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しおりを挟む4人でご馳走を食べてばか騒ぎした翌日、学校は昨日のサッカー部の快挙に沸き立っていた。西尾先輩が言ってたように智也は学校中の注目を集めるヒーローになっていた。
「…なあ智也、ホントにサッカー部辞めるのか?」
こんな大騒ぎになってしまってるのに、助っ人として一時的に入っただけと言って退部なんてしたら智也を責める奴とか出るんじゃないか…?
「まあ、しばらくは色々言って来る奴もいるかも知れないけど、人の関心事なんて移り変わりが激しいからすぐに忘れちまうさ」
ホントにそうならいいけど…、俺はなんだか不安な気持ちを拭い去れずにいた。
腹に入れられた拳が、俺の体を後ろの壁に思いっきり叩きつけた。顔を殴られたときに口の中が切れたみたいで鉄錆みたいな味がする…。
壁に凭れ掛かりながら腹を押さえて、俺を殴りつけて来た奴を見上げる。
「…いきなり何の真似だよ?てめえ一体誰なんだ…」
長めの金髪に着崩した制服、柄も頭も悪そうなヤンキーと知り合った覚えはないんだけど。
「俺が誰かなんてどうだっていいだろ?お前を痛めつけてくれってお願いされちゃったんでね」
「…お願い?誰がそんな…」
「私が頼んだのよ」
そう言って姿を見せたのはあの西尾先輩だった。
「…また、あんたか…」
学校一の美少女と言われる先輩には、ファンクラブもどきのシンパがいるって聞いた事がある。その中の奴って所か…。
「浜崎君の邪魔をするなってあれだけ言って聞かせたのに、忠告を無視するどころか浜崎君にサッカー部を辞めさせようとするなんて、まったく君ってコバンザメどころか害虫以下よねっ!」
どうやら先輩はサッカー部と智也の約束を聞かされてなかったらしいな。そんで、退部の話が俺絡みだと勝手に思い込んだってワケか…。
「…智也がサッカー部を辞めるのは、智也の意思だ」
「またそんなでたらめを…」
キッと、西尾先輩は俺を睨み付ける。
「浜崎君がいなきゃ何も出来ないコバンザメの君が、彼にくっ付いていたくて泣き落としでもしたんじゃないの!?」
「…あんた馬鹿じゃないのか。そんな事で自分の意思を簡単に曲げるような男だと、智也のことを思ってんの?」
「浜崎君が出来の悪い君に甘いってことは学校じゃ有名よ。そして君が彼の優しさに付け込んでるって言うのもね」
この人が言うように、俺が智也の優しさに甘えていたのは事実だけど、智也が俺の為に自分を曲げるような奴だと思われるのは我慢ならない。
「口で言っても理解出来ない君には、身体に解って貰うしかないでしょ?これ以上痛い思いをしたくなかったら、浜崎君に近づくのを辞めるって誓って頂戴」
「…俺が智也に近づくかどうか決めるのは俺の意志だし、俺との付き合いをどうするか決めるのも智也だ…。あんたには関係ねえっ!」
「…っ!ホンっトに邪魔なコバンザメねっ!」
啖呵を切った俺の顔めがけ、西尾先輩の掌が振り下ろされるのがわかったがさっき受けた腹の痛みで動けない。
「は~い、そこまで」
訪れる衝撃に身構えていた俺の耳に聞き慣れた声がした。
「西尾あかり先輩ですよね?今までの一部始終はコレに収めました。それ以上続ける気なら、コレを出すとこに出しちゃいますよ」
さっきまでの俺が殴られている様子を映した動画が流れるスマホを見せながら、尚が近づいて来る。
「あなた何を言って…」
「先輩達が暴行している現場を押さえた動画を、警察に提出されたいのか聞いてるんですけど、それとも哲平の顔だけ処理してYouTubeに流しましょうか?因みにデータはパソコンに送った後ですから、コレを取り上げても無駄ですよ」
「遅せえよ…、出て来んの」
「助けてもらっといて、その言い種はないでしょ」
「まあいいタイミングだったのは確かだな、さんきゅ尚」
何が起こったのかわからずに、呆然としている西尾先輩と取り巻きの男に向かって言い放つ。
「あんたらが大人しくしてるなら、コレはなかった事にしてやる。けど今後も俺達に関わるなら、手加減はしねえからな」
