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幕間③
侍女の生きる意味③
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■ハンナ視点
カートレット伯爵家でお嬢様の侍女となってから、私は幸せな九年間を過ごした。
お嬢様は本当に明るく聡明なお方で、私にとってまさに太陽のような存在だった。
一を伝えれば十を理解し、毎日笑顔に溢れ、いつも私の心を満たしてくれた。
アイツ……ケイトはこの屋敷で色々と問題行動が多かったようで、私に殺されたことについて誰からも咎められることもなかった。
あの日、お嬢様がケイトの部屋に来たのも、どうやらケイトの行動を監視することが目的だったようだ。
とても当時五歳の女の子のすることとは思えないけど、うちのお嬢様なら納得してしまう自分がいる。
そして。
「ハンナ! お留守番をお願いしますね!」
「はい……できれば私もお供したいのですが……」
「ダメですよハンナ。あなたがいなかったら、だれがこの屋敷を取り仕切るのですか」
無理を承知でそう申し出るが、やはりお嬢様に窘められてしまった。
「うふふ、王都から帰って来た時には、ライラに素敵な婚約者がいるかもしれませんよ?」
「ムム……わ、私はまだ早いと思うのだがな……」
奥様がクスクスと笑いながらそう言うと、お館様は顔をしかめた。
このお二人にも、私はまるで実の娘のように接していただいている。
……本当に、この私がこんなに幸せになれるとは思ってもいなかった。
「では、行ってまいります!」
「はい。このハンナ、皆様のお帰りをお待ちしております」
笑顔で手を振るお嬢様に、私は深々とお辞儀をして見送った。
そして……これが、私が見たお嬢様の最後の笑顔だった。
◇
お嬢様達が出立されてから四日後……この伯爵邸に悲報が届く。
あろうことか、お嬢様達が賊に襲われ、お嬢様を除く全員が殺害されたのだ。
保護されたお嬢様をお迎えするため、私は我を忘れてお嬢様が保護されている治療院へと向かった。
「あ……ああ……!」
そこには、両腕と両脚をもがれ、左眼を抉られ、あの太陽のような笑顔も失ったお嬢様がそこにいた。
「お嬢様……お嬢様……!」
「…………………………」
縋りつき、何度声をお掛けしてもお嬢様は何の反応も示さず、残された右眼で虚空を見つめていた。
「……コロシテヤル……コロシテヤル……!」
気がつけば、私は涙を零しながら呪詛のようにその言葉を吐き続けた。
それから私は、あらゆる手を使って賊に関する情報を集めた。
それこそ、以前いた暗殺者ギルドすらも頼って。
だけど、何故か賊に関する情報は何一つ得られなかった。
焦りと苛立ちばかりがつのる中、お嬢様の叔父に当たる“ジェイコブ”という男が、カートレット伯爵家を手に入れようと画策してくるようになるばかりか、しきりに私に秋波を寄せてくるようになった。
だけど、このままでは本当にジェイコブの思い通りになってしまう。
そう考えた私は、冒険者ギルドを通じて腕の良い職人を募集した。
お嬢様のご健在を内外に示すための、義手と義足を作る職人を。
直接職人に依頼することも可能だが、それだとお嬢様のことがその職人に知られ、最悪王都に伝わってしまうこともあり得る。
そんなことになれば、カートレット伯爵家はあのジェイコブのものになるどころか、最悪お取り潰しになってしまう可能性も……。
一方、これが冒険者であればそもそも秘密保持の義務も課せられるし、最悪私が始末しても問題になることはない。
ただし、義手や義足を作れるような冒険者がいるかどうかだけど……。
でも、そんな心配は杞憂に終わった。
なんと、冒険者が依頼を受けにやって来たのだ。
私は平静を装い、依頼を受けた冒険者に会いに衛兵と共に正門へと向かった。
そして。
——私は、アデル様と出逢った。
◇
「うふふ……もう、随分と前のように思ってしまいますね……」
私は自室のベッドに腰掛けながら、思わず口元を緩める。
あの日、アデル様が来てくださって、自分の生命を懸けてお嬢様の全てを救ってくださって……。
あの太陽のような笑顔こそ取り戻すことができなかったけど、凍てついてしまったその心も、アデル様は溶かしてしまった。
いえ……溶かされたのは、この私も同じでしょうか……。
お嬢様だけでなく、私にもお心を砕いてくださり、爽やかな春の風のような笑顔を見せてくださる。
それだけで、私は胸が熱くなる、苦しくなる。
もっと……もっとと、アデル様を求めてしまう。
でも、そんなアデル様は自分の生命を価値の無いものとして扱って、無茶をして……。
「……アデル様も私達と同じ、なのですね……」
そう……アデル様も、お嬢様や私と同じようにその心が壊れてしまっているのでしょう。
それ程、アデル様を裏切り、捨てたあのカルラという女の存在が大きかったということでしょうか……。
許さない。
でも、ありがとう。
私の心には、あのカルラという女にアデル様の心を壊したことへの憤りと、それ程までにアデル様に愛情を注がれたことに対する嫉妬を覚えると同時に、アデル様を私達の元へと導いてくれたことへの感謝が複雑に混ざり合っている。
「うふふ……これからは、この私こそがアデル様を支えてみせます。これだけは……これだけは、お嬢様にも譲れません……」
私は自分の胸にそっと手を当て、最愛の人のあの笑顔を思い浮かべながら、そう心に誓った。
