1,525 / 1,646
音で彩る世界
しおりを挟む
ダメージを負った身体では回避が間に合わなかったのか、何とか移動しようとする黒い人物だったが、迫る壁のような衝撃に飲まれた。全身を黒い靄へと変えた彼は、暫くして靄を集めると再び人の身体を形成する。
「ぐッ・・・!オイゲンめ・・・煙に乗じて俺を狙って来たかッ!・・・ふ、何を企んでいるか知らんが、そのせいであなた達はブレインを失った。戦闘のセンスはあれど、彼ほどの策ももう練れないでしょう・・・」
オルガンに近づく人物はなく、アンナの声を用いたソナーもオイゲンの姿を捉えている。しかし姿を消したカルロスの反応がない。アンナは依然として礼拝堂にいる生物、魔力の反応を探している。
「いいでしょう、貴方の相手は俺がして差し上げましょう。どうせこれで“最期”なんだ・・・。存分にこの力を振るうとしよう!」
「何だ?急激に魔力の反応が変わった・・・?」
黒い人物は自身の身体を形成する黒い靄を集めると、頭の周りを飛ぶ三つのシャボン玉のような球体が現れた。それらは一つ一つが振動し、よく見ると小さく震えている。
「音楽は人を変える力を持つ。俺はその影響を受けやすい体質を持っていました・・・」
「?」
突如自分の話をし始める黒い人物。だが口は動かせど、攻撃の手を緩める事はなかった。三つのシャボン玉の内、一つが際立って振動を開始した。すると黒い人物は一瞬にしてオイゲンの視界から消えた。
「俺は音楽を聴くのが好きだった。嫌な事や惨めな現実を忘れさせてくれる・・・」
背後から気配を察したオイゲンが、素早く風を切って近づく何かに合わせて光の壁を張る。背後を振り返るとそこには黒い人物が、足を伸ばしてオイゲンの張った光の壁を蹴っていた。
「音楽を聴いている間だけは、別の何者かになれたような気がした」
攻撃を防がれた黒い人物は再び素早い動きで姿を眩ました。オイゲンの張った光の壁には、今にも割れそうな程のヒビが入っていた。魔力が篭っているスキルで生み出した壁を、単純な物理攻撃でヒビを入れたという事は、先程の黒い人物の蹴りは、容易に物理的な壁などを打ち砕く威力がある事が分かる。
そして引き続き、姿を見せぬまま黒い人物の声だけがオイゲンの周囲で児玉していた。
「まるで物語の登場人物にでもなれたかのように気分が高まる。見えてくる景色も変われば、体調や気分も変わってくる。色の無い世界が、舞台の壇上に変わる・・・」
「・・・・・」
オイゲンには彼の言っている事が理解出来た。感情を持った生き物、意思を持った生き物、或いはこの世に生を受けた全ての生き物にとって、生きる上での安息はひつようである。
それを手助けしてくれる一つの手段として音楽がある。教団に所属するオイゲンは、仕事柄教会で歌を聴く機会も多く、その度に過去の行いと向き合い改めていた。
自身を律し、過去の教訓を戒めて今に活かす。オイゲンにとっての教会という場はそういう意味を持っていた。
だが決してそれが苦になっていた訳ではない。その手で救って来た命もあるが、それ以上に奪ってきた命もある。如何に悪人といえど、意味もなく生み出されるものではない。そこには祝福された命もあっただろう。
それが多くの他者から死を望まれたばかりに殺されてしまう。しかもそれを下すのが、彼らが崇める神などではなく、罪人と同じ生き物。中には命乞いをする者や、年端も行かぬ子供もいた。
彼らの死に際の顔が脳裏にこびり付いて離れない。教団の教えと周りの人々との繋がりのお陰で、何とか精神を保てているが、それらが無くなった時、オイゲンもまた屠ってきた者達と同じ道を歩んでしまうのかもしれない。
「ぐッ・・・!オイゲンめ・・・煙に乗じて俺を狙って来たかッ!・・・ふ、何を企んでいるか知らんが、そのせいであなた達はブレインを失った。戦闘のセンスはあれど、彼ほどの策ももう練れないでしょう・・・」
オルガンに近づく人物はなく、アンナの声を用いたソナーもオイゲンの姿を捉えている。しかし姿を消したカルロスの反応がない。アンナは依然として礼拝堂にいる生物、魔力の反応を探している。
「いいでしょう、貴方の相手は俺がして差し上げましょう。どうせこれで“最期”なんだ・・・。存分にこの力を振るうとしよう!」
「何だ?急激に魔力の反応が変わった・・・?」
黒い人物は自身の身体を形成する黒い靄を集めると、頭の周りを飛ぶ三つのシャボン玉のような球体が現れた。それらは一つ一つが振動し、よく見ると小さく震えている。
「音楽は人を変える力を持つ。俺はその影響を受けやすい体質を持っていました・・・」
「?」
突如自分の話をし始める黒い人物。だが口は動かせど、攻撃の手を緩める事はなかった。三つのシャボン玉の内、一つが際立って振動を開始した。すると黒い人物は一瞬にしてオイゲンの視界から消えた。
「俺は音楽を聴くのが好きだった。嫌な事や惨めな現実を忘れさせてくれる・・・」
背後から気配を察したオイゲンが、素早く風を切って近づく何かに合わせて光の壁を張る。背後を振り返るとそこには黒い人物が、足を伸ばしてオイゲンの張った光の壁を蹴っていた。
「音楽を聴いている間だけは、別の何者かになれたような気がした」
攻撃を防がれた黒い人物は再び素早い動きで姿を眩ました。オイゲンの張った光の壁には、今にも割れそうな程のヒビが入っていた。魔力が篭っているスキルで生み出した壁を、単純な物理攻撃でヒビを入れたという事は、先程の黒い人物の蹴りは、容易に物理的な壁などを打ち砕く威力がある事が分かる。
そして引き続き、姿を見せぬまま黒い人物の声だけがオイゲンの周囲で児玉していた。
「まるで物語の登場人物にでもなれたかのように気分が高まる。見えてくる景色も変われば、体調や気分も変わってくる。色の無い世界が、舞台の壇上に変わる・・・」
「・・・・・」
オイゲンには彼の言っている事が理解出来た。感情を持った生き物、意思を持った生き物、或いはこの世に生を受けた全ての生き物にとって、生きる上での安息はひつようである。
それを手助けしてくれる一つの手段として音楽がある。教団に所属するオイゲンは、仕事柄教会で歌を聴く機会も多く、その度に過去の行いと向き合い改めていた。
自身を律し、過去の教訓を戒めて今に活かす。オイゲンにとっての教会という場はそういう意味を持っていた。
だが決してそれが苦になっていた訳ではない。その手で救って来た命もあるが、それ以上に奪ってきた命もある。如何に悪人といえど、意味もなく生み出されるものではない。そこには祝福された命もあっただろう。
それが多くの他者から死を望まれたばかりに殺されてしまう。しかもそれを下すのが、彼らが崇める神などではなく、罪人と同じ生き物。中には命乞いをする者や、年端も行かぬ子供もいた。
彼らの死に際の顔が脳裏にこびり付いて離れない。教団の教えと周りの人々との繋がりのお陰で、何とか精神を保てているが、それらが無くなった時、オイゲンもまた屠ってきた者達と同じ道を歩んでしまうのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる