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救出の立役者
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千葉県某所。近代化が進む中で、自然の景色を残そうという意向の元に建設された、各地から珍しい植物や果実を移植した、大規模な植物園。
そこでは季節や昼夜を問わない、最新の技術によって各々の植物にとって最適な気候を再現する装置が備えられており、大自然の中で育つよりもずっと整った環境を保つことが出来る。
それを“自然“と呼んでいいものかという議論も多くある。人や機械によって管理され、最も効率的で最善の環境の中で管理されたものは、もはや人工物と変わらぬのではないかと。
しかし、肉やファーストフードが主体となっていた時代の食生活の偏りや、生活習慣病の数を考えれば、食に関する研究は欠かせなかった。
そこで目をつけられたのが、人の手や機械によって管理が可能な食物の研究だった。所謂“スーパーフード“と呼ばれるものだ。
病や怪我、年齢によって食の細くなってしまった生物に、より有効的で効率的であり、尚且つ味や満足感と言ったものまで満たせるものと、人の欲求は止まることを知らなかった。
そんな大規模な植物園の施設には、電力が欠かせない。都市部のような人工建設物の多い街並みとは違い、その植物園の近くには太陽光を利用したソーラーパネルや、風力を利用した発電施設が多く設置されている。
近隣の街には振動による電力の発電が可能なパネルがびっしりと敷かれ、人や車が移動するだけで、街や施設、人々の暮らしを支える電力を賄う電力が、常に作られ蓄電されていた。
「どうだ?治療の方は」
「白獅。・・・あぁ、落ち着いてはいるがあまり芳しくはないな」
「何が必要だ?」
「何かと言われれば、そりゃぁ回復や復活効果のあるアイテムだよ」
「なるほど・・・それは芳しくないな・・・」
転移してきたアジト内で、傷ついた仲間の治療と設備の復旧に尽力するアサシンギルドのメンバー達。暫く放置されていたこのアジトでは物資が不足しており、満足な治療が行えなかった。
死者こそ出ていないものの、このままではあまりいい結果にはならないだろう。時代や世界観が全く違うこの世界では、彼らの常識が通用せず、その知識も役に立たないものが多かった。
「なら、ここのデータを洗ってみよう。何か有力な情報を得られるかも知れない」
「頼む。きっと皆んな喜ぶぞ」
すぐに白獅は、近くにある植物園に送られる電力をアジトに流用させてもらう為、回路の確認と確保に向かう。アジト内の大所帯を転送するだけの電力があったのだ。
ここには電力が通っている。ただ、その量が足りない。どうにか機材に回していた電力を、回復のための機械に回すか、回路の増設は図れないだろうか。
白獅は、このアジトへの転送を手伝ってくれた現地のメンバーに会いに行くことにした。あれこれ考えるよりも、聞いてしまった方が早い。そう思い、今回の転送に関与していたメンバーに話しかける。
「忙しいところすまない。少し話を聞きたいのだが・・・」
転送装置のある部屋にいたのは、衣服や顔を汚しながら、古びた機械の隙間に入り作業する女性だった。
「電力が足りないって話だろ?こっちも最善は尽くしてるよ。ただ、電力元のポートが開いてないんだ。誰かが直接施設に行って、コードを打ち込まなきゃならない」
「ん?ちょっと待ってくれ。転送に使っていた電力はどうしたんだ?あれだけのことが可能な電力があれば、それを治療に回してくれれば・・・」
人を別の場所に転送するだけの装置を動かしていた電力があれば、それだけで治療機材の電気は賄えるのではないだろうか。
しかし、白獅が思っていたのとは事情が異なっていたのだった。
「あぁ、転送はここの機械を使ってやったんじゃないよ。あれは“ドウ“さんのスキルなんだ」
そこで初めて、白獅は転送がそのドウという人物によるスキルで行われた事を知る。転移スキルなど、並大抵の者が扱えるようなスキルではない。
そんなものを身につけていた者が、アサシンギルドに所属していたことを今の今まで知ることすらなかった。
「スキル・・・スキルだと!?その人に会わせてくれないか?」
「あぁ?・・・ドウさんなら隣の制御室にいるよ。それと注意しておくけど、あまり大声を出さないで、いい?」
彼女が何故そんな注意をしたのかわからなかったが、白獅は了承し彼女の指差す制御室へ向かった。
扉の前に立つと、機械音声で名前を求められた。白獅が振り返ると、彼女は黙って頷き指示通りにしろと促していた。
大人しく従い、機械に名前を言うと暫くした後に扉は開いた。制御室には多くの機材が設置されており、薄暗い部屋の奥に一人の人物がいることに気がつく。
静かに歩み寄った白獅は、その人物に話しかける。
「アンタがドウさん・・・か?」
椅子に姿勢悪く座る、肩甲骨あたりまで伸びた白髪の人物が振り返る。そこにいたのは、年老いた一人の男性でその風貌からはまるで魔女を彷彿とさせる印象を受けた。
「貴方がアサシンギルドの白獅さん・・・。ご挨拶に行けずに申し訳ありません」
「いえ、そんな・・・」
弱々しく痩せ細ったその身体で、東京の白獅らのいたアジトにまで来るというのは、それだけで大きな負担となるだろう。それとも、彼の転移スキルがあればそれも簡単なことなのだろうか。
老人はゆっくりと椅子から立ち上がり白獅の方を向くと、頭を下げ名を名乗った。
「外の彼女から既に伺っているとは思いますが・・・。私が“ドウ・オッド“です。お会い出来て光栄です」
