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山に選ばれたモノ
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回帰の山の麓。臨時で設営されたギルドの拠点に数人の隊員とアクセルらの姿があった。どうやら彼らは準備の段階から手伝っていたようだ。
「しかし、山で迷子になるような連中じゃなかったのにな」
「あぁ、ちゃんと探索用のスキルも持って行ったって話だぜ?何だって急に・・・」
ギルドの隊員達に話を耳にしたアクセルが、帰らぬ仲間達に疑問を抱いている隊員に、当時の山の様子を語る。光脈の精気が二合目付近にまで降りて来ていた事や、もしかすると山のヌシに何かしらの変化があったのかも知れないという、彼なりの推測を加えて。
「だが、精気に近づかれただけでベテランの捜査隊が道を見失うものなのか?」
「おいおい、ギルドで一体何を教えてるんだ。精気が下の方まで降りて来るって事は、“人に慣れたヌシ”である可能性が高い。警戒心の強い生物がヌシになっているのなら、そんな下の方までは降りてこない筈だ」
アクセルの言う推測の話は、決して的外れなどではなかった。これまでの調査隊の記録を読んだ事のあるアクセルは、記録されている範囲でヌシに選ばれたであろう生物の動きについて知識を蓄えていた。
嘗ては人もヌシとして選ばれた事があるようで、その時は今回よりも大掛かりな捜索隊を編成し山へと入ったそうだ。ヌシとなったその人物は、まだ人であった頃の意識が残っていたのか、人の気配に誘われ光脈の精気を周囲に撒き散らしながら、山に敷かれた人の道を降りて来たのだそうだ。
だが捜査隊の者達はその精気に耐えられず、意識を失ってしまったり具合の悪くなってしまった隊員を連れながら、撤退を余儀なくされてしまったらしい。
それがヌシには、拒絶に思えてしまったのだろうか。それ以降、人がどれだけ山の山頂を目指そうとも、人の気配に誘われて精気を運んでくる事は無くなったらしい。
それどころか、人を遠ざける様に行方を眩まし、調査隊の精気を感知する能力を持ってしても感じ取れないほど、広大な山の奥へと身を潜めてしまったのだと記録されている。
当時の記事を残した捜索隊員が思うに、それは人々に悪い影響を及ぼさない様にしようとした、ヌシに選ばれた人物の最期の良心だったのかも知れない。という一文で締め括られていた。
「人がヌシに・・・。俺がハインドに来た時にはそんな話、聞いた事もなかったな」
「俺もだ。アンタ一体何処でそんな記録を見たんだ?」
今回捜索隊に選ばれた隊員達は、比較的体力のありそうな若い隊員ばかりだった。彼らが知らないのも無理もないのかも知れない。余程山の現象について興味がないと、古い記録や文献など目を通す事もないだろう。
アクセルは、ハインドの街で公開されている過去の調査隊の文献を保存しているという図書館でそれを読んだと彼らに教えた。そして山の依頼や任務が多くなるのであれば、それらの知識は必ず自分の身を守る事に繋がるとアドバイスをし、アクセルは自分の依頼の準備へと戻った。
「どうだケネト。精気の反応に変化はあったか?」
ギルドの立てたテントの側に、自分達のテントを張って独自に依頼のユリアの行方を探るケネト。一人テントに篭り、感知系のスキルで精気の中心点がどの辺りにあるのかを探していた様だ。
「昨晩の二合目付近には、もう精気は残っていないな。取り敢えず届く範囲で調べてみてはいるが、これは・・・」
「登って行っちまったのか?」
アクセルの問いにケネトは無言で頷いた。ただそれは正確な情報ではなく、あくまで精気の感知を行ってきた彼の経験による推測に過ぎなかった。
二昨晩の二合目付近を調べた彼は、その周辺に感知の目を光らせるも、横方向や下方部に精気の痕跡は無く、考えられるのはアクセルの言うように上へと向かったか、更に奥地へと向かって行ったかのどちらかだろうと、彼は判断したようだ。
「んじゃまぁ、上を目指しますか。丁度アイツらも山を越えたいって言ってたしな。安全を確保する為の下調べがてら、虱潰しに三合目、四合目と調べていくしかねぇか」
依頼人であるトミの妻は、麓から山の中へと入り込んで行ったという。それから随分と日にちは経ってしまっているが、昨晩の精気の事もある。恐らく捜索対象のユリア・キヴェラは二合目以降の奥に居るに違いない。
何処まで入って行ってしまったのか分からない以上、アクセルの考え通り再び山を登り、一合一合周囲の捜索を行いながら登って行くのが賢明であろう。
するとそこへ、ギルドの隊員から居場所を聞いたのであろうシン達一行が、彼らのテントの前にやって来た。入り口の外に人影が掛かると男の声でアクセルの名を呼ぶ声がした。
