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現実への被害
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路上に残された血痕とガラスの破片を頼りに、シンは逃げ出した奇形のモンスターを追跡する。
外は依然として騒がしく、街全体を飲み込んだ停電に乗じて各地で発生している事件や事故に、大勢の警察組織が動いているようだ。あちらこちらからサイレンの音と、赤いランプで路地裏まで照らされる。
上空には普段以上に多くの警備ドローンが飛んでおり、搭載されたカメラが真っ暗な街並みの中、外出している人間達の顔を伺うように飛び回っている。
ふと、建物の方を振り返ったシンは、破壊された建物を見て警備ドローンがどのような反応をするのか気になった。だがそこには、それまでの争いがまるで夢幻かのように、綺麗に建物が元に戻っていたのだ。
そこでシンは、高速道路での戦いの時に朱影らに説明されたことを思い出す。
現実世界に確かに存在する建物や人間は、シンやアサシンギルドの面々が見ている光景とは似て非なるもの。
端的にいうと、異世界の者達が見ている光景はいくら破壊されようと、時間の経過と共に元の状態へと修復される。その際、破壊されたものは現実世界の者達には壊れたように見えないし、音や匂いもなく瓦礫などに触れることも無い。
逆に現実世界のものが壊れると、異世界の者達が見ている光景でも同じく破壊される。つまり、現実世界のものが基準となっており、異世界の者達が破壊したものは、基準の世界に現時点で存在している状態に修復される。
しかし、例外として“命あるもの“はその範疇にないらしい。
例えれば、高速道路で朱影がバイクを強奪した際に乗っていた、弥上奨志という現実世界に生きる人物。彼は朱影によってバイクから落とされたが、現実には事故で落ちた事になっている。
仮にあの時、朱影が彼を殺していたら、恐らく彼は現実の世界でも死んでしまっていたことになる。瑜那と宵命が街で襲われる者達を助けていた際、モンスターに殺された人物は、現実の世界では失踪事件として処理されている。
要は、命の無いものは修復され、命あるものは何らかの形で現実世界に反映されてしまうということなのだろう。
何となくだが、今自身が置かれている現状を把握したシンは、戦闘による建物や物の損壊を気にする必要はないことを理解する。逆に気をつけるべきは、生き物の扱いということだ。
別に正義感があった訳ではない。ただ、被害者が出ることで自分達の首を絞める事になることを危惧していたシンは、奇形のモンスターが被害者を出す前に何とかしなければと、足を早める。
すると早速、大通りの方で大きな物音が聞こえてきた。シンはすぐさま音のした方へ向かうと、そこには先ほど逃げ出した奇形のモンスターの姿があった。
何故あんな目立つ道路上で止まっているのか違和感を覚えたが、まずは拘束し人目につかないところへ運ばなくてはと、影を操り拘束するスキルを放とうとした。
だが、僅かにモンスターの足の間から見えた向こう側に、彼の危惧していたものがあるのが目に入る。
そこにいたのは、奇形のモンスターの前で立ち尽くす一人の女性だった。
姿からして十代後半から二十代前半といった、パンクファッションをした髪の長い女性が、俯いたまま棒立ちの状態で立ち尽くしている。
目の前のモンスターが見えていないのか。それともあり得ないものを目にして呆然としてしまっているのか。
何にせよ、面倒が起こる前に彼女を助けようとするも、あれだけモンスターと近距離にいては、シンのスキルでは間に合わない。
「何してんだ!逃げろぉッ!!」
「・・・・・」
彼女からの返事はない。だが僅かに、こちらを向いたような気がした。しかしその表情は、垂れた前髪によって伺うことはできない。
シンの声に触発されたのか、奇形のモンスターはそれまで動かなかったものの、突如として動き出し大きな前足で、正面に立ち尽くす女を薙ぎ払おうとした。
「仲間・・・同じ・・・世界・・・食べる・・・人に・・・」
「余計なことすんなよッ・・・ったく!」
彼女の救出は間に合わない。だができる限り被害を小さく収めようと、シンは周囲の影を伸ばし、奇形のモンスターに向かって伸ばす。
その巨体で前は確認できないが、振われたモンスターの前足は勢いよく前方を薙ぎ払うと、彼女が立っていた位置に差し掛かったところで、凄まじい血飛沫が飛び散った。
何か黒いものがその場から吹き飛び、遠くのビルに激突したのが見えた。ガラスが弾け飛び、建物を大きく損壊しながら土煙をあげているのが窺える。しかし建物の損壊は、時間と共に修復される筈。
シンは気にすることなく、奇形のモンスターの影に自身のスキルで伸ばした周囲の影を結びつける。モンスターの動きはピタリと止まったが、その巨体をどこへ運んだものかと悩んでいた。
拘束に成功したシンは、モンスターの背後からホッとした様子でゆっくり近づく。モンスターの正面からは、人の血液によく似た赤黒い液体をドロドロと溢しているのが見える。
「まさか・・・死体なんか残ってねぇよな・・・?」
