World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,066 / 1,646

地下へのリフト

しおりを挟む
 不意に脳裏をよぎったその小さな存在を確かめようと振り返るアズール。しかし、先程虫を見つけた場所には既にその姿はなかった。

 彼の見たその虫は、長い胴体に無数の足を生え揃えたムカデの姿をしていた。正確にはムカデは昆虫という分類には属さない。多足類に属する節足動物という分類となるが、一般的に虫として見られることが殆どだ。

 壁を這うように移動していたムカデは、アズールが目を離している内に何処かへ移動してしまったのだろう。だが、その隙間が見当たらないのだ。

 小さな疑問に過ぎなかったが、どうしてもその喉につっかえた小骨のような出来事が気になったアズールは、ムカデのいた場所を重点的に調べ始めた。

 何かを見つけたかのように同じ場所を仕切りに探し始めるアズールを見て、エイリルは声をかけた。

 「何か見つけたのか?」

 「いや・・・大したことではないんだ。たださっき、ここに虫がいてな」

 「虫・・・?」

 森で生きてきた彼らにとって何も珍しくもない存在。しかし、そんな自然の中に建てられた人工物の中に紛れ込んだとなれば、何処かに入り込んだ隙間がある筈。

 アズールは恐らくその隙間を見つけようとしているのかと踏んだエイリルは、いくら探しても見つからない自分の範囲をそっちのけで、アズールの探す範囲を一緒に探り始めた。

 「虫が入り込んでいるということは、それだけの隙間が空いているという事だ。小さな子とかもしれないが、重要なことに繋がるかもしれない。探す価値はありそうだ」

 「あ・・・あぁ、だがその虫自体も気になってな・・・」

 「虫が・・・?まぁいい、兎に角そいつを見つけて、外に逃してやろう。勿論、入り込んだと思われる場所からな。何なら私の術で・・・」

 言葉を続けようとしたところで、エイリルは床に何やら仕掛けがあるのを見つける。急に黙り始めたエイリルに、何を言おうとしていたのかを尋ねようとするアズール。

 しかしエイリルはそんな彼を静止し、小声で大きく動かないようにと伝える。その後に彼が指差した場所には、床に微かに見える隙間の線と思われるものが浮き上がっていた。

 「なるほど・・・。隙間は床と同じ色の粉で埋められていたんだ」

 エイリルがしゃがみ込み、その床の線の横を撫でるように指を滑らせる。掬い上げたその指には、床と同じ色をした粉のようなものが付着している。隙間の線は彼の指についているものと同じもので埋められ、あたかも床がびっしりと敷かれているように見えていたのだ。

 彼は軽く床に息を吹きかける。すると隠されていた床の隙間が露わになり、開閉できそうなパネルが出現した。無言で顔を見合わせた二人は、アズールの鋭い爪でパネルをこじ開ける。

 中から出てきたのは、何かの装置を起動させると思われるレバーだった。その空間はレバーが綺麗に収まる程度の余裕しかなく、他に何かが隠されている訳でもなさそうだった。

 「地下へ続く道がある部屋。そして一見、何もなさそうな部屋に隠されていたレバー。罠である可能性も高いが、ここで迷っていても進展はない・・・」

 「分かってるさ。やってくれ、アズール・・・」

 襲撃や罠に対する準備を整えた二人は、迷うことなくレバーを引き、その装置を起動させた。

 すると大きな物音と共に部屋全体が揺れ出すと、床がそのまま下へと動き出したのだ。

 「なッ・・・!?」

 「床全体が、そのままリフトになっていたのか!」

 天井との距離が徐々に開き、入って来た扉は既に手の届かない位置にまで行ってしまった。するとそこへ、遅れてやって来たシンが扉を開けて、床のない部屋へ飛び込んできた。

 「床がッ!?・・・アズール!?」

 当然、床があるものと思って踏み込んできたシンは、何の躊躇いもなく重心を前にかけてしまい、そのままアズール達のいる下がる床へと落ちていく。その途中で下にいるアズール達の存在に気がついたシンと、突然の物音に上を見上げるアズールとエイリル。

 落下してきたシンをアズールが受け止める。無事に合流することはできたがが、二人の元へやって来たのはシン一人だけ。共に行動していた筈のツクヨと妖精のエルフ二人が何処にも見当たらない。

 「おい、お前の仲間は?それにエルフ達はどうした?」

 落ち着いて尋ねるアズールに、急いでいたのと落下による驚きで心拍数の上がるシンは軽く呼吸を整えると、彼らに合流する前に何があったのかを語る。

 「ツクヨは・・・俺の仲間は上に残った・・・。何か気になるものを見つけたらしいが、上でも騒ぎが起き始めて置いてくる形になった。エルフ達はツクヨに同行させてる。何かあればこっちに連絡が来るだろう」

 「そうか。まぁ時間もなければ、今となっては戻ることも出来ない。彼には自力で何とかしてもらおう。それに、誰かが上に残ってた方が何かと都合がいいかもしれないしな」

 エイリルの言う通り、地下へ向かう部屋のリフトが下がり始めてしまったからには、下へ到達するまで上がることは出来ないだろう。レバー自体は床に取り付けられているが、上がる時にもこれが使えるかどうかは分からない。

 戦士の姿をしたエルフは、シンに自らの名前を告げ改めて協力者として握手を求める。しかし依然として二人は研究員の姿のまま。認識阻害を受けているシンには違和感しかなかった。

 「あぁ、これか?悪いがもう少しこのままでいさせてくれ。この先何があるか分からん。姿が研究所の奴らと同じであれば、セキュリティーの突破や相手の不意を突くことも可能かもしれない」

 「分かってる。その時は俺も、足を引っ張らないように身を隠すさ」

 ツクヨがシンを先に行かせたのは、彼の能力を考慮してのことでもあった。影のスキルによる壁や床の移動、そしてパッシブスキルによる気配や足音を消せるという隠密特化のクラス。

 危険な場所に足を踏み入れるなら、それらを持つ者と持たざる者、どちらを優先すべきなど考えるまでもない。加えてツクヨが上に残ったのは、彼の個人的な理由からだったのだ。

 ツクヨがシンと共にアズールらの後を追っていた時に目にしたのは、とある研究員の机に置かれた写真だった。同僚達と撮ったであろうその写真に写っていたのは、彼の妻でありWoFの世界へ転移したと思われる十六夜の姿だったのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

処理中です...