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第33話「元最強陰陽師、祖先の足跡を目撃する」
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「カナデ……」
「アツヤ、どうしたの? こんな時間に」
自分の事を棚に上げたカナデは、ゆっくりとこちらの方を振り向いてきた。
「いや、眠れなくて気晴らしにね。そちらこそどうなんだ」
そう言ったところでカナデの前に何かがあるのに気が付いた。それは、錆びて朽ち果てそうな金属の棒であり、地面に突き刺さっていた。
そして、ボロボロの外見から何かもの悲しさを感じさせ、ある物を連想させた。
そう、墓標である。
「それは?」
言いながら近づいていくとカナデの前にある棒が、よりはっきりと見えてくる。それは、所々欠損しているものの良く見慣れた物であった。
「陰陽師が使う錫杖、そうだね?」
「そうよ。そしてこれが私が陰陽道を学んだ原因でもあるの」
カナデは俺の聞きたいことを察したのか、話し始めた。
魔王が出現し、この大陸にも危機が訪れようとしていた時期、ペペルイの森に何処からともなく一人の男が現れ、ペペルイの森に逗留していたらしい。その男は記憶を無くしていたのだが、強力な魔術を行使することが出来たらしく客人として迎え入れられていた。
そして、ついに魔王がこの大陸に侵攻を開始し、ペペルイの森を消滅させながら進軍してきたその時、エルフの族長が指揮する戦線を破られてしまい、魔王軍の間の手は後方で支援の拠点となっていた王宮の所在する世界樹に迫り、そこにいたカナデは命の危機にさらされた。
その時魔王軍の前に立ちはだかり、誰も見たことのない不思議な魔術で魔王軍を次々と消滅させ、ついには魔王との激戦の末互いに消滅してしまったのが、名前も知られていない男だったのだ。
この事は見た者の少なさから殆ど世間で知られていない。カナデは父親であるエルフの族長に報告しているので、大陸中の王族達や魔王調査隊の中心メンバーには共有されているらしい。
しかし、世界を破滅の危機に陥れた魔王をたった一人の魔術師が打ち破ったなどどいう話は、世を騒がすだけだとして広く知られることはなかった。
荒唐無稽すぎるし、結局魔王が完全に消滅したかどうかも不明なのだからだ。
そして、その魔術師に命を救われたカナデは、その男の魔術が一体なんであるのか調べた。それがせめてもの恩返しになると思ったからだ。
様々な文献を読み漁った結果、男の魔術は今では滅びかけで大して効果がないとされている陰陽道であることに行きついた。今伝えられているものとは明らかに威力が違い過ぎるのだが、魔術の傾向は同じであるように思えたのだ。
また、千年近く生きるエルフの古老にも話を聞いた結果確信を強めた。古老がまだ幼かった頃、この世界の各魔術がまだ未熟だった時代に、一人の魔術師がふらりと姿を現した。アベノセイメイと名乗るその魔術師は、魔術の技術を向上させるための様々な理論や知識を与えた。その過程で言語や文字も伝え、それが今でも魔術の教育で使われている文字、漢字なのだという。
おそらくカナデが陰陽道を学ぶことを条件付き、期限付きであっても許可されたのは、エルフの間では強大な力を誇る陰陽道の伝承が残っていたからなのだろう。精霊魔術がエルフの本領なのかもしれないが、その精霊魔術の発展にも寄与した偉大な魔術師の専門とする魔術なら、若い族長家の一人が修得を目指してもそれ程問題はあるまい。
「そういう訳で、陰陽道を学ぼうと思ったのです。そして、この錫杖が魔王と相打ちになった人がただ一つ残した物で、こうして記念碑代わりにしているのです」
話し終えたカナデは静かにそう言った。
もう陰陽道の修業は打ち切らなくてはならないとかの雰囲気は全く見られない。口にもしない。ならば俺の口からその件に触れることは出来ない。
「そうか。だから日本語が通じたり漢字が使われていたりするんだな」
「そうですね。もっと早く教えれれば良かったですね」
「そうだよ。それに……アベノセイメイって俺のご先祖様だぞ」
「え? そうなんですか。それは凄いですね」
カナデの去就について話すことが出来ないので、とりとめもない話をするしか出来ない。お互い口調こそ明るく、普段通りの応答をしているが、何となく間合いを図っているような感じがする。
「アベノセイメイはこの世界でも強力な陰陽道を行使出来たようですから、その陰陽道の使い方を詳しく書き残してくれたら良かったですね」
「ああ、全くだ。そうすればこんな苦労をして一から魔術理論を構築しなくても済んだのにな。と言うか、この世界に到着した後、全部自分でこなしたんだろうな。アベノセイメイは」
俺は陰陽道の長い歴史の中でも最強と謳われるだけの実力を持っているが、何のことは無い。俺が苦境に立っているのと同じ事態を、ご先祖様は自力で切り抜けて大きな足跡を残したのだ。自分の至らなさを痛感した。
「さあ。もうそろそろ戻って寝ようか。明日からまた学院まで歩きどおしだからな」
「そうですね。私も何だか眠くなってきましたし」
二人して戻ろうという事になり、館に戻ることになった。
その前にふと魔王と相打ちになったという陰陽師の残した錫杖に近寄って見た。
魔力を使い果たしたため劣化が進み、あちこちが破損していたり錆が全体に及んでいる。そのうち完全に朽ち果てて、自然に還ってしまうかもしれない。
そんな事を考えながら錫杖を眺めていると、錆でぼやけているもののある紋様が刻印されているのを発見した。
