1,097 / 1,646
命を弄んだ悪魔
しおりを挟む
走馬灯のように駆け巡った過去の美しくも儚い日々と、過ちに塗れた凄惨な日々。どんな想いや理由があろうと、彼女の犯した罪が消える事はない。誰からも許される事はない。
それでも今のエンプサーがあるのは、ラウルを元の人の姿に戻したいという彼に対する感謝と恋心があったからだった。だがそれを叶えるには、彼女の手はあまりに多種族の血に塗れていた。
そして今、彼女の視界は自身の血によって赤く染まり、嘗て殺して来た多くの命が今だに生を謳歌し自分の研究欲満たす汚れた魂に贖罪をと手を伸ばす。
「あぁ・・・そうだった。妾は・・・」
絶叫に歪んだ蛇女ことエンプサーの顔は、これまでの悍ましさがまるで嘘のようにまっさら虚無の表情をしていた。そんな彼女の表情を見たアズールは、一瞬だけ剣を押し込む足の力を緩めたが、すぐに一族の恨みを思い出し振り抜く寸前まで全力を絞り出した。
エンプサーの身体は、仰け反りながら仰向けに地面へと叩きつけられる。凄まじい勢いで蹴り付けられたことが、傍観者達にもはっきりと伝わるほど床を広く砕き、剥き出しの地面にクレーターのような跡を残した。
着地したアズールは全ての力を使い果たしたかのように、その場に膝から崩れ落ち彼女とは反対にうつ伏せの状態で倒れた。
唖然とした様子で決着を見届けていたシンとツクヨは、すぐに残りのラミアの残党を始末しなければと危機感を持つが、エンプサーの眷属であるラミア達は彼女が倒されたことにより消滅していった。
「終わった・・・のか?」
「はぁ・・・よかった。まだ生きていたらどうしようかと・・・。もう戦えないよ。それよりシン!意識を取り戻していたんだね?」
「ちょっと前のことだけどね。それより本当に死んだのか確かめない事には・・・」
瓦礫に手を置いて立ち上がったシンは、土煙にシルエットを残すエンプサーの倒れている、地面に空いた窪みに近づく。すると彼女の頭部はアズールの強烈な蹴りと叩きつけられた衝撃により、見るも無惨な程にぐちゃぐちゃになっていた。
脈や気配を確かめるまでもなく、息絶えているのは明らかだった。ツクヨによって身体を両断された時のような復活の様子もない。恐らく一度きりの能力だったのだろう。
「大丈夫か?」
側で倒れるアズールの身体は、肉体強化の効果が失われ元の大きさへと戻っていた。傷だらけの身体に溜まった疲労が積み重なり、息をするだけでも精一杯といった様子だった。
シンやツクヨのようなユーザーの身体ではない彼らは、自然治癒にも限度があり、傷は癒せても肉体が負った疲労が完全に癒える事はない。それでもシンは、持ち合わせの回復アイテムを彼に使い、少しでも身体の傷を癒やし疲労の回復を促進させた。
「時間がない・・・。外でガレウス達が待っているんだ。休んでなどいられない・・・」
「そんな事言ったって、真面に歩けないんじゃ脱出も出来ないでしょ。私とシンが爆弾を仕掛けて来るから、それまで休んでてよ」
「何を馬鹿なことをッ・・・!?」
アズールを心配するツクヨの言葉に抗おうと、寝ていた身体を起こし彼の方へ視線を送る。ツクヨとて怪我を負っていたのは同じ筈。しかし、彼の傷は回復アイテムの影響ですぐに治癒していくのが目に入った。
「もう立ち上がれる程に・・・?」
「あぁ、私は疲労によるダウンじゃないからね。でもあの剣をそのまま握るのはもう懲り懲りかな」
茶化すように困り顔を浮かべたツクヨは、アズールがエンプサーの額に押し込んだ剣を拾いに向かう。室内にうっすらと光る淡い光を反射し、黒光した剣身が血みどろの地面に突き刺さっている。
今度は自らの手を傷付けぬようにと慎重に引き抜いたツクヨは、その剣に宿る不思議な力と雰囲気に魅せられた。それは彼の持つ宝剣、布都御魂剣を手にしている時と同じ感覚を彷彿とさせるものだとツクヨは口にした。
シンはアズールに肩を貸すように頼まれると、彼の側で膝を突き腕を肩に回して引き上げるように立ち上がる。ツクヨは拾った剣と共に、エンプサーによって奪われた自身の武器を探す。
そう遠くに運ばれていなかったようで、少し瓦礫をひっくり返したところでツクヨの武器を収納した箱を見つけ取り戻すと、不思議な魅力を感じたその剣を戦利品として持ち物へ加えた。
「まだ探索できてないけど、部屋ってここだけじゃないよね?」
シン達とは違った方法で地下へと降りて来たツクヨは、エンプサーに連れられるままにこの研究室へとやって来ており、他の部屋へ通じる扉を見掛けてはいなかった。
「あぁ、恐らくは・・・。て、それよりツクヨはどうやって地下へ降りて来たんだ?リフトには居なかっただろ?」
彼はエンプサーが妻である十六夜に姿を変え目の前に現れた事と、リフトのある部屋とは別に地下へ通じるエレベーターがあった事を二人に話した。それを知った彼らは、脱出の際に使えるとエレベーターの場所を確認し、今度はシンとアズールが運ばれていた通路の方へとツクヨを案内する。
研究室から出た彼らは、一度リフトとなっていた部屋の方へと戻ると、そこにあった筈の扉がいつの間にか破壊されており、上からは不気味な血の雨が降り注いでいた。
