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第二章 復讐その二 ジェームズ=ゴドウィン
思惑
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■ジェームズ=ゴドウィン視点
「ふう……」
カートレット卿が退室した後、私は深い溜息を吐いた。
あの少女が最後に見せた殺気に、私は思わず戦慄してしまったのだ。
「……“アダムス”、どう思う?」
私は後ろに控える騎士団長のアダムスに尋ねた。
「まあ、恐らくは珍しい戦闘系の職業を持っているのでしょうな」
「そうか……それで、お前ならどうだ?」
「ハハハ、御冗談を。どのような職業であろうが、この私の相手は務まりますまい」
私の問い掛けに、アダムスは豪快に笑う。
まあ、聞いた私も野暮ではあるが。
このアダムスはゴドウィン家に長年仕える騎士団長で、何度も戦を経験している歴戦の勇士だ。
しかも、このアダムス自身も[将軍]という珍しい職業の持ち主で、対個人戦において一度も負けたことがないという程の実力も持ち合わせている。
つまり、この男が我がゴドウィン家にいるからこそ、我が家は王国で一、二を争う軍事力を誇っているのだから。
「うん。では、早速戦の準備を進めて……「おっと、チョットいいかい?」」
突然、誰もいない筈の部屋の壁から、男のおどけた声が聞こえた。
「……何だい? “ジャック”」
そう呼びかけると、男がまるで壁をすり抜けてきたかのようにその姿を現した。
「へっへ、悪いね。ところでアンタ、勝手に戦なんか仕掛けて本当に大丈夫なのかい?」
「……と、いうと?」
「だってよー、王様は『コッソリやれ』って言ったんだぜ? なのに戦なんてド派手なことやっちまったら、それこそ色々とマズイんじゃねえの?」
ジャックの言葉に、私は思わず顔をしかめる。
確かにこの男の言う通り貴族同士の戦などすれば諸侯も黙ってはいないだろうし、最悪このゴドウィン家は断絶することになるだろう。
だが。
「……それでも、やらないといけないんだよ……」
私は目を瞑ると、ゆっくりとかぶりを振った。
もちろん私も、このような真似は本意ではない。
ジェイコブという下賤な男をそそのかし、罪のないカートレット伯爵一家を襲ったことも、あの少女の両腕両脚と左眼、そして、その未来を奪ったことも……。
それでも、人として堕ちるような真似をしてでも、私はあのアイザックの街を手に入れなければならない。
この……アルグレア王国の存続のために。
「ふうん。ま、俺は別に雇い主の王様から金さえもらえればどうでもいいんだけどよ。忠臣ってのは難儀だねえ」
「ハハ……本当に、私も君みたいに好き勝手に生きられればいいんだけどね……」
ジャックの言葉に、私は思わず苦笑した。
「それで、どうするんだい?」
打って変わって、ジャックは真剣な表情で僕に尋ねた。
「君も聞いていただろう? ゴドウィン侯爵家が誇る五千の精兵をもって、アイザックの街を攻略する。当然、カートレット卿をはじめ住民は全員皆殺しにして、ね。全てをなかったことにするために」
「そうかい……」
ジャックがポツリ、と呟く。
「それに、ジェイコブは百人以上の兵士と君の優秀な部下が五人がいても、カートレット卿に全員消されたんだ。かなりの戦力を有していると考えて間違いない。例えば、手練れの冒険者を雇ったとか……」
「手練れ、ねえ……そういえば、あのお嬢ちゃん達にくっついて来てた連中がいたなあ」
私がそう推論を語ると、ジャックは自分の顎をさすりながらそう呟いた。
「本当か?」
「おお。一人はそれなりに腕の立つ奴もいたし、ソイツ等じゃねーか? アレなら、トマスの馬鹿がやられたのも頷けるしな」
ジャックの部下を倒す程の手練れがいるのか……ならば。
「ジャック、悪いがその連中の情報をうちの執事に伝えてくれないか?」
「ああ、いいぜ。で、どうするつもりなんだ?」
「もちろん、その冒険者達をこちらに引き入れる」
別に部下にしたいとも思わないが、カートレット卿から離間させて戦力を削ぐことができるのならそれに越したことはないからな。
「へえー、五千人の兵士とたった数人の冒険者じゃ、結果は見えてるようなモンだと思うけどな」
「それでも、そんなくだらないことで大切な部下の被害を減らせるのだからね」
「クハハ、部下思いだなー」
私の言葉に、ジャックが笑う。
「お館様……」
そして、アダムスが私の言葉で感極まった表情を浮かべた。
「ハハ。それじゃ、その冒険者達をこちらへ引き入れたらすぐにアイザックへと出兵しよう。それで……ジャックには今回の件について“陛下”への報告も頼む」
「ああ、いいぜ。んじゃ、王様にもシッカリ報告しとくよ。『アルグレア王国一の忠臣が、後で吉報を届けに来る』ってな」
「っ! ……すまない」
私はこの飄々とした王国最強の[暗殺者]に頭を下げた。
「それじゃ」
ジャックは、現れた時と同じように壁の中をすり抜けた。
「あ、そうそう」
……と思ったら、ヒョコッと顔を出すと。
「あの嬢ちゃんの隣にいたメイド、それなりに強えから気いつけろよ?」
「強い、とは?」
「クハハ、一応俺の元“弟子”だからな」
「っ!?」
その言葉だけを言い残し、今度こそジャックは壁の向こうへと行った。
