World of Fantasia

神代 コウ

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二人の音楽家

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 アルバの街三日目の朝。ツクヨとアカリが宿屋を出た後のシン達は、各々思い思いの事をしていた。

 ツバキは相変わらず、リナムルやエレジアの街で買い集めた部品や雑貨を使い、新たなガジェットを組んでいる。一方ミアの方は、宿屋のロビーから持ってきた新聞に目を通している。

 そして、この中で唯一明確にやりたい事もしておきたい事もなかったシンは、暇そうに窓から外の景色を眺めていた。

 「シン、やっぱりお前も行きたかったんじゃないか?」

 「いやぁ、そんなことは・・・」

 実際、暇にしていたのは事実だが一人で見知らぬ街に出るとなると、少しばかりの心細さと寂しさはある。賑わう街の中で自分だけが一人というのも悲しいものだ。

 「アタシらに遠慮せず、行きたければ行って来ればよかっただろう?」

 「そうだぜ?シン。俺だって何も我慢してる訳じゃねぇんだ。お前が気ぃ使ってると、こっちも遠慮しちまうからよぉ」

 「ありがとう。でも本当に大丈夫だから。無理もしてないし遠慮もしてないよ」

 「そっか、なら別にいいけど・・・。雑誌でも読むか?新聞と一緒にいくつか持って来たんだ、暇つぶしにな。まぁ興味があればだが・・・」

 そういってミアが差し出した雑誌というのは、流石音楽の街といったところだろうか。どれもこれも音楽に関するものばかりだった。

 音楽の歴史を紹介するものや、様々な楽器の載ったカタログ。過去に行われたコンサートや今後開かれる催し物の日程から、音楽の著名人などが紹介されたものまで様々だった。

 確かに外を眺めているだけでは暇は潰せぬと、シンが手に取ったのは音楽の著名人が載っている雑誌だった。彼がその雑誌に手が伸びたのは、その表紙に理由があった。

 他のものは見ても分からなかったり、見たことはあるが明確に分かるものではなかったりと、音楽の中でも特にクラシックやバロックに詳しくないと楽しめそうにない印象だった。

 しかし、著名人というものであれば知識がなくてもある程度読むのには差し支えはない。それに何より、その表紙にはシンでも聞いたことのある、とある有名な音楽家の名前が書かれていたからだった。

 だが、知っているといっても、これはツクヨの時と同じく名前の一部分が特に有名だっただけで、彼もその人物があたかも現実世界で有名なあの音楽家なのではと勘違いしていた。

 そこには“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“という名前と共に、その人物と思しき肖像画が載っていた。紛らわしいことに、その肖像画というのも彼らの知るバッハとよく似たものになっていたのだ。

 大袈裟に書かれた見出しと肖像画を眺めた後、数ページを適当にパラパラと捲り目を通していく。その雑誌の大半は表紙のバッハについての歴史や生涯の軌跡、そして家族構成や偉業などが記されていたが、暫くページが続くと題材となる人物が変わっていき、その中にシンとミアが唯一見覚えのある人物の写真が載っていた。

 その人物はマティアス司祭と教会で話した時に、合唱団の指揮をしていた人物だった。

 「ミア、これ・・・この人って」

 シンはミアに、開いた雑誌の一ページに載っている写真を見せる。彼女も彼の顔を覚えていた。見間違いではない。二人の中にある確かな記憶。

 「コイツぁ教会にいた・・・」

 「有名な作曲家兼指揮者であり、自身でもオルガンやピアノを弾く演奏者でもある・・・。思ってたよりも凄い人だったみたい・・・」

 マティアス司祭から合唱団の監督と指揮を依頼した、才能と実力を兼ね揃えた有名な先生だという話は聞いていたが、まさかあのバッハと同じ雑誌に載るほどの著名人だとは、シンもミアも思わなかった。

 アルバに留まらず、各国で活躍するその人物の名は、“フェリクス・メルテンス“といい、様々な賞や功績が讃えられ、様々なコンサートや式典に引っ張りダコの音楽家であると記されている。

 他にも数人の音楽家や、歌手の名前が記されている。この時のシンはまだ知ることはなかったが、その著名人の中にはツクヨとアカリがバッハ博物館で見かけた人物の写真と名前も記されていた。

 勝ち気な表情と綺麗なドレスが印象的な女性で、名を“カタリナ・ドロツィーア“という。彼女自身も有名な演奏家らしいのだが、幾つかの賞を受賞した後に歌手へと転向し、その道でも才能を振るうという多彩な人物らしい。

 だが、そこに載る彼女とツクヨ達が博物館で見た彼女では、到底雑誌に載っているような人物像とは程遠い印象を受ける。ツクヨ達が見たのが彼女の本当の顔なのか。それともあの場所が彼女をそうさせているのかは誰にも分からない。

 この世界の音楽について無知だったシン達だったが、ミアが持って来たそれらの雑誌は不思議と読み始めれば止まらなくなり、それまで退屈だった時間も自然と過ぎ去っていき、彼らのいる部屋に近づく足音が街に出た二人の帰りを告げる。
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