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音楽家の一族
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「何だ・・・あの楽譜は・・・。いや、それよりもどうやって飛んでいる?」
暫く楽譜の行方を追っていると、途中で別の楽譜と合流するところを目にする。それも最初の楽譜と同様に、どう言うわけか一人でに宙に浮き宮殿内の何処かを目指して移動しているようだった。
「またあの楽譜だ。あれを追えば犯人に辿り着けるのか・・・?」
別の映像へと次々に切り替えながら楽譜の行方を眺めるブルースは、その楽譜がとある音楽家の作曲したものである事に気がつく。それに楽譜は手書きで描かれていて、かなりの年代物のようだ。
紙が劣化し、節々に切れ目が入ってしまっている。漸く楽譜に書かれた曲名を見つけると、そこにはかの有名な音楽家で、ここアルバとも縁の深い“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“の名前と、彼の作曲した曲名が刻まれていたのだ。
「やはりまた“バッハ“の名かッ!あの教会に現れた霊もバッハ。そしてこの楽譜もまたバッハ・・・。あの霊体が犯人だったのか・・・?いや、そんな筈は・・・そもそもそれでは俺が納得いかないな。バッハの霊が今までの犯行の犯人だなんてそんな・・・!」
可能性としては無い話でもなかった。今までの犯行からしても、何の手掛かりもなく捜査は難航していたのだ。それが実体の無い霊が行っていた犯行だとするならば合点のいく話も多い。
だがそんな簡単な話だったのだろうか。そんな事を考えている内に楽譜が途中でもう一つ合流し、三つの楽譜が集まって向かった先はブルースも全く予想だにしなかった場所だった。
「え・・・ここって・・・」
彼がその場所を口にしようとした瞬間、カメラの映像を確認していたブルースの身体にも、突如としてオイゲンらを襲った糸と同じものがいつの間に繋がれていた。
「なッ・・・いつの間に!?」
ブルースほどの男が糸に繋がれていた事にすら気付けなかった。それは術者本体が側にいるからこそ、スキルや能力の本来の力を引き出せる。距離が離れれば離れるほど力が弱まり効果が薄れるのはシンのスキルも同じだった。
ブルースもすぐにそれに気が付いたが、誰も見当たらない宮殿において唯一怪しげな存在。それはやはり楽譜を運んでいる存在。それがブルースの頭の中で合致した瞬間、楽譜が集まった映像の中にその姿が映し出された。
薄い煙のようなものが楽譜を運んでいたのだが、それらが三つの楽譜のところに集まり形を成していく。二つは男の姿、そしてもう一つは女の姿だった。男の姿の内、一つはブルースらがニクラス教会で戦ったチェンバロを演奏する男の姿、“ヨハン・ベルンハルト・バッハ“だった。
そして音楽家でもあるブルースには、残りの二人の姿にも見覚えがあるようだった。モニターに映し出された三人が一斉にカメラの方を見る。レンズの向こう側にいるブルースの瞳に、音楽業界に多大なる影響と功績を与えた一族の姿が映ると、声が出ないほどの衝撃が作り物の身体を駆け巡る。
声帯機能が失われ声が出せない。ブルースがその名前を口にすることを許さないように、これ以上犯人を詮索すること許さないように、身体の自由が奪われていく。
「なるほど。通りで妙な感覚があった訳だ」
「これは君の責任だぞ。魂の在り方が他と違う事など、トドメを刺した時点でその違和感に気が付けた筈だろ?」
「やめてよ、今更どうにもならないでしょ?それに結果は同じ。どうせ“忘れる“わ」
「言葉に気をつけろ、またイレギュラーが起こり兼ねないんだからな」
三人の話が妙に感じたブルース。教会で戦っていた時にはこれほど言葉が話せるとは思わなかった。現に戦闘中、ベルンハルトはまともな言葉など一度も発さなかった。
それが今目の前でブルースの事に関する会話を平然と行っている。喋れなかった訳ではない。正体がバレないように隠しているのだ。それだけの知性を持っている。それどころか、彼らはもしかしたら生前の記憶、そしてこの現世に現れてからの記憶を保持している。
初めは霊が犯人など納得のいかない結果だと思っていたブルースだが、どうやらそんな簡単な話でもなくなってきた。三人のバッハに、まるで骨董品のように古ぼけたバッハの楽譜。
その事からブルースが行き着いた答えは、三人の持つ楽譜とはWoFの世界であの音楽の父として知られる“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“がかつて若かりし頃に書いたとされる、今や歴史的価値の高い世界の遺産、“月光写譜“である事に。
しかし、彼が答えに辿り着いたと同時に、三人による攻撃と思われる衝撃が糸を伝いブルースの身体と魂を引き剥がそうと襲い掛かる。これまでの肉体に衝撃を与えるものとは違い、魂だけの存在であるブルースにも伝わる衝撃が、作り物の身体に留まる事を許さなかった。
