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別の世界の音楽
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三つのシャボン玉がそれぞれに振動する。その度に黒い人物の戦闘スタイルは変わり、オイゲンはまるで三人の人物を変わる変わる相手にしているようだった。
そんな中、接近戦を得意とするシャボン玉が振動し始めた時、盾の懐に飛び込まれたオイゲンの耳にそれは飛び込んできた。
黒い人物が音楽というものについての口上を垂れ流す中、彼の頭の周りのシャボン玉からは、視認出来る振動の他に僅かな音が聞こえていた。言うなればこれは“音漏れ”と言うべきものだろう。
本来は術者本人にしか聴こえない筈の音楽だが、その世界に没入するあまり周りへの配慮に欠け、周りの者にもその音が漏れているのだ。アンナやベルンハルトが用いていた歌声や演奏によるバフ効果。
彼らはそれを相手であるブルースやミア、シン達に対して行い身体の自由を奪ってきた。それを黒い人物は自らの身体に付与し、臨機応変にそのバフ効果を使い分けているのだ。
その影響が、黒い人物を懐に招き入れてしまったオイゲンの身体にも、僅かながらに現れた。攻防を繰り広げる二人だったが、オイゲンは黒い人物を間近に捉えた時だけ、身体に違和感を感じていた。
それはその時の黒い人物に掛かるバフ効果に酷似していたのだ。効果料的には本人のそれとは比べるまでもないが、僅かに力が増したり速度が上がったりと、明らかに自分の能力ではない何かの介入を受けていた。
「音楽の力・・・そういう事か」
「ん?・・・ふふ、そうか語っている内に音が大きくなっていたか
。だがそれなら貴方も体験している筈だ。音楽によって人は思想や身体能力さえ変化するのだと。これはこの世界の歴史にも確かに存在する」
黒い人物が語ったもの。それは戦いに赴く前に行われる儀式が由来だと言う。古来より合戦の前には神仏への勝利祈願として、士気を高める為の奉納の舞や儀式が行われていたという。
その際にはその当時に用いられていた楽器や歌などが使われていたのだと。音楽に胸を躍らせ、血肉を激らせ、時に催眠術のように己の精神と肉体を強化していた。
だが黒い人物の聴いている音楽に、オイゲンは驚きと衝撃を受けていた。それは彼らの世界であるWoFの世界ではまだ開拓されていない、メタルやテクノポップといった、シン達が来た世界の音楽が聴こえてきたからだ。
聴き馴染みのない楽器や曲調にアレンジされたその音楽は、その節々にWoFの世界でも有名なバッハの曲を彷彿とさせるポイントがいくつも散りばめられていた。
「何だこの音楽は・・・?聴いたことも無いような、しかし何処か聴き馴染みのある部分もあるが・・・」
「我々では未だ理解出来ぬ音楽・・・。どうやらこれは“別の世界線”で奏でられているジャンルだそうです。それを用いてバッハの曲を俺がアレンジしたものです」
「?」
彼の言葉に曖昧な点がある。まるで“別の誰か”から授かったものかのような言い方に、オイゲンは眉を潜ませる。彼の言う“別の世界線”とは、今オイゲンらがいるこの黒い人物の思惑によって作り出された世界の事なのか、それともケヴィンらが送られた”元の世界“の事を言っているのか分からなかった。
しかし黒い人物はその点について一切触れることもなく、目的の更なる詳細を戦いの中で語る。
「この力を用いて、盗まれた我らが血族の能力と力が込められた月光写譜を、俺のアレンジで正史へと昇華させ取り戻すッ!」
「つまりお前の言う正史とは、人を変える力を持つ能力で描かれた楽譜を盗み、自分の力としたバッハからそれを取り戻す事にあると?」
「取り戻すだけではない。正しくあるべきだった歴史へと誤った歴史を正すのが俺の目的・・・。その為に全てを捧げてきた。その協力者に彼らが現れたのも、導かれるべくして導かれた縁なのかも知れないな・・・」
オイゲンと黒い人物が戦いの中で音楽の可能性や別の何者かの介入、そして目的について話していると、それまで動きの見られなかったパイプオルガンの前で陣取っていたベルンハルトが、何かに誘い込まれるように持ち場を離れ、その場で動きを止めた。
「ッ!?」
オイゲンの反応を見て振り返る黒い人物。するとそこには、まるで何かに繋がれるように身動きを封じられ、もがくベルンハルトの姿がそこにはあった。そして彼が居たはずのオルガンには、何処に隠れていたのかカルロスが椅子に座り、鍵盤に指をかけていた。
「カルロスッ・・・!?一体今まで何処にッ・・・?いや、それ以前に何故ベルンハルトが・・・!?アンナはどうしたッ!?」
突然の状況の変化に、再び慌て始める黒い人物。周囲を見渡してもアンナの姿が見当たらない。今にして思えば、ケヴィンへ攻撃をを仕掛けた後、周囲の警戒を担当していた筈のアンナの声は、いつの間にかフェードアウトするように聞こえなくなってた。
目を逸らした黒い人物の隙を突き、彼の周りにアンナ達を閉じ込めたものと同じ半円状のシールドを展開し、閉じ込めるオイゲン。そんなに長くは保たないことは覚悟していた。
