最強陰陽師異世界旅行 ~弱体化した魔術を駆使して元の世界を目指す~

大澤伝兵衛

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第7話「元最強陰陽師、天将(天使)を召喚する」

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 交戦を開始してすぐ、相手の戦力を改めて観察した。

 敵のボスであるバイエルンは身長ほどのクォータースタッフを持っている。クォータースタッフには装飾が施されており、おそらく魔術の発動体も兼ねていると思われる。また、当然のことながらこのバナード魔術学院で教鞭をとっているという事はその魔術の腕前は相当な物だろう。

 彼の服装はこの世界の元素魔術師が着る一般的なローブであるため、基本的には元素魔術を行使してくると予想できるが、その他の魔術を併用してくる可能性も十分考えられた。何しろ彼の受け持っていた授業は魔術総論であり、あらゆる分野の魔術に関する知識があるはずなのだ。

 そして、先ほどダイキチを予備動作もなしに数メートル吹き飛ばしたことから、武術の腕前は中々の物だと思われるため、こちらについても警戒が必要だ。

 バイエルンの配下も注意が必要だ。

 人数は7人、皆一様に黒装束を身に纏い、60~70cm程度の刀身の小剣ショートソードを手にしている。その身のこなしから戦闘技術に長けていることが伺わせられ、決して雑魚と侮って良い相手ではなさそうだ。更に、彼らの指には宝石のついた指輪がはめられている。多分魔術を発動させるためのアイテムだろう。

 俺はゆっくりと後ずさりながらゆっくりと息を吸い込んだ。命のやり取りの経験はこれまでもあるし、戦いには自信がある方だ。しかし、魔術がまともに使えない今その実力の大半は発揮することが出来ない。慎重かつ確実に生き延びる方策を模索しなければならない。

「誰か‼ 泥棒がいます‼ 来てください‼」

「サイレンス・フィールド。残念ながらもう外に音が届くことが無い。貴様の悲鳴もな」

 俺は先ず大声を上げて助けを呼ぶことを選択した。敵がいくら戦闘に長けていようとたった7人だ。魔術学院の他の教員達が複数集まれば造作もなく倒すことが出来るだろう。そして、元の世界で魔術協会の実行部隊を指揮してきた経験から大声には自信があった。

 しかし、俺の必勝の作戦はあっさりと打ち破られた。バイエルンは俺が大声を出すために息を吸い込んだのを見逃さず、外部との音を遮断する魔術を使ってきたのだ。やはり、奴は戦いに熟練しているようだ。

「ハハハッ、やるじゃないか闇雲に戦うんじゃなく、いの一番に助けを求めるとはな。魔術師としてのプライドはないのかな?」

 耳の痛いことを言うやつだ。魔術が元の通り使えればこの程度の奴らなど一ひねりなのだが。

「野郎ども。かかれ! ただし慎重にな。ファイアボール!」

 バイエルンの命令により攻撃が開始される。バイエルン一味は口々に呪文を唱え、俺に向かって魔術を発動する。大小数々の炎の球が殺到してきた。

「チィッ」

 相手の魔術を相克するため水の属性の魔力を両手に込めながら、次々と魔術を手刀で切り払う。魔術が弱体化した今でも、陰陽道の五行相克の理論に基づいたこの方法は有効である。

(やはり、こいつら戦い慣れているな。狙いが嫌な所をついて来るぜ)

 魔術の威力自体は、昼間に決闘したクロニコフを超えるものじゃない。しかし、その狙いは正確であり、更に防御のし難い場所やタイミングで撃ってくる。

 これでは防戦一方だ。

「ファイアストーム!」

 火球が雨あられと降り注ぐ中、新たな攻撃が加えられる。炎が眼前一杯に広がり襲い掛かって来たのだ。

「その程度!」

 いくら威力が高かろうと、炎属性である以上、水の属性を込めた魔力で相克できる。炎が広がって襲いかかってくるためタイミングは取りずらいが、この程度の魔術ならこれまで何度も打ち破って来たのだ。

 正確なタイミングで右掌底を炎の嵐に叩きつけて雲散霧消させ……た瞬間、炎が掻き消えて晴れた視界に石の弾の群れが飛び込んできた。

 炎の嵐は視界を奪うための陽動攻撃だったのだ。しかも、属性の違う元素魔術を使ってくることで対処を難しくしている。

「甘い!」

 しかし、これも予想の範疇である。左手に木の属性の魔力を込めると石弾を軽く打ち払う。目くらまし攻撃程度今までも経験しているのだ。

「シャァァァッ!」

 石弾を消滅させたその次は物理攻撃である。手下の内2人がショートソードを腰だめに突撃してくる。

 任侠映画などで見られるような攻撃で見た目には素人っぽい攻撃だし、腰だめに構えているためリーチが無く対処しやすいようにも見える。しかし、実際のところ体重と勢いが切っ先に乗っており、生半可な攻撃で反撃しても勢いを殺し切れず、結果として刃を体に受けてしまう。

 自爆覚悟であり、武術的には推奨されはしないが確実に相手を死に追いやる攻撃であるといえる。命を的にして戦う任侠の世界で使われているのは伊達ではないのだ。

(左だな)

