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1巻
1-1
序章
「ギュスターヴ。これから処刑される気分はどうだ?」
かつてのこの国……ストラスクライド皇国のかつての王、エドワード=オブ=ストラスクライド。彼が座っていた玉座に腰かけているのは、僕の兄であり第二王子であったルイ=デュ=ヴァルロワ。ルイは王族とは思えない下卑た笑みを浮かべ、尋ねてきた。
気分がどうかって? そんなもの、最悪に決まっている。
僕はこんなにもヴァルロワ王国に忠誠を誓い、全てを捧げてきたというのに、その仕打ちがこれなのだから。
「そう睨むな。私としても助けてやりたいのはやまやまだが、残念ながら貴様の今の身分はヴァルロワ王国の第六王子ではなく、ストラスクライド皇国第一皇女の夫。こればかりはどうすることもできない」
ああ、そうだ。僕は王国によって、この皇国に売られたんだ。
皇国を打倒するために必要な準備期間を稼ぐための生贄として。
……いや、それは最初から分かっていた。
それでも僕は、王国のために尽くしたんだ。ある時は皇国内の情報を王国へと流し、またある時は王国に利するために裏で謀略を行う間者として。いつか父である国王陛下に、僕を必要な息子なのだと認めてもらえることを夢見て。
いや、父だけではない。兄達から、弟として……家族として受け入れてもらえる日を夢見て。
だけど夢というのは、叶わないから夢なんだ。
その証拠に僕は、こうして手足に枷を嵌められ、罪人として芋虫のように地面に転がっている。
(ルイ……ッ!)
ルイへの……王国への怒りでどうにかなりそうな僕は、決して外れないことは分かっているにもかかわらず、身体をよじって枷から手足を引き抜こうと力を込める。だが案の定、どうすることもできず、いたずらに自分の身体が傷つくだけだった。
すると。
「ルイ殿下、あまりギュスターヴ殿下を虐めないでください」
現れたのは、白と黄金を基調とした神官服に身を包んだ、銀髪とアクアマリンのような水色の瞳が特徴の一人の女性。
彼女の名はセシル=エルヴィシウス。
西方諸国の各地に多くの信者を持つ、リアンノン聖教会の聖女。
そして……かつて僕が憧れた女性。
「セシル……ッ!」
「……そのような顔をなさらないでください。私の力が至らぬばかりに、あなた様をお救いできなかった。そのことに、私も心を痛めているのです」
セシルが僕の首と手にそっと触れると、その箇所が淡い光に包まれ、傷が治っていく。
そう……この女は、世界でただ一人、触れた者を癒す『奇跡』を使うことができる。まるで女神の化身であるかのような能力を持ち合わせているからこそ、セシルは聖女と呼ばれていた。
「ですがご安心ください。あなた様の……ギュスターヴ殿下の魂は、きっと主リアンノンが導いてくださいます。愚かな〝魔女〟どもを浄化する炎とともに」
そう言うと、セシルはにたあ、と口の端を吊り上げた。
僕は思う。この女のどこが聖女なのだと。
その本性は、女神リアンノンを崇拝しない者、自分にとって気に入らない者を〝魔女〟と呼び、火炙りにして興奮と愉悦を覚える狂信者に過ぎないというのに。
「ねえ? あなたもそう思うでしょう?」
セシルが語りかけたのは、僕……ではなく、隣で同じように枷で手足を拘束されている、金色の髪と血塗られた赤い瞳を持つ、美しくも血が通っていない人形のような女性。
僕の妻であり、ストラスクライド皇国第一皇女。
――『ギロチン皇女』アビゲイル=オブ=ストラスクライド。
彼女もまた、セシルと同じく多くの者をその手で処刑してきた。
罪人、ヴァルロワ王国の捕虜、皇国にとって都合の悪い王侯貴族を、数えきれないほどに。
そういう意味でも、アビゲイルとセシルは同じ人種なのだと言わざるを得ない。
僕はそんな彼女に恐怖し、拒絶し続けてきた。
三年前に皇国に生贄として差し出されたあの日から、ずっと。
「聖女セシル。君はどちらから処刑するべきだと思う?」
「どちらから、ですか……」
ルイの問いかけに、セシルは顎に人差し指を当て思案すると。
「こう申し上げてはなんですが、ギュスターヴ殿下は王国に多大なる貢献をなさいました。此度の勝利も、全ては彼の功績によるもの」
振り返り、セシルは笑みを湛えて告げる。
貴様の言うとおり、僕は王国に尽くしたとも。
アビゲイルの夫という立場を利用して、王国軍をここへ……皇都ロンディニアへと招き入れた。
