1,189 / 1,646
司祭マティアス・ルター
しおりを挟む
寮から教会へはそれほど掛からなかった。時間にして七から八分くらいだろうか。教会の中からは演奏の練習をしているのだろうか、同じフレーズが何度か聞こえてくる。
「曲の練習か?」
「みたいだね。コンサートもやってるみたいだから、それの練習だったりして」
「私、そのコンサートというものにも興味があります!」
「あぁ~・・・コンサートはねぇ・・・」
コンサートや演奏会というものは、事前に予約したりチケットを購入して参加するものがほとんど。アルバの仕様がどんなものかは分からないが、飛び入りで会場に入れることは恐らくないだろう。
期待するアカリには申し訳ないが、こればかりは力やお金で解決できる問題ではない。旅人がそういったイベントに参加するのは、事前に知ってもいない限り難しい。
ツクヨは目を輝かせるアカリに申し訳なさそうにその事を伝えると、意外にも彼女はすんなりと受け入れてくれた。てっきり悲しい顔をされるかと思っていたツクヨだったが、アカリもそこまで子供ではなかった。
「音楽ならそこら中で聴けるから良いじゃねぇか。ほら!あそこにもあったぜ?音の出る玉がよぉ!」
そう言ってツバキが指差した先に、シン達が街中で見たものと同じ音の出るシャボン玉のようのものが、宙をふわふわと飛んでいた。
「ほら、あれだよミア」
「これが・・・この中に音が?」
音の玉に触れていないミアやアカリにも、その物を目にすることが出来た。視認すること自体に条件はないのだろう。それならば何故昨夜は目にすることがなかったのか。
「分からないな・・・見える条件でもあるのかと思っていたが・・・」
「俺達だって同じだったよ。あの玉に触れなくても目にすることは出来たし、触れてからも特に異常はない。本当にただのギミックなんじゃないか?」
「中身の音を聞くことで無意識に・・・」
「ごちゃごちゃ考えてんなよ!ほら、アカリ!触ってみろよ」
「えっえぇ・・・それじゃぁ!」
注意深いミアの警戒心をよそに、ツバキに誘われるがままアカリが音の玉に触れる。すると、シン達が言っていたように周囲に、何かの効果音のような音が優しく響きわたる。
「っ!?」
「ほら、どうってことねぇだろ?」
「何ですか!?今の音ぉ!」
自分の身体に何か異変がないか見渡すミアに対し、聞いたことのない音に興味津々のアカリは、すっかり音の出る玉の虜になったようだった。他にもないか探し始める二人。
あまり遠くに行かないようにと呼びかけながら、ツクヨは二人のあとを追った。その間にミアは、自身のステータス画面を開き状態異常があるかどうか、他に異常は見られないかを隈なく確認している。
「どう?満足いく答えは得られた?」
心配し過ぎのミアにシンが問いかける。暫く無言のまま確認したミアは、彼らのいうように何も異常が見られないことを確認した。
「・・・何もない」
「この音自体には何の思惑もないんじゃないか?この街特有の自然現象と受け取っても良いんじゃないか?」
「考え過ぎか・・・?いや、考えるだけならタダだ。パーティーの中に一人くらい警戒する者がいてもいいだろう」
「それはそうだけど・・・。あまり気を張り過ぎないようにしないと、身が持たないぞ」
ミアはシンの忠告を受け取り、少しは警戒心を解いたようだが、そ俺でも一人で何とかしようとする彼女に、シンは逆に心配させられていた。
教会の入り口にまでやって来た一行は、ツバキとアカリの面倒をツクヨに任せ、シンとミアで司祭のマティアスに泊めてもらったお礼と街のことについて尋ねられないか試みることにした。
教会の中へ入ると、中では合唱の練習が行われていた。指揮を務める男の背後には、グーゲル教会の司祭であるマティアスの姿もあった。扉の音でこちらに気づいたマティアスは、シンとミアの顔を覚えていたようで会釈をした後に、二人の方へと歩いてきた。
「これはこれは、昨夜の旅の方々。あのような場所しか提供することが出来ず、申し訳ありませんでした」
丁寧な口調で語り掛けてきたマティアス。合唱団の練習から離れたようだが、彼は直接指導する訳ではないのだろうか。
「いえ、そんな事はありません。今日は泊めて頂いたお礼を申し上げに来ました」
「わざわざそれをお伝えに?クリスにはその必要はないと申していたのですが・・・。昨夜はゆっくり休めましたかな?」
「えぇ、お陰様で。居心地が良くてお昼頃まで寝てしまう程でした」
「ははは、それは良かった。もう出発なされるのですか?」
淡々と会話を続けるミアは、教会やマティアス、それにクリスにこれ以上迷惑はかけられないと話し、今日からはちゃんと別の宿を取ることを伝えた。アルバをまだ出発するつもりはない事を伝えると、マティアスはアルバの街の魅力について教えてくれた。
様々な観光名所や歴史ある建物。そして著名人が実際に訪れたカフェなどの情報など、やはり彼はこの街について詳しいようだった。