 けれども俺は慌てずに突っ込んで来る2人との位置関係を観察する。

 足並みを揃えて突撃してくる2人だが、多少の時間差がある。左側の男が先に到達してくると判断してそちらを先に排除することにした。

 こちらから左側の男にみ回り込みながら接近しすることで、右側の男から攻撃されにくい位置を確保する。

不動金剛縛符ふどうこんごうばくふ!」

 右側の男の刃が俺の体に到達するその瞬間、体をひねって相手の背中に回り込む……と同時に懐から取り出した札をすれ違いざまに額に張り付けた。

 不動金剛縛符は張り付けた相手を金縛り、そうでなくても動きを鈍らせることが出来る。

 昼間のクロニコフとの決闘では、完全に動きを封じるのに数枚使用する必要があった。しかし、この男はクロニコフ程の魔力が強くないのか1枚で完全に力を失った。

 更に、力を失って崩れ落ちた男の襟首を掴んで引きずりあげると、もう片方の男に向かって蹴飛ばした。

 再度突進しようとしてきた男は、これに驚き慌ててショートソードを引っ込めた。俺はその隙を逃さず、すかさず間合いを詰めながら突きを放った。中国拳法の形意拳に伝わる崩拳ほうけんを応用した動きだ。

「ぐふっ」

 大きな悲鳴を上げることも出来ず、男達は2人まとめて吹っ飛んでいく。戦闘不能にしたとの手ごたえがある。

 残り5人だ。

「ふむ。数で押しても、目くらましをしても、属性に変化をつけても、物理攻撃をしても無駄とはな……」

 バイエルンが驚いた口調で呟いた。

「中々の連携だったが、残念ながら戦いの場数が違うんでね」

 俺の様な若僧が言うのは普通なら一笑に付すのだろうが、バイエルンにはそのような様子は見られなかった。

「ああ。その様だな。これからは慎重にいかせてもらおうじゃないか」

「手下も減ったみたいだし、大人しく降参したらどうだ? そこに転がっている奴らみたいに痛い目にあいたくないだろ?」

「そうかな? こっちに決め手が欠けているかもしれないが、そちらも同じだろう?」

 確かに、相手が不用意に攻めてきて来れない限り、こちらからは打つ手がない。昼間の決闘では相手をしていたクロニコフが1人で、しかも彼は戦闘に関しては未熟だったため隙をついて攻め込めたがこいつらは百戦錬磨、そうはいかない。

「と、いう訳で、貴様がミスをするまで攻め続けされてもらおうか。ゆっくりとな」

 バイエルン一味は魔術発動のための態勢を取り直した。焦って攻めてこないところがその戦闘巧者ぶりを伺わせてくる。

 このまま防戦一方ではいずれミスを犯してしまうだろうし、魔力が枯渇している今、五行相克による魔術防御がいくら省エネと言ってもいつまで持つかは分からない。魔力を吸魔の紋に吸い取られてさえいなければ3日3晩戦っても魔力が尽きることはないし、この世界の魔術法則を解明してさえいれば外部から魔力を借りることが出来るのだが。

 それに、バイエルンの余裕ぶりからしてまだ切り札を隠している予感がする。

 ここは速戦即決、一気に勝負を極めねばなるまい。

「ハハッ! お前たちは俺のすべての魔術が弱体化したと思い込んでいるようだな! それに魔力が枯渇しているからまともに魔術が使えないと! 甘い! 我が陰陽道はそのような底の浅いものではないと見せてやろう!」

 俺は勝利を予告しながら懐から1枚の札を取り出した。先ほど使用した不動金剛縛符とは違うものだ。

「何? 符術は確かに少ない魔力でも使えるが、効果に差が出るはず……そうか! 召喚術か!」

 流石に魔術総論の授業を受け持つだけあって、バイエルンは様々な魔術に精通しているようだ。俺の企図を即座に理解したらしい。

「その通り! 契約している対象の実力は俺の魔術とは関係ない。つまりこの札に込められた召喚術を発動すればお前たちごとき一瞬で片が付くってことだ」

「いかん! 奴に札を使わせるな!」

 手下に指示して俺を止めようとするが、もう遅い。手にした札を高く掲げた。

「来たれ勇猛なる戦神いくさがみ! 十二天将が1柱、騰虵とうしゃ!」

 札で事前に魔術を込めておけば発動まで大して時間がとられることはない。バイエルン達の妨害が始まる前に問題なく魔術が発揮された。

 頼りない星明りだけしかなく闇が支配していた学院の隅々まで照らす様に、空から金色の光に身を包む神々しい姿が舞い降りた。

 騰虵は安倍晴明あべのせいめいの様な高名な陰陽師が操った高位の式神、十二天将の1柱であり、羽の生えた蛇の姿をしている。また、炎に包まれており、今夜は暗闇のせいか嫌に明るく感じる。

「さあ、行け! 騰虵……て誰だ?」

 強力な救援に意気揚々と攻撃の指示を出そうとするが、召喚したものが地上に近づくにつれ、本来来るべきものとは違う存在であることに気が付いた。

 俺が召喚したのは炎の蛇……騰虵のはずであった。しかし、この場に舞い降りたのは、炎の車輪に仁王立ちする羽をはやした人間……いや、頭の上に光の輪っかが浮いている。これは、

「天使? 座天使ソロネか!」

 そう、天使であった。
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