それにより皇国は為す術もなく皇都を奪われ、今に至るというわけだ。
ああそうだ。僕は皇国を……『ギロチン皇女』を裏切り、この結末を招いたんだよ。
王国が……家族が、僕を皇国という牢獄から救い出してくれるのだと信じて。
いつまでも僕の帰りを待っている恋人……という皮を被った、貴様の言葉を信じて。
「……ですが彼は、自らの私利私欲のために皇国を裏切った男。その功績以上に、罪は重いと考えます。そう、『ギロチン皇女』よりも」
「聖女セシルの言うとおりだ。大罪人ギュスターヴには、最上の苦しみを与えた上で処刑するべきだろう」
二人の茶番を前に、僕は地面に唾を吐き捨てる。
仰々しいことを言っているが、結局は形だけとはいえ王族である僕を処刑するための大義名分が欲しいだけ。
たとえ国王と使用人の間に生まれた不用な存在であっても、王子という肩書がある以上、ルイの一存では軽々に処刑できないからな。
「ならば決まりだ。ギュスターヴは妻であるアビゲイルが処刑されるところを見届けた上で、恐怖に打ちひしがれたまま死ぬがいい」
「勝手なことを……っ!」
僕は血が出るほど唇を噛み、ルイを睨みつけた。
その時。
「ギュスターヴ様」
隣から聞こえる、抑揚のない声。
そちらを向くと、アビゲイルがこちらを見つめていた。
「……なんだ」
「この者達の言葉など、気になさらなくて結構です」
「は……?」
アビゲイルの言葉に、僕は思わず耳を疑った。
「お前も今、聞いただろう! こうなってしまったのは、全て僕のせいなのだと! ならお前は、僕に怒りを向けるべきだろう!」
「ええ、聞きましたとも。その上でこのような結果を招いたのは全て、聖女とは名ばかりの醜い女を筆頭とした悪魔のような者達の、『呪い』と『偏愛』であると申し上げているのです」
アビゲイルはそう告げると、ルイにしなだれかかっているセシルへと視線を移す。その人形のように美しい顔が、怒りと憎しみによって歪んでいた。
皇国に来てからの三年間で初めて見せる、アビゲイルが感情を露わにした姿。
たとえ大勢の者を処刑する時でも、眉一つ動かさずにその血のように赤い瞳で冷たく罪人を見下ろしていたあの彼女が。
(何故……どうして……)
アビゲイルの表情に困惑する。だって目の前の彼女は、僕の知っている『ギロチン皇女』ではないのだから。
「違う! この結果は、全て僕のせいだ! お前だって……お前だって、僕のせいで死ぬんだぞ! もっと僕を恨めよ! その歪んだ顔を、あいつらではなく僕に向けろよ!」
彼女の考えていることが分からず、僕はそんなことを叫んでしまう。
この結果を引き起こしてしまった愚かな自分への嫌悪感で圧し潰されそうになる僕の心を、少しでも軽くしたくて。
僕のせいで処刑される憂き目に遭ったアビゲイルに憎まれることで、少しでも楽になりたくて。
なのに。
「……いいえ、あなた様は何も悪くありません。それはこの私が、一番よく知っています。ただあなた様はあの者達に利用され、裏切られただけ」
ルイやセシルに見せていた怒りの表情は消え失せ、いつものアビゲイルに戻っていた。
まるで仮面を被っているかのような、何の感情も見えない表情に。
「……僕は」
「…………………………」
「僕はもう、お前が分からないよ。いつもは空気でも見るかのような視線を僕に向けるくせに、あの連中には怒りを見せて。なのに、やはり僕にはいつもの顔しか向けてくれない」
僕は顔を伏せ、小さく呟く。
ルイとセシルにはあんなに感情をむき出しにしておきながら、アビゲイルは初めて会った時から僕に一切感情を見せたことがない。
怒りも、憎しみも、喜びも、悲しみも、その何もかもを。
すると。
「そう、ですね……」
「アビゲイル……?」
表情には相変わらず変化がないものの、その真紅の瞳が揺れ、そして――一滴の涙が、アビゲイルの白い頬を伝った。
兵士が強引に、アビゲイルを断頭台に固定する。
「ぐ……っ」
「っ!? アビゲイル!?」
くぐもった声を上げたアビゲイルを見て、僕は叫んだ。
「待て! まだ……まだ僕達の話は……っ!?」
「黙れ!」
彼女を止めようとした僕を、別の兵士が押さえつける。
必死に身じろぎをするが、身動きができない。
「ギュスターヴ殿下」
「なんだ、アビゲイル!」
今まさに命を散らすというのに、表情を変えずにこちらを見つめるアビゲイル。僕はその真紅の瞳から、目が離せなかった。
何故なら……確かに彼女は、涙を零していたのだから。
「ずっと――」
――ダンッッッ!