「…あ、あかりちゃん」
取り巻きの金髪ヤンキーはオロオロしながら西尾先輩を伺う。
「やりたければやれば?例え証拠があったところで、あなた達の言い分になんて大した効力あるもんですか」
そう言い残して西尾先輩は男を従えて去って行った。
「これだけバッチリ証拠を押さえられたのに、なんであんなに自信があるんだよあの人…」
「先輩って結構な金持ちの家の一人娘らしいから、自分の思いのままになるのが当たり前って感じで、今まで生きて来たんじゃない?俺達の証拠なんて、親に頼めばどうとでもなるって思ってるのさ」
「…じゃあまだ智也にちょっかい掛けるつもりかな」
「それはまあ大丈夫だと思うよ?」
「なんだよ、尚までその自信はあ?根拠を言えよ~」
「ないしょだよ~ん。それより、てっぺー手当てしなきゃ」
「あ~、思い出したら痛くなってきた…」
なんだか怒涛のような出来事だったな。西尾先輩、これで大人しくしてくれればいいけど…。俺が智也の傍にいる限りまた何かにつけて絡んできそうだなあ。
■side智也
部室に置いていた私物を取りに来たら西尾先輩がいた。
「あれ、先輩まだ残っていたんですか?」
「…浜崎君、サッカー部を辞めるって本当なの?」
ああ、この人俺が部に入った経緯を知らなかったのか。
「はい、もともと地区大会までの約束でしたから」
「でも浜崎君には残って欲しいわ。私も…浜崎君がいないと…」
先輩は俯き加減でそう言いながら瞳を潤ませた。
「俺がいないと…?」
「私…、わたし浜崎君の事が好きなの。だから…」
「ふうん、あの噂って本当だったんですね」
「え、噂って…?」
「いえ、何でもありませんよ。それで先輩は俺にどうして欲しいんですか?」
「…それは、付き合ってもいいってことかしら」
期待を滲ませた顔で、上目遣いに俺を見てくる先輩。
「そうですね、でも俺先輩に聞きたい事があるんですよね。それを教えてくれたら考えますよ」
「なあに?私の事なら何でも聞いて?」
「そうですねえ。それじゃあ決勝戦が終わったあと、先輩が哲平に言った事とか?ああ、その前にも俺が練習試合を抜けた事で、哲平に言い掛かりつけてますよね」
「…い、言い掛かりだなんて、そんな事何も言ってなんかいないわ…。わ、私はただ浜崎君がせっかく頑張ってるのに、あの子があなたの負担になってるんじゃないかって思ったから…」
「それで先輩が、わざわざ頼まれもしないのに俺が練習試合をサボったって、哲平に言いに行ったりしたんですか?確かに途中で試合を切り上げたけど、それは最初から皆にも言ってたし、主将にも許可を貰ってたのは先輩だって知っていたでしょう」
「でも!せっかくの試合で浜崎君、調子だって良かったのに。あの子のせいで試合を抜けなきゃならないなんて、あの子どう考えたって浜崎君の邪魔になってるわよ」
「…邪魔?哲平がですか?」
「そうよ。幼馴染みだからって浜崎君にいつも引っ付いて、自分が貴方の負担になってる事もわからないなんて」
「それで親切な先輩が哲平に忠告をして下さったと?」
「そうよ。浜崎君、あの子のお母さんにお世話になってるから、あの子を邪険に出来ないでいるんでしょ?だから私が…」
「ねえ先輩、そんな事いつ俺が頼みました?」
「だって浜崎君は優しいから言えないでいるんでしょ?でも大丈夫よ、これからはちゃんと私が言ってあげる」
「…くくっ、なあアンタ何勘違いしてんの?」
「え…?」
「まったく、アンタみたいな勘違い女は珍しくないけどさあ…。何、俺の哲平に勝手な事言ってくれちゃってんの?」
「は、浜崎君…?」
「アンタさあ、自分が一番可愛いとか思ってんだろ?だから俺に相応しいとか言いたかったりするワケ?」
「………っ」
「それで哲平を俺から離そうとしたんだろ」
「…っ、だって浜崎君の邪魔をしてるのは事実じゃない!私はサッカー部のマネージャーとして…」
「へぇ、サッカー部の為?」
「そうよ。浜崎君は才能があるのに、あんな子に邪魔されるなんて許されない事よ」
