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人情居酒屋おやじ

5.これでいいのだ

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「もしもし」
「おう、どうやった?」
「んーまあ、それなりに喜んでくれたわ、ありがとう」
「それなりかいな」

話を聞くとやるべき事をやってなかったり、適当やったり、まあそれなりなのも分かる。

「ただな、お前の名誉があるからな、今度連れて行くわ」
「誰も俺が悪いとは思ってないけどな」

ある意味俺への敬意と感謝なのだろうとは思う。

来月の半ばには結婚式なのだそうで、月頭くらいに二人で来てくれるらしい。
俺からとっても久しぶりに娘さんが見られて嬉しい。

「この前のレシピ用意しとくかな?」

いくつか店の料理のレシピをプレゼントしようと考えた。
まあ親父よりはちゃんと作るやろうしね。


「おー、この前はありがとう。完璧やったわ」
「全然やーん、あのね、多分教えてくれたのと全然違う思うんですよ」
「そっかわかった、じゃあ、餃子と焼きそばまず作るわ」
「はい、お願いします」

餃子を焼き始めたところでとりあえず乾杯することにした。

「結婚まもなくやね、幸せになってや、カンパーイ」
「カンパーイ」

うーん、ビールが美味い。
山ちゃんは何より格別だろう。

「はい、とりあえず先に焼きそばね。同じ材料で作ってみたよ」
「わー美味しそう、いただきまーす」

みんなが見つめる中、美味しそうに食べ始めた。
子供の頃のまんまいい笑顔だ。

「美味しー、ぜーんぜん違うやーん。めっちゃ香ばしくてカリカリ美味しい」
「満足ですか?」
「はい、最高です」
「じゃあこれも、餃子ね」
「いただきまーす。んーんーもう美味すぎ」
「ははははは」

俺まで幸せになってくる。
料理とは不思議なものだ。

「なっ、うまいやろ?そやしそう言うたんや」
「何言うてんのよもう。最初からわかってたわ、ほんまは美味しいって」

山ちゃんはいつもの扇形ソーセージとすじ肉の焼肉でご満悦。

娘さんもうちのスペシャル料理でご満悦。

俺も楽しい時間になった。
やっぱり親子はいいなそう感じた。

「これ、おっちゃんからのプレゼント。うちのレシピや。彼氏に作ったって」
「ありがとうございます。嬉しいです。お父さんよりは上手に作りますね」
「何言うてんねん」
「はははは」

その後山ちゃんが酔っ払って長いトイレに行った時、彼女はこう教えてくれた。

「できない料理を頑張ってしてくれたのも勿論嬉しかったけど、お父さんが大好きなお店で、お父さんの大好きな友達と一緒に楽しい時間を共有できたのが何より嬉しかった」と

山ちゃんは嬉しそうにべろべろに酔っ払った。
娘はその父親に肩をかして、文句を言いながら帰っていく。
その後ろ姿がやけにうらやましかった。

これでいいのだ。

これがいいのだ。
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