だって。
——それが、私の生きる意味だから。
カートレット伯爵家でお嬢様の侍女となってから、私は幸せな九年間を過ごした。
お嬢様は本当に明るく聡明なお方で、私にとってまさに太陽のような存在だった。
一を伝えれば十を理解し、毎日笑顔に溢れ、いつも私の心を満たしてくれた。
アイツ……ケイトはこの屋敷で色々と問題行動が多かったようで、私に殺されたことについて誰からも咎められることもなかった。
あの日、お嬢様がケイトの部屋に来たのも、どうやらケイトの行動を監視することが目的だったようだ。
とても当時五歳の女の子のすることとは思えないけど、うちのお嬢様なら納得してしまう自分がいる。
そして。
「ハンナ! お留守番をお願いしますね!」
「はい……できれば私もお供したいのですが……」
「ダメですよハンナ。あなたがいなかったら、だれがこの屋敷を取り仕切るのですか」
無理を承知でそう申し出るが、やはりお嬢様に窘められてしまった。
「うふふ、王都から帰って来た時には、ライラに素敵な婚約者がいるかもしれませんよ?」
「ムム……わ、私はまだ早いと思うのだがな……」
奥様がクスクスと笑いながらそう言うと、お館様は顔をしかめた。
このお二人にも、私はまるで実の娘のように接していただいている。
……本当に、この私がこんなに幸せになれるとは思ってもいなかった。
「では、行ってまいります!」
「はい。このハンナ、皆様のお帰りをお待ちしております」
笑顔で手を振るお嬢様に、私は深々とお辞儀をして見送った。
そして……これが、私が見たお嬢様の最後の笑顔だった。
◇
お嬢様達が出立されてから四日後……この伯爵邸に悲報が届く。
あろうことか、お嬢様達が賊に襲われ、お嬢様を除く全員が殺害されたのだ。
保護されたお嬢様をお迎えするため、私は我を忘れてお嬢様が保護されている治療院へと向かった。
「あ……ああ……!」
そこには、両腕と両脚をもがれ、左眼を抉られ、あの太陽のような笑顔も失ったお嬢様がそこにいた。
「お嬢様……お嬢様……!」
「…………………………」
縋りつき、何度声をお掛けしてもお嬢様は何の反応も示さず、残された右眼で虚空を見つめていた。
「……コロシテヤル……コロシテヤル……!」
気がつけば、私は涙を零しながら呪詛のようにその言葉を吐き続けた。
それから私は、あらゆる手を使って賊に関する情報を集めた。
それこそ、以前いた暗殺者ギルドすらも頼って。
だけど、何故か賊に関する情報は何一つ得られなかった。
焦りと苛立ちばかりがつのる中、お嬢様の叔父に当たる“ジェイコブ”という男が、カートレット伯爵家を手に入れようと画策してくるようになるばかりか、しきりに私に秋波を寄せてくるようになった。
だけど、このままでは本当にジェイコブの思い通りになってしまう。
そう考えた私は、冒険者ギルドを通じて腕の良い職人を募集した。
お嬢様のご健在を内外に示すための、義手と義足を作る職人を。
直接職人に依頼することも可能だが、それだとお嬢様のことがその職人に知られ、最悪王都に伝わってしまうこともあり得る。
そんなことになれば、カートレット伯爵家はあのジェイコブのものになるどころか、最悪お取り潰しになってしまう可能性も……。
一方、これが冒険者であればそもそも秘密保持の義務も課せられるし、最悪私が始末しても問題になることはない。
ただし、義手や義足を作れるような冒険者がいるかどうかだけど……。
でも、そんな心配は杞憂に終わった。
なんと、冒険者が依頼を受けにやって来たのだ。
私は平静を装い、依頼を受けた冒険者に会いに衛兵と共に正門へと向かった。
そして。
——私は、アデル様と出逢った。
◇
「うふふ……もう、随分と前のように思ってしまいますね……」
私は自室のベッドに腰掛けながら、思わず口元を緩める。
あの日、アデル様が来てくださって、自分の生命を懸けてお嬢様の全てを救ってくださって……。
あの太陽のような笑顔こそ取り戻すことができなかったけど、凍てついてしまったその心も、アデル様は溶かしてしまった。
いえ……溶かされたのは、この私も同じでしょうか……。
お嬢様だけでなく、私にもお心を砕いてくださり、爽やかな春の風のような笑顔を見せてくださる。
それだけで、私は胸が熱くなる、苦しくなる。
もっと……もっとと、アデル様を求めてしまう。
でも、そんなアデル様は自分の生命を価値の無いものとして扱って、無茶をして……。
「……アデル様も私達と同じ、なのですね……」
そう……アデル様も、お嬢様や私と同じようにその心が壊れてしまっているのでしょう。
それ程、アデル様を裏切り、捨てたあのカルラという女の存在が大きかったということでしょうか……。
許さない。
でも、ありがとう。
私の心には、あのカルラという女にアデル様の心を壊したことへの憤りと、それ程までにアデル様に愛情を注がれたことに対する嫉妬を覚えると同時に、アデル様を私達の元へと導いてくれたことへの感謝が複雑に混ざり合っている。
「うふふ……これからは、この私こそがアデル様を支えてみせます。これだけは……これだけは、お嬢様にも譲れません……」
私は自分の胸にそっと手を当て、最愛の人のあの笑顔を思い浮かべながら、そう心に誓った。
だって。
——それが、私の生きる意味だから。
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