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意思を持つ何者か
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柱から落ちる様に離れたシンは、迫る音の衝撃波を避けると別の場所にアンカーを射出し撃ち込む。再び宙を舞う様に移動するシンは、アンナを何処かへ追い込む様に投擲を繰り返す。
その間、アンナの差し向けた謎の人物達の相手をするツクヨは、布都御魂剣を使いこれを難なく撃退していく。手の空いたところで、シンのサポートを行うべく広場に例の見えざるシャボン玉や、他にアンナの仕掛けた罠が無いかどうかを探る。
すると、気配を探るツクヨの元に何かが急接近して来た。彼がそれに気が付いた時には既に遅く、防御体勢に入るのが精一杯だった。
「うッ・・・!?」
ツクヨの身体は大きく吹き飛ばされ、広場の端の壁に激突する。突然の大きな物音に、その場に居た誰もが目を奪われた。ツクヨを吹き飛ばしたのは、ツバキより少し大きいくらいの身長をした、真っ黒な靄を纏う謎の人物だった。
「なッ・・・何者だ!?」
「他の霊体達とは明らかに戦闘力が違うッ!それにこんな近くに来るまで誰も気付けなかったなんて・・・」
服装や顔も分からない程真っ黒な何者かは、視覚的にシルエットから何となく人間である事くらいしか情報が得られない。そして何よりも、ツクヨを吹き飛ばした今の今まで、その存在に誰も気がつく事が出来なかったというのも妙な点だ。
仮にもリナムルで獣の気配感知能力を身に付けたシン達であっても、これまでその異様な雰囲気の人物の気配を感知出来なかった。それにツクヨは布都御魂剣の能力で更に感知能力が強化されている。
それ故に防御体勢が間に合ったとも言えるのかもしれないが、何にせよツクヨを攻撃してきたということは、この謎の人物もシン達の敵ということで間違いないだろう。
あまりに一瞬の出来事に唖然とする一行の中、アンナの月光写譜の能力を解除する為に連れて来られたジルが、突如現れた謎の人物の出現により新たに起きた現象について気が付いた。
「待って!あの人の周り・・・何か音楽が聞こえる・・・」
「音楽だって?」
プラチドやアカリには聞こえない僅かな音。それは音楽に精通している者でなければ気が付けないのか、他の者達にはジルの言う音楽というものが一切聞こえてこなかった。
「一体どんな音楽なんだ?もしかして、アンナらと同じバフやデバフの効果のある・・・?」
「いえ、どうでしょう・・・。仮に今までのバッハの血族の者達が演奏する音楽効果と同じなら、私にだけ聞こえているのもおかしいし、皆さんに何の影響も出ていないのが不可解です」
「確かに・・・。じゃぁまた別の能力なのか・・・?」
音楽について見抜いたジルに気がついたのか、ツクヨを吹き飛ばした謎の人物はゆっくりと攻撃体勢を解除し、その場に立ち尽くすとジルの方へ首を動かす様な動きを見せる。
「キコエテ イルノカ。マッタク・・・ ヤッカイ ナ コトヲ ヒロメテ クレタナ・・・」
意味を理解し、聞き取れる言葉で話し始めた謎の人物に驚愕する一行。今までの謎の人物達は、雄叫びや奇声こそ上げはしたものの、ちゃんとした言葉を話すことはなかったからだ。
この人物には、アンナやベルンハルト、アンブロジウスの様な月光写譜を持つ特別な霊体達よりも、強く自我や意思を持っている事になる。これは遠距離から使役しているだけでは到底あり得ない。
つまり、今宮殿で騒ぎを起こしている犯人、或いは謎の人物ら多くの霊体を使役している術者本人から生み出された“何か”という事になる。それだけ繋がりが濃いからこそ、独自の意思を持ち判断を下せる器用さも兼ね備えている可能性すらあるという事だ。
「しゃッ・・・喋ったッ!?」
「明らかに他の霊体達とは違う・・・。何なら・・・」
その人物の根本的な性質に気が付いたプラチドと同様、あの謎の人物の周りに流れる音楽に気が付いたジルもまた、その異様な雰囲気からアンナ以上に厄介な存在かも知れないと察していた。
「えぇ・・・あのアンナ・マグダレーナの霊体よりも・・・」
「そんな・・・。だって、ただでさえアンナさんという方だけでも、皆さん苦労されているのに」
新たな存在の登場に弱気になってしまっている一行の中で、一人逆境の中で寧ろやる気に身を滾らせる者がいた。その者は紅葉の治癒の光に当てられた傷を癒すと、再び道具の中から改良されたガジェットを両腕に取り付ける。
「逆だよ・・・。それだけ親玉に近い存在が現れたってんなら、そいつを倒せばこの騒動の犯人が分かるって事だぜッ・・・!」
「キィー・・・」
「へっ!何だよ、心配してくれんのか?だがここが踏ん張りどころだぜ・・・。シンがあっちの女を食い止めてるってんなら、こっちは俺達で何とかしねぇと!」
戦える準備を整えたツバキが、真っ黒な何者かの前に立ちはだかる。するとその後ろから、アカリの治療を受けていたプラチドも並んだ。
「大した少年だな、君は。子供がやる気になっているのに、大人が折れるわけにはいかないでしょ!」
「キィーーー!」
ツバキの闘志に鼓舞され、プラチドと紅葉も前線に加わる。そして遠くから鋭い斬撃の衝撃波が数発、謎の人物へと放たれた。それを軽くいなして見せる謎の人物。衝撃波を放ったのは、不意の一撃を受けたツクヨだった。
「流石、海賊達の中で育っただけの事はあるね。その不屈の闘志と暗闇の中に光を見出す抜け目なさは、彼ら譲りなのかな?」
「ツクヨ!生きてやがったか!」
「当たり前でしょ!あんなもので私は止まらないよ」
悪態をつくツバキに頼もしい言葉で答えるツクヨ。依然としてアンナはシンが釘付けにしている。その間、一行は新たなる存在との戦闘を始めようとしていた。
その間、アンナの差し向けた謎の人物達の相手をするツクヨは、布都御魂剣を使いこれを難なく撃退していく。手の空いたところで、シンのサポートを行うべく広場に例の見えざるシャボン玉や、他にアンナの仕掛けた罠が無いかどうかを探る。
すると、気配を探るツクヨの元に何かが急接近して来た。彼がそれに気が付いた時には既に遅く、防御体勢に入るのが精一杯だった。
「うッ・・・!?」
ツクヨの身体は大きく吹き飛ばされ、広場の端の壁に激突する。突然の大きな物音に、その場に居た誰もが目を奪われた。ツクヨを吹き飛ばしたのは、ツバキより少し大きいくらいの身長をした、真っ黒な靄を纏う謎の人物だった。
「なッ・・・何者だ!?」
「他の霊体達とは明らかに戦闘力が違うッ!それにこんな近くに来るまで誰も気付けなかったなんて・・・」
服装や顔も分からない程真っ黒な何者かは、視覚的にシルエットから何となく人間である事くらいしか情報が得られない。そして何よりも、ツクヨを吹き飛ばした今の今まで、その存在に誰も気がつく事が出来なかったというのも妙な点だ。
仮にもリナムルで獣の気配感知能力を身に付けたシン達であっても、これまでその異様な雰囲気の人物の気配を感知出来なかった。それにツクヨは布都御魂剣の能力で更に感知能力が強化されている。
それ故に防御体勢が間に合ったとも言えるのかもしれないが、何にせよツクヨを攻撃してきたということは、この謎の人物もシン達の敵ということで間違いないだろう。
