いつか世界が眠るまで

紫煙

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二章

#38 ある優しい妖精の物語1

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 マリー達一行は《王都カレンス》を出発し《魔法都市グラメル》へと向かう道中、王国領土内の長閑のどかな農村《ダレス村》へとやって来ていた。

 《ダレス村》は小さな農村で、自然が溢れ作物もよく育つ豊かな土地を有してた。農業と狩りが盛んで村人達は天然と共に共存共栄して日々の糧を得ている。

 街道から少し外れた位置にその村は存在し、主に旅人や商人達から外部の情報や物資を買い付けを行い素朴な生活を営んでいる。よって、旅人である一行達が村の子供達や老人達に質問責めにあうのは当然の事なのかもしれない......。


「うぅ......。一度に沢山の人に囲まれ話をするのがこんなにも体力を使う事だったとは」

「ははっ。マリーちゃんはご老人から子供達まで大人気だったね。ご苦労様」


 マリーは馴れない旅の日々の疲れと村人達からの質問責めに体力を使い果たした様で、ベッドにてうつ伏せのまま身動ぎもせずに横になっていた。
 それを優しく介抱している《大賢者リエメル·ヴァンドライド》は何処か嬉しそうにマリーの頭を撫でていた。


「しかしこれも一つの経験です。マリーさんは生前も余り人と接して来なかった様なので余計に疲れたのかもしれませんね」

「確かに......。それも無いとは言い切れません。あんなに人に囲まれたのは初めてでした」

「相当あたふたしてたよねマリーちゃん。でも、こういう事も大切な事の一つだと思うよ。だから沢山話してみるといいよ」

「確かにそうなのですが......。今はそっとしておいて欲しいです。話をし過ぎて頭が痛いです」

「今日は早めに休んで明日に備えようか。旅の疲れも出たのかもしれないしね。じゃあメル。後は頼むよ。僕は少し村を回ってから休むから」


 了承の意を手で示し突っ伏したままのマリーを優しく介抱しているリエメルを残して、リードは一人夜の帳の降りた村へと歩いて行くのだった。


「マリーさん。そのままお休みになっても構いませんよ? 夕食も頂きましたし旅の日々でのベッドで眠れる時間というのは大切ですよ?」

「うぅ、そうさせて頂きます。思っていたよりも疲れている様です。もう動きたくありません」


 そのままリエメルは優しく頭を撫でて光源である魔力ランタンの光を落とす。
 凡そ五日ぶりのベッドの感触を感じる間も無くマリーは眠りに落ちていくのだった......。




◆◇◆◇◆◇◆




 ーー......きて。お......て。おね......。聞いて......事が......。おね......! 起きてーー!


「んん......? 何ですか、リエメルさん?」

「やっと起きた! お願い、私の話を聞いて!」

「......ていっ。虫が入り込んでいた様ですね。......ふぁっ、寝ましょう」

「......危なっ!? ちょっ、いきなり叩くとか何考えてんのよ!? おーきーてーよー!!」


 眠りを妨害してくる《何か》に鬱陶し気に手を振るい応戦するマリー。その間にも、決して目を開けようとすらしない所を見ると余程眠りに未練がある様だった。

 やや暫くその不毛な戦いが続いた後、マリーは観念した様に瞼を擦り目を開けた。そうして視界に入った《それ》は闇夜の中に居ながらも不思議と少しだけ発光していたのだ。

 漸く目を開けたマリーに《それ》はご立腹の様子でマリーに恨みがましい表情を向ける。マリーは未だに落ちてくる瞼に抗い、その目に捉えた《それ》を見て呟く......。


「妖精、さん......? 何故こんな場所に? ......あ、夢ですね。成る程、夢なら仕方がないです。お休みなさい」

「ちょっと!? やっと起きたのに! お願い、私の話を聞いてってば!! 大変なの、助けて欲しいの!」

「んん~、止めて下さい~。夢なのに寝かせないとは何事ですか......。痛っ! 耳っ!? 耳に何をしてるのですかっ!?」

「貴女が起きないからでしょ!? いい加減起きて話を聞きなさいよっ!? 大変なんだってば!」

「はい、そこまで。あまりウチのマリーさんを虐めないで下さい。消しますよ?」


 ひっ!? と、小さく息を詰まらせた妖精は、その時初めて何者かに自身の両の羽を摘ままれている事に気が付いた。


「痛い痛い! ええっ!? なに、何処から出て来たのよっ! ちょっ、離して!」

「五月蝿い羽虫ですね......。貴女如きがマリーさんの睡眠時間を妨害しようなどと許される訳がありません。喧しいので死んで下さい。大丈夫です一瞬です。痛みは与えませんので安心して逝って下さいね」

「ひぃぃ!? ま、待って!? べべ、別にこの子じゃなくて貴女でもいいの! 私の話を聞いてくれるなら、貴女でもいいの! だからお願い、話を聞いて!」


 妖精を摘まみ冷めた微笑みを浮かべるそのハイエルフは、徐徐にその指先に魔力を集中させてゆく。妖精は命の危機を全身で感じ取り必死で懇願する。


「リエメルさんそれはちょっと......。話を聞いてあげましょう?」

「そうよ!? いきなり殺そうとするなんて、何考えてんのよ!? アンタ本当にエルフなの!? 妖精差別はダメなのよ!? 早く離しなさいってば!」

「......本当にギャーギャーと喧しい羽虫ですね。私をあの閉鎖的な堅物共と同列に考えないで下さい、虫唾が走る。やはりこの場で死になさい」

「止めてー! 助けてー!!」

「あの、リエメルさん? 本当に殺りませんよね? 殺りませんよね? 少しだけ落ち着いて下さい、本当に消え去りそうですよその妖精さん」


 リエメルの顔から表情が消え去り、より一層強い魔力が妖精を摘まむ指先に集中するのをマリーが必死で阻止する。
 そして、渋々解放された妖精は急いでマリーの頭の上へと避難しリエメルから距離をとる。


「この妖精殺しっ! 何考えてんのよ! 本当に消え去る所だったわよ!!」

「五月蝿いですよ羽虫。もしその程度の距離で逃げ仰せた気になっているのならば、それは間違いだと知りなさい。私から逃げたければ全力で三日程飛び続けなさい」

「ひぃぃ!? こっちに指先を向けないでよっ!? 止めてー!」

「......話が進まないです。そして私を盾にしないで下さい。本当に何をしにきたのですか妖精さん......」


 マリーの頭に必死で隠れようとする妖精と、その妖精に殺意を向けるリエメルに板挟みにされ寝起きのマリーはこくりこくりと船を漕ぎ始めるマリーであった......。




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