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第1章 ヤトノカミ編
第34話「魔を祓う剣」
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千祝がヤトノカミに呑まれるその様子を、修は何も出来ずに見ているしか出来なかった。予想も反応も出来なかったのは修も同じであるし、飲み込まれるのを止めるには離れすぎていた。
千祝がいなくなってしまった空間を見ていると、様々な感情が湧き出てくる。生まれたころからそばにいた幼馴染、母のいない修を母の様に姉の様に世話してくれた。特に五年前の戦いでボロボロになって動けなくなった時は献身的に看病してくれた。その千祝が今いなくなってしまったのだ。目の前の邪悪な怪物のせいで。
「キサマァァ!」
湧き上がる怒りの感情と連動するように自然と怒声を発していた。最早、布津御霊剣を使いこなすとかそんな事は頭になく、ヤトノカミをいかに速やかにこの世から抹殺するかしか頭になかった。
修は布津御霊を構えるとヤトノカミに向けて前進した。普通に走っていったのではない。その足捌きは引き摺るかの如くであるため地面を滑るように移動している。また、一直線に向かうのではなく、方向転換を繰り返しながらのものであった。
道教や陰陽道に詳しい者が見ればその動きは、禹歩に近いものであることが分かっただろう。武術の系統に属するものではなく、呪いや儀式の範疇である。修は意識するでもなくこの動作をすることが出来た。完全に無意識のことである。
禹歩の動きを繰り返しているうちに、布津御霊の刀身が輝きを放ち始めた。修自身はヤトノカミを屠ることに意識を集中しているため気が付いていないが、これは五年前に戦った時と全く同じであった。
禹歩による歩法を繰り返しているうちに、ヤトノカミの腕が届く距離まで近づいた。ヤトノカミが五年前に自分を封印した宿敵であることに気付いているのかいないのかは不明であるが、とにかく自分の敵、しかも先ほどまで五月蝿い虫のごとくまとわりついてきた者達と違い明確に脅威であると認識しているようで、段違いの殺気を放っていた。
ヤトノカミは修が腕の届く範囲まで近づいてくると、その腕を振るった。
その手に生えている鋭い爪に当たれば引き裂かれることは間違いなく、例え爪の餌食にならずとも腕に掠れば吹き飛ばされることが予想された。
「誰が食らうか!」
修はヤトノカミの腕に対し、正面から布津御霊を振り下ろし、掌から肘まで真っ向から切り裂いた。その切れ味は凄まじく、ほとんど手応えを感じなかった。
流石にこれは効いたらしく、ヤトノカミは凄まじい悲鳴を上げた。しかし、ひるむことなく、ズタズタになった腕を振り回して攻撃を続行する。
「そんなんじゃ使いにくいだろ? 切り取ってやるよ」
冷たい口調で言い放った修は、ヤトノカミの腕を、今度は輪切りにした。切断された丸太の様な腕は地響きを立てて地面に転がり、しばらくすると消えてしまった。
何度攻撃してもその度に手痛い反撃を食らったヤトノカミは、修を警戒し攻撃を控えた。そして、息を大きく吸い込むと黒い炎を吐き出した。
しかし、修はそれに慌てることもなく布津御霊を横薙ぎにし、黒い炎を切り裂いた。切り払われた黒い炎は雲散霧消してしまった。
「バカか? 二度も食らうか」
その言葉の通り、修はヤトノカミが黒い炎を吐きかけて来るのを察知していた。一度食らっているため、予備動作の大きい攻撃は見切ることが出来るのだ。
とは言え本来なら広範囲に広がる黒い炎は予測していても対処することは困難である。剣で切ったのは確証はなかったが何となく出来ると思ったからだ。剣が教えてくれた動作をそのままなぞったと言ってもいい。
ヤトノカミの奥の手とも言える黒い炎を乗り切った修は、ヤトノカミの顔を改めて見据えた時、驚くべきことに気が付いた。ヤトノカミの口の中に人間の足らしき物が見えたのだ。ヤトノカミが一旦口を閉じた後、再び口を開いた時にはもう見えなくなっていたが、確かにそれは足だった。
「なるほど、丸飲みにした後、炎を吐き出すために力んだ拍子に飛び出てきたってことか」
まだ、千祝を助けられる可能性がある。そう考えると希望が湧いてきた。
「ありがとう。じっくりと慎重にやろうと思っていたが、急ぐ必要があるってわかったよ。お礼に一思いにやってやるよ」
物騒なことを言っているが、修の口調は先ほどまでの絶望と憎悪の籠ったものとは変化していた。助けられる可能性があるうちは、その可能性に全身全霊を込めて邁進する。駄目だった時のことなど後から考える。それが修のやり方だった。
「行くぞ!」
千祝を救うべく、修は駆け出す。