シンの心配も虚しく、モンスターの身体の隙間から先程の女の足が見えた。まだそこに立っているかのように、棒立ちの状態で道路に立ててある。
あれだけの勢いで薙ぎ払われたのだ。足だけを残し、その上は破壊されたビルまで吹き飛んで行ってしまったのだろう。
グロテスクな場面を想像してしまい、眉を潜ませ目をギュッと閉じるシン。大きな溜息と共に、ゆっくりとその凄惨な現場を確認しよう、恐る恐る目を開ける。
だがそこには、彼の想像していた光景とは全く別の、凄惨な光景が広がっていた。
外は依然として騒がしく、街全体を飲み込んだ停電に乗じて各地で発生している事件や事故に、大勢の警察組織が動いているようだ。あちらこちらからサイレンの音と、赤いランプで路地裏まで照らされる。
上空には普段以上に多くの警備ドローンが飛んでおり、搭載されたカメラが真っ暗な街並みの中、外出している人間達の顔を伺うように飛び回っている。
ふと、建物の方を振り返ったシンは、破壊された建物を見て警備ドローンがどのような反応をするのか気になった。だがそこには、それまでの争いがまるで夢幻かのように、綺麗に建物が元に戻っていたのだ。
そこでシンは、高速道路での戦いの時に朱影らに説明されたことを思い出す。
現実世界に確かに存在する建物や人間は、シンやアサシンギルドの面々が見ている光景とは似て非なるもの。
端的にいうと、異世界の者達が見ている光景はいくら破壊されようと、時間の経過と共に元の状態へと修復される。その際、破壊されたものは現実世界の者達には壊れたように見えないし、音や匂いもなく瓦礫などに触れることも無い。
逆に現実世界のものが壊れると、異世界の者達が見ている光景でも同じく破壊される。つまり、現実世界のものが基準となっており、異世界の者達が破壊したものは、基準の世界に現時点で存在している状態に修復される。
しかし、例外として“命あるもの“はその範疇にないらしい。
例えれば、高速道路で朱影がバイクを強奪した際に乗っていた、弥上奨志という現実世界に生きる人物。彼は朱影によってバイクから落とされたが、現実には事故で落ちた事になっている。
仮にあの時、朱影が彼を殺していたら、恐らく彼は現実の世界でも死んでしまっていたことになる。瑜那と宵命が街で襲われる者達を助けていた際、モンスターに殺された人物は、現実の世界では失踪事件として処理されている。
要は、命の無いものは修復され、命あるものは何らかの形で現実世界に反映されてしまうということなのだろう。
何となくだが、今自身が置かれている現状を把握したシンは、戦闘による建物や物の損壊を気にする必要はないことを理解する。逆に気をつけるべきは、生き物の扱いということだ。
別に正義感があった訳ではない。ただ、被害者が出ることで自分達の首を絞める事になることを危惧していたシンは、奇形のモンスターが被害者を出す前に何とかしなければと、足を早める。
すると早速、大通りの方で大きな物音が聞こえてきた。シンはすぐさま音のした方へ向かうと、そこには先ほど逃げ出した奇形のモンスターの姿があった。
何故あんな目立つ道路上で止まっているのか違和感を覚えたが、まずは拘束し人目につかないところへ運ばなくてはと、影を操り拘束するスキルを放とうとした。
だが、僅かにモンスターの足の間から見えた向こう側に、彼の危惧していたものがあるのが目に入る。
そこにいたのは、奇形のモンスターの前で立ち尽くす一人の女性だった。
姿からして十代後半から二十代前半といった、パンクファッションをした髪の長い女性が、俯いたまま棒立ちの状態で立ち尽くしている。
目の前のモンスターが見えていないのか。それともあり得ないものを目にして呆然としてしまっているのか。
何にせよ、面倒が起こる前に彼女を助けようとするも、あれだけモンスターと近距離にいては、シンのスキルでは間に合わない。
「何してんだ!逃げろぉッ!!」
「・・・・・」
彼女からの返事はない。だが僅かに、こちらを向いたような気がした。しかしその表情は、垂れた前髪によって伺うことはできない。
シンの声に触発されたのか、奇形のモンスターはそれまで動かなかったものの、突如として動き出し大きな前足で、正面に立ち尽くす女を薙ぎ払おうとした。
「仲間・・・同じ・・・世界・・・食べる・・・人に・・・」
「余計なことすんなよッ・・・ったく!」
彼女の救出は間に合わない。だができる限り被害を小さく収めようと、シンは周囲の影を伸ばし、奇形のモンスターに向かって伸ばす。
その巨体で前は確認できないが、振われたモンスターの前足は勢いよく前方を薙ぎ払うと、彼女が立っていた位置に差し掛かったところで、凄まじい血飛沫が飛び散った。
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シンは気にすることなく、奇形のモンスターの影に自身のスキルで伸ばした周囲の影を結びつける。モンスターの動きはピタリと止まったが、その巨体をどこへ運んだものかと悩んでいた。
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「まさか・・・死体なんか残ってねぇよな・・・?」
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