1 / 44
第一話 スキル授与
しおりを挟む【ランダム武器生成】‥ランダムで一つ武器を生成する。一回の戦闘で同一武器しか生成されず、武器は戦闘終了後に消滅する。一度出た武器は当分の間でない。
「お主にはこのスキルを与える。そのスキルで取り敢えず異世界のAランクになるのじゃ、そしたら次のことを教えてやるわい」
そう言われて俺の脳みそに叩きつけられたスキルがなんと、このスキルだった。
❇︎
俺は34歳、銀行に勤めている者だ。いや、者だった。
きっかけはなんだっただろうか、踏み切りに飛び込んでいった少女を踏切の外に追い出したような気もするし、真っ赤な信号がついている横断歩道を渡ろうとしているお婆ちゃんを庇ったきもするが、イマイチ記憶が曖昧だ。
ただ、一つ確実に言えることがある。それは俺はもう死んでいるということだ。
見慣れない白い空間にフワフワとした感覚で立っている。いや、立っているのか浮いているのかも定かではない状態だ。
そんな、困惑すべき状況でここが俺の天国かと、しっかり自分の死を受け止めていたのだが、突如、白髭もじゃもじゃ爺さん現れて、そんなことを言われたのだ。頭が追いつけるわけがない。
しかし、俺は今まで長年使ってきて、一番染み付いている言葉を死んだ後ですら、使ってしまった。そして、これが俺の人生の中で一番の後悔になった。
「は、はい」
「ふぉっふぉっふぉー、返事したのー、では頑張るのじゃ、さすればご褒美もあるかも知れんからの」
俺は取り敢えず返事をしてしまう癖があった。そのため、よく面倒ごとを押し付けられていた。ここでもそれがでてしまうとは……
三つ子の魂、百まで続くっていうが死後もしっかり続くんだな。
そんなこんなで俺の意識が遠のいていく。あぁ、俺もとうとう、異世界転生してしまうのか……せめて、真っ当に生きたいものだな。
❇︎
「はっ!? ここは? 夢か?」
どうか夢オチであってくれ、そう流れ星が通る間に三回は余裕で唱えられるほど強く願ったが、俺の目に最初に映ったのは真っ青な雲一つない青空だった。
「くっそ、あのジジイ、まじで言ってんのかよ」
辺り一面、草が生い茂っており、木々も生えて正に、ファンタジーな森って感じだな。木漏れ日もしっかり漏れてて、光量もバッチリだ。
「あ、そうだ」
折角異世界にきたんだし、スキルももらったんだし、絶対アレあるだろ、アレ。
「ステータス」
口にするかかなり迷ったが、無事出てくれたようだ。って、、は!? これどうなってんの??
ステータス
名前:〇〇〇〇
種族:人族
称号:なし
スキル:【鑑定】【ランダム武器生成】【スキル取得不可】
俺が目にしたスキルとはこんなものだった。
まず、鑑定はいい。なんせ異世界に勝手に連れてこられたら分からないことやものは沢山あるからな、あって損するスキルじゃない。それに、まあ定番だろう。
そしてランダム武器生成、これはまあ言いたいことが無いわけではないが、最初から言われてたため、辛うじて踏みとどまる。あのクソジジイからすると実験でもしてるつもりだろうか。
問題児は最後だ。なんだ? スキル取得不可、って、頭いってんのか? このスキルが伝えてくることは、もうスキルが取れませんよ、ってことだけじゃなくて、俺はこれからの第二の人生を鑑定とランダム武器生成、長いな、ラン武器だけで生き抜いて行かなきゃならねぇ、ってことだ。
はぁ? 無理だろ、こういうのって、成長と共にスキルを獲得していくものだろ? なんで最後余計なもの付け加えたんだよ。完全に蛇足だろ。
あれか? 俺が他のスキルを使って、倒すことを嫌がったのか? それにしてももうちょっとやり方ってもんがあるだろ、どうしてこうやってゼロか百なんだよ。もう、これで一気に難易度が上がったな、もう生きていける気がしないんだが。
だが、そうは言っても死にたくはない。よし、なるべく早くあるのか分からないが、人のいる集落、街や村など、を見つけてそこで安全に暮らそう。そうすれば俺のデメリットも少し薄れてくるだろう。
「取り敢えず異世界のAランクになるのじゃ、そしたら次のことを教えてやるわい」
偶然か、必然か、俺の頭の中にここにくる前に言われたクソジジイからの言葉が思い起こされた。
そうだ、俺はAランクにならなきゃいけないんだ。そうしないと情報がもらえない。あー、あのジジイマジでクソだな。なんだよ、それそれならもっとマシなスキル寄越せよ! 一体何を考えて俺にこんな苦行を強いているんだ?
ガサガサッ
その物音で、俺は冷や水をぶっかけられたように急に冷静になった。どうやら俺に選択権はないようだ。こうなってくると、さっき思い出したのも、このモンスターも全てジジイがチュートリアルとして俺に仕組んだことのように思えてきて仕方がない。
そんなことを考えていると、物音をした方から、一匹のイノシシが現れた。俺は何故かすぐさま鑑定を発動し、相手の情報を読み取ることに成功した。
・ボア
ごく一般的なイノシシ。猪突猛進を体現したような行動をとり、まっすぐ突進することしか頭にない。前方しか見えておらず、側面からの攻撃に弱い。
お、おう。すぐさま鑑定を発動した俺を褒めてやりたいがそれどころではないな。コイツが強いのか弱いのかさっぱり分からないが、絶望する状況でも無さそうだ。ここまできたらやるしかねぇな。
「ブフォ、ブフォ!」
俺と目が合って、ボアのボルテージが一気に上がったようだ。俺のことを獲物と認識したらしい。認めたくはないが、確かに今のところ捕食者は相手だろうな。だが、俺にはスキルがあるんだ!
