World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,211 / 1,646

音楽監督の降板

しおりを挟む
 マルコとの会話に違和感を覚えたシンは、仲間達に事情を説明し式典が始まる前に、グーゲル教会で盗み聞いたフェリクスの降板の件をルーカスに確認する事にした。

 ただ全員でゾロゾロと向かう程の内容でもなかった為、話を直接聞いたシンが一人で向かう事となった。他の仲間達は、シンの帰りを待ったのちに衣装に着替え式典へ出席する運びとなる。

 「じゃぁアタシらはここで待ってるから」

 「遅れるなよぉ?時間がねぇって焦って向かうのは無しだぜ?」

 「分かってる。それにルーカスも俺達が悪目立ちするのは避けたいだろうからな」

 仕立て屋フォルコメンを出たシンは、急ぎニクラス教会を目指す。街はすっかり夕日に染まり人々も昼間よりビシッとした服装が増え、式典が行われるという実感が湧いてくる。

 式典の行われるグーゲル教会と違い、以前に訪れた時と変わりない様子だった。普通の服装の人々が出入りする教会に自然と混じり入り込むシン。中は非常に静かで色んな人が祈りを捧げていた。

 その奥に教会の者と思われる人物と話をするルーカスの姿があった。彼は大司教が来ても普段の仕事と何も変わらぬようで、教会としての機能を一時的に閉鎖するグーゲル教会に変わり、いつもより多くの人々の対応に追われている。

 「ルーカスさん、少しよろしいですか?」

 「シンさんですか。・・・もしかして急用ですか?」

 シンの神妙な表情から何かを察したルーカスは、話の重要性について問う。それにシンは静かに首を縦に振る。すると彼は会話をしていた教会の者との話を中断し、少し席を外すと言ってその場を別の者に任せた。

 ルーカスはシンを教会の奥へと招く。前回彼の思惑について聞かされた部屋だった。扉を閉め暫くの沈黙が流れると、外に人がいないことを確認していたのか、そっと扉から離れたルーカスはシンに話の内容について聞く。

 「貴方が来たということは、“例の件“に関して・・・ですね?」

 「直接関係あるかは分かりません。先程仕立て屋のマルコさんと話をしました。その中で感じた違和感の確認に来たんです」

 「違和感・・・?」

 シンは大司教の護衛隊長の名前を知る為に忍び込んだグーゲル教会での、ジークベルトやマティアスらの会話を彼に話した。そして仕立て屋の店主であるマルコがその事について知らない様子だった事と、ルーカスがこの事を知っているのかの確認に来たのだと説明する。

 「フェリクスさんが!?まさかそんなッ・・・彼はとても偉大で優秀な音楽家です。それも並大抵のものじゃない、マティアス司祭も相当に苦労を重ねてお招きした人物だ。それを音楽監督から下ろす・・・何故そんな事を?」

 「分かりません。理由については教団の決定だとしか言ってませんでした。そしてその代わりとなる人物も連れてきていたようです」

 「アルミン・ニキシュ・・・ですね?彼も勿論、音楽に詳しい者なら知っているであろう天才派の大型新人です。フェリクスさんの後釜としても不足なしといった実力でしょうけど・・・。それでその後のお二人は?」

 ルーカスは、教会を出て行ったフェリクスとそれを応用に消えてしまったマティアス司祭の行方が気になったようだが、シンにはそこまでは分からない。その時の彼は、あくまで護衛隊長の名前を聞き出すのが目的だった為、情報を持っているであろうジークベルトの側を離れられなかった。

 「だが、グーゲル教会での合唱や演奏は、彼らが主軸となって行われるもの。フェリクスさんも最後の仕事として、キッチリアルバの音楽監督としての役目を全うする筈です。それにマティアス司祭も・・・」

 雲行きが怪しくなる式典だが、アルバを訪れる要人や教団関係者、それに一般参加者などには、そう言った事情は関係のない事。反響や影響が出て来るのはあくまで式典の後。フェリクスからアルミンへ音楽監督が移行した後の事だろう。

 「とっとにかく、プログラムに変更はない筈です。貴方達は前にも言ったように正面から式典へご出席下さい。その後で開かれる宮殿でのパーティーにて、可能な限りの情報収集をお願いしますそれとこの件は内密に。どこからか漏れたと知れれば、彼らの警戒が強まってしまいますので・・・」

 「やはりみんな知らない・・・という事ですね。分かりました、発言には気をつけます」

 ルーカスに報告を終えたシンは、二人でその部屋を後にし教会へと戻る。彼は何事もなかったかのように教会の者と話を始め、シンが扉の方へと向かうと視線で合図を送る。

 ルーカスの期待を受けながら、シンは仕立て屋で待つ仲間の元へと戻っていった。間も無く日が暮れようとするアルバの街。一行は調整を終えた衣装に着替え、式典が行われるグーゲル教会へ向かう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...