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異形の存在
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囚われていた者達に連れられ、シン達はリフトのあった大穴の様子を見に行くことに。エンプサーを倒した後に見た時は、リフトが無くなっており、下には何処まで落ちるかも分からぬ真っ暗な大穴が更に地下へと空いており、上からは血が滴っていた。
二度目に訪れたその大穴には、同じく更に地下へと続く大穴と、壁に付着した何者かの血液が垂れている。依然としてあまり変化は見られない。シン達はツクヨの乗って来たというエレベータの方へ、囚われていた者達を誘導し
順番に地上を目指そうと指示を出そうとした。
すると、地下に続く大穴から何か物音がするという声が上がる。何事かと耳をすませば、地鳴りのような音がこだましているのが確かに聞こえる。それは次第に彼らの元へと向かってくるかのように大きくなり、地響きを巻き起こし始めた。
騒めき出す者達を後ろへ下げ、様子を見にいくシン達。すると奈落のそこからやって来たのは、リフトの上で一度は彼らを負かしたムカデの巨大化した姿だったのだ。
思わず後ろへ飛び退く彼らを無視して、大穴を駆け上がってきたその巨大ムカデは彼らのいる横穴を通り過ぎ巨体を外壁に擦り合わせ、次第にその速度を緩やかにしていく。
そして、彼らのいる横穴ピッタリと合わせるように、その巨体の中へと導く生物実験により造られた人工的な扉を顕にする。何をするでもなく勝手に開き始めた扉の先には、妖精のエルフ達を地上へ逃す為シン達と別れたエイリルが乗っていた。
「待たせたな。さぁみんなで地上へ戻るぞ!」
「エイリル!これは一体・・・」
「詳しい話は中で。それより早く!」
そこは彼が乗ってきたリフトとよく似た空間が広がっており、この広さなら多くの囚われていた者達を運ぶことができる。彼らを優先して乗せた後、シン達も乗り込もうとしたところで彼らの後方、研究室のあった方から何者かの声が彼らを引き止める。
「へぇ~、驚いたな。まさかここも無事に切り抜けちゃったのかぁ」
「ッ!?」
「誰だッと!?」
その容姿は黒いコートを纏いフードで頭を覆った、シンよりも少し小さめの身長をした異質な雰囲気を漂わせる人物だった。姿が一切見えないことから、人間であるかも不明だが、その者から感じる異質さは、彼らのいるWoFの生き物からは感じないような類を見ない異常さが、危険な存在であることを本能に呼び掛けるようだった。
しかし、シンはその姿に見覚えがある。それは大海原の大レースに参加した際に、デイヴィスと共にキングの船に乗り込んだ時に居合わせた黒いコートの者達と雰囲気が全く同じだったのだ。
「先に行ってくれ・・・」
「何を言ってるんだ、シン!それに・・・アレは何だか普通じゃないよ・・・」
「あぁ、俺もそう思うね。一人でどうこうできるような奴じゃない・・・。危険度で言えば、あの蛇女よりも段違いでヤバい・・・」
彼らは実際に会ったことはない筈。それでも肌身に感じる雰囲気が、黒いコートの人物が只者ではないことを知らせているのだろう。ツクヨとアズールは、その異様な雰囲気を纏う人物を一人で引き受けようとするシンの横へと並び立つ。
蛇女のエンプサーですら苦戦していた彼らが、それを凌駕する気配を漂わせる黒いコートの人物に勝機があるとは思えない。だが、ここまで生死を共にして苦難を乗り越えた仲間を置いては行けなかったのだろう。
「よせ!三人共。目的は既に果たしたのだろ?ならばとっととこんな所からは離れるべきだ!」
「こんな異常な気配を持つ奴が、黙って見送ってくれるのかねぇ・・・」
その場にいた誰もが大粒の汗を流し、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。アズールの言う通り、その黒いコートの人物がこの研究所の関係者なら、みすみす見逃すはずも無い。
シン達がその人物を抑えられなかれば、その場にいる全員が始末されてしまうかもしれない。そんな心臓を握られるような重苦しい空気の中、全員から敵視される黒いコートの人物は意外な言葉を口にする。
「いいよ?逃げて。今用があるのは、シンって人とツクヨって人だけだから。それ以外に興味はないよ」
