World of Fantasia

神代 コウ

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山頂へ近づくにつれて

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 一見なんの変哲もない木の実の数々だが、それはこの周辺に巣を構える小動物が隠したであろう物であり、その小動物達はカガリが見たという生き物を率いるミネの行列に参加していたかも知れない。

 その動物を探せばミネの行方の手掛かりが掴めるかも知れない。木の実を見たミアが思わずコレはなんだと声を上げる。

 それを聞きつけたカガリがやって来ると、直ぐにそれが周辺の小動物の物だと考え、実に残る生物の反応や魔力、光脈の精気などの反応を確かめる為掘り起こし、専用の道具で計測を始めた。

「本当に木の実からミネの反応を追えるのか?」

「どんなに小さな手掛かりでもいい。ミネさんに繋がる情報は絶対に俺が見つけてみせるッ!」

「おっおう、じゃぁ後は頼むわ。アタシらは他の痕跡を探して来るから」

 不安そうな表情を浮かべていたカガリは、漸く手掛かりらしい手掛かりにありつけた事で、目を輝かせて調査に取り組み始めた。その勢いに押されながらも、ミアとアカリはその埋められていた木の実の調査を彼に任せて、他の手掛かりや痕跡探しへと戻って行った。

 しかし結果として見つかったのは、紅葉が見つけた木の実しか見つけられず、カガリの調査結果待ちとなっていた。

 ミア達が彼に調査を任せてからそれ程経たずして、カガリは木の実から精気を纏っていた小動物の行方を辿れると一行に報告した。

「見つけた!木の実を隠した動物に痕跡を追えるぞ!」

「でかしたぞ、カガリ!それでミネは無事なのか?」

「落ち着いてくれ、まだそこまでは分からないって。先ずは動物に移動先だ。そこに何があるかは分からないけど、着実にミネさんには近づいてる筈だ!」

 一行はカガリの案内で、木の実を隠したと思われる精気を纏った動物の痕跡を追い、更なる山の奥地へと歩みを進める。進行度としては既に七号目付近にまで到達していた一行は、痕跡の先で彼らの接近を察知した小動物達が逃げて行く気配を感じ取る。

 そして小動物がいなくなった後には、巣穴とミネの物と思われる布の切れ端のような物があった。一番乗りでその場所に足を踏み入れたカガリは、直ぐにそれを見つけるとミネの物かどうかの調査に取り掛かる。

 その間、シン達はトミの依頼の手掛かりを探しながら、現場の確認をアクセルらとしていた。

「なぁ、アクセル」

「どうしたんだ?シン」

「俺達は今、山を登ってるんだよな?確かにちょっと危険なモンスターはいたが、街の人や行商人達が言うほど対策無しでは登れないって山か?」

 ここまでシン達が乗り越えてきた事に比べれば、戦闘面に関してはそれほど危なげのない山道だった。問題があるとすれば、一行が見舞われた意識の消失と光脈らしき川を見たという不思議な体験だけだった。

 七号目付近までやって来た今、周囲には幾つかの大型生命体の気配が感じられる程度で危険は無いようにシンは思っていた。その感想を聞いてアクセルは、自分もここに来た頃はそう思っていたと、意外にもシンの感想に共感していた。

 しかし、それは最初だけであるとその後に加えたアクセルは、自分の体験談を交えてこの先に待ち受けているであろう、回帰の山の恐ろしさについて語ってくれた。

「確かに戦闘面に関しちゃぁ、アンタらには何の心配もしてねぇよ。・・・けどよ、この山の恐ろしいところは、強いモンスターがいるとか、どデカい怪物が立ち塞がるとかそんなんじゃねぇんだなコレが」

 アクセルは初めに、ハインドの街やシン達を連れて来た行商人達から何度も聞かされているであろうという前置きを据えてから、昨夜も一行が体験したような不思議な現象の数々について語る。

「ここで起きる精神の異常は、その人間が見たり感じたりするだけじゃなく、現実にも物理的に影響を及ぼすものなんだ」

「物理的に・・・」

「まぁ簡単に言えば、なりたい自分になれたり、周りがこうであったら良いのにっていう願望が現実に現れるってとこだ。ただ、まともな精神状態でなら最高かもしれないが、恐怖や絶望といった錯乱状態で、急を要する決断をしなければならない場面で想像するものは、自分にとっても周りの環境にとっても、とてもじゃないが良いものとは言えない・・・」

 アクセルは昔、山の中で見た事もないような悍ましい姿の魔物に遭遇し、逃げなければという思考はありつつも身体が動かなくなった事があったようで、身動きが取れず目も逸らす事が出来なかったアクセルに、その魔物はゆっくりと近づき、酸のように物を溶かすよだれで腕を焼かれたのだという。

 自分の身体が溶けていくところを目の当たりにしながら、何も出来ずに声を上げて恐怖していると、一緒に山に入っていたケネトに呼び掛けられ、元の森の景色へと戻って来たのだという。

 慌ててアクセルの腕に治療のスキルを施すケネトの様子を見て、自身の腕に視線を向けると、先程見ていた光景と同じように、アクセルの腕が炎に焼かれていたのだという。

 周りの景色は、今まで見ていた幻覚とほぼ変わりなく、彼を襲った魔物も目の前から消えていた。幻覚と現実の境目などアクセルには分からなかったようだ。

 だが、悪い方へと思考が向けられてしまい、自分でもその幻覚を受け入れてしまったことで、現実でも彼の腕は発火し、まるで幻覚で見た光景を現実のものにしようと不思議な現象が起こる。

 しかしこれも、アクセルが回帰の山で体験した現象の一つに過ぎず、他にも目の前で仲間が魔物に変貌するところを見たという報告や、突然複数の人間や周囲の木々がその形を保てず水へと変わり、その場に湖が出来たというまるで伝承のような信じ難い記録も残されているようだ。

 そんな不思議な出来事も、いざ自分の身で体験したアクセルはには、とても全てが夢物語とは思えなかったという。

「さっきのミアが言っていたヌシがコントロールしているって話を考えると、その時に異常をきたした者の精神に、山のヌシが干渉して来たのかもしれねぇな・・・」

「でもそれは、薬や一人でいないという決まり事を守っていれば防げるんじゃ・・・?」

「精神安定剤のことだろ?あれも正直気休めであって、完全に防げるってモンじゃないんだ。それに誰かと居ても、その誰かも一緒にやられていたら?」

 そう返され、何も言えなくなってしまったシンは、防ぎようのない精神攻撃が何時如何なる時に訪れ、何時の間に呑まれているかも分からないという現象に、昨夜の出来事を思い出していた。

 真っ暗な空間でシンは、黒い衣の人物に山のヌシが代わろうとしている事を聞いていた。そしてそれを邪魔すればただでは済まないと。

 元よりシン達に事態を大きくするつもりはない。穏便に山さえ越えられればそれで構わないのだから。
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