最初の狙いは、ヤトノカミの機動を奪うことだった。足元まで駆け寄ると連続で回転をしながら切り付けた。その連撃は見事ヤトノカミの両足を根元から切断した。
回転しながら切るような大振りの動作は、通常の剣術では見切られやすく、また、やる必然性も薄いためほとんど見られない動きであるが、布津御霊の様な常識外の重量の武器を速度を維持したまま連続で攻撃するのには丁度良かった。
これも修が考えたわけではなく剣から伝わってきた動作をそのままなぞっただけだ。
ヤトノカミの両足を奪った修の次の狙いは、残った腕であった。両足を奪われて倒れ伏したため剣の届きやすい位置まで上体が下がったため、先ほどの様にカウンターでなくても問題なく攻撃できた。袈裟懸けに剣を振り下ろし、残る腕も問題なく切断した。
四肢を切断されたヤトノカミは巨大ではあるものの通常の蛇と同じ様になってしまった。こうなると、攻撃方法は限られてくる。黒い炎、巻き付き、そして先ほど千祝を丸飲みにした大顎だ。黒い炎は先ほど完全に防がれている。そのため、手強い相手を始末した成功体験に従い、ヤトノカミは丸飲みを選択した。
修はこの攻撃が来ることは読めていた。しかし。これを避けることなく、逆に自分から突っ込んでいった。結果、修の体がヤトノカミの大顎の中に消え去った。群がる敵を皆葬り去ったことに満足したのか、ヤトノカミは勝利の雄叫びを上げる。
そして、この忌々しい神社から脱出するべく這いずりながら移動を開始する。今は神域にいるため、再生能力を最大限発揮できないが、外に出さえすればいかに神剣で傷つけられた四肢であっても一刻もすれば元通りになるはずなのだ。
しかし、それは果たすことが出来なかった。何故なら、移動を開始してすぐ、ヤトノカミの腹から何かが突き出されたのだ。それは布津御霊の刀身であった。ヤトノカミの腹は突き出された刀身により大きく切り開かれ、その傷口から人影が現れた。布津御霊を握った修である。その腕には気を失ったままの千祝が抱かれている。傷口を広げられたヤトノカミはその巨体を悶えさせた。
「じゃあな。これで決着だ」
千祝の無事を確認し、穏やかな口調でそう言った修は、千祝を地面に横たわらせ、上段に布津御霊を構えた。そして、気合を込めてヤトノカミの首めがけて振り下ろした。
太いヤトノカミの首だったが、長大な布津御霊の刀身により一撃で胴体と泣き別れとなった。別れ別れとなった首と胴体は地面を転がり、やがて消えてしまった。小型のヤトノカミの眷属を倒した時と同じだ。
千祝がいなくなってしまった空間を見ていると、様々な感情が湧き出てくる。生まれたころからそばにいた幼馴染、母のいない修を母の様に姉の様に世話してくれた。特に五年前の戦いでボロボロになって動けなくなった時は献身的に看病してくれた。その千祝が今いなくなってしまったのだ。目の前の邪悪な怪物のせいで。
「キサマァァ!」
湧き上がる怒りの感情と連動するように自然と怒声を発していた。最早、布津御霊剣を使いこなすとかそんな事は頭になく、ヤトノカミをいかに速やかにこの世から抹殺するかしか頭になかった。
修は布津御霊を構えるとヤトノカミに向けて前進した。普通に走っていったのではない。その足捌きは引き摺るかの如くであるため地面を滑るように移動している。また、一直線に向かうのではなく、方向転換を繰り返しながらのものであった。
道教や陰陽道に詳しい者が見ればその動きは、禹歩に近いものであることが分かっただろう。武術の系統に属するものではなく、呪いや儀式の範疇である。修は意識するでもなくこの動作をすることが出来た。完全に無意識のことである。
禹歩の動きを繰り返しているうちに、布津御霊の刀身が輝きを放ち始めた。修自身はヤトノカミを屠ることに意識を集中しているため気が付いていないが、これは五年前に戦った時と全く同じであった。
禹歩による歩法を繰り返しているうちに、ヤトノカミの腕が届く距離まで近づいた。ヤトノカミが五年前に自分を封印した宿敵であることに気付いているのかいないのかは不明であるが、とにかく自分の敵、しかも先ほどまで五月蝿い虫のごとくまとわりついてきた者達と違い明確に脅威であると認識しているようで、段違いの殺気を放っていた。
ヤトノカミは修が腕の届く範囲まで近づいてくると、その腕を振るった。
その手に生えている鋭い爪に当たれば引き裂かれることは間違いなく、例え爪の餌食にならずとも腕に掠れば吹き飛ばされることが予想された。
「誰が食らうか!」
修はヤトノカミの腕に対し、正面から布津御霊を振り下ろし、掌から肘まで真っ向から切り裂いた。その切れ味は凄まじく、ほとんど手応えを感じなかった。
