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音を奏でる演奏者
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順調に教会までのルート上にいる謎の人物達を排除し、漸く建物が視界に入るようになってくると、これまでよりも多くの謎の人物がグーゲル教会の周りに集まっているのが遠目からでも分かる。
夜により影の力が強まっているとはいえ、数多くの者達をルートから排除してきたシンにも疲労の色が見え始めていた。その上で教会周りの者達を排除するとなると、肝心の情報を持ち帰るという役割が果たせなくなってしまう。
だが、当初より話していた通り、教会にさえ近づいて仕舞えば今度はこちらが影の中へと入り、一気に教会の中へと潜入する事ができる。二人は周囲を見渡し、潜入に最適なポジションを探す。
教会の側に近づくにつれ、耳に入ってくる音楽は次第に大きくなっていった。中で何者かが演奏しているのは間違いないだろう。
「曲がよく聞こえるようになってきたな。近づいてる証拠だろうか」
「ここまで来ればもう排除は大丈夫だ。次は我々が教会へと乗り込む番だが・・・。どうだ?行けそうか?」
「あぁ、ここまで近づければ問題ない。それにグーゲル教会には入った事がある。移動先の想定もしやすいだろう。どこにする?やはり裏の方からか?」
潜入する場所についてニノンに相談するシンだったが、彼女曰く中に入ったら戦闘は避けられないとの事。謎の人物達にどれだけの感知能力があるのかは分からないが、バレずに情報だけ持ち帰ることは難しいとの判断らしい。
しかし、それでも戦闘に入る前に教会内の敵の配置を把握しておきたいと、潜入場所は教会の端にある席の影ということで決定する。しっかりと狙いを定めると二人はいよいよ教会の中へと入っていった。
何人もの謎の人物が中を徘徊いている。教会の入り口付近の椅子の影から顔を覗かせた二人は、周囲に謎の人物がいないのを確認すると、先にニノンが影の中から飛び出し、後続のシンを引き上げ直ぐに物陰に身を隠した。
二人の侵入にまだ謎の人物達は気がついていない様子。教会の内部には外と同じように何人かの謎の人物が徘徊している。決まったルートでもあるのだろうか、一部の謎の人物は短い距離を行ったり来たりしているようだ。
そして肝心の音楽を奏でる演奏者だが、オルガンのところに座っているのは他の謎の人物達と同じような格好をした何者かのようだが、何やら雰囲気が少し違っているようにも見える。
他の謎の人物達が生気のない様子で徘徊しているのと比べると、演奏している謎の人物は自身の奏でる音楽に酔いしれるかのように身体を大きく揺らしている。
「演奏を止めて、奴を拘束する。奴がまともに喋れるとは思えないが、倒すだけなら宮殿の時のように直ぐにできる。演奏者の拘束はお前に任せてもいいか?シン」
「分かった」
「私が囮になって他の連中を始末する。その間に奴に近づき捕らえてくれ。必ずここで捕まえるんだ」
そう言ってニノンは静かに一回だけ深呼吸をし息を整えると、次の瞬間には物陰から飛び出し最も近くにいた謎の人物の腹部に、目にも止まらぬ速さの一撃をお見舞いする。
凄まじい一撃が周囲に響き渡る。拳を打ち込んだ謎の人物はぐったりとニノンに寄り掛かり、そのまま塵へと変わり消えていった。騒音に周囲の謎の人物達もニノンの存在に気が付き、一斉に彼女のいる方向へと動き出す。
「さぁ!侵入者あここにいるぞ!かかって来いッ!」
ニノンの挑発に周囲の者達はまんまと誘われていく。しかし依然として演奏者はその手を止めようとしない。明らかにその者だけは別の意思、行動原理によって別の役割が与えられているようだ。
直ぐに物陰からオルガンの近くの影へと移動するシン。影の中から這い出ると、そのまま演奏者の背後からその人物を捕らえんと近づく。だが、そう簡単には物事は運ばなかった。
演奏者に近づいたシンは、何か目に見えない力で大きく後方に吹き飛ばされてしまう。その際、周囲になった机や椅子も吹き飛ばされ、オルガンの周りの物が一掃される。
「何事だッ!?」
「うッ・・・一体何がッ・・・」
上体を起き上がらせたシンが頭を押さえながらオルガンの方を確認してみると、そこには鍵盤から手を離し宙に浮く謎の人物がいた。だがその者には足がなく、常に黒い靄のようなものに覆われていた。
今までの人物達とは全く別物の雰囲気を纏うその者は、ゆっくりとシンのいる方へと振り返る。すると、両手を広げたその謎の人物の手から、突如青い炎が噴き出し燃え上がる。
そしてその炎が消えると同時に、謎の人物の手にはそれぞれヴァイオリンと弓が握られていたのだ。
不気味な様子に言葉を失うシン。周りの者達を始末したニノンが倒れる彼の元へ駆けつける。何故シンが近づけなかったのかを試すかのように、ニノンがその人物へと接近するも、やはりシンと同じように見えない力に阻まれ触れることすら叶わなかった。
「くッ・・・!これは一体!?」
そして不自然なことはもう一つあった。それはその人物が演奏していたオルガンが、誰も触れていないにも関わらず一人でに演奏をしている事だった。鍵盤が勝手に沈んだり上がったりを繰り返し、アルバの街に響き渡る心地のいい音楽を奏で続けているのだ。
