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幕間④
王の思惑
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■エドガー=フォン=アルグレア視点
「陛下! 一体どういうおつもりなのですか!」
叔父上……アーガイル卿が、玉座に座る余に詰め寄る。
普通に考えれば不敬であるが、さすがにアルグレア王国の[英雄]である叔父上には敵わぬ。
まあここは、甘んじて受け入れるしかあるまい。
「そもそも! 我が国の宰相をたかだか伯爵家の小娘ごときに生贄にするとは、何を考えておられるのですか!」
「まあまあ……陛下もお考えあってのことでしょうから……」
鼻息荒い叔父上を、グロウスター卿が窘めた。
だがその瞳は、叔父上と一緒で余のことが理解できないといった色をしておるな。
「……二人共、『天国への階段』の価値は分かっておろう。しかも、あのライラ=カートレットは近衛騎士千人、宮廷魔法使い五百、弩兵五百をたったの三人で屠ったのだぞ? それも、余の目の前でだ」
「むうう……に、にわかに信じられん……」
「これはこれは……」
余の言葉を聞き、二人が唸る。
二人には全て説明しておったが、いまだにこの事実が受け入れられないようだ。
「元々、宰相が上手く事を運べば……という条件で彼奴の希望を叶えてやったのだ。ならば、相応の責任は取らねばなるまい」
「む、むむ……」
「まあ……ですねえ……」
そう言うと、叔父上は顔を歪め、グロウスター卿は苦笑した。
「だが……軍務大臣ばかりか宰相もいなくなり、痛手であるのは事実だ。そこで」
「……儂《わし》達を呼んだ、という訳ですか……」
「はあ……せっかく楽隠居できると思ったんですが、ねえ……」
「そう言うな。元の役職に戻るだけであろう」
というより、ゴドウィンがしくじった時点で、この二人には復職してもらうつもりでおった。
そもそも、かの“カロリング皇国”との五十年にも及ぶ戦争で獅子奮迅の活躍をした“赤熱の戦鬼”の異名を持つアーガイル卿と、名宰相としてこのアルグレア王国をアルビオニア島の統治者まで押し上げた“サーベル”と呼ばれたグロウスター卿の二人に、ゴドウィンとカベンディッシュでは見劣りするに決まっておるのだ。
「ふう……これでは、せっかく後進に譲った儂達の立場というものが……」
「案ずるな、アーガイル卿。この余が『天国への階段』を手中に収め、世界の王となった暁には今度こそ隠居させてやる故」
「「っ!?」」
余の言葉に、二人が息を飲んだ。
「……陛下、一体何をお考えなのですか……?」
汗を一筋零しながら、グロウスター卿が尋ねる。
「決まっておる。余は、アルグレア王国を建国した伝説の初代国王、“アイザック=フォン=アルグレア”の偉業を引き継ぎ、この世界に覇を唱えるのだ!」
「「おお!」」
そう宣言すると、二人が瞳を輝かせ、色めき立つ。
まあそれも仕方あるまい。なにせ、先の五十年に及ぶ戦争ではカロリング皇国の侵略に対して防戦ばかりを強いられておったのだ。
今回は、その意趣返しも兼ねておるからな。
「ふ……まあ、先々代の国王……祖父も余と同じように『天国への階段』を手に入れようとすれば、あのような屈辱を味わう必要もなかったのであるがな……」
「あの時は、先々代の国王と当時のカートレット伯爵とが親友同士でもありましたので、踏み切ることができなかったのです」
叔父上が苦虫を噛み潰したような表情で語る。
相当歯がゆい思いをしたのであろうな……。
「アーガイル卿、安心せよ。余は、そのような愚行を犯すことはせぬ。『天国への階段』を手中に収め、世界にアルグレア王国を知らしめるのだ!」
「おお……! それでこそ我が王! この老いぼれの残り僅かの命、陛下に捧げますぞ!」
「ハハハ! これは楽しみになってきましたよ! この私も、非才ながらお手伝いいたします!」
アーガイル卿は感激の涙を流し、グロウスター卿はこれからのことを思ってか高らかに笑う。
