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第15話「元最強陰陽師、実家と交信する」
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天体観測を実施した翌朝、眠い目を擦りながら俺はカナデと一緒に魔術の実験室に来ていた。目的はゲートの魔術の実験のためだ。
この実験室は最初にカナデがゲートの魔術によって元の世界の俺の部屋と空間をつなげた場所である。つまりこの部屋は、魔術的に世界をつなげるための特異点となっているので、元の世界へのゲートの魔術が成功しやすいのである。
この世界に来てから、世界が体質に合わないのか、俺の魔力は回復しにくい状態にある。しかし、その対抗策としてカナデが用意した魔力回復食を最近食しているせいか、ゲートの魔術を行使できるくらいは溜まっている気がする。
この世界の魔術法則を完全に解明できていないため、元の世界に帰れるほど大きな穴は開かないと予想できるが、実家とのコンタクトを取り、出来れば帰るための支援を受けたいのである。
「木行、火行、土行、金行、水行! 陰気、陽気を鍵として。開け我が世界への扉!」
これまでと同じ呪文を唱えて魔術を発動させる。呪文は元の世界にいた時に何となく思いついた適当なものであり、唱えなくても良いのだがこの世界に来るゲートを作成するときに成功した体験があるため集中しやすいのだ。
魔術を発動し終えると、これまでと同じく目の前に銀色の渦が出現する。そして予想通り渦の大きさは頭が通るか通らないかくらいの小さなもので、元の世界に帰還するには足りない。
そして、魔力が枯渇していく虚脱感が体を襲う。
ゲートを発動し終えると、素早く元の世界の俺の部屋に置いてきた俺そっくりの式神と魔術的なリンクを回復させる。
前回は色々手間取ったため時間切れで助けを求められなかったが、今回はその教訓を活かして迅速に行動を開始することにした。
「おーい! 誰かいないか!? って、蘆屋さんよくぞいてくれました」
俺の部屋には、助けを求めるまでもなく最初から人が待機していた。待機していたのは、蘆屋という若手の陰陽師で、姉の九頭刃コマチの婚約者でもある。
我が陰陽道の一門衆で、それを統べる九頭刃家と接点があるのは、陰陽道の実力から年かさの者が多い。だが、蘆屋は若い頃からその実力を見込まれて一門の首脳部に混じって働いており、俺の知り合いの中では数少ない若者である。
このため、俺は蘆屋の事を昔から兄の様にも思っており、姉のコマチと婚約して本当に義兄になるのが決まった時は、心の底から喜んだものだ。
「丁度良い所に、蘆屋さん。祖父を呼んでください」
「分かりました」
蘆屋はそう答えると、すぐに部屋からいなくなった。
陰陽道の頂点である九頭刃家の次期当主であるこの俺が急に失踪して、久しぶりに接触してきた割には他人行儀な反応である。特に蘆屋と俺は親しい中だというのに、一体どうしたというのか。
「当主様、こちらです」
「ご苦労」
すぐに蘆屋が1人の男を連れて戻って来た。
連れてきたのは俺の良く知る人物、九頭刃セイヤ、俺の祖父にして陰陽頭として陰陽師を統べる者である。
本来なら祖父の跡を継ぐはずの父が失踪しているため、俺の事を幼少期から厳しく育てたため苦手意識もあるが、その分密接に育ててくれたため感覚的には父親に近い。
高齢であるため、戦いに関しては俺が上かもしれないが、陰陽道にかけてはまだまだ敵わない。
俺の陰陽道が弱体化している今、頼りにしている。
「おじい様、相談したいことが……」
「言わずとも分かっておる」
さすがに陰陽師の頂点に立つ男である。もうこちらの事情を察しているようだ。
「では?」
「一門の長老会議で話し合った結果だがな……」
重苦しい口調で語り始めた。
「お前とコマチの結婚は認められん。諦めてくれ」
「何でだよ!?」
いつ、俺が姉との結婚を望んだというのだろう? 思わず失礼な口調で突っ込みを入れてしまった。
そして、そんなどうでも良いことを、長老どもは話し合ってたというのか。俺が後を継いだ暁には、ぼけ老人どもを引退させた方が良いかもしれない。
「ん? しかしだな……」
祖父はある方向に視線を向ける。その方向には俺のパソコンがあった。
「あ……」
最初にゲートを開いた時と前回ゲートを開いた時、俺はある致命的なミスを犯した。