そこでミアは、つい先ほど見たこの街特有の現象である、“音の出る玉“について彼に尋ねてみることにした。
「曲の練習か?」
「みたいだね。コンサートもやってるみたいだから、それの練習だったりして」
「私、そのコンサートというものにも興味があります!」
「あぁ~・・・コンサートはねぇ・・・」
コンサートや演奏会というものは、事前に予約したりチケットを購入して参加するものがほとんど。アルバの仕様がどんなものかは分からないが、飛び入りで会場に入れることは恐らくないだろう。
期待するアカリには申し訳ないが、こればかりは力やお金で解決できる問題ではない。旅人がそういったイベントに参加するのは、事前に知ってもいない限り難しい。
ツクヨは目を輝かせるアカリに申し訳なさそうにその事を伝えると、意外にも彼女はすんなりと受け入れてくれた。てっきり悲しい顔をされるかと思っていたツクヨだったが、アカリもそこまで子供ではなかった。
「音楽ならそこら中で聴けるから良いじゃねぇか。ほら!あそこにもあったぜ?音の出る玉がよぉ!」
そう言ってツバキが指差した先に、シン達が街中で見たものと同じ音の出るシャボン玉のようのものが、宙をふわふわと飛んでいた。
「ほら、あれだよミア」
「これが・・・この中に音が?」
音の玉に触れていないミアやアカリにも、その物を目にすることが出来た。視認すること自体に条件はないのだろう。それならば何故昨夜は目にすることがなかったのか。
「分からないな・・・見える条件でもあるのかと思っていたが・・・」
「俺達だって同じだったよ。あの玉に触れなくても目にすることは出来たし、触れてからも特に異常はない。本当にただのギミックなんじゃないか?」
「中身の音を聞くことで無意識に・・・」
「ごちゃごちゃ考えてんなよ!ほら、アカリ!触ってみろよ」
「えっえぇ・・・それじゃぁ!」
注意深いミアの警戒心をよそに、ツバキに誘われるがままアカリが音の玉に触れる。すると、シン達が言っていたように周囲に、何かの効果音のような音が優しく響きわたる。
「っ!?」
「ほら、どうってことねぇだろ?」
「何ですか!?今の音ぉ!」
自分の身体に何か異変がないか見渡すミアに対し、聞いたことのない音に興味津々のアカリは、すっかり音の出る玉の虜になったようだった。他にもないか探し始める二人。
あまり遠くに行かないようにと呼びかけながら、ツクヨは二人のあとを追った。その間にミアは、自身のステータス画面を開き状態異常があるかどうか、他に異常は見られないかを隈なく確認している。
「どう?満足いく答えは得られた?」
心配し過ぎのミアにシンが問いかける。暫く無言のまま確認したミアは、彼らのいうように何も異常が見られないことを確認した。
「・・・何もない」
「この音自体には何の思惑もないんじゃないか?この街特有の自然現象と受け取っても良いんじゃないか?」
「考え過ぎか・・・?いや、考えるだけならタダだ。パーティーの中に一人くらい警戒する者がいてもいいだろう」
「それはそうだけど・・・。あまり気を張り過ぎないようにしないと、身が持たないぞ」
ミアはシンの忠告を受け取り、少しは警戒心を解いたようだが、そ俺でも一人で何とかしようとする彼女に、シンは逆に心配させられていた。
教会の入り口にまでやって来た一行は、ツバキとアカリの面倒をツクヨに任せ、シンとミアで司祭のマティアスに泊めてもらったお礼と街のことについて尋ねられないか試みることにした。
教会の中へ入ると、中では合唱の練習が行われていた。指揮を務める男の背後には、グーゲル教会の司祭であるマティアスの姿もあった。扉の音でこちらに気づいたマティアスは、シンとミアの顔を覚えていたようで会釈をした後に、二人の方へと歩いてきた。
「これはこれは、昨夜の旅の方々。あのような場所しか提供することが出来ず、申し訳ありませんでした」
丁寧な口調で語り掛けてきたマティアス。合唱団の練習から離れたようだが、彼は直接指導する訳ではないのだろうか。
「いえ、そんな事はありません。今日は泊めて頂いたお礼を申し上げに来ました」
「わざわざそれをお伝えに?クリスにはその必要はないと申していたのですが・・・。昨夜はゆっくり休めましたかな?」
「えぇ、お陰様で。居心地が良くてお昼頃まで寝てしまう程でした」
「ははは、それは良かった。もう出発なされるのですか?」
淡々と会話を続けるミアは、教会やマティアス、それにクリスにこれ以上迷惑はかけられないと話し、今日からはちゃんと別の宿を取ることを伝えた。アルバをまだ出発するつもりはない事を伝えると、マティアスはアルバの街の魅力について教えてくれた。
様々な観光名所や歴史ある建物。そして著名人が実際に訪れたカフェなどの情報など、やはり彼はこの街について詳しいようだった。
そこでミアは、つい先ほど見たこの街特有の現象である、“音の出る玉“について彼に尋ねてみることにした。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる