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曖昧な記憶
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様々な者達が音楽の街アルバで、苦しみや安らぎという感情を抱えながら深い眠りにつく。その傍には場所や時間、人種など数多の垣根を悠々と飛び越え全ての人物、全ての物に等しい音楽があった。
これまでの宮殿で過ごした数日間とは、比べ物にならない程の激動の一日を、その日それを体験した物達は過ごした。同時に、誰もが感じたことのないような音楽を、振動を全身に浴びて何を思いながら眠りについたのか。
音楽の経験や知識など関係なく、それを思い出せる者は誰一人としていない。
暖かい温もりと心地のいい日差し、そして眠っていた者達をゆっくりと目覚めさせるような音楽と歌うように鳴く鳥の囀りを耳にして瞼を開く。
「・・・あれ?」
彼が目を覚ますと、そこはこの数日間ですっかり見慣れた天井があった。意識ははっきりとしているのだが、記憶が曖昧で頭が働かない。何はともあれ上体を起こし、まずは自分自身の置かれている状況を確認する為にも、視界という情報源を元に、空っぽの頭の中に周囲のありとあらゆる情報を送り込んでいく。
彼の居る部屋には他にも、数人の大人と二人の子供、そして一羽の紅い鳥が眠りについていた。目に映るその者達の姿を認識した時、彼は心から安堵し大きく息を吐いた。
「おや?シンさんも・・・お目覚めでしたか」
「・・・ケヴィン?あれ・・・あんまり記憶がはっきりしないんだが、今日は何かあったか?」
「いえ、私のところにもそのような情報は・・・。よかったら一緒に確認しに行きませんか?」
すると、どこからか彼らの声を聞きつけたのか一人の女が二人の元へとやって来た。シン達よりも先に起きていたのか、既に彼女は身支度を整えていた。
「それなら私も同行させてもらおうかしら?」
「ニノンさん!びっくりしました、起きていらしたんですね」
「それは騎士たる者の務めですので」
「貴方は何か聞いてないか?いつもならまた事件が舞い込んでくる頃だろ?」
シンの問いかけにニノンは目を瞑って首を小さく横に振る。どうやら今日の宮殿の様子が気になっているのは彼らだけではなかったようだ。ニノンに急かされ、シンとケヴィンも身支度を整えて出発の準備を進める。
「どこか行くのか?」
「ミア、ごめん起こしちゃったか?」
「馬鹿言え。私はいつもこの時間だ。・・・それより妙じゃないか?みんなこぞって昨日の記憶が曖昧だなんて。何かあったとしか思えない・・・」
「何か心当たりでもあるのか?」
「それがあれば苦労はしないんだがな・・・。まぁ取り敢えずは、アンタ達の報告待ちかなぁ~。誰も違和感を覚えてなけりゃ、ただの私の勘違いで済むんだけどね・・・」
遠くを見るような目をしていた彼女は、二度寝でもするのか再び女性部屋の方へと戻っていった。彼女に言われた事を考えながらも、シンは待たせている二人の元へ急いだ。
事情をミアに伝え後のことを任せた三人は、部屋を出てオイゲンのいる部屋へと向かう。その道中、宮殿の内部ではいつもと変わらず警備が行われていた。
道すがら話す話題もなかったシンは、部屋でミアと話していた違和感に関して二人にも尋ねてみる事にした。しかしケヴィンもニノンも前日の記憶が曖昧になっており、特に変わった事などはなかったように思うと口にした。
「それなら昨日は事件が起きなかった・・・?」
「犯人の目的が達成されたのでしょうか。と、なると少しマズいですね・・・」
「そうね。それならより一層警備を強化しないと・・・。一番の問題はブルースさんのところの人達だけどね・・・」
「あぁ・・・バルトロメオって人だったっけ?あの感じの悪い人」
「“また“強硬手段なんて言って、暴れなければいいけど・・・」
その時、何故かは分からなかったがシンとケヴィンは彼女の口にした“また“という言葉に妙な違和感を覚えた。気が付いたのは自分だけかと思い顔を見合わせるシンとケヴィン。
二人の反応を見て、ニノンも先程口にした自分の言葉に、記憶にない言葉が何故か無意識に口から飛び出した事に、自分でも驚いたような反応をしていた。
「あれ・・・私今、“また“って・・・?」
「えぇ、“また“強硬手段って。以前にもそのようなことが?」
ニノンが言うには、教団の護衛隊はジークベルト大司教の護衛だけでなく、アルバにやって来る音楽家達の護衛も兼ねていたらしい。ケヴィンと同じく事前にリヒトルやブルースらの情報を調べていた教団の護衛隊は、ブルース・ワルターの護衛であるバルトロメオが起こした事件や騒ぎの事も把握しており、問題のある人物として特に注意を払っていたそうだ。
その話を聞く限りだと、先程彼女が口にした“また“という言葉も不自然ではないように思えたが、何より不自然だったのはニノンの反応だった。
「何でかしらね。事前の情報からそう思い込んでたのか・・・」
「悩んでても仕方がありませんよ。同じ事情を抱えた方々にも聞いてみましょう。今はとにかくこの違和感の正体を突き止めるのが先決なようですし」
ケヴィンの言う通りだった。明らかにこれまでと違う宮殿での日々に訪れた急展開。かといって何か問題が起きた訳ではなく、むしろその逆でこれまでにないほど穏やかな朝が、不気味に思える程だった。
一行は足早にオイゲンの元を目指す。しかし違和感を覚えたのは、前日の記憶に関することだけではなかった。それに気が付いたのはシンだけだった。ふとした瞬間、廊下の奥にとある人物の姿を見たような気がしたのだ。