パソコンで姉が攻略対象の大人向けのゲームを起動させたままにしていたこと、そしてそこに姉を読んでしまったことだ。
「あれは、関係ありません」
「そうなのか? 儂はてっきり……」
「見て見ぬふりをするのも、家族の、というか男の仁義というものではないでしょうか?」
「分かった分かった」
これで、蘆屋がよそよそしかった理由が分かった。自分の婚約者が俺に取られるかもしれないと危機感を感じていたのだろう。
「次世代の魔術の才能は空前絶後になるかも知れないと、期待もあったんだがな」
「まだ言いますか」
「うむ。やめにしよう。では、事情を話してくれ」
話を聞いてくれる態勢が出来たようなので、俺の状況を話した。
異世界へのゲートが現れた事、それを再現して異世界に旅立った事、陰陽道が弱体化したせいで元の世界に戻れなくなった事など様々だ。
「ふーむ。それで、元の世界に帰る手助けが欲しいということだな?」
「そうです。こっちの世界では魔術法則に違いがあるようで、中々本領が発揮できないのです。一応、天体観測を始めたので、その内星宿の影響を分析できると思いますが、その分析を手伝ってほしいですね。と言いますか、このゲートの魔術を分析して、そちらから完全な形で開いてもらえましたらすぐにでも戻れるのですが」
「残念ながらそれは難しい」
「それは何故ですか?」
この返答は驚きである。祖父は俺以上の陰陽道の使い手である。俺が出来たゲートの発動を祖父が出来ないとは考えにくかったのだ。
「この魔術、お前はゲートと呼んでいるが、さっきから分析しているのだが、陰陽道以外の要素もかなり含まれている。儂の様に古い陰陽師は他の魔術をそれほど修行していないのでな、とてもではないが再現できん。お前は世界中の色々な魔術を研究していたし、魔術大戦のおりに最前線で戦って身をもって知っていたから感覚的に分析できたのだろう」
「そうですか……」
祖父の返答はかなりショックであった。一門の長として頂点に君臨していた祖父は、今まで何でも可能にしてきた万能の絶対者の様に尊敬してきたのだ。
その祖父にも手が付けられないというのは、今置かれている状況が思った以上に厳しいという事なのだ。
もっとも、祖父にも出来ない事を、俺が成しえたというのは誇らしいと感じない事もないのだが。
「まあ、こちらでも出来ることはやってみよう。こちらでも類似の魔術がないか調べてみるし、データさえ寄越せば分析も手を貸そう」
「ありがとうございます。まだ星の観測は始まったばかりなので渡せるようなデータはありませんが、次に開くときには渡せるようにします」
「うむ。それはそうと、分かっていようが、お前がわが九頭刃家の陰陽道を継承するための儀式が可能な時期は限られている。急いで帰らねば次の機会はかなり先になると思え」
「分かっております。可能な限りの努力をしますので、そちらも協力をお願いします」
俺の予感ではもうそろそろゲートが時間切れで閉じてしまう頃なので、話をまとめることにした。今回は解決できなかったが、一門の支援を受けられるというのは、やはり心強い。
「あとこれは助言だがな。空に目を向けるのも良いが、地にも目を向けるべきだろう」
「地? あ、そういう事ですか」
「そうだ」
「ありがとうございます。そちらも調べてみ……ますので次も是非ご助言をお願いします」
感謝とこれからの協力のお願いを、最後まで祖父に聞かせることは出来なかった。
ゲートは無情にも消滅し、式神とのリンクが切れたせいで祖父の姿も見ることが出来なくなった。
「どうだった? 今回は前よりも長く話せたみたいだけど」
俺が元の世界に意識を飛ばしている間、ずっとそばに控えてくれていたカナデが心配そうに話しかけてきた。
「残念ながら、ゲートの魔術の再現は難しいってさ。でも、これから手助けしてくれるってさ。また、魔力を溜めたらゲートを開かないとね」
「主よ、気を落とさないでください」
俺の肩の上に乗っている、カエルの式神である蠱王が慰めの言葉をかけてくれた。余り口数の多い奴ではないが、その心遣いは伝わってくる。
「そんなに心配するなよ。まだまだ時間はあるし、ヒントも貰ったんだ」
「ヒントですか?」
「何かいい手段でもあるの?」
「ああ、そうだ。地にも目を向けろってさ」
「地、ですか?」
カナデは怪訝な顔つきで問い返してくる。
