機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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幕間④

幼馴染の転機

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■カルラ視点

「ふう……」

 王都の冒険者ギルド。

 私は今日も掲示板を眺めては溜息を吐く。

 アイザックの街の領主であるカートレット伯爵を裏切り、私達“黄金の旋風”は逃げるようにこの王都にやって来たけど、状況は一向に好転していない。

 私達もアイザック一の冒険者パーティーとしての自負はあった。
 だけど、王都の冒険者達は比べ物にならない程の実力者揃いで、私達がいかに井の中の蛙であったかを思い知らされただけだった。

「……まあ、これくらいしか受けられそうなクエストはない、か……」

 私は掲示板に手を伸ばし、一枚の依頼紙を取る。

 依頼内容は、王都から少し離れた村の近辺で発生したゴブリンの集落の壊滅。
 本来ならアイザックの街ではオーガやサラマンダーといった、強力な魔物を狩っていた私達が受けるようなクエストじゃない。

 だけど……。

 私はギルドの椅子に頭を抱えながらうなだれるエリアルをチラリ、と見た。
 彼は王都に来て以降、周りの冒険者達との実力差に絶望し、今では自暴自棄になりながら酒をあおる日々を送っている。

 そして、そんな彼の周りでは相も変わらずレジーナ、ロロ、セシルが心配そうに慰めていた。
 そんなことをしていても、この状況が好転することはないというのに。

 私はそんな彼等を一瞥した後、スタスタと受付へと歩を進める。

「今日はこれを受けるわ」
「あ、はい。ゴブリンの集落の壊滅ですね。今日もソロ・・ですか?」
「ええ」

 受付嬢が依頼紙を確認しつつ、クエスト受注の承認印をスタンプする。

「はい。それではクエストの受付を完了しました。ところで……そろそろどこかのパーティーに鞍替えしたほうがいいと思うのですが……」

 受付嬢はエリアル達を見やると、小声でそんなことを言った。

「……ええ、私もどこか受け入れてくれるパーティーを探してはいるんだけど、ね」

 私はかぶりを振りながら受付嬢にそう答えた。

 正直、[剣聖ソードマスター]の私を引き抜こうと声を掛けてくれた冒険者パーティーは結構あった。
 だけど、そのたびにエリアルが絡んで邪魔をしてくる。

 もう、“黄金の旋風”には何の価値もないのに、未だに過去の栄光にしがみついて……。
 そんな彼の姿は、ただただ滑稽でしかなかった。

「……とにかく、今日の分のクエストをこなして来るわ。ソロだとこんな簡単なクエストしか受けられないのが癪だけど、ね」
「いやいや! ゴブリンの集落の壊滅をソロで、しかも簡単・・なんて言うのはカルラさんだけですから!」

 受付嬢が目を見開いてブンブンと手を振った。

「ふふ……ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「いえいえ! 本心ですから!」

 私は手をヒラヒラさせながら、静かにギルドを出た。

 ◇

「あ! カルラさんお疲れ様です!」
「……無事、ゴブリンの集落は壊滅させて来たわ」

 ギルドに入るなり満面の笑みで出迎えてくれた受付嬢に、私はぐったりと肩を落としながらそう伝えた。

 ゴブリンの壊滅自体は難しくはないけど……それでも、ゴブリン達に攫われ、慰み者にされた村の女の子達の姿を見たら……。

「あ、そうそう。実はカルラさんにご指名で依頼をしたいとおっしゃる方がいらっしゃってですね……」

 受付嬢がカウンターから身を乗り出し、そっと私に耳打ちをした。

「へえ……それは、どんな人?」
「それが……今日の昼間にふらり、とやって来た女性の神官のようなんですが…………どうします? 断りますか?」
「そうね……まあ、一度くらいは会って話してみるわ」