「アクセル、ここに居ると聞いたんだが」
「おぉ来たか!入れ入れ」
しかしそれなりの人数がいる一行は、取り敢えず昨晩行動を共にしたシンとツクヨがテントの中へと入り、ミア達はギルドのテントの方へと向かい、彼らの依頼と山を越える為の計画が纏まるのを待った。
「しかし、山で迷子になるような連中じゃなかったのにな」
「あぁ、ちゃんと探索用のスキルも持って行ったって話だぜ?何だって急に・・・」
ギルドの隊員達に話を耳にしたアクセルが、帰らぬ仲間達に疑問を抱いている隊員に、当時の山の様子を語る。光脈の精気が二合目付近にまで降りて来ていた事や、もしかすると山のヌシに何かしらの変化があったのかも知れないという、彼なりの推測を加えて。
「だが、精気に近づかれただけでベテランの捜査隊が道を見失うものなのか?」
「おいおい、ギルドで一体何を教えてるんだ。精気が下の方まで降りて来るって事は、“人に慣れたヌシ”である可能性が高い。警戒心の強い生物がヌシになっているのなら、そんな下の方までは降りてこない筈だ」
アクセルの言う推測の話は、決して的外れなどではなかった。これまでの調査隊の記録を読んだ事のあるアクセルは、記録されている範囲でヌシに選ばれたであろう生物の動きについて知識を蓄えていた。
嘗ては人もヌシとして選ばれた事があるようで、その時は今回よりも大掛かりな捜索隊を編成し山へと入ったそうだ。ヌシとなったその人物は、まだ人であった頃の意識が残っていたのか、人の気配に誘われ光脈の精気を周囲に撒き散らしながら、山に敷かれた人の道を降りて来たのだそうだ。
だが捜査隊の者達はその精気に耐えられず、意識を失ってしまったり具合の悪くなってしまった隊員を連れながら、撤退を余儀なくされてしまったらしい。
それがヌシには、拒絶に思えてしまったのだろうか。それ以降、人がどれだけ山の山頂を目指そうとも、人の気配に誘われて精気を運んでくる事は無くなったらしい。
それどころか、人を遠ざける様に行方を眩まし、調査隊の精気を感知する能力を持ってしても感じ取れないほど、広大な山の奥へと身を潜めてしまったのだと記録されている。
当時の記事を残した捜索隊員が思うに、それは人々に悪い影響を及ぼさない様にしようとした、ヌシに選ばれた人物の最期の良心だったのかも知れない。という一文で締め括られていた。
「人がヌシに・・・。俺がハインドに来た時にはそんな話、聞いた事もなかったな」
「俺もだ。アンタ一体何処でそんな記録を見たんだ?」
今回捜索隊に選ばれた隊員達は、比較的体力のありそうな若い隊員ばかりだった。彼らが知らないのも無理もないのかも知れない。余程山の現象について興味がないと、古い記録や文献など目を通す事もないだろう。
アクセルは、ハインドの街で公開されている過去の調査隊の文献を保存しているという図書館でそれを読んだと彼らに教えた。そして山の依頼や任務が多くなるのであれば、それらの知識は必ず自分の身を守る事に繋がるとアドバイスをし、アクセルは自分の依頼の準備へと戻った。
「どうだケネト。精気の反応に変化はあったか?」
ギルドの立てたテントの側に、自分達のテントを張って独自に依頼のユリアの行方を探るケネト。一人テントに篭り、感知系のスキルで精気の中心点がどの辺りにあるのかを探していた様だ。
「昨晩の二合目付近には、もう精気は残っていないな。取り敢えず届く範囲で調べてみてはいるが、これは・・・」
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アクセルの問いにケネトは無言で頷いた。ただそれは正確な情報ではなく、あくまで精気の感知を行ってきた彼の経験による推測に過ぎなかった。
二昨晩の二合目付近を調べた彼は、その周辺に感知の目を光らせるも、横方向や下方部に精気の痕跡は無く、考えられるのはアクセルの言うように上へと向かったか、更に奥地へと向かって行ったかのどちらかだろうと、彼は判断したようだ。
「んじゃまぁ、上を目指しますか。丁度アイツらも山を越えたいって言ってたしな。安全を確保する為の下調べがてら、虱潰しに三合目、四合目と調べていくしかねぇか」
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何処まで入って行ってしまったのか分からない以上、アクセルの考え通り再び山を登り、一合一合周囲の捜索を行いながら登って行くのが賢明であろう。
するとそこへ、ギルドの隊員から居場所を聞いたのであろうシン達一行が、彼らのテントの前にやって来た。入り口の外に人影が掛かると男の声でアクセルの名を呼ぶ声がした。
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