World of Fantasia

神代 コウ

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グラビティマスター

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 イルを地に捩じ伏せた蒼空は、そのまま倒れるイルを掴み上げようとするも、すぐに押さえ付ける力を退けたイルによって避けられてしまう。

 しかし、彼もまた蒼空の未知の能力に警戒し、すぐに反撃に出るような真似はしなかった。蒼空の忠告を素直に聞き入れ、距離を取るように後方へと引いていく。

 「・・・驚いたな。こういうのって、“物体“にしか効果がないものだと思っていたけど」

 「今の一撃で、もう察したのか?なかなか鋭いじゃないか」

 シン達と同じくフィアーズに所属し、WoFの覚醒者である蒼空の能力。それは、自身の一定範囲以内のものを、重くしたり軽くすることの出来る、要するに限定的ではあるが重力を操ることの出来るクラスである“グラビティマスター“。

 その力で物体だろうと気体だろうと関係なく、地面に押し付けていたのだ。だが、完全に押さえ付けられるほどの力を出していなかった蒼空。決して出し惜しみをしていた訳ではない。

 彼はこの男の観察力や推測力を図るため、初手の攻撃で上限値を晒す訳には行かなかったのだ。今は逃げられてしまったとしても、この力加減はいずれこの男を油断させるきっかけになると考えていた。

 暫く睨み合う二人。先に動き出したのは蒼空だった。彼もまた、イルの不気味な能力を警戒し後手にまわってしまうことを避けた。

 万が一捕われてしまったとしても、蒼空には重力による範囲攻撃がある。靄ごと相手を攻撃することが可能だ。

 近づく蒼空に対し、意外にもイルは彼と一定の距離を取るようにして逃げていく。その道すがら男は、靄をそこら中に撒き散らすように移動していた。

 「何か企んでんのか?でも・・・」

 蒼空はイルを追いながら、靄の集まる箇所に手を触れると、狭い範囲での重力フィールドを展開する。すると黒い靄は、上空から強風に煽られたかのように地面に吹き付け、周囲へと飛散していった。

 イルが何の為に靄を広げていたのかは定かではないが、蒼空の能力に掛かれば、それを振り払うことも可能だということを知らしめた。

 しかし、自分の能力が相手によって打ち破られているにも関わらず、男は僅かに笑みを浮かべていた。まるで、獲物をどうやって調理しようかと、舌舐めずりしながら品定めでもするかのように・・・。

 「アンタの忠告に従うことにしたんだ、俺は。だからよく見させてもらったよ、その力。おかげでコツは掴めそうだぁ・・・」

 追ってくる蒼空の方へ身体を向けながら、器用に後ろ飛びで距離を取る。そして、下から掬い上げるように片手を前に出すと、それに呼応するように蒼空の踏み出した足元から、黒い靄がその足を絡め取らんと吹き上がる。

 「ぅおッ・・・!」

 思わず飛び上がる蒼空だったが、これこそイルの思惑通りだった。

 「あちゃぁ~・・・。飛んじゃいけねぇよなぁ、飛んじゃぁ・・・!」

 いくらWoFのキャラクターの身体能力を手に入れたとはいえ、空中では動きが制限されるのは生身と変わらない。イルはわざと蒼空に避けさせる為、フェイクの攻撃を行なっていたのだ。

 誘われるように身体を宙に晒してしまった蒼空に向けて、彼の真下付近の地面から無数の靄の蔓が伸びていく。

 だが、ある程度の範囲内に収まっているのなら、蒼空の能力で払い除けられる。よく見ていた割には、能力のことを考えていなかったのか。得意げになるイルを尻目に、蒼空は下へ手をかざす。

 そして迫り来る靄に向けて重力を掛けた瞬間、イルの口角の上がった口は、嘲笑うように開く。

 「そうくるだろうと思ったよッ・・・!」

 イルの狙いは蒼空の頭上の高さにあった。彼の能力で飛散させられた靄は、完全には消滅しておらず、霧のようになって上空へ巻き上げられていたのだ。

 男の合図で巻き上げられていた靄は集合し形を成すと、蒼空を貫く槍となってその矛先を向ける。これは、この男の実験でもあった。蒼空が同時に二箇所の重力変動を行えるのかどうか。それを見定める為の。

 重力を操作できるという強力な能力の裏には、制約や条件、デメリットといったものは付き物。当然、蒼空の操作できる重力とその範囲には限度がある。

 「これは・・・。一杯食わされたね・・・」

 周囲を取り囲むほど、フィールドを掌握する能力。戦闘において、場の優位性を作り出せる能力を持ち合わせていたイルに、軍配が上がった。

 今の蒼空に、上下から迫る魔の手を同時に払い除ける手段はなかった。既に発動してしまっている能力により、下方の靄は飛散出来たものの、頭上から迫る無数の靄の槍からは逃れられない。

 万事休すの状況下、蒼空は残された僅かな時の中で、その視線を憧れのアイドルへと向ける。せめて最後の時は、彼女の姿をその目に焼き付けておこうと・・・。

 するとその時、鋭い斬撃の衝撃波が彼の頭上を掠めて行った。
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