「奴が演奏していた訳ではなかったのか・・・!?」
浮かび上がる謎の人物は、他の者達よりも一回り身体が大きく、そして手にしたヴァイオリンを構えると、ゆっくり弓を引き始め、オルガンの演奏に合わせて音を奏でる。
夜により影の力が強まっているとはいえ、数多くの者達をルートから排除してきたシンにも疲労の色が見え始めていた。その上で教会周りの者達を排除するとなると、肝心の情報を持ち帰るという役割が果たせなくなってしまう。
だが、当初より話していた通り、教会にさえ近づいて仕舞えば今度はこちらが影の中へと入り、一気に教会の中へと潜入する事ができる。二人は周囲を見渡し、潜入に最適なポジションを探す。
教会の側に近づくにつれ、耳に入ってくる音楽は次第に大きくなっていった。中で何者かが演奏しているのは間違いないだろう。
「曲がよく聞こえるようになってきたな。近づいてる証拠だろうか」
「ここまで来ればもう排除は大丈夫だ。次は我々が教会へと乗り込む番だが・・・。どうだ?行けそうか?」
「あぁ、ここまで近づければ問題ない。それにグーゲル教会には入った事がある。移動先の想定もしやすいだろう。どこにする?やはり裏の方からか?」
潜入する場所についてニノンに相談するシンだったが、彼女曰く中に入ったら戦闘は避けられないとの事。謎の人物達にどれだけの感知能力があるのかは分からないが、バレずに情報だけ持ち帰ることは難しいとの判断らしい。
しかし、それでも戦闘に入る前に教会内の敵の配置を把握しておきたいと、潜入場所は教会の端にある席の影ということで決定する。しっかりと狙いを定めると二人はいよいよ教会の中へと入っていった。
何人もの謎の人物が中を徘徊いている。教会の入り口付近の椅子の影から顔を覗かせた二人は、周囲に謎の人物がいないのを確認すると、先にニノンが影の中から飛び出し、後続のシンを引き上げ直ぐに物陰に身を隠した。
二人の侵入にまだ謎の人物達は気がついていない様子。教会の内部には外と同じように何人かの謎の人物が徘徊している。決まったルートでもあるのだろうか、一部の謎の人物は短い距離を行ったり来たりしているようだ。
そして肝心の音楽を奏でる演奏者だが、オルガンのところに座っているのは他の謎の人物達と同じような格好をした何者かのようだが、何やら雰囲気が少し違っているようにも見える。
他の謎の人物達が生気のない様子で徘徊しているのと比べると、演奏している謎の人物は自身の奏でる音楽に酔いしれるかのように身体を大きく揺らしている。
「演奏を止めて、奴を拘束する。奴がまともに喋れるとは思えないが、倒すだけなら宮殿の時のように直ぐにできる。演奏者の拘束はお前に任せてもいいか?シン」
「分かった」
「私が囮になって他の連中を始末する。その間に奴に近づき捕らえてくれ。必ずここで捕まえるんだ」
そう言ってニノンは静かに一回だけ深呼吸をし息を整えると、次の瞬間には物陰から飛び出し最も近くにいた謎の人物の腹部に、目にも止まらぬ速さの一撃をお見舞いする。
凄まじい一撃が周囲に響き渡る。拳を打ち込んだ謎の人物はぐったりとニノンに寄り掛かり、そのまま塵へと変わり消えていった。騒音に周囲の謎の人物達もニノンの存在に気が付き、一斉に彼女のいる方向へと動き出す。
「さぁ!侵入者あここにいるぞ!かかって来いッ!」
ニノンの挑発に周囲の者達はまんまと誘われていく。しかし依然として演奏者はその手を止めようとしない。明らかにその者だけは別の意思、行動原理によって別の役割が与えられているようだ。
直ぐに物陰からオルガンの近くの影へと移動するシン。影の中から這い出ると、そのまま演奏者の背後からその人物を捕らえんと近づく。だが、そう簡単には物事は運ばなかった。
演奏者に近づいたシンは、何か目に見えない力で大きく後方に吹き飛ばされてしまう。その際、周囲になった机や椅子も吹き飛ばされ、オルガンの周りの物が一掃される。
「何事だッ!?」
「うッ・・・一体何がッ・・・」
上体を起き上がらせたシンが頭を押さえながらオルガンの方を確認してみると、そこには鍵盤から手を離し宙に浮く謎の人物がいた。だがその者には足がなく、常に黒い靄のようなものに覆われていた。
今までの人物達とは全く別物の雰囲気を纏うその者は、ゆっくりとシンのいる方へと振り返る。すると、両手を広げたその謎の人物の手から、突如青い炎が噴き出し燃え上がる。
そしてその炎が消えると同時に、謎の人物の手にはそれぞれヴァイオリンと弓が握られていたのだ。
不気味な様子に言葉を失うシン。周りの者達を始末したニノンが倒れる彼の元へ駆けつける。何故シンが近づけなかったのかを試すかのように、ニノンがその人物へと接近するも、やはりシンと同じように見えない力に阻まれ触れることすら叶わなかった。
「くッ・・・!これは一体!?」
そして不自然なことはもう一つあった。それはその人物が演奏していたオルガンが、誰も触れていないにも関わらず一人でに演奏をしている事だった。鍵盤が勝手に沈んだり上がったりを繰り返し、アルバの街に響き渡る心地のいい音楽を奏で続けているのだ。
「奴が演奏していた訳ではなかったのか・・・!?」
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