機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

文字の大きさ
79 / 146
幕間④

王の思惑

しおりを挟む
■エドガー=フォン=アルグレア視点

「陛下! 一体どういうおつもりなのですか!」

 叔父上……アーガイル卿が、玉座に座る余に詰め寄る。
 普通に考えれば不敬であるが、さすがにアルグレア王国の[英雄ヒーロー]である叔父上には敵わぬ。

 まあここは、甘んじて受け入れるしかあるまい。

「そもそも! 我が国の宰相をたかだか伯爵家の小娘ごときに生贄にするとは、何を考えておられるのですか!」
「まあまあ……陛下もお考えあってのことでしょうから……」

 鼻息荒い叔父上を、グロウスター卿がたしなめた。
 だがその瞳は、叔父上と一緒で余のことが理解できないといった色をしておるな。

「……二人共、『天国への階段』の価値は分かっておろう。しかも、あのライラ=カートレットは近衛騎士千人、宮廷魔法使い五百、弩兵五百をたったの三人で屠ったのだぞ? それも、余の目の前でだ」
「むうう……に、にわかに信じられん……」
「これはこれは……」

 余の言葉を聞き、二人が唸る。
 二人には全て説明しておったが、いまだにこの事実が受け入れられないようだ。

「元々、宰相が上手く事を運べば……という条件で彼奴あやつの希望を叶えてやったのだ。ならば、相応の責任は取らねばなるまい」
「む、むむ……」
「まあ……ですねえ……」

 そう言うと、叔父上は顔を歪め、グロウスター卿は苦笑した。

「だが……軍務大臣ばかりか宰相もいなくなり、痛手であるのは事実だ。そこで」
「……儂《わし》達を呼んだ、という訳ですか……」
「はあ……せっかく楽隠居できると思ったんですが、ねえ……」
「そう言うな。元の役職に戻るだけであろう」

 というより、ゴドウィンがしくじった時点で、この二人には復職してもらうつもりでおった。

 そもそも、かの“カロリング皇国”との五十年にも及ぶ戦争で獅子奮迅の活躍をした“赤熱の戦鬼”の異名を持つアーガイル卿と、名宰相としてこのアルグレア王国をアルビオニア島の統治者まで押し上げた“サーベル”と呼ばれたグロウスター卿の二人に、ゴドウィンとカベンディッシュでは見劣りするに決まっておるのだ。

「ふう……これでは、せっかく後進に譲ったわし達の立場というものが……」
「案ずるな、アーガイル卿。この余が『天国への階段』を手中に収め、世界の王となった暁には今度こそ隠居させてやるゆえ
「「っ!?」」

 余の言葉に、二人が息を飲んだ。

「……陛下、一体何をお考えなのですか……?」

 汗を一筋零しながら、グロウスター卿が尋ねる。

「決まっておる。余は、アルグレア王国を建国した伝説の初代国王、“アイザック=フォン=アルグレア”の偉業を引き継ぎ、この世界に覇を唱えるのだ!」
「「おお!」」

 そう宣言すると、二人が瞳を輝かせ、色めき立つ。
 まあそれも仕方あるまい。なにせ、先の五十年に及ぶ戦争ではカロリング皇国の侵略に対して防戦ばかりを強いられておったのだ。
 今回は、その意趣返しも兼ねておるからな。

「ふ……まあ、先々代の国王……祖父も余と同じように『天国への階段』を手に入れようとすれば、あのような屈辱を味わう必要もなかったのであるがな……」
「あの時は、先々代の国王と当時のカートレット伯爵とが親友同士でもありましたので、踏み切ることができなかったのです」

 叔父上が苦虫を噛み潰したような表情で語る。
 相当歯がゆい思いをしたのであろうな……。

「アーガイル卿、安心せよ。余は、そのような愚行を犯すことはせぬ。『天国への階段』を手中に収め、世界にアルグレア王国を知らしめるのだ!」
「おお……! それでこそ我が王! この老いぼれの残り僅かの命、陛下に捧げますぞ!」
「ハハハ! これは楽しみになってきましたよ! この私も、非才ながらお手伝いいたします!」

 アーガイル卿は感激の涙を流し、グロウスター卿はこれからのことを思ってか高らかに笑う。

「うむ! 二人共よろしく頼むぞ!」
「「ハハッ!」」

 二人はうやうやしく一礼した後、意気揚々と玉座の間を出た。

 すると。

「陛下……ソフィア様が面会を求めておられますが……」
「うむ。通すがよい」
「ハッ!」

 側近の一人は一礼すると、玉座の間を出てソフィア殿を呼びに行った。

 まあ……訪ねてきた理由は分かっておるがな。

「国王陛下におかれてはご機嫌麗しゅう……」
「堅苦しい挨拶あいさつはよい。それで、訪ねてきた理由は……?」
「はい。私はこれからアイザックの街に向かおうと存じます」
「ほう……」

 やはり、『天国への階段』と例の男を手に入れんと動くか。

「では、王国としてソフィア殿に供の者をつけねばな」
「お心遣いありがとうございます。ですが、従者はこちらで用意いたしますので大丈夫です」

 そう言うと、ソフィア殿はニコリ、と微笑んだ。

「そうはいくまい。[聖女セイント]であり、かつ、ファルマ聖法国の使者であるソフィア殿に万が一のことがあれば、それこそ国際問題であるからな。供はつけさせていただく」
「いえいえ。もう既に供の冒険者も雇いましたので」

 ソフィア殿はニコニコしながら余の提案を明確に拒否した。
 絶対に受け入れないとの意思を込めて。

「ふむ……仕方あるまいな。それで、アイザックの街にはいつ向かわれるのかな?」
「はい。準備が整い次第……早ければ明日の朝にでも出発しようと思います」
「そうか」
「では……失礼いたします」

 恭しく一礼すると、ソフィア殿はこの部屋を出て行った。

「おい」
「ハッ!」

 側近に声を掛けると、余の傍に即座に近寄る。

「“レッドキャップ”に命じてソフィア殿を監視させよ」
「っ!? ……よろしいのですか?」
「構わん」

 “レッドキャップ”……我が王国の暗部であれば、余の意をくみ取り、ソフィア殿が『天国への階段』を見つければ、あのライラ=カートレット諸共処理してくれるであろう。

 その間は余の周辺の護りが手薄になるが……まあ、それはアーガイル卿とグロウスター卿に何とかしてもらうとするか。

「ふふ……小娘め。精々余のために働くのだな」

 ソフィア殿が出た後の扉を眺めながら、余は口の端を持ち上げた。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...