流石にこれは効いたらしく、ヤトノカミは凄まじい悲鳴を上げた。しかし、ひるむことなく、ズタズタになった腕を振り回して攻撃を続行する。
「そんなんじゃ使いにくいだろ? 切り取ってやるよ」
冷たい口調で言い放った修は、ヤトノカミの腕を、今度は輪切りにした。切断された丸太の様な腕は地響きを立てて地面に転がり、しばらくすると消えてしまった。
何度攻撃してもその度に手痛い反撃を食らったヤトノカミは、修を警戒し攻撃を控えた。そして、息を大きく吸い込むと黒い炎を吐き出した。
しかし、修はそれに慌てることもなく布津御霊を横薙ぎにし、黒い炎を切り裂いた。切り払われた黒い炎は雲散霧消してしまった。
「バカか? 二度も食らうか」
その言葉の通り、修はヤトノカミが黒い炎を吐きかけて来るのを察知していた。一度食らっているため、予備動作の大きい攻撃は見切ることが出来るのだ。
とは言え本来なら広範囲に広がる黒い炎は予測していても対処することは困難である。剣で切ったのは確証はなかったが何となく出来ると思ったからだ。剣が教えてくれた動作をそのままなぞったと言ってもいい。
ヤトノカミの奥の手とも言える黒い炎を乗り切った修は、ヤトノカミの顔を改めて見据えた時、驚くべきことに気が付いた。ヤトノカミの口の中に人間の足らしき物が見えたのだ。ヤトノカミが一旦口を閉じた後、再び口を開いた時にはもう見えなくなっていたが、確かにそれは足だった。
「なるほど、丸飲みにした後、炎を吐き出すために力んだ拍子に飛び出てきたってことか」
まだ、千祝を助けられる可能性がある。そう考えると希望が湧いてきた。
「ありがとう。じっくりと慎重にやろうと思っていたが、急ぐ必要があるってわかったよ。お礼に一思いにやってやるよ」
物騒なことを言っているが、修の口調は先ほどまでの絶望と憎悪の籠ったものとは変化していた。助けられる可能性があるうちは、その可能性に全身全霊を込めて邁進する。駄目だった時のことなど後から考える。それが修のやり方だった。
「行くぞ!」
千祝を救うべく、修は駆け出す。
最初の狙いは、ヤトノカミの機動を奪うことだった。足元まで駆け寄ると連続で回転をしながら切り付けた。その連撃は見事ヤトノカミの両足を根元から切断した。
回転しながら切るような大振りの動作は、通常の剣術では見切られやすく、また、やる必然性も薄いためほとんど見られない動きであるが、布津御霊の様な常識外の重量の武器を速度を維持したまま連続で攻撃するのには丁度良かった。
これも修が考えたわけではなく剣から伝わってきた動作をそのままなぞっただけだ。
ヤトノカミの両足を奪った修の次の狙いは、残った腕であった。両足を奪われて倒れ伏したため剣の届きやすい位置まで上体が下がったため、先ほどの様にカウンターでなくても問題なく攻撃できた。袈裟懸けに剣を振り下ろし、残る腕も問題なく切断した。
四肢を切断されたヤトノカミは巨大ではあるものの通常の蛇と同じ様になってしまった。こうなると、攻撃方法は限られてくる。黒い炎、巻き付き、そして先ほど千祝を丸飲みにした大顎だ。黒い炎は先ほど完全に防がれている。そのため、手強い相手を始末した成功体験に従い、ヤトノカミは丸飲みを選択した。
修はこの攻撃が来ることは読めていた。しかし。これを避けることなく、逆に自分から突っ込んでいった。結果、修の体がヤトノカミの大顎の中に消え去った。群がる敵を皆葬り去ったことに満足したのか、ヤトノカミは勝利の雄叫びを上げる。
そして、この忌々しい神社から脱出するべく這いずりながら移動を開始する。今は神域にいるため、再生能力を最大限発揮できないが、外に出さえすればいかに神剣で傷つけられた四肢であっても一刻もすれば元通りになるはずなのだ。
しかし、それは果たすことが出来なかった。何故なら、移動を開始してすぐ、ヤトノカミの腹から何かが突き出されたのだ。それは布津御霊の刀身であった。ヤトノカミの腹は突き出された刀身により大きく切り開かれ、その傷口から人影が現れた。布津御霊を握った修である。その腕には気を失ったままの千祝が抱かれている。傷口を広げられたヤトノカミはその巨体を悶えさせた。
「じゃあな。これで決着だ」
千祝の無事を確認し、穏やかな口調でそう言った修は、千祝を地面に横たわらせ、上段に布津御霊を構えた。そして、気合を込めてヤトノカミの首めがけて振り下ろした。
太いヤトノカミの首だったが、長大な布津御霊の刀身により一撃で胴体と泣き別れとなった。別れ別れとなった首と胴体は地面を転がり、やがて消えてしまった。小型のヤトノカミの眷属を倒した時と同じだ。
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