「……元とはいえ、ジャックの“弟子”、か……」
私は思わず、そう呟いた。
「ふう……」
カートレット卿が退室した後、私は深い溜息を吐いた。
あの少女が最後に見せた殺気に、私は思わず戦慄してしまったのだ。
「……“アダムス”、どう思う?」
私は後ろに控える騎士団長のアダムスに尋ねた。
「まあ、恐らくは珍しい戦闘系の職業を持っているのでしょうな」
「そうか……それで、お前ならどうだ?」
「ハハハ、御冗談を。どのような職業であろうが、この私の相手は務まりますまい」
私の問い掛けに、アダムスは豪快に笑う。
まあ、聞いた私も野暮ではあるが。
このアダムスはゴドウィン家に長年仕える騎士団長で、何度も戦を経験している歴戦の勇士だ。
しかも、このアダムス自身も[将軍]という珍しい職業の持ち主で、対個人戦において一度も負けたことがないという程の実力も持ち合わせている。
つまり、この男が我がゴドウィン家にいるからこそ、我が家は王国で一、二を争う軍事力を誇っているのだから。
「うん。では、早速戦の準備を進めて……「おっと、チョットいいかい?」」
突然、誰もいない筈の部屋の壁から、男のおどけた声が聞こえた。
「……何だい? “ジャック”」
そう呼びかけると、男がまるで壁をすり抜けてきたかのようにその姿を現した。
「へっへ、悪いね。ところでアンタ、勝手に戦なんか仕掛けて本当に大丈夫なのかい?」
「……と、いうと?」
「だってよー、王様は『コッソリやれ』って言ったんだぜ? なのに戦なんてド派手なことやっちまったら、それこそ色々とマズイんじゃねえの?」
ジャックの言葉に、私は思わず顔をしかめる。
確かにこの男の言う通り貴族同士の戦などすれば諸侯も黙ってはいないだろうし、最悪このゴドウィン家は断絶することになるだろう。
だが。
「……それでも、やらないといけないんだよ……」
私は目を瞑ると、ゆっくりとかぶりを振った。
もちろん私も、このような真似は本意ではない。
ジェイコブという下賤な男をそそのかし、罪のないカートレット伯爵一家を襲ったことも、あの少女の両腕両脚と左眼、そして、その未来を奪ったことも……。
それでも、人として堕ちるような真似をしてでも、私はあのアイザックの街を手に入れなければならない。
この……アルグレア王国の存続のために。
「ふうん。ま、俺は別に雇い主の王様から金さえもらえればどうでもいいんだけどよ。忠臣ってのは難儀だねえ」
「ハハ……本当に、私も君みたいに好き勝手に生きられればいいんだけどね……」
ジャックの言葉に、私は思わず苦笑した。
「それで、どうするんだい?」
打って変わって、ジャックは真剣な表情で僕に尋ねた。
「君も聞いていただろう? ゴドウィン侯爵家が誇る五千の精兵をもって、アイザックの街を攻略する。当然、カートレット卿をはじめ住民は全員皆殺しにして、ね。全てをなかったことにするために」
「そうかい……」
ジャックがポツリ、と呟く。
「それに、ジェイコブは百人以上の兵士と君の優秀な部下が五人がいても、カートレット卿に全員消されたんだ。かなりの戦力を有していると考えて間違いない。例えば、手練れの冒険者を雇ったとか……」
「手練れ、ねえ……そういえば、あのお嬢ちゃん達にくっついて来てた連中がいたなあ」
私がそう推論を語ると、ジャックは自分の顎をさすりながらそう呟いた。
「本当か?」
「おお。一人はそれなりに腕の立つ奴もいたし、ソイツ等じゃねーか? アレなら、トマスの馬鹿がやられたのも頷けるしな」
ジャックの部下を倒す程の手練れがいるのか……ならば。
「ジャック、悪いがその連中の情報をうちの執事に伝えてくれないか?」
「ああ、いいぜ。で、どうするつもりなんだ?」
「もちろん、その冒険者達をこちらに引き入れる」
別に部下にしたいとも思わないが、カートレット卿から離間させて戦力を削ぐことができるのならそれに越したことはないからな。
「へえー、五千人の兵士とたった数人の冒険者じゃ、結果は見えてるようなモンだと思うけどな」
「それでも、そんなくだらないことで大切な部下の被害を減らせるのだからね」
「クハハ、部下思いだなー」
私の言葉に、ジャックが笑う。
「お館様……」
そして、アダムスが私の言葉で感極まった表情を浮かべた。
「ハハ。それじゃ、その冒険者達をこちらへ引き入れたらすぐにアイザックへと出兵しよう。それで……ジャックには今回の件について“陛下”への報告も頼む」
「ああ、いいぜ。んじゃ、王様にもシッカリ報告しとくよ。『アルグレア王国一の忠臣が、後で吉報を届けに来る』ってな」
「っ! ……すまない」
私はこの飄々とした王国最強の[暗殺者]に頭を下げた。
「それじゃ」
ジャックは、現れた時と同じように壁の中をすり抜けた。
「あ、そうそう」
……と思ったら、ヒョコッと顔を出すと。
「あの嬢ちゃんの隣にいたメイド、それなりに強えから気いつけろよ?」
「強い、とは?」
「クハハ、一応俺の元“弟子”だからな」
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「……元とはいえ、ジャックの“弟子”、か……」
私は思わず、そう呟いた。
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