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1話 固まる決意
しおりを挟む『こんばんばーーんっ!』
「こんばんばぁーーーーんっ!!!」
ふぅ、やっと俺のオアシスタイムがやってきたぜ。これがないとやっぱダメだな。はぁーもう初手の挨拶から癒されるー!
俺はこの、軽井沢ヘヴィの配信を見る為に生きていると言っても過言ではないのだ!
ん、誰だよそいつって? おいおい、今最も勢いのあるこのVtuberを知らないのか? 登録者数は一瞬で100万人を超え、今では230万人という超大大大スターなんだぞ? ヘヴィちゃんを知らなくてどうするってんだ!
そ、れ、に! 今日はなんと特別に新作ゲームのベータテスト配信が行われるのだっ! 初回配信から見守り続けたこの身としては、ヘヴィちゃんがもうこんなところまで来たのかと感慨深いですぞ……
『うわー! すっごいですねこのグラフィック! もうほぼ現実世界と変わらないですよー! 流石はフルダイブVRですねっ! 空気がおいち~っ!』
うむ、確かに綺麗だ。ヘヴィちゃんが。
『本当ならアバターは生体認証があーだこーだでリアルのものを使わないといけないらしいんですけど、今回はなんと特別にヘヴィちゃん仕様になってまーす! だって、ヘヴィはヘヴィだもんねっ! みんなー、このヘヴィちゃんが見えるかな~?』
「見えてるよーっ!」
俺は今日も絶好調だ。もうヘヴィちゃんさえいればもう後は何もいらない。俺にはヘヴィちゃんだけでいいんだ!
その後も素晴らしいグラフィック世界を観光ツアーの様に回ってひとしきり色んな説明があった後、配信は締めの流れになった。
『ふぅー、まさか現代の技術がここまで発達しているとはね~! ヘヴィもびっくりだよ! これはもうやりこむしかないよねっ! 皆で一緒に最先端の冒険を楽しもう! じゃあヘヴィはここで待ってるからね! 皆んなで会おう、メターヴァ・オンラインで!』
そんな文言と共に配信は終了した。これで今日の俺の生きがいは終了した。また次の配信まで凪の時間が始まるぜ。
「にしても、メターヴァ・オンライン、かー」
俺もやってみたいな。もし俺もあの世界に行けたら、ゲームには自信があるから、無茶苦茶強くなって、トップランカーになって、そして、ヘヴィちゃんからクランに誘われちゃったりして……
よし、こうなっちゃいられない、俺も必ずやメターヴァ・オンラインに参戦してや
「ご飯よー」
はぁ、そうだ。36歳のプロヒキニートにそんな金ねーんだった。ただでさえ細い親の脛をガリガリ削りながら生活しているんだ。そんな俺が最新ゲーム機とソフトを買う余裕なんかあるわけがない。
親に相談した所で、晩飯一週間抜きって言われるだけだろうからな。詰んだな。
俺は余りにも残酷すぎる現実に打ちひしがれながらとぼとぼと階段を降りた。こうして晩飯だと告げられて飯を食う姿はさながら家畜の様だな。
俺にだって、金があれば、金さえあればヘヴィちゃんの騎士になれるっていうのに。
「今日は焼きそばか」
「何よ、文句あるなら食べなくてもいいんだからねっ! お腹にそんだけお肉がついてりゃ一週間くらい何も食べなくても生きていけるでしょ!」
おっと、口は災いの元、だったな。気をつけないと、特に母さんの小言はうるさいからな。ってか、今日のメニューを言っただけじゃねーかよ、なんで怒られなきゃならないんだ?
そんなことを考えながらも俺の頭はずっとメタヴァース・オンラインに支配されていた。あの無限に広がる美しい大地、そしてその上にたつヘヴィちゃん。あぁ、木々が、風が空気が俺を待っている、なんとしてでもあの場所に辿り着かなければ……
「もっと行儀良く食べなさい! 背筋伸ばして! せめて私の目が黒いうちはシャキッとしなさいよ! はぁ、もう全くバイトの一つや二つでもしてくれれば全然違うんだけどねぇ」
「ぶぇっ、ばぁ、ばびぼ!?」
「ちょっと何よ、急に吹き出して! ご飯もまともに食べられないの? いい加減にしなさいよね!」
そんな母の小言すら気にならないくらい、俺の脳には電撃が走っていた。
そうだ、金が無いならバイトをすればいいじゃないか。
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