「頼むっ、【ランダム武器生成】!」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
は?
……もう一回使おう。
「【ランダム武器生成】」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
「……【ランダム武器生成】」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
「…………【ランダム武器生成】」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
「うぉい!! っざっけんなよ!!」
は? バケツって武器なの? は? ふざけんなよ。もうやめよう、これはおかしいだろマジで、もうやらね、だってもうどうせ死んでるんだろ、もう嫌だ。
俺の手元には四つの青いバケツ、あの小学校の頃に使ったアレだ。そして、目の前には今にも突進してきそうなイノシシ。
……いや、無理だろ。
何回、いや何十回考えても無理だ。勝てるビジョンが見えない。折角の第二の人生ここで終わりなのかよ、まあ、元から無かったものと考えれば別に惜しくもないさ。そうだ、そうだ、こんな無理ゲーハナから攻略させれる気も無いんだよ。
とうとう臨界点のイノシシが俺に向かって走り出した。完全に俺を捉えて頭に血が上っており、軽く目が血走っている。鼻息も荒く、今にも食べられそうだ。
……え? そんなに? そんなに俺食いたいの? 俺は絶対食われたくないんだけど、そんなに破茶滅茶興奮された状態では流石に食われたくないし、そんな奴に殺されたくもない。
何かないか? 何か、この状況を一変できるような何かが。
考えろ、ひたすら考えろ俺がこいつに殺されない為の一手を、食いちぎられない為の一手を……!
バケツ、バケツ、バケツ、バケツ!
バケツは水を掬って溜めるもの、主に掃除とかに使うよな。んー、こんなもんじゃダメだ、俺死ぬ。
バケツをどうにか従来とは違う使い方をして、この状況を打破しなければ。
ん? 従来とは異なる方法? バケツをバケツとして使わない?
「はっ!」
これでいけるかは知らないが、取り敢えずやるしかねぇ。もうイノシシが目と鼻の先だ!
「【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】………………【ランダム武器生成】!!」
一体いくつ出しただろうか。俺は少し後退しながらひたすら出し続けた。俺が念じる度に生み出される為、異常なスピードで生まれてくる。目の前には青いバケツの海が広がっている。イノシシの姿は見えない。
いや、まだ心配だな。いけるかはわからないが。
「【ランダム武器生成】×百!」
俺がこういう風に念じると目の前に突然大量のバケツが現れた。恐らく百個だろう。よし、これならいける!
もう、俺のやりたいことは分かっただろう。そう、バケツを防御に使いたかったのだ。攻撃手段ではなく、防御、それもただの壁だ。ただ、壁としてはまだまだ不安だ。
「【ランダム武器生成】×千!」
これだけあれば充分だろう。そして俺はあらる仕掛けをして、イノシシの様子を見に行った。
「結構出したなー俺」
長々と続く森の中の海(バケツ)に沿って俺はイノシシの方へと向かっていった。ここで逃げてもどうせ遅かれ早かれいつかはイノシシにあうのだ。逃げても変わらない。
いや、逃げた方が戦闘終了とみなされて、次戦う時はまた別の武器くれるんじゃね?
……ないな。二つの理由でない。一つ目は戦闘終了判定になるのかどうかだ。相手を倒さない限り戦闘は継続されてる可能性もある。もう一つの理由はバケツよりも良い武器が出るのか、ということだ。初っ端でバケツだぞ? それよりも良い武器がでることが期待できないのだ。
普通最初って気合入れるだろ? 初任給は高いし、新しいノートを買えば気分は上がって字も綺麗になる。新車や新築だってテンションブチ上げだ。
なのにこのスキルときちゃ、バケツからの入りだぞ? 頭おかしいし、気合入れてこれなんだから、その次なんてもっと期待できない。
ここでやるしかねぇんだ。
なんか、このスキルについて考えてたら、レアな武器が出るまでは絶対に死にたくなくなってきた。異世界転生ってもっと、チートなスキルもらえるだろ、俺のスキルもチートって思えるまで絶対に生きてやる。
よし、イノシシの所へ向かおう、決着の時だ。俺はいくつかの用意をして、バケツに沿ってイノシシの方へと戻っていった。思ったよりも距離があったからしんどかったが、ようやく到着した。
そして、そこには必死にバケツをかき分けているイノシシの姿があった。
まだ、こちらには気づいていない様子だ。よし、今ならいけるはずだ。俺は大量に石を入れたバケツを両手で持って、イノシシの背後に迫った。イノシシは猪突猛進だ、だから前に進ことしか頭にないはずだ。
だからこそ、俺にも勝機はある!
ッダーンッ!
イノシシのケツにでかい一撃をお見舞いしてやった。イノシシはかなりびっくりしたのか、飛び上がって驚き、こちらに向き直そうとした。
だが、そうはさせない。反時計回りで方向転換をするイノシシに合わせて俺も同じ方向に回っていく。そしてその間に自家製の鈍器で殴っていく。
五発くらい殴りつけた頃だろうか。イノシシがぶっ倒れた。
これがチャンスとばかりに俺は全身全霊の一撃をイノシシの脳天に上から振り下ろす形で叩きつけた。
死んでいるか心配な俺は、何度も、何度もその脳天に叩きつけた。
そしてイノシシの頭がみるも無残な姿になった時、バケツが消えた。
どうやら俺はこの世界でなんとか初勝利を掴むことができたようだ。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる