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31:つぎの目的地
しおりを挟む森の奥。
たき火を囲み、ハナコたちは車座になっていた。
「……結局、だれも助けられなかった」
胡座をかいたハナコは、悔やんだ顔で言って、落としていた視線を対座するトキオへと向けた。
「行動を起こした。それだけで立派なことです」
トキオの慰めはありがたいが、やはり素直には受け入れられない。
「それでも――」
ここまで心をかき乱されたのは、お母さんの死、以来だ。
「――助けられなかったのは、事実だよ」
肩を落としてため息を吐くと、左どなりに座っていたアリスが、なにを思ってか、とつぜん笑い袋を鳴らした。
夜の静寂に、機械仕掛けの笑い声がこだまする。
「セイさんは、『辛いときにこそ笑いなさい』と言っていました」
「セイさん?」
……あの、ツラブセにいた老婆か?
「あんたにまで励まされるのは、さすがにキツイな」
「悪いのはあの人たちです。ハナコさんじゃありません」
「そうそう。だから、元気を出して下さいよ。おれが尊敬するハナコ・プランバーゴは、そんな弱い女じゃないはずです」
少し気が楽になり二人にうなずくと、バックパックから携帯電話の着信ベルが聞こえ、出ると、レーダーマッキーだった。
『とりあえず無事でなによりだ』
「なんでもお見通しなんだね」
『これがメシの種だからな』
「……羨ましいよ、力があるのは」
『バカ言え、おれはただの傍観者だ。お前のほうがよっぽど凄いんだから、あまり気を落とすな。それにあれはお前のせいじゃない。反乱分子の摘発は、そもそも奴らの仕事のひとつだからな。遅かれ早かれ、いずれあの村は政府軍に目をつけられていただろうよ』
おしゃべりな情報屋がまくしたてる。
「まさか、あんたにまで励まされるとは思わなかったよ」
『これは極秘情報なんだが、おれはお人好しでな』
「……知ってるよ。ありがとう」
『ふん、今の情報は、ツケにしといてやるよ』
どうやら仲間には恵まれているらしい。
「分かった。もう落ち込むのはやめた。だけど、ヤツらとはいずれケリをつける!」
ハナコの啖呵に、トキオが安堵して息を漏らした。
『ところでなんだが、あの村に残っていた《446部隊》は全滅しちまったぜ』
「全滅? まさかマクブライトが?」
『いや、やったのは《ピクシー》だ』
「奴が現れたのか?」
『ああ、なぜ奴があの村を突き止めたのかまでは分からねえがな』
「そういえばネロの野郎が“メンゲレ”という名前を出していたな。たぶん、メンゲレは表向き《446部隊》に情報を流しながら、裏で《ピクシー》を操って、奴らの数を減らしていってるんだ」
『あるいは逆に情報を得ているのかもしらん。だがいずれにしろ、メンゲレの行動は不可解すぎるな。まあ、おれにはあの《446部隊》が簡単に騙されるとは思えんが、《ピクシー》によって、あの村に残っていた兵が皆殺しにされたのは事実だ。お前らは幸いにも、間一髪で逃げることができたってわけだ』
「ネロとトンプソンはどこに消えたんだ?」
『奴らは《強制収容所》へ、逮捕した住民たちを収監しにいってる。お前の相棒に頼まれて、村の状況を衛星で調べたから間違いない』
「なんでわざわざ、二人して行ったんだ?」
『あの施設は少々やっかいな場所でな。手柄を上げたい一般兵の暴走を食い止めるために、どの部隊でも例外なく、隊長クラスとそれに準ずる役職の二名以上の署名がなければ異分子を収監できないようになっているんだよ。そのお陰で、あのコミュニティーは脱出には好都合なほど手薄になり、そしてネロ・シュナイダーにとってもそれが幸いし、《ピクシー》の襲撃を免れたことになる』
「でも、これでとにかく奴らの戦力は減ったことになりますよね。おれたちにとっては、大きなプラスですよ」
『ああ、そうだな。だが、手負いの虎が最も危険だ。くれぐれも気を抜くなよ。それに、奴ら、村に戻ってあの惨状を見たら、きっとお前らがやったと思うだろうな』
「こうなりゃ、本当にできるだけ早くアリスを《赤い鷹》へ引き渡さなきゃいけないね。ところで、連絡をしてきたってことは《ピクシー》についてなにか分かったの?」
『ああ、それだそれだ』
思い出したように言うレーダーマッキー。
『シロー・メンゲレについては、やはり《プロジェクト・ピクシー》の凍結後、行方が全く分からない。だが弟のヒサト・メンゲレに関して、ひとつ面白いことが判明した。シローの失踪後、新たなプロジェクトの責任者になった弟のヒサトは、どうやらアンバ山に秘密研究施設を持っていたようなんだな。そこへ行けば、《ピクシー》について、なにかしら分かるかもしらん』
「アンバ山か、このさき渡る予定のテンガン川の上流方面にある山ですね。寄れないこともないですが、どうします、ネエさん?」
「たしかに、予定よりだいぶ遅れているから――」
「アンバ山……」
アリスが、ポツリと呟いた。
「なにか知ってるの?」
訊くと、
「あの部屋につれて行かれる前、蝶がいっぱい飛ぶ山道を下った記憶があります。あのころの記憶は曖昧なので、そこがアンバ山かどうかまではわからないですけど……」
自信なくアリスが答えた。
――アリスが、そこにいた?
「……曖昧な情報だけど、行ってみる価値はあるかもね」
『ああ、またなにか分かれば連絡する。幸運を祈ってるぜ』
電話を切ってバックパックに戻すと、折よくマクブライトが戻ってきた。
「狩りは久々だから、こんなものしか獲れなかったが、それでもないよりはマシだろ?」
肩に担いでいた、麻縄で括られた数羽の小鳥を地べたに放るマクブライト。
それを見て、残る三人は思わず顔をしかめた。
「ん、どうした?」
「小鳥だよ、小鳥。クニオフィンチまで入っているじゃないか。あんた確か、小鳥が好きだって言ってたよな?」
呆れて言うと、
「そうだったか? だがまあ、美味いから好きだってことよ」
したり顔で返され、ハナコはさらに呆れてため息を吐いたが、それがなぜだかおかしくなって思わず笑みをこぼした。
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