何故シンとツクヨなのかは分からないが、エイリルは見逃してもらえるのなら逃げるべきだと彼らに進言する。彼にとってはシンもツクヨも、この研究所に囚われたエルフ族を解放する為に危険に身を投じてくれた協力者ではあるが、折角救えた命をこの場で全て失ってしまっては元も子もないと判断した。
情や感謝の気持ちがない訳ではない。だが、命あってこそのものだと、彼は誰よりも冷静でいることに間違いはない。だが、アズールはそうは思っていなかったようだ。
エイリルよりも彼らと共闘したアズールは、その命懸けの行動に義理を感じていたのだ。ツクヨやシンの協力なくしてエンプサーとの戦闘に勝利することは出来なかった。彼もまた二人に命を救われている。恩を返す前に更に恩を重ねられ、そのまま姿を消されては全ての獣人族の名が廃る。
「お前らは先に行けばいい!だが俺は行けねぇ・・・。元々死ぬ気でここへ乗り込んできた。その上恩を売られた相手を残したまま退いたんじゃ、アイツらに合わせる顔がねぇんだ」
「アズール。俺達はアンタに恩を売ったつもりはない。それにこれで終わりみたいな言い方はよしてくれ」
「シンの能力は、脱出に関してここにいる誰よりも優れてる。隙を見つけて何とかするから、みんなを連れて先に地上へ行っててよ」
「しかしッ・・・!」
シンとツクヨの言葉に迷うアズール。すると、いつの間に移動したのか。彼の懐に先程の黒いコートの人物がおり、彼の身体をリフトの中へと乱暴に吹き飛ばした。
「早く行けよ。二人が残るって言ってくれてるんだ。気が変わらないうちにさっさと消えてくれ。それとも今ここで消されたいのか?」
突如横に姿を表した黒いコートの人物に、シンとツクヨは瞬時に武器を振るう。しかし、どういうわけかその人物に命中することはなく、寸前の所で何かに阻まれてしまう。
「エイリル!早く行ってくれッ!!」
「・・・すまない」
シンに促され、エイリルは巨獣の身体に設けられた扉を閉める。そして大穴を下っていった時と同じように、リフトである体内の部屋に仕掛けられたレバーにより上昇を始める。
彼らが離れていくのを確認したその人物は、刃を向けるシンとツクヨをリフトに吹き飛ばしたアズールのように、軽々と双方の壁へと吹き飛ばした。
「さぁ、余計な奴らはいなくなった。僕は君達のような“異世界の住人“に用があるんだよ」
二人の前にいる黒いコートの人物は、一人称を僕と言いながらもその声色は女性のものだった。シンがキングの船で出会した二人組の者達とは別人のようだ。
彼らが一体何者なのか分からないが、二人をこの場に残した理由はその言葉からも読み取れるように、シンとツクヨを現実世界からやって来た者と分かっていての事のようだった。
二度目に訪れたその大穴には、同じく更に地下へと続く大穴と、壁に付着した何者かの血液が垂れている。依然としてあまり変化は見られない。シン達はツクヨの乗って来たというエレベータの方へ、囚われていた者達を誘導し
順番に地上を目指そうと指示を出そうとした。
すると、地下に続く大穴から何か物音がするという声が上がる。何事かと耳をすませば、地鳴りのような音がこだましているのが確かに聞こえる。それは次第に彼らの元へと向かってくるかのように大きくなり、地響きを巻き起こし始めた。
騒めき出す者達を後ろへ下げ、様子を見にいくシン達。すると奈落のそこからやって来たのは、リフトの上で一度は彼らを負かしたムカデの巨大化した姿だったのだ。
思わず後ろへ飛び退く彼らを無視して、大穴を駆け上がってきたその巨大ムカデは彼らのいる横穴を通り過ぎ巨体を外壁に擦り合わせ、次第にその速度を緩やかにしていく。
そして、彼らのいる横穴ピッタリと合わせるように、その巨体の中へと導く生物実験により造られた人工的な扉を顕にする。何をするでもなく勝手に開き始めた扉の先には、妖精のエルフ達を地上へ逃す為シン達と別れたエイリルが乗っていた。
「待たせたな。さぁみんなで地上へ戻るぞ!」
「エイリル!これは一体・・・」
「詳しい話は中で。それより早く!」
そこは彼が乗ってきたリフトとよく似た空間が広がっており、この広さなら多くの囚われていた者達を運ぶことができる。彼らを優先して乗せた後、シン達も乗り込もうとしたところで彼らの後方、研究室のあった方から何者かの声が彼らを引き止める。
「へぇ~、驚いたな。まさかここも無事に切り抜けちゃったのかぁ」
「ッ!?」
「誰だッと!?」
その容姿は黒いコートを纏いフードで頭を覆った、シンよりも少し小さめの身長をした異質な雰囲気を漂わせる人物だった。姿が一切見えないことから、人間であるかも不明だが、その者から感じる異質さは、彼らのいるWoFの生き物からは感じないような類を見ない異常さが、危険な存在であることを本能に呼び掛けるようだった。
