない。完全に手札を封じられてしまった。

 逃げ惑う男達の末路を、ただ立ち尽くしながら表情に出すこともなく眺めていると、一人の男が別の路地裏へと逃げ込んでいく。隠れようとでもいうのだろうか、選択肢としては最悪なルートを選んでしまった。

 あれでは避けるスペースもなければ、抜けられる場所がない限り圧倒的に不利な状態へと追い込まれてしまう。呆れ返る粗暴な男。だが逃げ込んだ男は極めて望みの薄い、生存というルートを見事に引き当てたのだ。

 逃げる男を追うように路地へと向かったモンスターは、その入り口で何かによって次々に切り刻まれていった。明らかに逃げ込んだ男によるものではない。

 白獅達のように戦う術を持つ者を探る人物による仕業か、はたまた別の勢力の者による仕業か。粗暴な男の視線は、路地の入り口に釘付けとなった。
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