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神代 コウ

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男の見た記憶の続き

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 身体は無重力状態となり、落ちた勢いを緩めながら男は奈落の底へと、二人を連れ戻しに向かう。水面には確かに映っていた二人の人影。しかし、その川へ飛び込んだ男が体験したのは、川へ飛び込むのとは全く別の体験だった。

 何も見えない中を落ちて行く男は、闇雲に周囲へと手を伸ばし続け、そこにいた筈の二人を探していた。幸か不幸か、男の必至の働きが功を奏し、あちこちへ伸ばしていた手が何か物体に当たる。

 確証はなかったが、男はその触れたものが二人の内どちらかの人物であると判断し、急ぎそれを掴んだ男はその物体を引き寄せる。無重力が故に、手に伝わる重さだけではそれが人の身体であるのかまでは分からない。

 しかし手繰り寄せていくよ、男の腕には余るほど物体の感触が大きい事に気がつく。否、大きいのではなく、手繰り寄せた物体は二つだったのだ。これで男は、その二つの物質が彼らである事を確信し、両腕に抱えながら上を目指して登ろうとする。

 だが男の身体は下へ下へと落ちて行く反面、二つの物体は男の反応とは反対に、意識を持つ男に触れたと同時に徐々に上へ向かって上がって行く。自分の手元から離れていってしまいそうになるそれらを、最初は男も引き止めようとしたが、落ちる自分が引き止める事で彼らは上へ帰れないのではと考える。

 男は二つの物体から手を離し、上へ向かう二つの物体を見送る。するとある程度上がっていったところで、その二つの物体が照らし出され、男の予想通り助けようとしていた男女であったことが明らかになる。

「良かった、やはりあの二人だったか。これで良い・・・これで・・・」

 上がって行った二人はそのまま光に包まれ姿を消した。その空間から姿を消したことが救いになったのかは定かではないが、男には彼らが無事ここから解放されたのだという安心感があった。

 だが、二人の代わりに一人取り残されてしまった男は、何もない空間をただ落ちて行くだけとなり、何処へ向かうかも分からないまま、ただ達成感とこれまでの事を思い出していた。

 男が思い出していた記憶は、それを見ていたシン達にも共有されていた。

 先程の男女が、男の街へとやって来る記憶が浮かび上がる。彼らを街の人が歓迎している様子を、男は離れて眺めていた。如何やら二人は何処かへ行っており、街へ帰って来たような場面だったらしい。

 そして次の場面では、その男女の元に赤子が誕生していた。だが赤子の出産をその場にいた者達は喜んでいなかった。騒がしくなる部屋に男がやって来ると、旦那の方が男に何かを必死に伝えている。

 それを聞いた男は唖然とした様子で、ただただその場で旦那の必死の訴えを聞き入れているだけだった。再び場面は切り替わり、回帰の山と思われる山道を、白装束に身を包んだ者達が仰々しく列をなして登って行く。

 行列の中腹辺りに台座を運ぶ者達がおり、そこには綺麗な布に包まれた赤子が居た。そして列の最後尾には、他の者達と同じく白装束に身を包んだ男女が暗い顔で参列している。

 山頂であろう開けた場所に到着した一行は、そこに置かれた台座の上に赤子を乗せて離れると、何かの祈りの儀式のようなものを始めた。それを少し遠くから見ていた男は、その子の両親である男女の方へと視線を送る。

 祈りの儀式を行う他の者達の動きを、二人はただじっと立ち尽くして見ているだけだった。その光景は男の記憶越しに見ていたシン達にさえ、二人の悲しみと絶望が伝わってくるようだった。

 赤子を山頂の台座に取り残し、白装束の一行はその場を離れ山道を下って行く。間も無く山を抜けて街へと戻って来ようかとしたところで、二人の男女はこっそりと行列から抜け出し、山へと戻って行ってしまった。

 男は二人が心配で見張っていたのだろう。唯一二人の動きに気がついた男は、恐らく赤子を連れ戻しに行くのだと察しその跡をつける。他の者達に気付かれぬところまで離れた男女は、そこで白装束を脱ぎ去り山道を急足で駆け上がって行く。

 だが長い時間をかけて降って来た山道はすっかり真夜中となっており、先もハッキリとしないほど視界が悪く、道中の草木で傷だらけになりながらも走り続ける男と女。

 追っていた男は二人の気配を頼りに山道を登るも、まるでそれを阻むかのように邪魔しに入る魔物達に苦戦を強いられていた。このままでは二人を見失ってしまうと考えた男は、整備された山道から横道へと入り、道なき道を進みながら迂回して山頂を目指す事にしたようだ。

 再び場面が切り替わると、最初にシン達が男の記憶で見た、山が抉られるように消失している光景を目撃する。如何やら今までの記憶は、その最初に見た男の記憶へと繋がるものだったらしい。

「何だアレはッ・・・!?」

 男がその光景に驚愕したところで男の記憶は途絶えた。
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