機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ

高みの見物

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■ハリー=カベンディッシュ視点

 次の日の早朝。

 私は王宮へと向かい、陛下への謁見を求める。

「少々お待ちください」

 侍従に案内された待合室の椅子に腰掛け、謁見の時を待つ。

 窓には朝の陽の光が差し込んでいるが、家具や調度品から伸びる影はまだかなり長い。
 さすがに早すぎたかな……。

 すると。

「お待たせいたしました。陛下はすぐにお会いになるそうです」
「うむ」

 意外にも、陛下への謁見はすぐに認められた。
 まあ、こんな早朝に来たから陛下も何事かと思われたのかもしれない。

 とはいえ、陛下のその判断は間違いではないが。

「失礼いたします」

 謁見室の扉が開き、私はうやうやしく一礼した後、室内へと入る。

「うむ。それでこんな朝早くに何用だ?」
「はっ! 実は、ライラ=カートレット伯爵及びその一味について、陛下のお耳にはさんでおきたいことがございます」
「ふむ……何だ?」

 ライラ=カートレットの名前を出した途端、陛下は自慢の顎髭あごひげをいじりながら、ほんの僅か身を乗り出して興味深そうに話の続きを促した。

「はっ! ライラ=カートレット伯爵の失った両腕及び両脚の製作者が判明いたしました」
「……何だと?」

 陛下はジロリ、と私を睨む。
 だが非常に興味を惹かれたのか、その瞳は爛爛らんらんと輝いていた。

「ライラ=カートレット伯爵の一味を監視していた“ジャック”からの報告です。彼女の傍にいる元冒険者の男が、不思議な能力を使ったとのことです」
「具体的には?」
「はっ! その男は、ライラ=カートレット伯爵がジャックと会敵した際にも傍におり、突然、床から壁を出現させたとのことです。他にも、ジャックの仕掛けた罠を一瞬で無効化、一味の一人である侍女が持つ武器も、あり得ない程の性能を有していたとのことです」
「うーむ……」

 ここまで一気に説明すると、王は髭を撫でながら深く考え込む。

 確かに、普通に聞いていればただの与太話に聞こえなくもない。
 だが、この情報があの・・ジャックからもたらされたとなれば、話は別だ。

 “仕事”に関しては絶対であるあの男の言葉なのだから、それは間違いなく事実なのだ。

「……そして、昨日私も王都にあるレストランでライラ=カートレット伯爵達とたまたま・・・・遭遇しましたが、やはり彼女の白銀の腕は、常人と何ら変わらないものでした」
「そうか……」

 追い打ちをかけるように続けた言葉に、陛下は静かに目を閉じた後、軽く頷いた。

 そして。

「相分かった。ならば、そのライラ=カートレットの傍にいるという冒険者崩れの男を、何としても確保せよ」
「かしこまりました。それで……」
「無論、どのような手段を用いても構わん」
「はっ!」

 私は陛下に深々と頭を下げると、謁見室を出ようとして。

「失礼いたします」

 そこへ、何故か[聖女セイント]であるソフィア=アルベルティーニ殿が謁見室へと入ってきた。

「おお……これはソフィア殿、いかがなされた」
「はい。お二人がお話をされている中、大変失礼だとは思ったのですが、どうしてもお伺いしたいことがございまして」

 そう言うと、ソフィア殿は陛下と私を交互に見やった。

「それで?」
「はい。例のアイザックの街の領主様とご一緒されている冒険者の方について、ぜひとも私とお引き合わせいただきたいのです」
「「っ!?」」

 ソフィア殿の言葉に、私と陛下は同時に息を飲んだ。
 一体何故ソフィア殿はあの男の情報を知って……っ!?

 ……そうか、ソフィア殿もジャックと通じていたのだったな。
 ならば、ジャックから聞かされたと考えるのが自然、だな……。

「……何故そのようなことを?」
「はい。アイザックの街に眠る『天国への階段』……ここに至るためには、恐らくその方の持つ能力が必要になるものと考えております。これは、ファルマ聖法国が正式に依頼したものとして受け取っていただいて構いません」
「「…………………………」」

 そう言って微笑むソフィア殿に、陛下も私も、ただ無言を貫く。

 どうする……? あの男の能力は非常に魅力的だが、ここでファルマ聖法国と事を構える訳にもいかない。

 すると。

「……うむ。こちらでその者を迎えた暁には、ソフィア殿に引き合わせよう」
「っ!?」
「ありがとうございます」

 陛下が快諾すると、ソフィア殿はお礼の言葉と共に頭を下げる。
 だが……陛下は何をお考えなのか……。

「ただし」
「……ただし?」
「あくまでも、その者がソフィア殿に協力することを承諾した場合のみである」

 成程……さすがは陛下、ソフィア殿に引き合わせる前にその男を懐柔……あるいは洗脳し、ソフィア殿の協力を認めないおつもりか。

「はい、それで構いません」
「うむ。ではそのようにしようではないか」

 そして、陛下とソフィア殿はお互い微笑み合う。
 その間には、国家間の見えない応酬が繰り広げられていることを、私は肌で感じていた。

 ◇

「宮廷魔法師団長“ニール=カルドア”、参りました」
「同じく近衛騎士団長“ドナルド=クレブス”、参りました」
  
 宮廷魔法使いと近衛騎士の長が呼び出しに応じ、それぞれ王宮の入口で控えている私の元へとやって来た。
  
「うむ、ご苦労」
「それで、我々を呼ばれたご用件は?」
「先に伝えている通り、これから召集命令を受けたライラ=カートレット伯爵とその一味がこの王宮へとやって来る」
「「ハッ!」」
「それで、だ。ライラ=カートレット伯爵の一味のうち、男については保護するように」
「保護……ですか……?」
  
 私の指示に、二人は訝し気な表情を見せる。
  
「うむ。これは、『ライラ=カートレット伯爵に騙されている可能性が高いこの男は、無実の者として温情を与えよ』との勅命である」
「おお……陛下がそのようなことを……!」
  
 近衛騎士団長は、陛下の温情に心を打たれたようで、感嘆の声を漏らした。
 一方の宮廷魔法師団長はといえば、そんな話を信じていないのか、静かに目を瞑っている。
  
「それ以外は、既に伝えている通りである。ライラ=カートレット伯爵とその従者がこの門をくぐり次第、全力をもって粛清せよ!」
「「ハッ!」」
  
 二人は敬礼したのち、自分達の持ち場へと戻って行った。
 特に近衛騎士団長の意気込みはすごく、一歩一歩力強く踏み締めていた。
  
 まあ……彼も私と同じく、敬愛するゴドウィン配下の騎士団長がライラ=カートレットによって殺されたのだ。それも頷けるというもの。
  
「さあ……私は王宮の部屋の中から、高みの見物と参ろうか。ジェームスの仇、ここで取らせてもらうぞ!」
  
 私は万全の布陣を眺めながらゆっくりと王宮の中へと入り、王宮の正門が最もよく見える部屋の椅子に腰掛けた。
  
 そして。
  
 ——ライラ=カートレットと侍女、そして元冒険者の男が、白銀の馬車から降りて姿を現した。
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