ゾルターンの作り出した肉体から追い出されたブルースは、まるで成仏させられるかのように現世からも追い出されていく。
「クソッ!何だこれ!?こんな事今まで一度もッ・・・」
ブルースもまた他の者達と同じように、徐々に視界を失い何も考えられなくなっていく。
暫く楽譜の行方を追っていると、途中で別の楽譜と合流するところを目にする。それも最初の楽譜と同様に、どう言うわけか一人でに宙に浮き宮殿内の何処かを目指して移動しているようだった。
「またあの楽譜だ。あれを追えば犯人に辿り着けるのか・・・?」
別の映像へと次々に切り替えながら楽譜の行方を眺めるブルースは、その楽譜がとある音楽家の作曲したものである事に気がつく。それに楽譜は手書きで描かれていて、かなりの年代物のようだ。
紙が劣化し、節々に切れ目が入ってしまっている。漸く楽譜に書かれた曲名を見つけると、そこにはかの有名な音楽家で、ここアルバとも縁の深い“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“の名前と、彼の作曲した曲名が刻まれていたのだ。
「やはりまた“バッハ“の名かッ!あの教会に現れた霊もバッハ。そしてこの楽譜もまたバッハ・・・。あの霊体が犯人だったのか・・・?いや、そんな筈は・・・そもそもそれでは俺が納得いかないな。バッハの霊が今までの犯行の犯人だなんてそんな・・・!」
可能性としては無い話でもなかった。今までの犯行からしても、何の手掛かりもなく捜査は難航していたのだ。それが実体の無い霊が行っていた犯行だとするならば合点のいく話も多い。
だがそんな簡単な話だったのだろうか。そんな事を考えている内に楽譜が途中でもう一つ合流し、三つの楽譜が集まって向かった先はブルースも全く予想だにしなかった場所だった。
「え・・・ここって・・・」
彼がその場所を口にしようとした瞬間、カメラの映像を確認していたブルースの身体にも、突如としてオイゲンらを襲った糸と同じものがいつの間に繋がれていた。
「なッ・・・いつの間に!?」
ブルースほどの男が糸に繋がれていた事にすら気付けなかった。それは術者本体が側にいるからこそ、スキルや能力の本来の力を引き出せる。距離が離れれば離れるほど力が弱まり効果が薄れるのはシンのスキルも同じだった。
ブルースもすぐにそれに気が付いたが、誰も見当たらない宮殿において唯一怪しげな存在。それはやはり楽譜を運んでいる存在。それがブルースの頭の中で合致した瞬間、楽譜が集まった映像の中にその姿が映し出された。
薄い煙のようなものが楽譜を運んでいたのだが、それらが三つの楽譜のところに集まり形を成していく。二つは男の姿、そしてもう一つは女の姿だった。男の姿の内、一つはブルースらがニクラス教会で戦ったチェンバロを演奏する男の姿、“ヨハン・ベルンハルト・バッハ“だった。
そして音楽家でもあるブルースには、残りの二人の姿にも見覚えがあるようだった。モニターに映し出された三人が一斉にカメラの方を見る。レンズの向こう側にいるブルースの瞳に、音楽業界に多大なる影響と功績を与えた一族の姿が映ると、声が出ないほどの衝撃が作り物の身体を駆け巡る。
声帯機能が失われ声が出せない。ブルースがその名前を口にすることを許さないように、これ以上犯人を詮索すること許さないように、身体の自由が奪われていく。
「なるほど。通りで妙な感覚があった訳だ」
「これは君の責任だぞ。魂の在り方が他と違う事など、トドメを刺した時点でその違和感に気が付けた筈だろ?」
「やめてよ、今更どうにもならないでしょ?それに結果は同じ。どうせ“忘れる“わ」
「言葉に気をつけろ、またイレギュラーが起こり兼ねないんだからな」
三人の話が妙に感じたブルース。教会で戦っていた時にはこれほど言葉が話せるとは思わなかった。現に戦闘中、ベルンハルトはまともな言葉など一度も発さなかった。
それが今目の前でブルースの事に関する会話を平然と行っている。喋れなかった訳ではない。正体がバレないように隠しているのだ。それだけの知性を持っている。それどころか、彼らはもしかしたら生前の記憶、そしてこの現世に現れてからの記憶を保持している。
初めは霊が犯人など納得のいかない結果だと思っていたブルースだが、どうやらそんな簡単な話でもなくなってきた。三人のバッハに、まるで骨董品のように古ぼけたバッハの楽譜。
その事からブルースが行き着いた答えは、三人の持つ楽譜とはWoFの世界であの音楽の父として知られる“ヨルダン・クリスティアン・バッハ“がかつて若かりし頃に書いたとされる、今や歴史的価値の高い世界の遺産、“月光写譜“である事に。
しかし、彼が答えに辿り着いたと同時に、三人による攻撃と思われる衝撃が糸を伝いブルースの身体と魂を引き剥がそうと襲い掛かる。これまでの肉体に衝撃を与えるものとは違い、魂だけの存在であるブルースにも伝わる衝撃が、作り物の身体に留まる事を許さなかった。
ゾルターンの作り出した肉体から追い出されたブルースは、まるで成仏させられるかのように現世からも追い出されていく。
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