それは、九頭刃家の当主一門しか使用できない紋様であった。
「アツヤ、どうしたの? こんな時間に」
自分の事を棚に上げたカナデは、ゆっくりとこちらの方を振り向いてきた。
「いや、眠れなくて気晴らしにね。そちらこそどうなんだ」
そう言ったところでカナデの前に何かがあるのに気が付いた。それは、錆びて朽ち果てそうな金属の棒であり、地面に突き刺さっていた。
そして、ボロボロの外見から何かもの悲しさを感じさせ、ある物を連想させた。
そう、墓標である。
「それは?」
言いながら近づいていくとカナデの前にある棒が、よりはっきりと見えてくる。それは、所々欠損しているものの良く見慣れた物であった。
「陰陽師が使う錫杖、そうだね?」
「そうよ。そしてこれが私が陰陽道を学んだ原因でもあるの」
カナデは俺の聞きたいことを察したのか、話し始めた。
魔王が出現し、この大陸にも危機が訪れようとしていた時期、ペペルイの森に何処からともなく一人の男が現れ、ペペルイの森に逗留していたらしい。その男は記憶を無くしていたのだが、強力な魔術を行使することが出来たらしく客人として迎え入れられていた。
そして、ついに魔王がこの大陸に侵攻を開始し、ペペルイの森を消滅させながら進軍してきたその時、エルフの族長が指揮する戦線を破られてしまい、魔王軍の間の手は後方で支援の拠点となっていた王宮の所在する世界樹に迫り、そこにいたカナデは命の危機にさらされた。
その時魔王軍の前に立ちはだかり、誰も見たことのない不思議な魔術で魔王軍を次々と消滅させ、ついには魔王との激戦の末互いに消滅してしまったのが、名前も知られていない男だったのだ。
この事は見た者の少なさから殆ど世間で知られていない。カナデは父親であるエルフの族長に報告しているので、大陸中の王族達や魔王調査隊の中心メンバーには共有されているらしい。
しかし、世界を破滅の危機に陥れた魔王をたった一人の魔術師が打ち破ったなどどいう話は、世を騒がすだけだとして広く知られることはなかった。
荒唐無稽すぎるし、結局魔王が完全に消滅したかどうかも不明なのだからだ。
そして、その魔術師に命を救われたカナデは、その男の魔術が一体なんであるのか調べた。それがせめてもの恩返しになると思ったからだ。
様々な文献を読み漁った結果、男の魔術は今では滅びかけで大して効果がないとされている陰陽道であることに行きついた。今伝えられているものとは明らかに威力が違い過ぎるのだが、魔術の傾向は同じであるように思えたのだ。
また、千年近く生きるエルフの古老にも話を聞いた結果確信を強めた。古老がまだ幼かった頃、この世界の各魔術がまだ未熟だった時代に、一人の魔術師がふらりと姿を現した。アベノセイメイと名乗るその魔術師は、魔術の技術を向上させるための様々な理論や知識を与えた。その過程で言語や文字も伝え、それが今でも魔術の教育で使われている文字、漢字なのだという。
おそらくカナデが陰陽道を学ぶことを条件付き、期限付きであっても許可されたのは、エルフの間では強大な力を誇る陰陽道の伝承が残っていたからなのだろう。精霊魔術がエルフの本領なのかもしれないが、その精霊魔術の発展にも寄与した偉大な魔術師の専門とする魔術なら、若い族長家の一人が修得を目指してもそれ程問題はあるまい。
「そういう訳で、陰陽道を学ぼうと思ったのです。そして、この錫杖が魔王と相打ちになった人がただ一つ残した物で、こうして記念碑代わりにしているのです」
話し終えたカナデは静かにそう言った。
もう陰陽道の修業は打ち切らなくてはならないとかの雰囲気は全く見られない。口にもしない。ならば俺の口からその件に触れることは出来ない。
「そうか。だから日本語が通じたり漢字が使われていたりするんだな」
「そうですね。もっと早く教えれれば良かったですね」
「そうだよ。それに……アベノセイメイって俺のご先祖様だぞ」
「え? そうなんですか。それは凄いですね」
カナデの去就について話すことが出来ないので、とりとめもない話をするしか出来ない。お互い口調こそ明るく、普段通りの応答をしているが、何となく間合いを図っているような感じがする。
「アベノセイメイはこの世界でも強力な陰陽道を行使出来たようですから、その陰陽道の使い方を詳しく書き残してくれたら良かったですね」
「ああ、全くだ。そうすればこんな苦労をして一から魔術理論を構築しなくても済んだのにな。と言うか、この世界に到着した後、全部自分でこなしたんだろうな。アベノセイメイは」
俺は陰陽道の長い歴史の中でも最強と謳われるだけの実力を持っているが、何のことは無い。俺が苦境に立っているのと同じ事態を、ご先祖様は自力で切り抜けて大きな足跡を残したのだ。自分の至らなさを痛感した。
「さあ。もうそろそろ戻って寝ようか。明日からまた学院まで歩きどおしだからな」
「そうですね。私も何だか眠くなってきましたし」
二人して戻ろうという事になり、館に戻ることになった。
その前にふと魔王と相打ちになったという陰陽師の残した錫杖に近寄って見た。
魔力を使い果たしたため劣化が進み、あちこちが破損していたり錆が全体に及んでいる。そのうち完全に朽ち果てて、自然に還ってしまうかもしれない。
そんな事を考えながら錫杖を眺めていると、錆でぼやけているもののある紋様が刻印されているのを発見した。
それは、九頭刃家の当主一門しか使用できない紋様であった。
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