World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
826 / 1,646

グラビティマスター

しおりを挟む
 イルを地に捩じ伏せた蒼空は、そのまま倒れるイルを掴み上げようとするも、すぐに押さえ付ける力を退けたイルによって避けられてしまう。

 しかし、彼もまた蒼空の未知の能力に警戒し、すぐに反撃に出るような真似はしなかった。蒼空の忠告を素直に聞き入れ、距離を取るように後方へと引いていく。

 「・・・驚いたな。こういうのって、“物体“にしか効果がないものだと思っていたけど」

 「今の一撃で、もう察したのか?なかなか鋭いじゃないか」

 シン達と同じくフィアーズに所属し、WoFの覚醒者である蒼空の能力。それは、自身の一定範囲以内のものを、重くしたり軽くすることの出来る、要するに限定的ではあるが重力を操ることの出来るクラスである“グラビティマスター“。

 その力で物体だろうと気体だろうと関係なく、地面に押し付けていたのだ。だが、完全に押さえ付けられるほどの力を出していなかった蒼空。決して出し惜しみをしていた訳ではない。

 彼はこの男の観察力や推測力を図るため、初手の攻撃で上限値を晒す訳には行かなかったのだ。今は逃げられてしまったとしても、この力加減はいずれこの男を油断させるきっかけになると考えていた。

 暫く睨み合う二人。先に動き出したのは蒼空だった。彼もまた、イルの不気味な能力を警戒し後手にまわってしまうことを避けた。

 万が一捕われてしまったとしても、蒼空には重力による範囲攻撃がある。靄ごと相手を攻撃することが可能だ。

 近づく蒼空に対し、意外にもイルは彼と一定の距離を取るようにして逃げていく。その道すがら男は、靄をそこら中に撒き散らすように移動していた。

 「何か企んでんのか?でも・・・」

 蒼空はイルを追いながら、靄の集まる箇所に手を触れると、狭い範囲での重力フィールドを展開する。すると黒い靄は、上空から強風に煽られたかのように地面に吹き付け、周囲へと飛散していった。

 イルが何の為に靄を広げていたのかは定かではないが、蒼空の能力に掛かれば、それを振り払うことも可能だということを知らしめた。

 しかし、自分の能力が相手によって打ち破られているにも関わらず、男は僅かに笑みを浮かべていた。まるで、獲物をどうやって調理しようかと、舌舐めずりしながら品定めでもするかのように・・・。

 「アンタの忠告に従うことにしたんだ、俺は。だからよく見させてもらったよ、その力。おかげでコツは掴めそうだぁ・・・」

 追ってくる蒼空の方へ身体を向けながら、器用に後ろ飛びで距離を取る。そして、下から掬い上げるように片手を前に出すと、それに呼応するように蒼空の踏み出した足元から、黒い靄がその足を絡め取らんと吹き上がる。

 「ぅおッ・・・!」

 思わず飛び上がる蒼空だったが、これこそイルの思惑通りだった。

 「あちゃぁ~・・・。飛んじゃいけねぇよなぁ、飛んじゃぁ・・・!」

 いくらWoFのキャラクターの身体能力を手に入れたとはいえ、空中では動きが制限されるのは生身と変わらない。イルはわざと蒼空に避けさせる為、フェイクの攻撃を行なっていたのだ。

 誘われるように身体を宙に晒してしまった蒼空に向けて、彼の真下付近の地面から無数の靄の蔓が伸びていく。

 だが、ある程度の範囲内に収まっているのなら、蒼空の能力で払い除けられる。よく見ていた割には、能力のことを考えていなかったのか。得意げになるイルを尻目に、蒼空は下へ手をかざす。

 そして迫り来る靄に向けて重力を掛けた瞬間、イルの口角の上がった口は、嘲笑うように開く。

 「そうくるだろうと思ったよッ・・・!」

 イルの狙いは蒼空の頭上の高さにあった。彼の能力で飛散させられた靄は、完全には消滅しておらず、霧のようになって上空へ巻き上げられていたのだ。

 男の合図で巻き上げられていた靄は集合し形を成すと、蒼空を貫く槍となってその矛先を向ける。これは、この男の実験でもあった。蒼空が同時に二箇所の重力変動を行えるのかどうか。それを見定める為の。

 重力を操作できるという強力な能力の裏には、制約や条件、デメリットといったものは付き物。当然、蒼空の操作できる重力とその範囲には限度がある。

 「これは・・・。一杯食わされたね・・・」

 周囲を取り囲むほど、フィールドを掌握する能力。戦闘において、場の優位性を作り出せる能力を持ち合わせていたイルに、軍配が上がった。

 今の蒼空に、上下から迫る魔の手を同時に払い除ける手段はなかった。既に発動してしまっている能力により、下方の靄は飛散出来たものの、頭上から迫る無数の靄の槍からは逃れられない。

 万事休すの状況下、蒼空は残された僅かな時の中で、その視線を憧れのアイドルへと向ける。せめて最後の時は、彼女の姿をその目に焼き付けておこうと・・・。

 するとその時、鋭い斬撃の衝撃波が彼の頭上を掠めて行った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...