しかし、シンはその姿に見覚えがある。それは大海原の大レースに参加した際に、デイヴィスと共にキングの船に乗り込んだ時に居合わせた黒いコートの者達と雰囲気が全く同じだったのだ。
「先に行ってくれ・・・」
「何を言ってるんだ、シン!それに・・・アレは何だか普通じゃないよ・・・」
「あぁ、俺もそう思うね。一人でどうこうできるような奴じゃない・・・。危険度で言えば、あの蛇女よりも段違いでヤバい・・・」
彼らは実際に会ったことはない筈。それでも肌身に感じる雰囲気が、黒いコートの人物が只者ではないことを知らせているのだろう。ツクヨとアズールは、その異様な雰囲気を纏う人物を一人で引き受けようとするシンの横へと並び立つ。
蛇女のエンプサーですら苦戦していた彼らが、それを凌駕する気配を漂わせる黒いコートの人物に勝機があるとは思えない。だが、ここまで生死を共にして苦難を乗り越えた仲間を置いては行けなかったのだろう。
「よせ!三人共。目的は既に果たしたのだろ?ならばとっととこんな所からは離れるべきだ!」
「こんな異常な気配を持つ奴が、黙って見送ってくれるのかねぇ・・・」
その場にいた誰もが大粒の汗を流し、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。アズールの言う通り、その黒いコートの人物がこの研究所の関係者なら、みすみす見逃すはずも無い。
シン達がその人物を抑えられなかれば、その場にいる全員が始末されてしまうかもしれない。そんな心臓を握られるような重苦しい空気の中、全員から敵視される黒いコートの人物は意外な言葉を口にする。
「いいよ?逃げて。今用があるのは、シンって人とツクヨって人だけだから。それ以外に興味はないよ」
何故シンとツクヨなのかは分からないが、エイリルは見逃してもらえるのなら逃げるべきだと彼らに進言する。彼にとってはシンもツクヨも、この研究所に囚われたエルフ族を解放する為に危険に身を投じてくれた協力者ではあるが、折角救えた命をこの場で全て失ってしまっては元も子もないと判断した。
情や感謝の気持ちがない訳ではない。だが、命あってこそのものだと、彼は誰よりも冷静でいることに間違いはない。だが、アズールはそうは思っていなかったようだ。
エイリルよりも彼らと共闘したアズールは、その命懸けの行動に義理を感じていたのだ。ツクヨやシンの協力なくしてエンプサーとの戦闘に勝利することは出来なかった。彼もまた二人に命を救われている。恩を返す前に更に恩を重ねられ、そのまま姿を消されては全ての獣人族の名が廃る。
「お前らは先に行けばいい!だが俺は行けねぇ・・・。元々死ぬ気でここへ乗り込んできた。その上恩を売られた相手を残したまま退いたんじゃ、アイツらに合わせる顔がねぇんだ」
「アズール。俺達はアンタに恩を売ったつもりはない。それにこれで終わりみたいな言い方はよしてくれ」
「シンの能力は、脱出に関してここにいる誰よりも優れてる。隙を見つけて何とかするから、みんなを連れて先に地上へ行っててよ」
「しかしッ・・・!」
シンとツクヨの言葉に迷うアズール。すると、いつの間に移動したのか。彼の懐に先程の黒いコートの人物がおり、彼の身体をリフトの中へと乱暴に吹き飛ばした。
「早く行けよ。二人が残るって言ってくれてるんだ。気が変わらないうちにさっさと消えてくれ。それとも今ここで消されたいのか?」
突如横に姿を表した黒いコートの人物に、シンとツクヨは瞬時に武器を振るう。しかし、どういうわけかその人物に命中することはなく、寸前の所で何かに阻まれてしまう。
「エイリル!早く行ってくれッ!!」
「・・・すまない」
シンに促され、エイリルは巨獣の身体に設けられた扉を閉める。そして大穴を下っていった時と同じように、リフトである体内の部屋に仕掛けられたレバーにより上昇を始める。
彼らが離れていくのを確認したその人物は、刃を向けるシンとツクヨをリフトに吹き飛ばしたアズールのように、軽々と双方の壁へと吹き飛ばした。
「さぁ、余計な奴らはいなくなった。僕は君達のような“異世界の住人“に用があるんだよ」
二人の前にいる黒いコートの人物は、一人称を僕と言いながらもその声色は女性のものだった。シンがキングの船で出会した二人組の者達とは別人のようだ。
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