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マインドコントロール
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優しさや親切心というものは、相手をコントロールする上で最も掛かりやすい催眠術のようなものだ。
実際に信憑性の無い怪しい言動や理詰めの言葉、あったかも知れない可能性の話を用いて相手を誘導するという話術は、どの時代背景やどの場面においても常に用いられてきた、一種の洗脳や催眠に近いものだろう。
だがそれは、行動や言葉を発する側と、それを受け取る側の意思に大きく関わる事から、それが意図的なものだったのか、或いは無意識によるものだったのかは判断することは出来ない。
故に、技術がどれだけ最先端なものになっていこうと、そういった文化と言うべきか現象は変わる事はなく、自ら破滅を招く者や多くの者達を導く者などが生まれ、文明の成長に大きく関わってきていた。
「アンドレイらが俺達を騙しているとでも?」
「可能性はゼロではありません。真実を自分で確かめるまでは、判断を誤ってはならないと言う事です」
シンには何故ケヴィンがそこまでアンドレイを警戒しているのか分からなかった。これは彼の育ってきた環境の影響もあったのだ。現実の世界で裏切りや虐めを受けてきた彼にとって、優しさや親切心といったものは触れる機会の少なかった、とても安心するものになっていたからだ。
こんな自分にも優しく接してくれる、親切にしてくれるという思いから、この人は信用しても大丈夫だろうと、無意識に錯覚してしまうようになっていたのだ。
勿論、疑わしき言動や行動を目にしていたり噂などで耳にしていれば警戒することも出来たが、この宮殿内の状況も相待ってシンの警戒心を緩めていた。
「アンタの言葉が正しいのなら、アンタも俺達にとって怪しい人物になるな」
「えぇ、疑いを持つということはいけない事ではありません。なので私は貴方に私がどんな人間であるか、その手札を見せてきたつもりです。その上で判断するのは貴方自身だ。アンドレイ氏の話は、その判断に至る以前の話。材料も無いのに料理が出来ないのと同じですよ」
ケヴィンの言葉にシンは反論することも出来なかった。彼の言葉に思い当たる節がいくつもあったからだ。アンドレイらの親切心と、会食により打ち解けたことですっかり心と意思が油断していたと言うことをシンは自覚した。
そんな自分が恥ずかしく、認められないからケヴィンに突っ掛かるような言い方をしてしまったのだ。いつもなら話の途中で割って入るツクヨやミアが黙っていたのは、彼らの中にもシンと同じく油断してしまっていたところがあったからだろう。
大きく息を吐き、思いの丈を打ち明けて冷静さを取り戻したシンは、話術に取り込まれようとしていた自身の目を覚まさせてくれたケヴィンに、これまでの態度を謝罪した。
「・・・そうだな、ごめん・・・。冷静じゃなかった・・・浮かれてたよ。親切にされて事実を見失っていた。ありがとうケヴィン」
彼の言葉にケヴィンは目を丸くして驚いた表情を浮かべる。何事かと謝罪を終えたシンが尋ねると、予想していた反応とは違ったからだと答えた。盲信している者や、自分が正常であると思い込んでいる者ほど、自らの非を認めることは出来ない。
シンにとっては、アンドレイらと打ち解けたことにより彼らを信用することが、自然な流れになっていた。それを他者から指摘されて、早々に目を覚ますことができる人間はそうはいないとケヴィンは語った。
「ですが、私の言葉もまた可能性の話。実際のアンドレイ氏は、裏表のない親切な方の可能性も十分にありますからね」
さっきまで不用意に他人を信じるなと言っていたケヴィンが、自分の言葉もまた鵜呑みにしてはならないと、言い出したのだ。だがいつもの調子に戻った彼を見て、シンは少しだけ安心していた。
「いや、どっちだよ!でもアンタがいてよかったよ」
「何はともあれよかったです。さぁ!マティアス氏の代わりが来るのが先か、アンドレイ氏らの報告が先か。待つことにしましょう」
彼の進言に従い、今はただ英気を養い来る時に動ける準備を整えておこうと、各々自分達の最もくつろげる方法で時間を過ごした。
実際に信憑性の無い怪しい言動や理詰めの言葉、あったかも知れない可能性の話を用いて相手を誘導するという話術は、どの時代背景やどの場面においても常に用いられてきた、一種の洗脳や催眠に近いものだろう。
だがそれは、行動や言葉を発する側と、それを受け取る側の意思に大きく関わる事から、それが意図的なものだったのか、或いは無意識によるものだったのかは判断することは出来ない。
故に、技術がどれだけ最先端なものになっていこうと、そういった文化と言うべきか現象は変わる事はなく、自ら破滅を招く者や多くの者達を導く者などが生まれ、文明の成長に大きく関わってきていた。
「アンドレイらが俺達を騙しているとでも?」
「可能性はゼロではありません。真実を自分で確かめるまでは、判断を誤ってはならないと言う事です」
シンには何故ケヴィンがそこまでアンドレイを警戒しているのか分からなかった。これは彼の育ってきた環境の影響もあったのだ。現実の世界で裏切りや虐めを受けてきた彼にとって、優しさや親切心といったものは触れる機会の少なかった、とても安心するものになっていたからだ。
こんな自分にも優しく接してくれる、親切にしてくれるという思いから、この人は信用しても大丈夫だろうと、無意識に錯覚してしまうようになっていたのだ。
勿論、疑わしき言動や行動を目にしていたり噂などで耳にしていれば警戒することも出来たが、この宮殿内の状況も相待ってシンの警戒心を緩めていた。
「アンタの言葉が正しいのなら、アンタも俺達にとって怪しい人物になるな」
「えぇ、疑いを持つということはいけない事ではありません。なので私は貴方に私がどんな人間であるか、その手札を見せてきたつもりです。その上で判断するのは貴方自身だ。アンドレイ氏の話は、その判断に至る以前の話。材料も無いのに料理が出来ないのと同じですよ」
ケヴィンの言葉にシンは反論することも出来なかった。彼の言葉に思い当たる節がいくつもあったからだ。アンドレイらの親切心と、会食により打ち解けたことですっかり心と意思が油断していたと言うことをシンは自覚した。
そんな自分が恥ずかしく、認められないからケヴィンに突っ掛かるような言い方をしてしまったのだ。いつもなら話の途中で割って入るツクヨやミアが黙っていたのは、彼らの中にもシンと同じく油断してしまっていたところがあったからだろう。
大きく息を吐き、思いの丈を打ち明けて冷静さを取り戻したシンは、話術に取り込まれようとしていた自身の目を覚まさせてくれたケヴィンに、これまでの態度を謝罪した。
「・・・そうだな、ごめん・・・。冷静じゃなかった・・・浮かれてたよ。親切にされて事実を見失っていた。ありがとうケヴィン」
彼の言葉にケヴィンは目を丸くして驚いた表情を浮かべる。何事かと謝罪を終えたシンが尋ねると、予想していた反応とは違ったからだと答えた。盲信している者や、自分が正常であると思い込んでいる者ほど、自らの非を認めることは出来ない。
シンにとっては、アンドレイらと打ち解けたことにより彼らを信用することが、自然な流れになっていた。それを他者から指摘されて、早々に目を覚ますことができる人間はそうはいないとケヴィンは語った。
「ですが、私の言葉もまた可能性の話。実際のアンドレイ氏は、裏表のない親切な方の可能性も十分にありますからね」
さっきまで不用意に他人を信じるなと言っていたケヴィンが、自分の言葉もまた鵜呑みにしてはならないと、言い出したのだ。だがいつもの調子に戻った彼を見て、シンは少しだけ安心していた。
「いや、どっちだよ!でもアンタがいてよかったよ」
「何はともあれよかったです。さぁ!マティアス氏の代わりが来るのが先か、アンドレイ氏らの報告が先か。待つことにしましょう」
彼の進言に従い、今はただ英気を養い来る時に動ける準備を整えておこうと、各々自分達の最もくつろげる方法で時間を過ごした。
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