あまりに一瞬の出来事に唖然とする一行の中、アンナの月光写譜の能力を解除する為に連れて来られたジルが、突如現れた謎の人物の出現により新たに起きた現象について気が付いた。
「待って!あの人の周り・・・何か音楽が聞こえる・・・」
「音楽だって?」
プラチドやアカリには聞こえない僅かな音。それは音楽に精通している者でなければ気が付けないのか、他の者達にはジルの言う音楽というものが一切聞こえてこなかった。
「一体どんな音楽なんだ?もしかして、アンナらと同じバフやデバフの効果のある・・・?」
「いえ、どうでしょう・・・。仮に今までのバッハの血族の者達が演奏する音楽効果と同じなら、私にだけ聞こえているのもおかしいし、皆さんに何の影響も出ていないのが不可解です」
「確かに・・・。じゃぁまた別の能力なのか・・・?」
音楽について見抜いたジルに気がついたのか、ツクヨを吹き飛ばした謎の人物はゆっくりと攻撃体勢を解除し、その場に立ち尽くすとジルの方へ首を動かす様な動きを見せる。
「キコエテ イルノカ。マッタク・・・ ヤッカイ ナ コトヲ ヒロメテ クレタナ・・・」
意味を理解し、聞き取れる言葉で話し始めた謎の人物に驚愕する一行。今までの謎の人物達は、雄叫びや奇声こそ上げはしたものの、ちゃんとした言葉を話すことはなかったからだ。
この人物には、アンナやベルンハルト、アンブロジウスの様な月光写譜を持つ特別な霊体達よりも、強く自我や意思を持っている事になる。これは遠距離から使役しているだけでは到底あり得ない。
つまり、今宮殿で騒ぎを起こしている犯人、或いは謎の人物ら多くの霊体を使役している術者本人から生み出された“何か”という事になる。それだけ繋がりが濃いからこそ、独自の意思を持ち判断を下せる器用さも兼ね備えている可能性すらあるという事だ。
「しゃッ・・・喋ったッ!?」
「明らかに他の霊体達とは違う・・・。何なら・・・」
その人物の根本的な性質に気が付いたプラチドと同様、あの謎の人物の周りに流れる音楽に気が付いたジルもまた、その異様な雰囲気からアンナ以上に厄介な存在かも知れないと察していた。
「えぇ・・・あのアンナ・マグダレーナの霊体よりも・・・」
「そんな・・・。だって、ただでさえアンナさんという方だけでも、皆さん苦労されているのに」
新たな存在の登場に弱気になってしまっている一行の中で、一人逆境の中で寧ろやる気に身を滾らせる者がいた。その者は紅葉の治癒の光に当てられた傷を癒すと、再び道具の中から改良されたガジェットを両腕に取り付ける。
「逆だよ・・・。それだけ親玉に近い存在が現れたってんなら、そいつを倒せばこの騒動の犯人が分かるって事だぜッ・・・!」
「キィー・・・」
「へっ!何だよ、心配してくれんのか?だがここが踏ん張りどころだぜ・・・。シンがあっちの女を食い止めてるってんなら、こっちは俺達で何とかしねぇと!」
戦える準備を整えたツバキが、真っ黒な何者かの前に立ちはだかる。するとその後ろから、アカリの治療を受けていたプラチドも並んだ。
「大した少年だな、君は。子供がやる気になっているのに、大人が折れるわけにはいかないでしょ!」
「キィーーー!」
ツバキの闘志に鼓舞され、プラチドと紅葉も前線に加わる。そして遠くから鋭い斬撃の衝撃波が数発、謎の人物へと放たれた。それを軽くいなして見せる謎の人物。衝撃波を放ったのは、不意の一撃を受けたツクヨだった。
「流石、海賊達の中で育っただけの事はあるね。その不屈の闘志と暗闇の中に光を見出す抜け目なさは、彼ら譲りなのかな?」
「ツクヨ!生きてやがったか!」
「当たり前でしょ!あんなもので私は止まらないよ」
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