 おずおずとそう話す受付嬢。
 だけど、逆に私はその依頼主に興味を持ってしまった。

 だって、王都で活動してまだ日の浅い私を、その依頼主はわざわざ選んだんだから。

 多分……何か思惑があるんでしょうね。
 それが吉と出るか凶と出るかは分からないけど。

「分かりました。では、こちらからその方には伝えておきますので、明日の朝また声をお掛けください」
「ええ、分かったわ」

 私は今日のクエストの報酬を受け取ると、エリアル達が泊っている宿とは別の定宿へと帰った。

 ◇

「おはよう」
「あ、おはようございます!」

 次の日の朝、私は早速受付嬢に声を掛けた。

「それで……」
「はい、もういらっしゃってますよ。二階の応接室を開けておきましたから」
「ありがとう」

 受付嬢に礼を言うと、私は階段を上がって応接室へと向かう。

「あ……お待ちしておりました」

 扉を開け、中にいたのは神官の服を着た私と同い年か少し下くらい年齢の女性だった。

「……私にクエストを依頼したいと聞いたのだけど」
「はい。実は、アイザックの街で調査を行うのですが、その護衛をお願いしたいのです」

 そう言うと、神官の女性はニコリ、と微笑んだ。

 だけど……ああ、そうか。私がアイザックの街から来た冒険者だから、私を指名してきたのね。

「ああ、申し遅れました。私は“ソフィア=アルベルティーニ”と申します。ファルマ聖教会の神官をしております」

 神官の女性……ソフィアさんは自己紹介をすると、ペコリ、とお辞儀をした。

「……知っているでしょうけど、私は“カルラ”。アイザックの街の冒険者よ。それで、あなたの護衛任務は私だけ……という訳ではないのよね?」
「はい! カルラさんの他には、エリアルさん、レジーナさん、ロロさん、セシルさんですね!」

 ニコニコと指折り語るソフィアさんに、私は思わず額を押さえた。
 つまり……“黄金の旋風”のメンバー全員に声を掛けたのだ。

「……ねえ、本気で護衛を雇うのなら、私が言うのもなんだけど人選はしっかりと行うべきだと思うんだけど……」
「もちろん、私は最適と思える人達を選んだと考えております」

 駄目だ……彼女は何も分かっていない。
 もう、かつての“黄金の旋風”はいないということを。

「それに……私の依頼を受けることは、今後の冒険者活動にも箔がつくと思いますよ?」

 彼女の含みのある言葉に、私は思わず反応する。

「……どういう意味?」
「ふふ……カルラさんには明かしますが、実は私、“ファルマ聖法国”の[聖女セイント]なんです」

 そう言うと、彼女はチロ、と可愛く舌を出した。
 そして、「“黄金の旋風”の方達には内緒ですよ?」と釘を刺しながら。

 だけど……そんな重要人物が、いくらアイザックの街の冒険者だからって、なんで私なんかを選んだの……?

「まあまあ。とにかく、[聖女セイント]の私が依頼するのです。今後は他の冒険者達から一目置かれるでしょうね。一流の冒険者なら、私の素性を知っている方達も多い筈ですから」

 そう語る彼女に、腑に落ちない私がいる。
 とはいえ彼女の言う通り、これは今の立場を好転させる最大のチャンスでもある。

 私は……。

「それと依頼の詳細ですが、内容はお伝えした通り私の護衛。アイザックの街への出発は明日の朝。報酬は一日当たり金貨三十枚です。よろしいですか?」

 悩んでいる姿勢を見せる私に対し、ニコニコしながら矢継ぎ早に依頼内容を説明するソフィアさん。

 だけど、この依頼を受けるにしても、できれば私としては“黄金の旋風”とは別々に報酬を受け取りたい。
 でないと、エリアルが独り占めして勝手に使い込んでしまう恐れがあるから。

「確認だけど……報酬は“黄金の旋風”として、ということになるのかしら? だったら……」
「? いえ、これはカルラさんへの報酬ですが?」

 私の質問に、ソフィアさんはキョトンとした表情を浮かべる。
 だけど、ちょっと待って? 今、彼女は私への報酬って言ったわよね?

「え、ええと……つまり、その金貨三十枚のうち、私への報酬はいくらに……」
「? ですから、金貨三十枚がカルラさんへの報酬です」
「っ!?」

 彼女がそう告げると、私は思わず息を飲んだ。
 わ、私への報酬が一日金貨三十枚!?

「あ、“黄金の旋風”にも同じように金貨三十枚です。ただし、向こうはパーティー全員で、ですが」

 そう言うと、ソフィアさんが含み笑いをした。
 つまり……それだけ彼女は私のことを買っている、ってことかしら。

 なら。

「……分かったわ」
「では……?」
「ええ……あなたの依頼、受けさせてもらうわ」
「! ありがとうございます!」

 彼女は私の手を取ると、満面の笑みでブンブンと上下に振った。

 そんな彼女を眺めながら、私は思わず苦笑する。
 そして、それと同時にやっと風向きが変わった私の状況に、私は思わず口の端を持ち上げた。

 ——この選択が、後に後悔することになるとも知らずに。
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