World of Fantasia

神代 コウ

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形成逆転、反撃の狼煙

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 ベルンハルトへ向かって飛び出したオイゲンが、その光を放つ剣で囚われのベルンハルトを切り裂く。すると彼は、低い呻き声を上げながら、黒い靄となって姿を消した。

 その直後、オイゲンのシールドが破られる音が礼拝堂に響く。殺気を感じた彼が盾を構えて振り返ると、黒い人物がすぐ側にまで迫ってきており、大きく足を振り上げていた。

「小賢しい真似をッ・・・!」

 黒い人物の振り下ろした足を盾で受け止めるオイゲン。その衝撃はあまりに重く、身体で受けていたら致命打になっていたに違いない。重くのし掛かる足を跳ね退けながら立ち上がる。だが、盾を振るったと同時に黒い人物は一瞬にして姿を消した。

 何処へ消えたのかと周囲を探すと、黒い人物はオルガンから少し離れたところで、床の何かを拾うように腰を曲げていた。何をしているのか位置を移動して黒い人物が伸ばす手の先に視線を送ると、そこには床の影から上半身を乗り出したシンの姿があった。

「なッ・・・君は!?」

「ぐッ・・・オイゲン・・・さん・・・!」

 黒い人物の手によって首を掴まれていたシンは、その腕を両手で掴み何とか引き剥がそうともがいていた。

「待ってろ!今助けるッ!」

 するとシンは、助けに来ようとするオイゲンを止め、月光写譜の演奏を始めるカルロスを守るように彼に言い渡す。

「しかし君はッ・・・!?」

「これで良い・・・コイツは俺が・・・!」

 そう言い残すと、シンは黒い人物に自身の全体重を掛けて影の中へと引き摺り込み始めたのだ。シンはそのまま黒い人物を別の場所へ隔離しようというのだ。司令塔を失えば、残りのアンナだけならオイゲン一人でも十分に抑えられる。

「お前はッ・・・!逃げたんじゃなかったのか!?」

「仲間を見殺しにしてッ・・・自分だけのうのうと逃げられる程、俺の心は丈夫じゃない・・・!」

「・・・ならば死を選ぶと?」

「・・・ツクヨ達も同じ思いをした・・・。そう思えば勇気が湧く。こんな事に使うものではないのかも知れないがな・・・」

「・・・・・」

 その時、黒い人物の抵抗しようとする力が僅かに緩んだような気がした。だが今更シンに迷いはない。そのまま黒い人物ごと影の中に引き摺り込んだシンは、影のゲートを閉じて別の場所へと移動していった。

 礼拝堂に残されたのはオイゲンとカルロス、そしてアンナと何故か連れて来られている気を失ったままのクリスだけとなった。戦力的には一対一という状況。更に言えばカルロスの演奏によりアンナにはデバフが掛かる。

 これまでの戦いに比べればオイゲン一人でも十分勝機の見える状況となった。周囲を警戒していたアンナもまた、カルロスの演奏が始まると彼を止めようと動き出していた。

 オイゲンは落ち着いた様子でカルロスを覆うようにシールドを展開し、アンナを近づけなくさせた。魔力の壁に拒まれカルロスに近づけないアンナは、これまでとは違った行動に出る。

 シールドの様子を少し伺った後、彼女はシールドに触れて顔を近付ける。するとベルンハルトの弦のように、自身の腕を振動を伝える媒体として使い、自身の声によって生まれる振動をシールドを形成する魔力に直接流し込んだ。

 これまでも彼女らの力技によってオイゲンのシールドは何度か破られてきたが、それまでの破られ方とは明らかに違い、まるでスキルを自ら解除したかのようにシールドは形を成していた魔力を解き放ち消滅してしまった。

「何ッ・・・!?」

 思いもよらぬ器用な方法で解除してきたアンナに驚くオイゲン。急ぎカルロスとの間に次のシールドを展開する。今度は半円状のものではなく、壁のように進路を妨害する簡易的なものだった。

 破られても良い。少しでもカルロスの元へ到着する時間さえ稼げればそれで良かった。先程のように足を止めさせるだけでも、迂回させるだけでも何でも良かった。

 しかし、先程オイゲンのシールドに触れて何かを掴んだのか、今度は接近しながら声を発するだけでオイゲンのシールドが次々に解除されていった。振動による魔力の調和を乱し、形を保てなくしているようだ。

「直接防ぐしかないかッ・・・!」

 カルロスの元へと向かいながらシールドを作っていたオイゲンだったが、作っても無駄だと判断し魔力の温存も兼ねてカルロスの元への到着を最優先にした。

 移動速度に関しては、地を蹴り加速を得るオイゲンの方が早く、先にカルロスの元へ到着することが出来た。彼の到着に安堵するカルロスが声を掛けるも、君は演奏に集中してくれとだけ伝え、アンナの迎撃準備を開始する。

 しかし、何者かの手がオイゲンの身体に触れる。彼の後方にいるカルロスは演奏をしていてそれどころではない筈。敵であるアンナは今まさにオイゲンに攻撃を仕掛けんと迫っている。

 気を失っているクリスも離れた椅子にいた筈。今礼拝堂にいるのはこの四人だけの筈なのに、この土壇場で誰にも接近を悟られる事なく近付ける者などいない。

 一瞬、時が遅くなったかのような世界で、身体に触れる何者かの手に視線を送るオイゲン。その瞳には予想外の人物が映し出されていた。
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