World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,177 / 1,646

出発と馬車の護衛

しおりを挟む
 「皆さん、お集まり頂けましたかな?準備ができたようなら出発しますよ」

 アルバへ向かう馬車に集まったのは、シン達だけではなかった。これまでと同じように、アルバ方面に用事がある冒険者やギルドから依頼され、防衛の為に追従する事となる傭兵達。

 移動に関して言えば、これだけの戦力が整っていれば大抵の問題が起きた時に対応できそうなものだ。リナムルの時のように再び襲われるのではないかという不安はあったが、今回の道中は森や渓谷のような視界が遮られたり、限られたスペースや道を強制されるようなことは無いようだ。

 一行は馬車に乗り込み、エレジアの街を出発する。

 ツバキは先日の作業が効いていたのか、心地のいい馬車の揺れに誘われるようにして、すっかり安心した様子で睡眠をとっていた。

 アカリの方はというと、エレジアで仕入れた調合の知識を基に作られた食べ物を紅葉に与えていた。店主の調合書に載っていた調合を実践している途中で、紅葉が好んで食べようとしていた物があるらしい。

 完成品ではなかったものの、紅葉があまりにも欲しがるため与えてみた所、それがすっかり好物になったそうだ。効能について尋ねると、デトックス効果や精神を安定させる効果のあるものらしい。

 分類としては鳥類である紅葉に、そのような効果が効き目があるのかは甚だ疑問だが、接種しても身体に悪いものではない為、本人が喜んで食べるのなら今後はご褒美代わりに与えていこうかと、彼女は話していた。

 アルバまでの道中はそれ程長くはないが、それなりに野生の危険生物やモンスターなどのいる道を通らなければならないようだ。故にエレジアとアルバ間の商人達の移動には、毎回ギルドの傭兵が派遣されるようだった。

 それだけアルバに行っているのなら、一行が疑問に思っていた“音が溢れる“という事に関して、何か詳しいことが聞けるのではないかと、シン達はそのギルドの傭兵達に話を伺った。

 「アルバという街には何度も行かれているんですか?」

 「あぁ、仕事柄ね。ここいらは凶暴なモンスターが多く生息していてね、よく道行く行商人や力及ばずの冒険者が襲われる事例があるんだ」

 「それでギルドに依頼を。モンスターは皆さんの手を借りても倒せない程のものなんですか?」

 「いや、そういうわけではない。何度もギルドの者が退治しているんだが、どこで増えているのか、その時は無事に通過できても、次の時には新しいモンスターが現れるんだ。もしかしたら何処かに巣があるのかもしれないって、専らの噂だよ」

 それだけ噂になっているのなら、巣の捜索や殲滅作戦は行われないのだろうか。だが、ゲームの世界でもモンスターが根絶されるような事はあまり聞かない。

 何かの要因によって、自然現象のように発生してしまうのだろう。それがこの世界での自然なのだと解釈する他ない。

 肝心のアルバの街のことについては、有力とまではいかないもののエレジアの酒場で聞いた情報と照らし合わせ、より好評な素晴らしい街であるという評価が固くなってきた。

 「実際アルバはいい街だよ。俺も家族にお土産を頼まれていてね。娘が最近、楽器を鳴らし始めて我が家じゃ将来作曲家か!?って大騒ぎさ」

 「わかります!わかりますとも!我が子の成長って、自分のことのように嬉しいものですもんね!」

 子持ちの者同士、ギルドから派遣された男とツクヨは意気投合し、親馬鹿トークを繰り広げ始めてしまった。

 だが、聞いているシン達も不思議と不愉快ではなかった。嬉しそうに語る彼らの表情や声色は、その場の空気を和らげ温かくしていた。いつモンスターに襲撃されるか分からない状況で、緊張し緊迫しているよりも遥かに居心地はいい。

 幸い、ギルドの傭兵やある程度戦える冒険者が同行していれば、全滅するといった報告はないようで、そこまで気を張っておく必要もない道中らしく、一行の旅は順調にアルバへと歩みを進めていた。

 「冒険者とギルドの傭兵の皆さん。そろそろ例の区域に突入します。護衛の程、頼みましたよ」

 「おう!任せておけ!」
 「じゃぁ俺は警戒に入るぜ。スキルを使うから、しばらくの間集中させてもらう」

 ツクヨと話していたギルドの傭兵の仲間が、移動する馬車を中心にした気配の感知を行うスキルを展開する。目に見えるものではないが、傭兵の男曰く半径数十メートルにも及ぶ感知領域を展開しているらしく、スピードのあるモンスターが飛び込んできても、十分反応できる余裕はあるそうだ。

 「コイツのスキルはギルドのお墨付きだ。信用してくれて構わない。何か感知したら方角と数、それに多少の戦闘能力であれば見破ることができるから、とりあえずはいつでも迎撃できる体勢を整えておいてくれ!」

 気配の感知と聞き、口にすることはなかったがミアは徐にリナムルの時のように、獣人の力による気配感知を行ってみるが、全くと言っていいほど当時の能力は失われてしまっていた。

 しかし彼女には、獣人の能力がなくとも狙撃手としての経験と獲物を探すスキルを持っている為、広範囲ではないが方角を定めることで、限られた範囲にのみ長距離の探知が行える。

 ギルドの者達を信用していない訳ではないが、馬車の窓から視界に入る怪しいポイントを見定め、ミアはスナイパーライフルを構えてスコープを覗いていた。

 シンにもアサシンとしての気配感知能力はあるが、それはあくまで潜入した際に壁の向こう側などの気配を探る程度のもので、開けた場所で役に立つようなものではなかった。

 傭兵の男の号令がかかった事により、眠っていたツバキが目を覚ますと、近くにいたアカリから状況を聞き、徐に不敵な笑みを浮かべながら自身の荷物を漁り始めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

処理中です...