「うむ! 二人共よろしく頼むぞ!」
「「ハハッ!」」
二人は恭しく一礼した後、意気揚々と玉座の間を出た。
すると。
「陛下……ソフィア様が面会を求めておられますが……」
「うむ。通すがよい」
「ハッ!」
側近の一人は一礼すると、玉座の間を出てソフィア殿を呼びに行った。
まあ……訪ねてきた理由は分かっておるがな。
「国王陛下におかれてはご機嫌麗しゅう……」
「堅苦しい挨拶はよい。それで、訪ねてきた理由は……?」
「はい。私はこれからアイザックの街に向かおうと存じます」
「ほう……」
やはり、『天国への階段』と例の男を手に入れんと動くか。
「では、王国としてソフィア殿に供の者をつけねばな」
「お心遣いありがとうございます。ですが、従者はこちらで用意いたしますので大丈夫です」
そう言うと、ソフィア殿はニコリ、と微笑んだ。
「そうはいくまい。[聖女]であり、かつ、ファルマ聖法国の使者であるソフィア殿に万が一のことがあれば、それこそ国際問題であるからな。供はつけさせていただく」
「いえいえ。もう既に供の冒険者も雇いましたので」
ソフィア殿はニコニコしながら余の提案を明確に拒否した。
絶対に受け入れないとの意思を込めて。
「ふむ……仕方あるまいな。それで、アイザックの街にはいつ向かわれるのかな?」
「はい。準備が整い次第……早ければ明日の朝にでも出発しようと思います」
「そうか」
「では……失礼いたします」
恭しく一礼すると、ソフィア殿はこの部屋を出て行った。
「おい」
「ハッ!」
側近に声を掛けると、余の傍に即座に近寄る。
「“レッドキャップ”に命じてソフィア殿を監視させよ」
「っ!? ……よろしいのですか?」
「構わん」
“レッドキャップ”……我が王国の暗部であれば、余の意をくみ取り、ソフィア殿が『天国への階段』を見つければ、あのライラ=カートレット諸共処理してくれるであろう。
その間は余の周辺の護りが手薄になるが……まあ、それはアーガイル卿とグロウスター卿に何とかしてもらうとするか。
「ふふ……小娘め。精々余のために働くのだな」
ソフィア殿が出た後の扉を眺めながら、余は口の端を持ち上げた。
「陛下! 一体どういうおつもりなのですか!」
叔父上……アーガイル卿が、玉座に座る余に詰め寄る。
普通に考えれば不敬であるが、さすがにアルグレア王国の[英雄]である叔父上には敵わぬ。
まあここは、甘んじて受け入れるしかあるまい。
「そもそも! 我が国の宰相をたかだか伯爵家の小娘ごときに生贄にするとは、何を考えておられるのですか!」
「まあまあ……陛下もお考えあってのことでしょうから……」
鼻息荒い叔父上を、グロウスター卿が窘めた。
だがその瞳は、叔父上と一緒で余のことが理解できないといった色をしておるな。
「……二人共、『天国への階段』の価値は分かっておろう。しかも、あのライラ=カートレットは近衛騎士千人、宮廷魔法使い五百、弩兵五百をたったの三人で屠ったのだぞ? それも、余の目の前でだ」
「むうう……に、にわかに信じられん……」
「これはこれは……」
余の言葉を聞き、二人が唸る。
二人には全て説明しておったが、いまだにこの事実が受け入れられないようだ。
「元々、宰相が上手く事を運べば……という条件で彼奴の希望を叶えてやったのだ。ならば、相応の責任は取らねばなるまい」
「む、むむ……」
「まあ……ですねえ……」
そう言うと、叔父上は顔を歪め、グロウスター卿は苦笑した。
「だが……軍務大臣ばかりか宰相もいなくなり、痛手であるのは事実だ。そこで」
「……儂《わし》達を呼んだ、という訳ですか……」
「はあ……せっかく楽隠居できると思ったんですが、ねえ……」
「そう言うな。元の役職に戻るだけであろう」
というより、ゴドウィンがしくじった時点で、この二人には復職してもらうつもりでおった。
そもそも、かの“カロリング皇国”との五十年にも及ぶ戦争で獅子奮迅の活躍をした“赤熱の戦鬼”の異名を持つアーガイル卿と、名宰相としてこのアルグレア王国をアルビオニア島の統治者まで押し上げた“サーベル”と呼ばれたグロウスター卿の二人に、ゴドウィンとカベンディッシュでは見劣りするに決まっておるのだ。
「ふう……これでは、せっかく後進に譲った儂達の立場というものが……」
「案ずるな、アーガイル卿。この余が『天国への階段』を手中に収め、世界の王となった暁には今度こそ隠居させてやる故」
「「っ!?」」
余の言葉に、二人が息を飲んだ。
「……陛下、一体何をお考えなのですか……?」
汗を一筋零しながら、グロウスター卿が尋ねる。
「決まっておる。余は、アルグレア王国を建国した伝説の初代国王、“アイザック=フォン=アルグレア”の偉業を引き継ぎ、この世界に覇を唱えるのだ!」
「「おお!」」
そう宣言すると、二人が瞳を輝かせ、色めき立つ。
まあそれも仕方あるまい。なにせ、先の五十年に及ぶ戦争ではカロリング皇国の侵略に対して防戦ばかりを強いられておったのだ。
今回は、その意趣返しも兼ねておるからな。
「ふ……まあ、先々代の国王……祖父も余と同じように『天国への階段』を手に入れようとすれば、あのような屈辱を味わう必要もなかったのであるがな……」
「あの時は、先々代の国王と当時のカートレット伯爵とが親友同士でもありましたので、踏み切ることができなかったのです」
叔父上が苦虫を噛み潰したような表情で語る。
相当歯がゆい思いをしたのであろうな……。
「アーガイル卿、安心せよ。余は、そのような愚行を犯すことはせぬ。『天国への階段』を手中に収め、世界にアルグレア王国を知らしめるのだ!」
「おお……! それでこそ我が王! この老いぼれの残り僅かの命、陛下に捧げますぞ!」
「ハハハ! これは楽しみになってきましたよ! この私も、非才ながらお手伝いいたします!」
アーガイル卿は感激の涙を流し、グロウスター卿はこれからのことを思ってか高らかに笑う。
「うむ! 二人共よろしく頼むぞ!」
「「ハハッ!」」
二人は恭しく一礼した後、意気揚々と玉座の間を出た。
すると。
「陛下……ソフィア様が面会を求めておられますが……」
「うむ。通すがよい」
「ハッ!」
側近の一人は一礼すると、玉座の間を出てソフィア殿を呼びに行った。
まあ……訪ねてきた理由は分かっておるがな。
「国王陛下におかれてはご機嫌麗しゅう……」
「堅苦しい挨拶はよい。それで、訪ねてきた理由は……?」
「はい。私はこれからアイザックの街に向かおうと存じます」
「ほう……」
やはり、『天国への階段』と例の男を手に入れんと動くか。
「では、王国としてソフィア殿に供の者をつけねばな」
「お心遣いありがとうございます。ですが、従者はこちらで用意いたしますので大丈夫です」
そう言うと、ソフィア殿はニコリ、と微笑んだ。
「そうはいくまい。[聖女]であり、かつ、ファルマ聖法国の使者であるソフィア殿に万が一のことがあれば、それこそ国際問題であるからな。供はつけさせていただく」
「いえいえ。もう既に供の冒険者も雇いましたので」
ソフィア殿はニコニコしながら余の提案を明確に拒否した。
絶対に受け入れないとの意思を込めて。
「ふむ……仕方あるまいな。それで、アイザックの街にはいつ向かわれるのかな?」
「はい。準備が整い次第……早ければ明日の朝にでも出発しようと思います」
「そうか」
「では……失礼いたします」
恭しく一礼すると、ソフィア殿はこの部屋を出て行った。
「おい」
「ハッ!」
側近に声を掛けると、余の傍に即座に近寄る。
「“レッドキャップ”に命じてソフィア殿を監視させよ」
「っ!? ……よろしいのですか?」
「構わん」
“レッドキャップ”……我が王国の暗部であれば、余の意をくみ取り、ソフィア殿が『天国への階段』を見つければ、あのライラ=カートレット諸共処理してくれるであろう。
その間は余の周辺の護りが手薄になるが……まあ、それはアーガイル卿とグロウスター卿に何とかしてもらうとするか。
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