バラバラ女

ノコギリマン

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21:犯人

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「珍しいね、直人が来るなんて」

 去年まで一緒のクラスだった徹が言う。

「ちょっと用事があってさ」

 腰を下ろして偉そうにアグラをかく直人のとなりに座った慎吾は、直人がどういうつもりでここへ来たのかを考えてみたが、よく分からなかった。

「あ、そういえば知ってる?」

 学が、嬉々として慎吾に言う。

「え、なにを?」
「なんかちょっと前にさ、女の幽霊が出たんだって」
「ゆ、幽霊?」
「うん、なんかさ、あのビルの所あるじゃん、塾に行くとこ。あそこのビルとビルの隙間に女が立っててさ、なんか質問とかしてくるんだって。なんかいいよな、『妖怪博士 目羅博士』の事件みたいじゃん」
「う、うん。そうだね」
 いつのまにか『バラバラ女』のことが噂になっているらしかった。
「おれもそれ聞いたことがあるな。最近の話だから興味がある」

 と、直人がとぼける。

「へえ。あ、そういうえばチャーたちって『のいず川のドクロネズミ』とか探したりしてたんだろ。だったらさ、その女の幽霊も探してみれば?」
「う、うん、分かった」

 慎吾は学をはぐらかし、「幽霊の正体は奈緒子なんだよ」と言いたい衝動と戦いながら、

「ねえ、早く用事をすませようよ」

 と、直人に耳打ちした。

 無言でうなずいた直人が、ゲームに没頭する次郎の肩をおもむろに掴んだ。驚いた次郎が操作を誤り、ゲームオーバーになってしまう。

「な、なんだよ、ビックリするだろ」

 異常に慌てふためく次郎に、

「お前が書いたんだろ?」

 と言った直人が、なにを思ったのか、そのまま次郎の胸ぐらを掴んだ。

 急なことに唖然とする周りを一瞥した直人は、

「お前が書いたんだろ!」

 と、今度はさっきよりも語気を荒げて言った。

「な、なに言ってるんだよ?」
「いいの? ここでぜんぶ言って? 恥ずかしいのはお前だぜ」
「……」

 直人から目をそらして黙り込む姿を目の当たりにしながらも、次郎が犯人だなんて信じられなかった。

「外で話そうか?」

 有無を言わさず次郎を立ち上がらせ、松葉杖を持ってくるよう慎吾に指示した直人は、そのまま顔のこわばる次郎を連れて部屋を出ていった。ポカンと口を開く学たちに、「ごめん」とだけ言って、慎吾もあとを追った。

 玄関を出ると、車イスに座らされた次郎が直人を見上げながらわめいていた。

「意味が分かんねえよ。なんなんだよ!」
「だからさ、書いたのはお前だろって言ってんの」
「ね、ねえ直人。なんで次郎なの?」
「おれじゃねえよ! 名前を書く理由なんてないもん!」

 次郎が叫び、今にも泣き出しそうな顔になった。

「おれ、って一言も言ってねえよ。名前ってなに?」

 直人が、いつものイヤな直人に戻っていた。その加虐的な笑みに、まだ友だちとして付き合い出す前の嫌悪感がよみがえる。

「そ、それは……」

 言葉に詰まったた次郎が助けを乞うように目を走らせてきたが、さっきからからもう何が何やら分からなくなっていた慎吾は、無情にも目を背けてしまった。

「しょ、証拠は? 証拠が無いだろ!」
「なんだっけ、それ。ああ、そうそう開き直りって言うんだぜ、それ」
「開き直ってねえよ!」
「ま、行こうぜ。そこで証拠も見せてやるよ」

 次郎が座る車イスを押した直人が神社へ向かって歩き出し、松葉杖を抱えた慎吾もあわててあとを追った。

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