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しおりを挟むハナコは小屋の外に出て、朽ちかけた三人掛けのウッドベンチに腰を下ろして、見張りをしながら川に目をやった。川は茶色く濁り、どんな生き物がいるのかすら分からない。
「この川の上流へ行くと、アンバ山がある」
マクブライトがとなりに座りながら言って、懐から酒瓶を取りだした。
「飲むか?」
首を振ると、マクブライトは一口飲んでから、手持ち無沙汰にそれを弄びはじめた。
「だいぶルートを外れちまったが、このまま下流まで川沿いに進めば、引き渡し場所の《四番街》の手前の荒野に辿り着く。それなのに、わざわざ明後日の方向のアンバ山まで行く気か?」
「そのままアリスを渡しちゃったほうが、楽なんだろうけどね」
「性分ってやつか?」
「性分なんかじゃないさ。いつもは依頼のブツに興味を持つことなんて無いからね」
「じゃあ、なぜだ?」
「気にくわないだけ、《446部隊》も《ピクシー》も」
言って、ハナコはマクブライトに視線を移した。
「ずっと、気になってしょうがないの、なぜ奴らはアリスを狙う?」
「『好奇心は猫を殺す』って、ことわざを知らんのか?」
「『虎穴に入らずんば虎児を得ず』なら知ってる。あんたはどう思うんだ?」
「そうだな……とりあえず、お前の疑問も含めて、気になることが多すぎる」
酒をあおるマクブライト。
「おれのいちばんの疑問は、『なぜ今頃になって、《赤い鷹》はアリスを手元に置きたがっているのか?』ってことだ」
「そこがいちばん安全な場所だからなんじゃないの?」
「それなら、最初からずっとそばに置いておけばいい話だろ?」
「……確かにそうだね」
「恐らく、《赤い鷹》、《446部隊》、《ピクシー》の三者の目的は同じだろう。それがなんなのかまでは分からんがな」
マクブライトの予想が当たっているのなら、仕事とは言えアリスを《赤い鷹》に引き渡すことが正しいのかどうかすら、怪しくなってしまう。
「……ますます疑問が増えちまったよ」
「まあ、アンバ山に行けば、少しはその答えに近づくだろう」
「すまないね、あんたまで巻きこんじゃって」
「気にするな。村に引き返したとき、すでに腹は括ってる」
言って、マクブライトは諦めるようにして笑みを浮かべた。
「そういえばあの時、なんで戻ってきたの?」
「……傭兵の頃にな。私情に走る仲間を、任務遂行のために見殺しにしたことがある」
「そう……」
謎の多いマクブライトの過去も、やはり哀しみに満ちあふれているのだろう。
「まあ、過去話さ」
いつものおどけた表情に戻るマクブライト。
「とりあえず見張りはしててやるから、体力温存のためにも夜まで寝ておいたほうが良いぞ」
マクブライトがひとりになりたがっているのが分かり、ハナコはその言葉に甘えることにして小屋に戻った。
寝袋の中でスヤスヤと寝息をたてるアリスの横に寝そべって、天井を見上げたハナコは、それからしばらく様々な疑問について考えを巡らせてみたが、旅の疲れからか、すぐに瞼が重くなっていった。
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