World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,218 / 1,646

一般会場での情報収集

しおりを挟む
 カードの更新にはそれ程時間は掛からなかった。要は写真を撮り、全身をスキャニングするだけなのだ。仮設された個室は複数個あった。それに加え、グーゲル教会の演奏だけを見に来た一般客に関しては、宮殿へは来ていない。

 つまり人数的には少なくなっており、証明書となるカードの更新に掛かる時間は、カードの発行作業よりも短くなっている可能性すらある。

 ミアやツバキに続き、アカリとツクヨと次々にカードの更新を済ませて、宮殿の入り口付近で待っていたシンの元へ続々と集まる。

 それぞれ手には自身の顔写真があるカードを持ち、宮殿内部の受付へと向かう一行は、その入り口でカードの確認をされる。どうやら確認は何重にも行われるようだ。

 一つの関所での確認ではなく、複数箇所の複数人による確認によって、より確かな情報として参加者が本当に本人であるのかを確かめているのだろう。

 「宮殿内部では何度か証明書の確認を求められます。無くされないよう注意して下さい。紛失された際の再発行は致しません。そして式典、並びにパーティーなどの一連の行事の後、カードは処分されますのでご安心ください」

 「どうも」

 中へ通された一行は、案内に従い教団関係者や要人以外が参加する一般のパーティー会場へやってくる。既に多くの人々が会場に入っており、食事や酒を嗜んでいた。

 「おいおい!もう始まってんじゃねぇか!早くしねぇと食いモンが無くなっちまう!」

 「ちょっと待て!目立つ行動は避けろよ?」

 「分かってるって!チッ・・・しょうがねぇ、大人しく並ぶか」

 「アイツは食い物ばかりだな・・・」

 会場に用意されていたのはビュッフェ形式の食事で、基本的に自分達で好きな料理を取り分け、立ったまま食事を行うようだ。一般会場には音楽学校の学生達もおり、その中には学生寮で世話になったクリスと同じくらいの年頃の者達も数多く参加していた。

 「今回の合唱、とても良かったわよ」

 「ありがとうございます」

 一際多くの人々が集まっているところの中心に居たのは、クリスと歳の近い大人びたドレスに身を包んだ可愛らしい女性だった。話を聞く限り、どうやら彼女も音楽学校の学生らしく、先程教会で行われた合唱や演奏にも参加していたらしい。

 手始めに、人の集まるところで情報を集めようと考えた一行は、どうやってジークベルトらが参加している会場へ行けるのかを探る為にも、それぞれ散開することにした。

 シンが最初に張り込みを開始したのは、先程の人だかりを作っていた女学生のところだった。彼女の名前は“ジルヴィア・バンツァー“と言い、他の学生らからは“ジル“と呼ばれ親しまれているようだ。

 ジルは学生らの中でもトップクラスの成績を誇り、将来を期待される優等生のようだ。その歌声や演奏には、彼女の表現豊かな表情や感情は、音楽に疎い素人の心にも響くほど強烈で印象にも残りやすかった。

 ただ、盛り上がる周りとは対照的に彼女の表情は無感情に近い。合唱や演奏の時に見せたその魅力的な表現がまるで嘘のように、片鱗すら伺えない。

 シンの感覚的には、周りの学生らが楽しそうに語るジルのエピソードは、どれも素晴らしい功績を讃えたものばかりで、あたかもジルを持ち上げるような内容のものばかりだった。

 勿論、このような祝宴の場において相応しくない内容の話を聞くよりはよっぽどいいが、どうにも彼女の顔色を窺うような、彼女からの評価を期待するような取り巻きの発言に聞こえてならなかった。

 要する、ジルという成績優秀な生徒の推薦やおこぼれを頂戴しようとする輩の、媚びる会話としてシンには聞こえていたのだ。そして恐らく、ジル自身もそれに気がついているからこその、今の無感情な表情なのだろう。

 「ジルヴィアさん?どうかされましたか?あまり顔色が良くないようですが・・・」

 「いえ、そんなことはありませんわ。ご心配おかけしてしまい申し訳ありません。少し考え事をしておりまして・・・」

 「考え事?今度の演奏会や合唱曲に関係することかしら?」

 「えぇまぁ、そんなところです」

 彼女の演技力が伺えるほど、自然な返しと表現力でそれが本当なのか隠す為の嘘なのか、それを聞いているだけのシンには分からなかった。パーティーに参加する音楽家に通ずる大人達も注目する程のジルは、何か抱えているものはあるようだが作曲が評価せれず、合唱団にも加われないクリスとは真逆の生徒といった印象だった。

 会場の他には、ジル程ではないが他にも大きな人集りが出来ている場所があり、そこに向かったのはミアだった。彼女自身が女性でありながら男性もののスーツを身に纏っていることもあり目立ちそうだが、その人集りを作っていた要因となる人物もまた、中性的な見た目で整った顔立ちをした学生だった。

 彼は有力な音楽家の先生と会話をしている。そのお互いの取り巻きが人集りを作っているといった構造が、ミアの向かった人集りの正体と言えるだろう。その中性的でクールな印象の学生は“レオンハルト・ゲッフェルト“という名前らしく、彼の取り巻きからは“レオン“という愛称で呼ばれていた。

 レオンはその音楽家の先生から、教会での合唱や演奏の評価を受けていた。どうやら彼もジルと同じく成績優秀で音楽家学校でもトップクラスの実力者らしいのだが、彼の欠点は音楽家の先生いわくその表現力らしい。

 才能と実力は持ち合わせているものの、レオンの音楽には感情が乏しく、聴いている者へのメッセージ性や伝えたいものが分かりづらいと言われていた。レオン自身もそれは分かっているようだが、あまり納得しているようには見えなかった。

 彼は感情や表現ではなく、徹底した調律に機密な技術力を評価されたいといった様子だった。あくまで彼の表現する音楽とは、計算され尽くしたものであり、感情やメッセージ性といった不確かで不明瞭なものではない。

 レオンはジルとは真逆の機械的で完璧な演奏者を目指しているのだろうか。ミアがその話を聞く限り、レオンの印象はそういったものを感じていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...