「アンタが興味あるのは、サッカー部じゃなくて俺なんだろ?さっき言い損ねたけどこんな噂もあるんだぜ?校内一の美少女と評判の西尾あかりは、いい男を見つけると腰を振りまくって擦り寄る尻軽女って」
「…っ、な…っ!?」
「あとこんな噂もあるぜ?自分に気のある男を使って、邪魔な相手を痛めつける性悪女とかね」
「…は、浜崎君…一体なにを言ってるの…?」
「まあどっちも噂じゃなくて本当の事でしたけどね、先輩?」
俺は笑いながら、木村から受け取った動画のデータを見せる。
「…浜崎…君、これは違うの…全部、誤解なのよ…」
往生際悪く言い逃れようとする西尾あかりを更に追い詰める。
「誤解?先輩が自分の取り巻きを使って哲平を殴らせて、邪魔だから俺に近付かないように言っている。これのどこがどう誤解なんです?」
はっきりと言う俺に西尾あかりは、キッとまなじりを上げて叫ぶように話しだした。
「だって邪魔なのは本当の事でしょう?私、わかってるのよ。浜崎君があの子のお家の人のお世話になっているせいで、あの子の面倒を仕方なく見てるってこと!だから私があなたの為に…」
「あーもう、いい加減にしろよマジで頭の悪い女だな!これだけ証拠を目の前に突き付けられても、自分に都合良く人が信じてくれると思うなんて、どんな頭の作りしてんだよ。だいたい俺はサッカーなんてどうだっていいんだよ。本気でサッカーやりたいんだったら、スカウト受けてたっつーの」
「…そんな、だって…私、あなたなら私に相応しいと思ったから…だから…あの平凡な男を排除してあげようとしたのに…酷い…」
「アンタが俺に相応しいって?言っとくけど、俺がこの学校を選んだのは、哲平がここを受験したからだよ。俺にとってはどんな有名進学校もサッカー強豪校も、哲平に比べりゃ何の魅力もないんだよ」
「…うそ、嘘よ…そんなおかしな事があって、いい訳ない…わ…」
「おかしいのはアンタの頭でしょ?ねえ先輩…、俺の大事な哲平に色々とやってくれちゃったお礼はちゃ~んとしなきゃ…、ね」
楽しみにしてて…、俺はそう言ってその場を後にした。
■side尚
「やぁ浜崎、アレは役に立った?」
『ああ…、これであの女も少しは懲りただろ』
「てっぺーに手まで出すとは思ってなかったけど、相当浜崎にぞっこんだったみたいだね。あの人」
『哲平に嫉妬させるのにわざと近付かせたから、自分に気があると勘違いでもしたんだろうな』
「西尾先輩も可哀相にね~。虫除けに使われた上に、てっぺーに浜崎を意識させる為の当て馬にされてたなんて気付きもしないで、用が無くなったらポイだなんてさ」
『あの馬鹿女が遣り過ぎなきゃ、優等生の俺のままで振ってやったけどな。哲平に手を出されて無事に済ますほど俺は優しくはない』
「あんまりやり過ぎて哲平に気付かれないようにね」
『わかってるさ…、哲平は何も知らなくていい事だからな』
話を終えて携帯を切る。
西尾先輩も可哀相に…。まあ、どうせ浜崎をブランドアクセサリーとしてしか見てなかったような人だし、チンピラ男を使っててっぺーを痛めつけたりとか遣り方も気に入らなかったから浜崎に頼まれなくても手伝ったけどね。
高校に入って浜崎が益々人目を惹き付けるようになった分、てっぺーへの風当たりも強くなるだろうとは思っていたから用心しといて良かった。
中学の頃も浜崎の隣に平凡なてっぺーがいるのを気に入らない奴らが、よく浜崎に見付からないようにてっぺーに絡んで来てた。
それを僕がてっぺーに知られないように浜崎に教えてた。絡んで来ていた奴らは皆、西尾先輩と同じような目にあったみたいだ。
浜崎の事が好きだって言うなら、てっぺーが浜崎にとってどんな存在かちゃんと見ていたら分かる事なのに。
その程度の奴らがどんな目に遇おうと、それは奴らの自業自得だから僕は同情なんてしない。
てっぺーも浜崎も大事な友達だから、西尾先輩みたいな人達に簡単に傷付けられたくなんてないからね。だから僕は人畜無害な振りをして二人の傍にいる事にしているのさ。
…ふふっ。
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