4 / 7
4
しおりを挟むあのあと、智也には先に帰る事をメールして待たずに帰った。家に帰るとお袋が張り切って料理を作っていたから俺も手伝う事にした。
…何かやってた方が気が紛れるし。
「てっちゃんが手伝ってくれるなんて珍しい~」
「智也のお祝いなんだからちょっとは頑張らないとね」
「ふふっ、哲平も少しは大人になってきたじゃない?いい傾向よね。ともくんもこれから大変だし力になってあげなさいよ」
ああもちろん…、と返事をしようとしたけど言われたことが引っ掛かりお袋に問い返す。
「智也が大変ってどういうこと?」
「…ほ、ほらこれからが本戦だから今からが大変よねってことよ~」
一瞬しまったって顔をしたお袋が誤魔化すみたいに言ったけど俺は食い下がる。
「ちゃんと話してくれよ。智也がどうかしたのかよ」
目を逸らさずに真っ直ぐ見る俺に、お袋は躊躇いながら話し出した。
「…ともくんの所ね、ご両親が離婚なさるの…」
「…え?」
「お父様が親権は取られたそうだけど、お二人共ともくんを引き取らないらしいわ…」
「…なんで…」
「お二人共もう別の相手がいるんですって…、その人達と新しく生活を始めたいからだそうよ…」
「…それって…、智也を捨てるって事…?」
お袋はエプロンの裾をギュッと握り締め、それに言葉を返す事はなかった。
祖父ちゃんの代からの小さな我が家と、立派な注文住宅の智也の家は隣同士だけど生活水準は全然ちがう。智也ん家はおじさんもおばさんも一流企業に勤めていて、忙しい二人は家をあけがちだったから智也は子供の頃から一人で過ごしていた。お袋が智也の面倒を見始めたのはそんな状況を見過ごす事が出来なかったからだ。
最初はお袋が手を出す事にいい顔をしていなかったおばさん達も、お袋に任せておいた方が自分たちが自由に出来ると思い直し、次第に口を出す事もなくなっていった。つまりおじさんもおばさんも智也より自分たちを取ったんだ。
最初、智也は俺ん家で世話になるのを遠慮していた。いくら幼馴染みとして仲良くしていても余所の家である事にかわりはない。
だから俺は智也に甘えまくって、智也がいないと駄目なんだから傍にいろと居場所作りをした。今だってどこか他人行儀な智也を見ると寂しくなって親父もお袋も俺も必要以上に智也にベタ付く。
頭のいい智也だから、そんな俺達の気持ちなんてお見通しだと思うけど…。
でも智也が一人で寂しくしているくらいなら、俺は馬鹿で甘えたなコバンザメって言われようと全然構わなかったんだ。
ミーティングを終えて帰って来た智也を、俺もお袋もいつも通りの顔で迎える。テーブルに所狭しと並んだ料理に歓声をあげる智也。
「どうだ!俺も手伝ったんだぞ」
「ともくんの好きな物ばかり作ったのよ~。今日の結果をメールしたら、お父さんも残業切り上げて帰って来るって連絡あったから、みんなでお祝いしましょ」
「いっぱい食えよ?本番はこれからなんだからな」
「あれ、俺言ってなかったっけ?」
「なにが?」
「サッカー部の助っ人は地区予選までって約束なんだ」
「はあ~~っ!?」
「ええっ、ともくんそれでいいのっ?」
「いや、もともとサッカー部の奴らに、県大会まで行けたら廃部をまぬがれるって泣き付かれたから、手伝ってただけだったんで…」
確かにサッカー部員に懇願されて渋りながら入部したのは知ってたけど、そんな約束があったのか?
西尾先輩は知ってたのかな…。
「いやいや、でもせっかく勝ったんだぞ?お前がいなきゃ本戦進んでも、また一回戦負けになっちゃうじゃん」
「サッカー部の人達は納得してくれてるの?」
思いもしない智也の発言に思わず俺もお袋もまくしたてる。
「悲願の県大会進出も果たせたし、廃部もまぬがれてまたサッカーが出来るって喜んでたし、全員から感謝されたよ?」
じゃあ、本当に退部するつもりなのか…。
あっさりしている智也とは反対に、惜しみまくりの俺とお袋。そうしてるうちに親父が帰って来た。智也を見た途端に抱きつく親父。
「と~もや~っ!さすがは俺の息子だなあっ。未来のJリーガーが我が家にいるなんて、俺は嬉しいぞーっ」
いやいや親父、智也はアンタの息子じゃないからっ!親父の血が入ってたらこんな上等な子は出来ないぞ…って、自分で言ってて悲しいな!
「もうアナタったら、ともくんはアナタだけの息子じゃないのよっ!独り占めはだ~め~っ」
親父を止めるのかと思ったお袋がちゃっかり自分まで智也に抱きつく。
「ちょっ、おじさんおばさん苦しいですってば」
そう言いながらも智也は、嫌がりもせずに二人に抱きつかれたまま笑っている。そしたらなんだか凄く楽しくなって来て俺も思いっきり智也に抱きついた。
馬鹿な俺と親父とお袋だけど、大好きな智也にはいつも笑っていて欲しいんだ。
0
あなたにおすすめの小説
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。
ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日”
ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、
ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった
一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。
結局俺が選んだのは、
“いいね!あそぼーよ”
もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと
後から思うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる