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意志の在り方
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エイリルの手には剣が握られており、センチの接近に合わせて抜剣されたと思われる。その剣速はまるで、抜刀術を極めた者のスキルと勘違いさせるほど素早く、センチの目にも映ることなく回避行動すら行わせることはなかった。
彼にそれ程のスキルがあったのかというと、そういう訳ではない。エルフ族で剣士のエイリルは、他の人間と比べ魔法を用いた戦闘も行える為、実質的に魔法剣士と同じようなことが出来る。
故にセンチを切り刻んだ彼のスキルも、剣士としての剣技に加え風属性の魔法による風の刃を合わせたスキルだった。実物である剣に視線が集中してしまい、ただでさえ見えづらい風の刃が更にその影を顰めることで、あたかも一瞬にして何度も切り付けたかのような結果を生み出していた。
「追い詰めていたのは俺の方だったな・・・」
センチが倒れた事により、大穴の外壁から身を乗り出していた複数のムカデ達は、司令塔を失いそれぞれが元の生き物のように自らの本能で動き出し、皆一様に壁の中や隙間から何処かへと姿を消していった。
バラバラになったセンチの肉片と血の雨が奈落へと落ちていく。そして、彼のいる大穴にリフトを動かす役目として存在していた巨大ムカデもまた、命令を失い地上へ向かって登るのを止め、再び下方の深淵へと降りていった。
「待っていろ、二人とも。今俺もいくから」
苦戦を強いられるも、最後はエイリル自身の知識とスキルにより突破口を見出し圧倒して見せたような戦闘だったが、その実繊細な魔力の調整や扱いをしていた為、見た目以上に疲労を抱えていた。
全快の状態であれば、羽で落下速度を調整しながら降りて行けるのだが、今の彼には落下の速度が加わった自身の身体を支えながら飛ぶのは不可能だった。そこでエイリルは、壁に掴まりながら少しずつ下へ下へと降りていく。
一方その頃、地下の研究所で目的の研究施設の破壊を目論むシン達は、研究所の奥で囚われていた人間や獣人、エルフや森に住む種族ではない者達数名を檻から解放し、エンプサーやセンチによる生物実験の様子を垣間見る事になる。
「囚われていた人達は粗方解放し終えたよ。そっちはどう?・・・ってあれ?どうしたの?」
ツクヨがエンプサーによって入れられていた大きな容器が並べられている部屋で、それを眺めながら足を止めるシンとアズール。彼らが何を見ているのかとツクヨが覗き込むと、液体に満たされた容器の中には、人間や獣人がモンスターの身体と合わさっているかのような、見るも悍ましい姿のまま保存されていた。
機材とモニターに映し出された数値と反応から、まだ生きているようだが彼らをこの容器から解放したところで、シン達には目の前の合成された生き物が命を保てるのかどうかさえ分からなかった。
「何だよ・・・コレ・・・」
「皮肉なものだな。自身がどのようにして造られたかを知りながらも、他者にそれを強要してしまうとは・・・。与えられた感情や意志というものは、例え別の対象物に移植出来ても、肝心な部分で欠陥を生み出してしまうのかもな・・・」
心優しい人間に恋をした綺麗な意志と心を持っていた筈のラミア。別の人間から摘出された意志を与えられたムカデ。同調するように育まれた意志も、元は人間のものであった筈の意志も、結局はおかれている環境や状況によって如何様にもその形を変える。
彼らも森の診療所で仲睦まじく暮らせていたのなら、意志を与えられてもムカデのままでいられたのなら。或いは特殊な個体として生物や種族の壁を超えた可能性となり得たのかもしれない。
「どうする?彼らも解放した方がいいと思うか?」
「やめておけ。この様子では、外の世界に放たれても何処にも馴染むことは出来ないだろう。所詮、造られたものでは造られた環境下でしか生きていけない。生物の進化とはこの世に与えられたものだ。その域から逸脱させられたのなら、このまま苦痛や苦悩を知る前に眠らせてやろう・・・」
アズールの言葉が正しいのかどうかは、シン達には分からなかった。だが少なくとも、その時点では納得のいく口実ではあった。意志を持って生み出される前に死ねたのなら、それは彼らにとって救いになるのかもしれない。
生物実験を行う研究所を潰すと計画した以上、こういった事態はある程度想像できていた。しかし実際に生きている者の命を委ねられると、戦闘で相手を討ち取る時とは違った罪悪感が心を蝕む。
ボタン一つで命を殺めてしまうという恐ろしさを、これは救いなのだという言い訳で押し潰しながら、シン達は容器と繋がれた機材の電源を落としていく。
「さぁ、爆弾を仕掛け終えたのなら、とっととこんなとこから脱出するぞ!」
ダラーヒムから預かった爆弾を設置し終え、研究所を後にしようとしていたシン達。しかしそこへ、新たな問題が彼らを襲う。通路の奥から走ってやって来たのは、彼らが研究所内から解放した囚われていた者達だった。
慌てた様子でやってきた彼らは、シン達にリフトが使用出来なくなっていることと、ツクヨの乗って来たエレベータには重量制限があり、この数の人数を地上へ送るには相当な回数の往復が強いられる事になる事実を伝える。