「そう、空では星の配置が魔術的に大きな影響を持つように、地では山河等の配置が大きな意味を持つ。風水って奴だ」
俺は地面を指さしながら自信満々に答えた。
この実験室は最初にカナデがゲートの魔術によって元の世界の俺の部屋と空間をつなげた場所である。つまりこの部屋は、魔術的に世界をつなげるための特異点となっているので、元の世界へのゲートの魔術が成功しやすいのである。
この世界に来てから、世界が体質に合わないのか、俺の魔力は回復しにくい状態にある。しかし、その対抗策としてカナデが用意した魔力回復食を最近食しているせいか、ゲートの魔術を行使できるくらいは溜まっている気がする。
この世界の魔術法則を完全に解明できていないため、元の世界に帰れるほど大きな穴は開かないと予想できるが、実家とのコンタクトを取り、出来れば帰るための支援を受けたいのである。
「木行、火行、土行、金行、水行! 陰気、陽気を鍵として。開け我が世界への扉!」
これまでと同じ呪文を唱えて魔術を発動させる。呪文は元の世界にいた時に何となく思いついた適当なものであり、唱えなくても良いのだがこの世界に来るゲートを作成するときに成功した体験があるため集中しやすいのだ。
魔術を発動し終えると、これまでと同じく目の前に銀色の渦が出現する。そして予想通り渦の大きさは頭が通るか通らないかくらいの小さなもので、元の世界に帰還するには足りない。
そして、魔力が枯渇していく虚脱感が体を襲う。
ゲートを発動し終えると、素早く元の世界の俺の部屋に置いてきた俺そっくりの式神と魔術的なリンクを回復させる。
前回は色々手間取ったため時間切れで助けを求められなかったが、今回はその教訓を活かして迅速に行動を開始することにした。
「おーい! 誰かいないか!? って、蘆屋さんよくぞいてくれました」
俺の部屋には、助けを求めるまでもなく最初から人が待機していた。待機していたのは、蘆屋という若手の陰陽師で、姉の九頭刃コマチの婚約者でもある。
我が陰陽道の一門衆で、それを統べる九頭刃家と接点があるのは、陰陽道の実力から年かさの者が多い。だが、蘆屋は若い頃からその実力を見込まれて一門の首脳部に混じって働いており、俺の知り合いの中では数少ない若者である。
このため、俺は蘆屋の事を昔から兄の様にも思っており、姉のコマチと婚約して本当に義兄になるのが決まった時は、心の底から喜んだものだ。
「丁度良い所に、蘆屋さん。祖父を呼んでください」
「分かりました」
蘆屋はそう答えると、すぐに部屋からいなくなった。
陰陽道の頂点である九頭刃家の次期当主であるこの俺が急に失踪して、久しぶりに接触してきた割には他人行儀な反応である。特に蘆屋と俺は親しい中だというのに、一体どうしたというのか。
「当主様、こちらです」
「ご苦労」
すぐに蘆屋が1人の男を連れて戻って来た。
連れてきたのは俺の良く知る人物、九頭刃セイヤ、俺の祖父にして陰陽頭として陰陽師を統べる者である。
本来なら祖父の跡を継ぐはずの父が失踪しているため、俺の事を幼少期から厳しく育てたため苦手意識もあるが、その分密接に育ててくれたため感覚的には父親に近い。
高齢であるため、戦いに関しては俺が上かもしれないが、陰陽道にかけてはまだまだ敵わない。
俺の陰陽道が弱体化している今、頼りにしている。
「おじい様、相談したいことが……」
「言わずとも分かっておる」
さすがに陰陽師の頂点に立つ男である。もうこちらの事情を察しているようだ。
「では?」
「一門の長老会議で話し合った結果だがな……」
重苦しい口調で語り始めた。
「お前とコマチの結婚は認められん。諦めてくれ」
「何でだよ!?」
いつ、俺が姉との結婚を望んだというのだろう? 思わず失礼な口調で突っ込みを入れてしまった。
そして、そんなどうでも良いことを、長老どもは話し合ってたというのか。俺が後を継いだ暁には、ぼけ老人どもを引退させた方が良いかもしれない。
「ん? しかしだな……」
祖父はある方向に視線を向ける。その方向には俺のパソコンがあった。
「あ……」
最初にゲートを開いた時と前回ゲートを開いた時、俺はある致命的なミスを犯した。
パソコンで姉が攻略対象の大人向けのゲームを起動させたままにしていたこと、そしてそこに姉を読んでしまったことだ。
「あれは、関係ありません」
「そうなのか? 儂はてっきり……」
「見て見ぬふりをするのも、家族の、というか男の仁義というものではないでしょうか?」
「分かった分かった」
これで、蘆屋がよそよそしかった理由が分かった。自分の婚約者が俺に取られるかもしれないと危機感を感じていたのだろう。
「次世代の魔術の才能は空前絶後になるかも知れないと、期待もあったんだがな」
「まだ言いますか」
「うむ。やめにしよう。では、事情を話してくれ」
話を聞いてくれる態勢が出来たようなので、俺の状況を話した。
異世界へのゲートが現れた事、それを再現して異世界に旅立った事、陰陽道が弱体化したせいで元の世界に戻れなくなった事など様々だ。
「ふーむ。それで、元の世界に帰る手助けが欲しいということだな?」
「そうです。こっちの世界では魔術法則に違いがあるようで、中々本領が発揮できないのです。一応、天体観測を始めたので、その内星宿の影響を分析できると思いますが、その分析を手伝ってほしいですね。と言いますか、このゲートの魔術を分析して、そちらから完全な形で開いてもらえましたらすぐにでも戻れるのですが」
「残念ながらそれは難しい」
「それは何故ですか?」
この返答は驚きである。祖父は俺以上の陰陽道の使い手である。俺が出来たゲートの発動を祖父が出来ないとは考えにくかったのだ。
「この魔術、お前はゲートと呼んでいるが、さっきから分析しているのだが、陰陽道以外の要素もかなり含まれている。儂の様に古い陰陽師は他の魔術をそれほど修行していないのでな、とてもではないが再現できん。お前は世界中の色々な魔術を研究していたし、魔術大戦のおりに最前線で戦って身をもって知っていたから感覚的に分析できたのだろう」
「そうですか……」
祖父の返答はかなりショックであった。一門の長として頂点に君臨していた祖父は、今まで何でも可能にしてきた万能の絶対者の様に尊敬してきたのだ。
その祖父にも手が付けられないというのは、今置かれている状況が思った以上に厳しいという事なのだ。
もっとも、祖父にも出来ない事を、俺が成しえたというのは誇らしいと感じない事もないのだが。
「まあ、こちらでも出来ることはやってみよう。こちらでも類似の魔術がないか調べてみるし、データさえ寄越せば分析も手を貸そう」
「ありがとうございます。まだ星の観測は始まったばかりなので渡せるようなデータはありませんが、次に開くときには渡せるようにします」
「うむ。それはそうと、分かっていようが、お前がわが九頭刃家の陰陽道を継承するための儀式が可能な時期は限られている。急いで帰らねば次の機会はかなり先になると思え」
「分かっております。可能な限りの努力をしますので、そちらも協力をお願いします」
俺の予感ではもうそろそろゲートが時間切れで閉じてしまう頃なので、話をまとめることにした。今回は解決できなかったが、一門の支援を受けられるというのは、やはり心強い。
「あとこれは助言だがな。空に目を向けるのも良いが、地にも目を向けるべきだろう」
「地? あ、そういう事ですか」
「そうだ」
「ありがとうございます。そちらも調べてみ……ますので次も是非ご助言をお願いします」
感謝とこれからの協力のお願いを、最後まで祖父に聞かせることは出来なかった。
ゲートは無情にも消滅し、式神とのリンクが切れたせいで祖父の姿も見ることが出来なくなった。
「どうだった? 今回は前よりも長く話せたみたいだけど」
俺が元の世界に意識を飛ばしている間、ずっとそばに控えてくれていたカナデが心配そうに話しかけてきた。
「残念ながら、ゲートの魔術の再現は難しいってさ。でも、これから手助けしてくれるってさ。また、魔力を溜めたらゲートを開かないとね」
「主よ、気を落とさないでください」
俺の肩の上に乗っている、カエルの式神である蠱王が慰めの言葉をかけてくれた。余り口数の多い奴ではないが、その心遣いは伝わってくる。
「そんなに心配するなよ。まだまだ時間はあるし、ヒントも貰ったんだ」
「ヒントですか?」
「何かいい手段でもあるの?」
「ああ、そうだ。地にも目を向けろってさ」
「地、ですか?」
カナデは怪訝な顔つきで問い返してくる。
「そう、空では星の配置が魔術的に大きな影響を持つように、地では山河等の配置が大きな意味を持つ。風水って奴だ」
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