「あ……」
最期の言葉を言い終える前に、数多の血を吸って鈍く光る分厚い刃が、無情にも彼女の……アビゲイルの白く細い首を断ち切ってしまった。
処刑台の上に転がる、アビゲイルの首。
その表情は、先程まで見ていた無表情でも、セシルとルイに向けた怒りと憎しみの表情でもなく、ただ……不器用に、微笑んでいた……っ。
「あ……あああ……あああああ……っ」
気づけば僕は、嗚咽を漏らしていた。
セシルとルイの思惑に今の今まで気づくことができず、このような結果を招いてしまった間抜けな自分に呆れ果てて。
『ギロチン皇女』アビゲイルのことを、何一つ理解できなかった……いや、理解しようとしなかった愚かな自分への怒りで。
「うふふ……ご心配なさらずとも、すぐに逢えますよ」
口元を手で押さえ嘲笑う聖女の言葉を合図に、今度は僕が断頭台に固定された。兵士がギロチンの刃に繋がるロープを切るための斧を振り上げる。
「はあ……これでお別れだなんて、本当に寂しいです。お人好しで愚かな道化師さん」
そんなセシルの言葉を聞きながら、今まさにその命を散らそうという刹那……ただ僕は願う。
――ここにいる全ての者に、絶望と苦しみを。
第一章
「は……っ!?」
気づけば僕は、鏡の前に立っていた。
思わず首に手を遣り……繋がっている。
処刑され、断ち切られてしまったはずなのに。
「これは、一体……」
首をなぞり、鏡に映る自分を見つめる。
僕が今身に纏っているのは、あの時着ていた囚人服などではなく、寝衣だった。
それに、どことなく顔が幼いように感じるが……
何がどうなっているのか理解できず、僕が困惑していると。
「失礼します。……あ、もう起きていらっしゃったのですね」
現れたのは、かつて僕の侍女を務めていたデボラだった。
だけど、この女はアビゲイルとの婚約が決まった時に解雇されたはず。なのにどうしてここにいるんだ……?
「起きたのであれば、呼び鈴を鳴らしてください。おかげで掃除が遅れてしまったじゃないですか」
……ああ、そういえばデボラはこういう女だった。
私生児である僕を常に見下し、侍女であるにもかかわらず言いたい放題。
侍女を入れ替える権力すら与えられず、むしろ我儘を言って国王や兄達から不興を買うことを恐れていた僕は、文句一つ言わずにただ耐え続けていたんだったな。
今から考えると、僕のそんな態度がこの女を増長させたのだから、自業自得ではあるが。
「なあ、デボラ」
「なんですか? 忙しいんですから、いちいち声をかけないでください」
まるで僕などいないかのように部屋の掃除を始めるデボラに声をかけると、この女は見るからに不機嫌になった。
「今日は何年の、何月何日だ?」
「はあ? 何を馬鹿なことをお聞きになられているんですか」
「いいから答えろ」
「っ!?」
僕が低い声で聞いたことに驚いたのだろう。デボラの顔が僅かにひきつる。
だけどそれはほんの一瞬で、すぐに怒りを湛えた表情になると。
「……ヴァルロワ暦二〇七年の四月二十七日です」
デボラは吐き捨てるように答えた。
やはり僕は、処刑されたあの日から死に戻っていた。それも、六年も前……つまり、僕が十五歳の時まで。あまりのことに、ルイの手によって処刑されるまでの人生が悪い夢のなのではないかと思ってしまう。
あり得ない出来事に、混乱を極めてしまったからだろう。その後少しの間記憶が飛び、気づけば僕は王宮の中庭で、一人ベンチに座っていた。
「……僕は、死に戻った……?」
そんなことがあり得るのかと思わず頬をつねってみるが、普通に痛い。つまり、少なくともここは現実の世界だということ。なら、やはり僕は過去の自分に戻ってきたのだ。どう考えても、その答えしか導き出すことができなかった。
だけど。
「だったら……だったら僕は、もう一度やり直せる……っ!」
