World of Fantasia

神代 コウ

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話の辻褄

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 それ程の影響力のある人物と聞くと、シンとミアはどうしても直近の出来事である黒いコートの人物達の関与を疑ってしまう。何か不都合があった為に街の歴史ある名前を変えざるを得ない状況になった。

 自分達が直接手を下せないが故に、都合のいいようにNPCを作り上げライプツィという街に送り込み、アルバという街へと改名させた。そう考えるのが自然だろうか。

 だが当然ながら、そんな事を彼女らに尋ねることはできない。黒いコートの人物についても、そのような格好の人物などこの世界にはいくらでもいる。現に今シン達の目の前にいる彼女らも、素性を隠すようにフードを被っている。

 会話を繰り広げるミアも、彼女らの格好を見て自分達の素性を隠したいという意図を察しているのか、彼女らが何者であるかについては一切触れていない。

 フードの中から覗かせる口元や鼻筋は綺麗に整っており、色白で美しい印象を受ける。とても隠すようなものには思えない。シンであったのなら、間違いなく話の話題に困り、彼女らの事について尋ねてしまっていただろう。

 「さて、私らはこの辺で失礼させて貰おうかな」

 「そうね、欲しかった情報も掴めた訳だし。奇妙な偶然よね、私達の欲しかった情報を相席になった貴方達が持っていたなんて」

 彼女の言うように、この偶然すら仕組まれた出会いなのではないかと疑いたくなる程だった。その辺にいる街のNPCとは違い、わざわざ素性を隠している様子の彼女らというのが、その疑いを更に加速させる。

 「なに、リナムルの情報については商人達やアタシらのような冒険者が今、このエレジアに散らばって振り撒いてるに違いない。いずれ情報は手に入っただろ?」

 「そうね。ふふ、そう言う事にしておきましょうか」

 「それじゃぁごゆっくり。あと“デート“ならもっとムードのあるところを選ぶべきよ?」

 「そっそういうんじゃッ・・・!」

 急に話を振られたシンは、裏返った声で反応してしまい赤っ恥をかいた。その様子を子供を見るように笑う彼女らは席を立つ。シンをからかってテーブルを離れた二人は会計を済ませて酒場を後にした。

 「アルバっていうのは、改名後の名前だったのか・・・」

 「やっぱり君も、奴らの関与を疑っていたのか?」

 「そりゃぁあんな事が合った後だから。でもなんでそんな必要があったんだろう?」

 「私達のようなWoFユーザーに、地名や街の名前で勘付かれたくない何かがあったと考えるのが妥当じゃないか?」

 街の名前が変わるということは、この世界では大きな影響事態はないのかもしれない。だが、WoFというゲーム内で様々な地名や国、街などを巡って知識として街の名前を覚えていたシン達のようなWoFユーザーにとっては、聞き覚えのない名前となり、立ち寄る機会も減るかもしれないというのが、ミアの見解だった。

 二人が彼女らから得た情報を整理していると、席が空いて間もなく店員がやってくる。どうやら繁盛しているようで、今度はシン達に相席になっても大丈夫かどうかの確認にやって来たようだった。

 他の者達からも様々な情報や話を聞く必要がある二人は、店員の申し出を承諾する。すると暫くして先程の店員に案内された、大柄の人間が二人組で彼らの席へとやって来た。

 「お?こりゃぁすまねぇな。お二人さんの邪魔しちまったかな?」

 またかと言った様子で、シンは大きくため息を吐く。ミアは苦笑いをしながら男達に構わないと言い、二人を座るように促した。

 次に現れたのは、冒険者のような風貌をした屈強な二人組の男達だった。最初の二人組とは違い、こちらの二人は素性を隠そうといった様子は一切ない。シン達が席に着いた時と同じように水の入ったグラスを出された二人組の男は、慣れた様子で注文をしていた。

 「ここへはよく来るのか?」

 酒が入っていることもあってか、ミアは何の躊躇いもなく男達に話しかける。

 「ん?あぁ、そうだとも。俺達ぁこの辺を拠点に活動していてな。ここのギルドにはクエストを紹介してもらったり色々世話になってんだ」

 男の口から飛び出したギルドというワードに、シンは思い出したかのように目を見開いて男達に尋ねる。それはシンがこちらの世界にやって来てから、一度も目にすることのなかった自身のクラスであるアサシンのギルドの存在についてだった。

 「アサシンギルド・・・?いやぁ、俺ぁ知らねぇな。お前は?」
 「俺も聞いたことないな」

 二人の男達の反応は、これまでにアサシンギルドについて尋ねた者達と同じ反応だった。確かにあまり表立って行動のできないアサシンというギルドではあるが、こうも誰も知らないとなってくると、何か別の可能性を疑いたくなってしまうというものだ。

 「そうか・・・ここにもないか」

 落ち込むシンを尻目に、ミアはアルバの街について男達に質問を始める。内容は先程の女性二人組の時と同じものだった。しかし、今回彼らから返ってくる返答は違っていた。

 大まかな内容こそ同じものの、どうやら彼らはアルバという街が昔“ライプツィ“と呼ばれていた事や改名の事については知らないらしい。これでは話の辻褄が合わない。

 まだ情報量が少ないことから比較することが出来ないが、どちらかが嘘をついている可能性すら上がってくる。話の内容に疑問を持ったシンがミアにその事について尋ねると、彼女は少し違った見解を持っていたようだった。
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