World of Fantasia

神代 コウ

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地獄へ向かう音

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 気配の違和感を感じたエイリルは、その場で浮上していくのを止める。どうしたのかと妖精のエルフ達が近づくと、彼は上を見上げたり壁を見たりと仕切りに視線を動かしている。

 「どうしたのです?エイリル」

 「いや・・・周囲に感じていた気配が、どうもおかしいように感じて・・・」

 「おかしい・・・?」

 種族としては同じエルフ族の彼らも、エイリルの言う気配の異変を探ろうと周囲を警戒する。すると見えてきたのは、彼らの周りで流れるように下へと流れていく大きな気配だった。

 「こッこれは・・・なんて大きさの気配の流れ・・・」
 「まるでゆっくりと流れる滝のようだ」
 「しかし、動いているのなら何故姿が見えないのです?」

 異変を感じたのは、戦士のエルフであるエイリルだけではなかった。やはり勘違いではない。アズールや彼らも感じた大きな気配。それは一行を、彼らを乗せたリフトと化した部屋全体を。

 否、そんな小さな気配ではない。実際にリフトを離れた事でそれは明確に彼らへ伝わってきていた。

 「あの部屋を覆っていたんじゃない・・・。穴だ。この大穴自体をとてつもない何かの気配が覆っている・・・?いや、“移動“しているッ!」

 地下へと流れていく気配や周囲の光景を、壁や空気、魔力の流れとは考えずもっとシンプルに捉える事により、エイリルはその正体を見つける。

 「これはッ・・・!?」

 「エイリル?何か分かったのですか?」

 「ここは“大穴“なんかじゃないッ!いや、正確には大穴を降る“生き物の中“だったんだッ!!」

 エイリルの見つけた真実。それは地下へ続く大穴を、地下へ降るリフトとして機能する超大型の生き物の体内であることを悟った。

 「いつから食われていた・・・!?奴が現れた時か?それとも部屋に入った時・・・?」

 「つまり施設に空いた大穴は、その生き物が地下へ降る道という訳ですか!?」
 「それ以前に私達は、その大きな生き物に食べられてしまったという事ですか!?
 「それにしては、私達は今だ無事なのですね。消化器官はないのかしら?」

 「・・・・・」

 想い想いの事を口にする妖精のエルフ族の問いにエイリルが答えられる筈もなく、思考がパニックに陥っていたのは彼も同じだった。ただそれを表に出さなかったのは、彼らに少しでも不安を与えない為と、自らを冷静に保つ為でもあった。

 しかし、決して彼に突破口がある訳ではなかった。これだけ大きな身体であれば、壁のように妖精のエルフ族の力で透過して逃れることも可能だろうか。それで生き残ったところで、置いてきたシンやアズールはどうするのか。

 停止する思考とは反対に、流れ込んでくる雑音と情報は多かった。それこそ人一人分の抱え込める情報量を容易に超えていた。それでも戦闘経験の少ない彼らに変わり、エイリルがなんとかしなければならない。

 妖精のエルフ族を助けようとしたのはエイリルの提案だった。彼らを安全なところへ避難させた後に、百足男と戦うシンとアズールの元へ戻る。その役目を果たす為、自分の行動と言葉に責任を持ち果たさなければ・・・。

 「確かにこのまま中にいればどうなるか分かったモンじゃない。先程部屋で見せた壁の透過は可能か?」

 「今度はこの肉の壁を越えようと?」
 「大丈夫だ。距離が短ければ私達の消耗も少ない」
 「問題は、この肉の壁の向こう側へ出たところで、押し潰されない保証がないことかしら」

 「もう大分地下にまで来ちまった・・・。ここから地上までの転移となると、準備も必要だし魔力の無駄遣いにもなる。脱出の時の事も考えると、こんなところで余分な魔力を失うのも惜しいが・・・」

 精霊に近い性質を持っているからとはいえ、他の種族よりも多くの魔力量を保有している訳ではない。何ならその小さな身体に抱え込める魔力量には限度がある。

 エイリルの言う通り、妖精のエルフ族が作り出す転移ポータルは、何度も使える代物ではないのだ。

 「考えている暇はありません。いつだった時間は待ってはくれないのです」
 「その通りだ、さっさと始めよう」
 「今を乗り越えたら、またその時に考えましょう。次がなければその先も絶たれてしまうのだから・・・」

 「あぁ、すまない・・・助かる」

 エルフ達に励まされながら、エイリルは壁と思っていた巨大な生き物の体内から外へ出ることを決める。

 移動する壁は部屋の壁のように、設置するポータルを開くことは出来ない。幸いにも宙を舞うことの出来る羽を持った彼らは、宙にポータルを設けたところで容易に通過することが出来る。

 エルフ達は壁から少し離れたところに陣取り、それぞれが詠唱を開始する。リフトが移動する音と思っていた引き摺るが、生き物のものと思うとそれまでとは違って聞こえてくる。

 まるで地獄へ生者を連れ込もうとする悪魔の唸り声のようにも聞こえた。
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