リフトが無くなっていたのは確認済みだったが、まさか囚われていた者達がこれ程までに多くいるとは想定していなかったシン達。後は脱出するだけなのだが、ここにきて大きな問題に阻まれる事となってしまった。
彼にそれ程のスキルがあったのかというと、そういう訳ではない。エルフ族で剣士のエイリルは、他の人間と比べ魔法を用いた戦闘も行える為、実質的に魔法剣士と同じようなことが出来る。
故にセンチを切り刻んだ彼のスキルも、剣士としての剣技に加え風属性の魔法による風の刃を合わせたスキルだった。実物である剣に視線が集中してしまい、ただでさえ見えづらい風の刃が更にその影を顰めることで、あたかも一瞬にして何度も切り付けたかのような結果を生み出していた。
「追い詰めていたのは俺の方だったな・・・」
センチが倒れた事により、大穴の外壁から身を乗り出していた複数のムカデ達は、司令塔を失いそれぞれが元の生き物のように自らの本能で動き出し、皆一様に壁の中や隙間から何処かへと姿を消していった。
バラバラになったセンチの肉片と血の雨が奈落へと落ちていく。そして、彼のいる大穴にリフトを動かす役目として存在していた巨大ムカデもまた、命令を失い地上へ向かって登るのを止め、再び下方の深淵へと降りていった。
「待っていろ、二人とも。今俺もいくから」
苦戦を強いられるも、最後はエイリル自身の知識とスキルにより突破口を見出し圧倒して見せたような戦闘だったが、その実繊細な魔力の調整や扱いをしていた為、見た目以上に疲労を抱えていた。
全快の状態であれば、羽で落下速度を調整しながら降りて行けるのだが、今の彼には落下の速度が加わった自身の身体を支えながら飛ぶのは不可能だった。そこでエイリルは、壁に掴まりながら少しずつ下へ下へと降りていく。
一方その頃、地下の研究所で目的の研究施設の破壊を目論むシン達は、研究所の奥で囚われていた人間や獣人、エルフや森に住む種族ではない者達数名を檻から解放し、エンプサーやセンチによる生物実験の様子を垣間見る事になる。
「囚われていた人達は粗方解放し終えたよ。そっちはどう?・・・ってあれ?どうしたの?」
ツクヨがエンプサーによって入れられていた大きな容器が並べられている部屋で、それを眺めながら足を止めるシンとアズール。彼らが何を見ているのかとツクヨが覗き込むと、液体に満たされた容器の中には、人間や獣人がモンスターの身体と合わさっているかのような、見るも悍ましい姿のまま保存されていた。
機材とモニターに映し出された数値と反応から、まだ生きているようだが彼らをこの容器から解放したところで、シン達には目の前の合成された生き物が命を保てるのかどうかさえ分からなかった。
「何だよ・・・コレ・・・」
「皮肉なものだな。自身がどのようにして造られたかを知りながらも、他者にそれを強要してしまうとは・・・。与えられた感情や意志というものは、例え別の対象物に移植出来ても、肝心な部分で欠陥を生み出してしまうのかもな・・・」
心優しい人間に恋をした綺麗な意志と心を持っていた筈のラミア。別の人間から摘出された意志を与えられたムカデ。同調するように育まれた意志も、元は人間のものであった筈の意志も、結局はおかれている環境や状況によって如何様にもその形を変える。
彼らも森の診療所で仲睦まじく暮らせていたのなら、意志を与えられてもムカデのままでいられたのなら。或いは特殊な個体として生物や種族の壁を超えた可能性となり得たのかもしれない。
「どうする?彼らも解放した方がいいと思うか?」
「やめておけ。この様子では、外の世界に放たれても何処にも馴染むことは出来ないだろう。所詮、造られたものでは造られた環境下でしか生きていけない。生物の進化とはこの世に与えられたものだ。その域から逸脱させられたのなら、このまま苦痛や苦悩を知る前に眠らせてやろう・・・」
アズールの言葉が正しいのかどうかは、シン達には分からなかった。だが少なくとも、その時点では納得のいく口実ではあった。意志を持って生み出される前に死ねたのなら、それは彼らにとって救いになるのかもしれない。
生物実験を行う研究所を潰すと計画した以上、こういった事態はある程度想像できていた。しかし実際に生きている者の命を委ねられると、戦闘で相手を討ち取る時とは違った罪悪感が心を蝕む。
ボタン一つで命を殺めてしまうという恐ろしさを、これは救いなのだという言い訳で押し潰しながら、シン達は容器と繋がれた機材の電源を落としていく。
「さぁ、爆弾を仕掛け終えたのなら、とっととこんなとこから脱出するぞ!」
ダラーヒムから預かった爆弾を設置し終え、研究所を後にしようとしていたシン達。しかしそこへ、新たな問題が彼らを襲う。通路の奥から走ってやって来たのは、彼らが研究所内から解放した囚われていた者達だった。
慌てた様子でやってきた彼らは、シン達にリフトが使用出来なくなっていることと、ツクヨの乗って来たエレベータには重量制限があり、この数の人数を地上へ送るには相当な回数の往復が強いられる事になる事実を伝える。
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