礼儀正しく温厚そうな優しい笑顔を白獅へ向けるドウ。彼が危機的状況に陥った東京のアジトを救った立役者で、転移スキルを保持する恐らくダブルクラスであろう人物。
そこでは季節や昼夜を問わない、最新の技術によって各々の植物にとって最適な気候を再現する装置が備えられており、大自然の中で育つよりもずっと整った環境を保つことが出来る。
それを“自然“と呼んでいいものかという議論も多くある。人や機械によって管理され、最も効率的で最善の環境の中で管理されたものは、もはや人工物と変わらぬのではないかと。
しかし、肉やファーストフードが主体となっていた時代の食生活の偏りや、生活習慣病の数を考えれば、食に関する研究は欠かせなかった。
そこで目をつけられたのが、人の手や機械によって管理が可能な食物の研究だった。所謂“スーパーフード“と呼ばれるものだ。
病や怪我、年齢によって食の細くなってしまった生物に、より有効的で効率的であり、尚且つ味や満足感と言ったものまで満たせるものと、人の欲求は止まることを知らなかった。
そんな大規模な植物園の施設には、電力が欠かせない。都市部のような人工建設物の多い街並みとは違い、その植物園の近くには太陽光を利用したソーラーパネルや、風力を利用した発電施設が多く設置されている。
近隣の街には振動による電力の発電が可能なパネルがびっしりと敷かれ、人や車が移動するだけで、街や施設、人々の暮らしを支える電力を賄う電力が、常に作られ蓄電されていた。
「どうだ?治療の方は」
「白獅。・・・あぁ、落ち着いてはいるがあまり芳しくはないな」
「何が必要だ?」
「何かと言われれば、そりゃぁ回復や復活効果のあるアイテムだよ」
「なるほど・・・それは芳しくないな・・・」
転移してきたアジト内で、傷ついた仲間の治療と設備の復旧に尽力するアサシンギルドのメンバー達。暫く放置されていたこのアジトでは物資が不足しており、満足な治療が行えなかった。
死者こそ出ていないものの、このままではあまりいい結果にはならないだろう。時代や世界観が全く違うこの世界では、彼らの常識が通用せず、その知識も役に立たないものが多かった。
「なら、ここのデータを洗ってみよう。何か有力な情報を得られるかも知れない」
「頼む。きっと皆んな喜ぶぞ」
すぐに白獅は、近くにある植物園に送られる電力をアジトに流用させてもらう為、回路の確認と確保に向かう。アジト内の大所帯を転送するだけの電力があったのだ。
ここには電力が通っている。ただ、その量が足りない。どうにか機材に回していた電力を、回復のための機械に回すか、回路の増設は図れないだろうか。
白獅は、このアジトへの転送を手伝ってくれた現地のメンバーに会いに行くことにした。あれこれ考えるよりも、聞いてしまった方が早い。そう思い、今回の転送に関与していたメンバーに話しかける。
「忙しいところすまない。少し話を聞きたいのだが・・・」
転送装置のある部屋にいたのは、衣服や顔を汚しながら、古びた機械の隙間に入り作業する女性だった。
「電力が足りないって話だろ?こっちも最善は尽くしてるよ。ただ、電力元のポートが開いてないんだ。誰かが直接施設に行って、コードを打ち込まなきゃならない」
「ん?ちょっと待ってくれ。転送に使っていた電力はどうしたんだ?あれだけのことが可能な電力があれば、それを治療に回してくれれば・・・」
人を別の場所に転送するだけの装置を動かしていた電力があれば、それだけで治療機材の電気は賄えるのではないだろうか。
しかし、白獅が思っていたのとは事情が異なっていたのだった。
「あぁ、転送はここの機械を使ってやったんじゃないよ。あれは“ドウ“さんのスキルなんだ」
そこで初めて、白獅は転送がそのドウという人物によるスキルで行われた事を知る。転移スキルなど、並大抵の者が扱えるようなスキルではない。
そんなものを身につけていた者が、アサシンギルドに所属していたことを今の今まで知ることすらなかった。
「スキル・・・スキルだと!?その人に会わせてくれないか?」
「あぁ?・・・ドウさんなら隣の制御室にいるよ。それと注意しておくけど、あまり大声を出さないで、いい?」
彼女が何故そんな注意をしたのかわからなかったが、白獅は了承し彼女の指差す制御室へ向かった。
扉の前に立つと、機械音声で名前を求められた。白獅が振り返ると、彼女は黙って頷き指示通りにしろと促していた。
大人しく従い、機械に名前を言うと暫くした後に扉は開いた。制御室には多くの機材が設置されており、薄暗い部屋の奥に一人の人物がいることに気がつく。
静かに歩み寄った白獅は、その人物に話しかける。
「アンタがドウさん・・・か?」
椅子に姿勢悪く座る、肩甲骨あたりまで伸びた白髪の人物が振り返る。そこにいたのは、年老いた一人の男性でその風貌からはまるで魔女を彷彿とさせる印象を受けた。
「貴方がアサシンギルドの白獅さん・・・。ご挨拶に行けずに申し訳ありません」
「いえ、そんな・・・」
弱々しく痩せ細ったその身体で、東京の白獅らのいたアジトにまで来るというのは、それだけで大きな負担となるだろう。それとも、彼の転移スキルがあればそれも簡単なことなのだろうか。
老人はゆっくりと椅子から立ち上がり白獅の方を向くと、頭を下げ名を名乗った。
「外の彼女から既に伺っているとは思いますが・・・。私が“ドウ・オッド“です。お会い出来て光栄です」
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