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音楽監督の降板
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マルコとの会話に違和感を覚えたシンは、仲間達に事情を説明し式典が始まる前に、グーゲル教会で盗み聞いたフェリクスの降板の件をルーカスに確認する事にした。
ただ全員でゾロゾロと向かう程の内容でもなかった為、話を直接聞いたシンが一人で向かう事となった。他の仲間達は、シンの帰りを待ったのちに衣装に着替え式典へ出席する運びとなる。
「じゃぁアタシらはここで待ってるから」
「遅れるなよぉ?時間がねぇって焦って向かうのは無しだぜ?」
「分かってる。それにルーカスも俺達が悪目立ちするのは避けたいだろうからな」
仕立て屋フォルコメンを出たシンは、急ぎニクラス教会を目指す。街はすっかり夕日に染まり人々も昼間よりビシッとした服装が増え、式典が行われるという実感が湧いてくる。
式典の行われるグーゲル教会と違い、以前に訪れた時と変わりない様子だった。普通の服装の人々が出入りする教会に自然と混じり入り込むシン。中は非常に静かで色んな人が祈りを捧げていた。
その奥に教会の者と思われる人物と話をするルーカスの姿があった。彼は大司教が来ても普段の仕事と何も変わらぬようで、教会としての機能を一時的に閉鎖するグーゲル教会に変わり、いつもより多くの人々の対応に追われている。
「ルーカスさん、少しよろしいですか?」
「シンさんですか。・・・もしかして急用ですか?」
シンの神妙な表情から何かを察したルーカスは、話の重要性について問う。それにシンは静かに首を縦に振る。すると彼は会話をしていた教会の者との話を中断し、少し席を外すと言ってその場を別の者に任せた。
ルーカスはシンを教会の奥へと招く。前回彼の思惑について聞かされた部屋だった。扉を閉め暫くの沈黙が流れると、外に人がいないことを確認していたのか、そっと扉から離れたルーカスはシンに話の内容について聞く。
「貴方が来たということは、“例の件“に関して・・・ですね?」
「直接関係あるかは分かりません。先程仕立て屋のマルコさんと話をしました。その中で感じた違和感の確認に来たんです」
「違和感・・・?」
シンは大司教の護衛隊長の名前を知る為に忍び込んだグーゲル教会での、ジークベルトやマティアスらの会話を彼に話した。そして仕立て屋の店主であるマルコがその事について知らない様子だった事と、ルーカスがこの事を知っているのかの確認に来たのだと説明する。
「フェリクスさんが!?まさかそんなッ・・・彼はとても偉大で優秀な音楽家です。それも並大抵のものじゃない、マティアス司祭も相当に苦労を重ねてお招きした人物だ。それを音楽監督から下ろす・・・何故そんな事を?」
「分かりません。理由については教団の決定だとしか言ってませんでした。そしてその代わりとなる人物も連れてきていたようです」
「アルミン・ニキシュ・・・ですね?彼も勿論、音楽に詳しい者なら知っているであろう天才派の大型新人です。フェリクスさんの後釜としても不足なしといった実力でしょうけど・・・。それでその後のお二人は?」
ルーカスは、教会を出て行ったフェリクスとそれを応用に消えてしまったマティアス司祭の行方が気になったようだが、シンにはそこまでは分からない。その時の彼は、あくまで護衛隊長の名前を聞き出すのが目的だった為、情報を持っているであろうジークベルトの側を離れられなかった。
「だが、グーゲル教会での合唱や演奏は、彼らが主軸となって行われるもの。フェリクスさんも最後の仕事として、キッチリアルバの音楽監督としての役目を全うする筈です。それにマティアス司祭も・・・」
雲行きが怪しくなる式典だが、アルバを訪れる要人や教団関係者、それに一般参加者などには、そう言った事情は関係のない事。反響や影響が出て来るのはあくまで式典の後。フェリクスからアルミンへ音楽監督が移行した後の事だろう。
「とっとにかく、プログラムに変更はない筈です。貴方達は前にも言ったように正面から式典へご出席下さい。その後で開かれる宮殿でのパーティーにて、可能な限りの情報収集をお願いしますそれとこの件は内密に。どこからか漏れたと知れれば、彼らの警戒が強まってしまいますので・・・」
「やはりみんな知らない・・・という事ですね。分かりました、発言には気をつけます」
ルーカスに報告を終えたシンは、二人でその部屋を後にし教会へと戻る。彼は何事もなかったかのように教会の者と話を始め、シンが扉の方へと向かうと視線で合図を送る。