僕は拳を握りしめ、静かに歓喜する。
神の悪戯なのかなんなのかは分からないが、僕は六年前の……十五歳の自分に戻ってきたんだ。
今度こそ失敗しないように、王国の言いつけを守って家族の一員だと認めてもらう? それとも、聖女セシルともう一度やり直す? 馬鹿な、あり得ない。僕のやるべきことは、ただ一つ。
「王国に、ルイに、聖女セシルに、復讐することだけ」
断頭台で首を落とされる刹那、僕は願ったんだ。
全ての者に、絶望と苦しみを味わわせるって。
「あはは……その時が、楽しみだよ」
両手で顔を覆い、その内側で僕は口の端を吊り上げた。
◇
「……といっても、どうやって復讐するのかだが……」
部屋に戻ってきた僕は、ベッドに寝転がりながら独り言ちる。
残念ながら、第六王子とはいっても王宮内でなんの権力もなく、僕にできることなんて何もない。
死に戻る前の知識と経験を活かし、国王や兄達を見返して評価を高めるといったことはできなくはない。しかし、今さらあの連中にどう思われようが知ったことではないし、あいつ等のために尽くすなど論外だ。
「やはり皇国の力を借りるしかない、か……」
初代国王カレラ一世が建国してから二百年以上の歴史を誇るヴァルロワ王国は、西の海の先にある敵国ストラスクライド皇国と百年にわたる戦を繰り広げ、それは今もなお続いている。
戦乱と度重なる重税によって民衆を圧迫し続けてきた結果、両国は疲弊し、今から三年後に五度目の休戦協定が結ばれることになる。
「死に戻る前の人生では、王国は向こうの要求を全て呑まされたんだったな」
戦争ではヴァルロワ王国が終始劣勢を強いられ、その結果、休戦に当たって王国はいくつも不利な条件を突きつけられた。
王国北部の軍港ノルマンドとその沿岸部一帯の割譲、少なくない額の賠償金に加え、皇国は王族の人質を要求した。
ただ。
「何故か向こうが要求した人質は、王国からしてみればなんの価値もない僕だったんだよな」
王国と百年もの間戦いを繰り広げてきた皇国は、かなりの数の間者をこの国に送り込んでいるはず。それを通じて、王国の内情を把握しているのだろう。
その上で僕を人質に選んだのは『第六王子であれば御しやすい』という考えからかもしれない。
一応、僕もまがりなりにも王族であるため、人質として体裁は取れている。もし僕を無視して休戦協定を反故にするような真似をすれば、王国は周辺諸国に『身内ですら平気で犠牲にする国』という印象を与えてしまい信用を失う、そう考えて。
……もっとも、『皇都襲撃計画』において王国は最初から僕を処刑する予定なのだから、所詮人質としての価値はないがな。
「……まあいい。どんな理由であれ、僕が皇国に人質に出されることは確定なんだ。ならそれを利用し、皇国に取り入って王国打倒を果たすだけ」
そうだ。僕が復讐を果たす唯一の方法は、皇国の力を借りて王国を倒すことだけ。
戦においてはストラスクライド皇国が終始優位に立っているのだから、まともにやり合えば王国に負けるなんてことはないはず。
あの『皇都襲撃計画』も、僕という駒がいて初めて成功したものなのだから。
「僕が連中の計画を逆手に取りつつ、犬猿の仲である王国を滅ぼすよう皇国を唆してやるだけで、連中は簡単に破滅を迎えるはず。それは確かだろう」
これで、王国打倒への絵を描くことができた。
あとはどうやって、皇国をその気にさせるのかだけど……
「……やはり、アビゲイルを利用するのが手っ取り早いだろうな」
休戦協定により人質として皇国に差し出された僕だけど、さすがにそのままだと体裁が悪いということで、形式上は婚姻を結ぶこととなった。
その相手こそがストラスクライド皇国の第一皇女である、アビゲイルだ。
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