World of Fantasia

街への帰還

　この世には役割というものがある。

　黒いコートの人物は、このWoFの世界にも異変が起きているようなことを言っていた。そして、世界の各地にある国や街、村や野営に至るまで。ありとあらゆる場所にある運命の歯車には、物語を進める上で必要なピースが存在する。

　その人物や血統、能力を受け継いだ者達には生きていてもらわねばならない。そして、またその逆も然り。物語の環を回す為に、その時その場所で死ななければならない命も存在する。

　その物語の環が狂い出している。それが黒いコートの人物が危惧していることのようだ。

　もしそれが本当なら、ガレウスやケツァルらは消える定めにあった灯火出会った可能性がある。そしてこうして見つかったダラーヒムには、他にもまだ物語を動かしていく為に必要な灯火なのだと判断されたのか。

　この場でいくら考えても、答えなど見つかる筈もないのだが、二人は疑問を互いに投げ合わなければその時の気持ちを抑えられなかったようだ。

　研究員が花を摘み取り、シン達の元へ歩み寄ってきた頃。それまで眠っていたダラーヒムに動きが見られた。

　「おい！目を覚ますぞ！」

　「ダラーヒム！しっかりしろ。一体何があったんだ？」

　「うッ・・・・・ここは・・・？」

　ダラーヒムが発した第一声に、シンと獣人の男は顔を見合わせる。彼はここで眠っていた経緯のことを覚えていないようだ。つまり、あの惨劇の場で何かがあり意識を失ったことになる。

　そして彼だけがこうして見つかったのは、やはり何者かによって救い出されたのか。はたまた、必死に逃げていたせいで、自分が何処にいるのかさえ記憶になかったのか。

　「ここはリナムルの近くだ。どうやってここまで来たんだ？」

　「ここまで・・・？分からない・・・俺はあの時・・・」

　記憶を思い出そうとするダラーヒムだったが、まだ身体が本調子ではないようで激しい頭痛に見舞われている。

　「兎に角、採取はここまでだ。続きはまた別の日に。まずはコイツを街へ連れて帰るぞ。アズールにもいい報告が出来そうだぜ」

　行方不明者が見つかったことにより希望を見出す獣人の男。一行は採取した草花とダラーヒムを連れてリナムルへと帰還する。道中、ダラーヒムは何度もうなされながら、その当時の記憶を思い出そうとしていたが、どうしてもシン
達をポータルの場所で見送り、ガレウスらと共に獣達を迎撃する中で雲隠れしたところまでの記憶しかない。

　誰か見たのか、何かを聞いたかなどの記憶の断片すら見つからない。そのがまた、彼の体調を悪化させる要因にもなってしまっていた。

　暫くすると、一行が出発したリナムルの関所へと到着する。採取クエストへ出かけた筈の彼らが、外傷はないもののぐったりとした様子のダラーヒムを見て、急ぎ関所に設けられた診療所へと彼を運ぶ。

　仮設の診療所とはいえ、中には研究所で働かされていた研究員達も数名、医療に加わっていた。獣人族が制圧した後のリナムルでは薬草による治療が主だった。それでも獣人の気配を読み取る能力を別の種族が得られる食事の発明など、独自の技術力は持っていた。

　そこへ研究員という人間の知恵と技術が合わさることで、見た目以上にちゃんとした診療を受けられる診療所となっていた。

　「彼は？」

　「森で気を失っていた。彼も研究所爆破の功績の立役者だ。何とかならないか？」

　「症状はどんな様子でしたか？」

　ベッドに寝かせたダラーヒムに、様々なチューブが取り付けられていく。シンはダラーヒムを見つけた時の様子と、道中での様子を医療班に伝える。幸い、記憶に関する研究は十八番であった研究員の男は、彼の記憶の修復を申し出る。

　そんな事が可能なのかと疑いをかける一行だったが、現にダマスクという実体を持たない意思の怪物を生み出している。別の生物に他から取り出した意思を移すという、極めて特殊な研究をしていた彼だからこそ、ダラーヒムの記憶を修復出来るかもしれない。

　「あぁ、分かった。俺達はこの事をアズールへ伝えに行く。アンタもついて来てくれ」

　「勿論だぜ！これは一大ニュースだ。恐らくアイツと同じように行方不明になった者達を探す、捜索クエストが関所に追加される筈だぜ」

　一旦、ダラーヒムを関所に預け、森での出来事を獣人族の長であるアズールの元へ歩み出そうとする。