ルーカスの期待を受けながら、シンは仕立て屋で待つ仲間の元へと戻っていった。間も無く日が暮れようとするアルバの街。一行は調整を終えた衣装に着替え、式典が行われるグーゲル教会へ向かう。
ただ全員でゾロゾロと向かう程の内容でもなかった為、話を直接聞いたシンが一人で向かう事となった。他の仲間達は、シンの帰りを待ったのちに衣装に着替え式典へ出席する運びとなる。
「じゃぁアタシらはここで待ってるから」
「遅れるなよぉ?時間がねぇって焦って向かうのは無しだぜ?」
「分かってる。それにルーカスも俺達が悪目立ちするのは避けたいだろうからな」
仕立て屋フォルコメンを出たシンは、急ぎニクラス教会を目指す。街はすっかり夕日に染まり人々も昼間よりビシッとした服装が増え、式典が行われるという実感が湧いてくる。
式典の行われるグーゲル教会と違い、以前に訪れた時と変わりない様子だった。普通の服装の人々が出入りする教会に自然と混じり入り込むシン。中は非常に静かで色んな人が祈りを捧げていた。
その奥に教会の者と思われる人物と話をするルーカスの姿があった。彼は大司教が来ても普段の仕事と何も変わらぬようで、教会としての機能を一時的に閉鎖するグーゲル教会に変わり、いつもより多くの人々の対応に追われている。
「ルーカスさん、少しよろしいですか?」
「シンさんですか。・・・もしかして急用ですか?」
シンの神妙な表情から何かを察したルーカスは、話の重要性について問う。それにシンは静かに首を縦に振る。すると彼は会話をしていた教会の者との話を中断し、少し席を外すと言ってその場を別の者に任せた。
ルーカスはシンを教会の奥へと招く。前回彼の思惑について聞かされた部屋だった。扉を閉め暫くの沈黙が流れると、外に人がいないことを確認していたのか、そっと扉から離れたルーカスはシンに話の内容について聞く。
「貴方が来たということは、“例の件“に関して・・・ですね?」
「直接関係あるかは分かりません。先程仕立て屋のマルコさんと話をしました。その中で感じた違和感の確認に来たんです」
「違和感・・・?」
シンは大司教の護衛隊長の名前を知る為に忍び込んだグーゲル教会での、ジークベルトやマティアスらの会話を彼に話した。そして仕立て屋の店主であるマルコがその事について知らない様子だった事と、ルーカスがこの事を知っているのかの確認に来たのだと説明する。
「フェリクスさんが!?まさかそんなッ・・・彼はとても偉大で優秀な音楽家です。それも並大抵のものじゃない、マティアス司祭も相当に苦労を重ねてお招きした人物だ。それを音楽監督から下ろす・・・何故そんな事を?」
「分かりません。理由については教団の決定だとしか言ってませんでした。そしてその代わりとなる人物も連れてきていたようです」
「アルミン・ニキシュ・・・ですね?彼も勿論、音楽に詳しい者なら知っているであろう天才派の大型新人です。フェリクスさんの後釜としても不足なしといった実力でしょうけど・・・。それでその後のお二人は?」
ルーカスは、教会を出て行ったフェリクスとそれを応用に消えてしまったマティアス司祭の行方が気になったようだが、シンにはそこまでは分からない。その時の彼は、あくまで護衛隊長の名前を聞き出すのが目的だった為、情報を持っているであろうジークベルトの側を離れられなかった。
「だが、グーゲル教会での合唱や演奏は、彼らが主軸となって行われるもの。フェリクスさんも最後の仕事として、キッチリアルバの音楽監督としての役目を全うする筈です。それにマティアス司祭も・・・」
雲行きが怪しくなる式典だが、アルバを訪れる要人や教団関係者、それに一般参加者などには、そう言った事情は関係のない事。反響や影響が出て来るのはあくまで式典の後。フェリクスからアルミンへ音楽監督が移行した後の事だろう。
「とっとにかく、プログラムに変更はない筈です。貴方達は前にも言ったように正面から式典へご出席下さい。その後で開かれる宮殿でのパーティーにて、可能な限りの情報収集をお願いしますそれとこの件は内密に。どこからか漏れたと知れれば、彼らの警戒が強まってしまいますので・・・」
「やはりみんな知らない・・・という事ですね。分かりました、発言には気をつけます」
ルーカスに報告を終えたシンは、二人でその部屋を後にし教会へと戻る。彼は何事もなかったかのように教会の者と話を始め、シンが扉の方へと向かうと視線で合図を送る。
ルーカスの期待を受けながら、シンは仕立て屋で待つ仲間の元へと戻っていった。間も無く日が暮れようとするアルバの街。一行は調整を終えた衣装に着替え、式典が行われるグーゲル教会へ向かう。
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