何故この時、ケヴィンとニノンに確認するほどの事ではないと判断したのは分からないが、シンは朧げではあったがそこに確かにマティアス司祭の姿を見掛けたのだ。
これまでの宮殿で過ごした数日間とは、比べ物にならない程の激動の一日を、その日それを体験した物達は過ごした。同時に、誰もが感じたことのないような音楽を、振動を全身に浴びて何を思いながら眠りについたのか。
音楽の経験や知識など関係なく、それを思い出せる者は誰一人としていない。
暖かい温もりと心地のいい日差し、そして眠っていた者達をゆっくりと目覚めさせるような音楽と歌うように鳴く鳥の囀りを耳にして瞼を開く。
「・・・あれ?」
彼が目を覚ますと、そこはこの数日間ですっかり見慣れた天井があった。意識ははっきりとしているのだが、記憶が曖昧で頭が働かない。何はともあれ上体を起こし、まずは自分自身の置かれている状況を確認する為にも、視界という情報源を元に、空っぽの頭の中に周囲のありとあらゆる情報を送り込んでいく。
彼の居る部屋には他にも、数人の大人と二人の子供、そして一羽の紅い鳥が眠りについていた。目に映るその者達の姿を認識した時、彼は心から安堵し大きく息を吐いた。
「おや?シンさんも・・・お目覚めでしたか」
「・・・ケヴィン?あれ・・・あんまり記憶がはっきりしないんだが、今日は何かあったか?」
「いえ、私のところにもそのような情報は・・・。よかったら一緒に確認しに行きませんか?」
すると、どこからか彼らの声を聞きつけたのか一人の女が二人の元へとやって来た。シン達よりも先に起きていたのか、既に彼女は身支度を整えていた。
「それなら私も同行させてもらおうかしら?」
「ニノンさん!びっくりしました、起きていらしたんですね」
「それは騎士たる者の務めですので」
「貴方は何か聞いてないか?いつもならまた事件が舞い込んでくる頃だろ?」
シンの問いかけにニノンは目を瞑って首を小さく横に振る。どうやら今日の宮殿の様子が気になっているのは彼らだけではなかったようだ。ニノンに急かされ、シンとケヴィンも身支度を整えて出発の準備を進める。
「どこか行くのか?」
「ミア、ごめん起こしちゃったか?」
「馬鹿言え。私はいつもこの時間だ。・・・それより妙じゃないか?みんなこぞって昨日の記憶が曖昧だなんて。何かあったとしか思えない・・・」
「何か心当たりでもあるのか?」
「それがあれば苦労はしないんだがな・・・。まぁ取り敢えずは、アンタ達の報告待ちかなぁ~。誰も違和感を覚えてなけりゃ、ただの私の勘違いで済むんだけどね・・・」
遠くを見るような目をしていた彼女は、二度寝でもするのか再び女性部屋の方へと戻っていった。彼女に言われた事を考えながらも、シンは待たせている二人の元へ急いだ。
事情をミアに伝え後のことを任せた三人は、部屋を出てオイゲンのいる部屋へと向かう。その道中、宮殿の内部ではいつもと変わらず警備が行われていた。
道すがら話す話題もなかったシンは、部屋でミアと話していた違和感に関して二人にも尋ねてみる事にした。しかしケヴィンもニノンも前日の記憶が曖昧になっており、特に変わった事などはなかったように思うと口にした。
「それなら昨日は事件が起きなかった・・・?」
「犯人の目的が達成されたのでしょうか。と、なると少しマズいですね・・・」
「そうね。それならより一層警備を強化しないと・・・。一番の問題はブルースさんのところの人達だけどね・・・」
「あぁ・・・バルトロメオって人だったっけ?あの感じの悪い人」
「“また“強硬手段なんて言って、暴れなければいいけど・・・」
その時、何故かは分からなかったがシンとケヴィンは彼女の口にした“また“という言葉に妙な違和感を覚えた。気が付いたのは自分だけかと思い顔を見合わせるシンとケヴィン。
二人の反応を見て、ニノンも先程口にした自分の言葉に、記憶にない言葉が何故か無意識に口から飛び出した事に、自分でも驚いたような反応をしていた。
「あれ・・・私今、“また“って・・・?」
「えぇ、“また“強硬手段って。以前にもそのようなことが?」
ニノンが言うには、教団の護衛隊はジークベルト大司教の護衛だけでなく、アルバにやって来る音楽家達の護衛も兼ねていたらしい。ケヴィンと同じく事前にリヒトルやブルースらの情報を調べていた教団の護衛隊は、ブルース・ワルターの護衛であるバルトロメオが起こした事件や騒ぎの事も把握しており、問題のある人物として特に注意を払っていたそうだ。
その話を聞く限りだと、先程彼女が口にした“また“という言葉も不自然ではないように思えたが、何より不自然だったのはニノンの反応だった。
「何でかしらね。事前の情報からそう思い込んでたのか・・・」
「悩んでても仕方がありませんよ。同じ事情を抱えた方々にも聞いてみましょう。今はとにかくこの違和感の正体を突き止めるのが先決なようですし」
ケヴィンの言う通りだった。明らかにこれまでと違う宮殿での日々に訪れた急展開。かといって何か問題が起きた訳ではなく、むしろその逆でこれまでにないほど穏やかな朝が、不気味に思える程だった。
一行は足早にオイゲンの元を目指す。しかし違和感を覚えたのは、前日の記憶に関することだけではなかった。それに気が付いたのはシンだけだった。ふとした瞬間、廊下の奥にとある人物の姿を見たような気がしたのだ。
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