だがこの隙に出来ることがあると走り出した彼は、何かによって動きを封じられているベルンハルトにトドメを刺すべく、盾の内側に備えられていた剣を取り出し、眩い光を纏わせる。
そんな中、接近戦を得意とするシャボン玉が振動し始めた時、盾の懐に飛び込まれたオイゲンの耳にそれは飛び込んできた。
黒い人物が音楽というものについての口上を垂れ流す中、彼の頭の周りのシャボン玉からは、視認出来る振動の他に僅かな音が聞こえていた。言うなればこれは“音漏れ”と言うべきものだろう。
本来は術者本人にしか聴こえない筈の音楽だが、その世界に没入するあまり周りへの配慮に欠け、周りの者にもその音が漏れているのだ。アンナやベルンハルトが用いていた歌声や演奏によるバフ効果。
彼らはそれを相手であるブルースやミア、シン達に対して行い身体の自由を奪ってきた。それを黒い人物は自らの身体に付与し、臨機応変にそのバフ効果を使い分けているのだ。
その影響が、黒い人物を懐に招き入れてしまったオイゲンの身体にも、僅かながらに現れた。攻防を繰り広げる二人だったが、オイゲンは黒い人物を間近に捉えた時だけ、身体に違和感を感じていた。
それはその時の黒い人物に掛かるバフ効果に酷似していたのだ。効果料的には本人のそれとは比べるまでもないが、僅かに力が増したり速度が上がったりと、明らかに自分の能力ではない何かの介入を受けていた。
「音楽の力・・・そういう事か」
「ん?・・・ふふ、そうか語っている内に音が大きくなっていたか
。だがそれなら貴方も体験している筈だ。音楽によって人は思想や身体能力さえ変化するのだと。これはこの世界の歴史にも確かに存在する」
黒い人物が語ったもの。それは戦いに赴く前に行われる儀式が由来だと言う。古来より合戦の前には神仏への勝利祈願として、士気を高める為の奉納の舞や儀式が行われていたという。
その際にはその当時に用いられていた楽器や歌などが使われていたのだと。音楽に胸を躍らせ、血肉を激らせ、時に催眠術のように己の精神と肉体を強化していた。
だが黒い人物の聴いている音楽に、オイゲンは驚きと衝撃を受けていた。それは彼らの世界であるWoFの世界ではまだ開拓されていない、メタルやテクノポップといった、シン達が来た世界の音楽が聴こえてきたからだ。
聴き馴染みのない楽器や曲調にアレンジされたその音楽は、その節々にWoFの世界でも有名なバッハの曲を彷彿とさせるポイントがいくつも散りばめられていた。
「何だこの音楽は・・・?聴いたことも無いような、しかし何処か聴き馴染みのある部分もあるが・・・」
「我々では未だ理解出来ぬ音楽・・・。どうやらこれは“別の世界線”で奏でられているジャンルだそうです。それを用いてバッハの曲を俺がアレンジしたものです」
「?」
彼の言葉に曖昧な点がある。まるで“別の誰か”から授かったものかのような言い方に、オイゲンは眉を潜ませる。彼の言う“別の世界線”とは、今オイゲンらがいるこの黒い人物の思惑によって作り出された世界の事なのか、それともケヴィンらが送られた”元の世界“の事を言っているのか分からなかった。
しかし黒い人物はその点について一切触れることもなく、目的の更なる詳細を戦いの中で語る。
「この力を用いて、盗まれた我らが血族の能力と力が込められた月光写譜を、俺のアレンジで正史へと昇華させ取り戻すッ!」
「つまりお前の言う正史とは、人を変える力を持つ能力で描かれた楽譜を盗み、自分の力としたバッハからそれを取り戻す事にあると?」
「取り戻すだけではない。正しくあるべきだった歴史へと誤った歴史を正すのが俺の目的・・・。その為に全てを捧げてきた。その協力者に彼らが現れたのも、導かれるべくして導かれた縁なのかも知れないな・・・」
オイゲンと黒い人物が戦いの中で音楽の可能性や別の何者かの介入、そして目的について話していると、それまで動きの見られなかったパイプオルガンの前で陣取っていたベルンハルトが、何かに誘い込まれるように持ち場を離れ、その場で動きを止めた。
「ッ!?」
オイゲンの反応を見て振り返る黒い人物。するとそこには、まるで何かに繋がれるように身動きを封じられ、もがくベルンハルトの姿がそこにはあった。そして彼が居たはずのオルガンには、何処に隠れていたのかカルロスが椅子に座り、鍵盤に指をかけていた。
「カルロスッ・・・!?一体今まで何処にッ・・・?いや、それ以前に何故ベルンハルトが・・・!?アンナはどうしたッ!?」
突然の状況の変化に、再び慌て始める黒い人物。周囲を見渡してもアンナの姿が見当たらない。今にして思えば、ケヴィンへ攻撃をを仕掛けた後、周囲の警戒を担当していた筈のアンナの声は、いつの間にかフェードアウトするように聞こえなくなってた。
目を逸らした黒い人物の隙を突き、彼の周りにアンナ達を閉じ込めたものと同じ半円状のシールドを展開し、閉じ込めるオイゲン。そんなに長くは保たないことは覚悟していた。
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