それでも今のエンプサーがあるのは、ラウルを元の人の姿に戻したいという彼に対する感謝と恋心があったからだった。だがそれを叶えるには、彼女の手はあまりに多種族の血に塗れていた。
そして今、彼女の視界は自身の血によって赤く染まり、嘗て殺して来た多くの命が今だに生を謳歌し自分の研究欲満たす汚れた魂に贖罪をと手を伸ばす。
「あぁ・・・そうだった。妾は・・・」
絶叫に歪んだ蛇女ことエンプサーの顔は、これまでの悍ましさがまるで嘘のようにまっさら虚無の表情をしていた。そんな彼女の表情を見たアズールは、一瞬だけ剣を押し込む足の力を緩めたが、すぐに一族の恨みを思い出し振り抜く寸前まで全力を絞り出した。
エンプサーの身体は、仰け反りながら仰向けに地面へと叩きつけられる。凄まじい勢いで蹴り付けられたことが、傍観者達にもはっきりと伝わるほど床を広く砕き、剥き出しの地面にクレーターのような跡を残した。
着地したアズールは全ての力を使い果たしたかのように、その場に膝から崩れ落ち彼女とは反対にうつ伏せの状態で倒れた。
唖然とした様子で決着を見届けていたシンとツクヨは、すぐに残りのラミアの残党を始末しなければと危機感を持つが、エンプサーの眷属であるラミア達は彼女が倒されたことにより消滅していった。
「終わった・・・のか?」
「はぁ・・・よかった。まだ生きていたらどうしようかと・・・。もう戦えないよ。それよりシン!意識を取り戻していたんだね?」
「ちょっと前のことだけどね。それより本当に死んだのか確かめない事には・・・」
瓦礫に手を置いて立ち上がったシンは、土煙にシルエットを残すエンプサーの倒れている、地面に空いた窪みに近づく。すると彼女の頭部はアズールの強烈な蹴りと叩きつけられた衝撃により、見るも無惨な程にぐちゃぐちゃになっていた。
脈や気配を確かめるまでもなく、息絶えているのは明らかだった。ツクヨによって身体を両断された時のような復活の様子もない。恐らく一度きりの能力だったのだろう。
「大丈夫か?」
側で倒れるアズールの身体は、肉体強化の効果が失われ元の大きさへと戻っていた。傷だらけの身体に溜まった疲労が積み重なり、息をするだけでも精一杯といった様子だった。
シンやツクヨのようなユーザーの身体ではない彼らは、自然治癒にも限度があり、傷は癒せても肉体が負った疲労が完全に癒える事はない。それでもシンは、持ち合わせの回復アイテムを彼に使い、少しでも身体の傷を癒やし疲労の回復を促進させた。
「時間がない・・・。外でガレウス達が待っているんだ。休んでなどいられない・・・」
「そんな事言ったって、真面に歩けないんじゃ脱出も出来ないでしょ。私とシンが爆弾を仕掛けて来るから、それまで休んでてよ」
「何を馬鹿なことをッ・・・!?」
アズールを心配するツクヨの言葉に抗おうと、寝ていた身体を起こし彼の方へ視線を送る。ツクヨとて怪我を負っていたのは同じ筈。しかし、彼の傷は回復アイテムの影響ですぐに治癒していくのが目に入った。
「もう立ち上がれる程に・・・?」
「あぁ、私は疲労によるダウンじゃないからね。でもあの剣をそのまま握るのはもう懲り懲りかな」
茶化すように困り顔を浮かべたツクヨは、アズールがエンプサーの額に押し込んだ剣を拾いに向かう。室内にうっすらと光る淡い光を反射し、黒光した剣身が血みどろの地面に突き刺さっている。
今度は自らの手を傷付けぬようにと慎重に引き抜いたツクヨは、その剣に宿る不思議な力と雰囲気に魅せられた。それは彼の持つ宝剣、布都御魂剣を手にしている時と同じ感覚を彷彿とさせるものだとツクヨは口にした。
シンはアズールに肩を貸すように頼まれると、彼の側で膝を突き腕を肩に回して引き上げるように立ち上がる。ツクヨは拾った剣と共に、エンプサーによって奪われた自身の武器を探す。
そう遠くに運ばれていなかったようで、少し瓦礫をひっくり返したところでツクヨの武器を収納した箱を見つけ取り戻すと、不思議な魅力を感じたその剣を戦利品として持ち物へ加えた。
「まだ探索できてないけど、部屋ってここだけじゃないよね?」
シン達とは違った方法で地下へと降りて来たツクヨは、エンプサーに連れられるままにこの研究室へとやって来ており、他の部屋へ通じる扉を見掛けてはいなかった。
「あぁ、恐らくは・・・。て、それよりツクヨはどうやって地下へ降りて来たんだ?リフトには居なかっただろ?」
彼はエンプサーが妻である十六夜に姿を変え目の前に現れた事と、リフトのある部屋とは別に地下へ通じるエレベーターがあった事を二人に話した。それを知った彼らは、脱出の際に使えるとエレベーターの場所を確認し、今度はシンとアズールが運ばれていた通路の方へとツクヨを案内する。
研究室から出た彼らは、一度リフトとなっていた部屋の方へと戻ると、そこにあった筈の扉がいつの間にか破壊されており、上からは不気味な血の雨が降り注いでいた。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる