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第34話「元最強陰陽師、馬車に揺られて黙考する」
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夜が明けて朝食をとった後、すぐに旅支度を整えて魔術学院への帰路についた。カナデの父親であるエルフの族長は執務があるとかで、特に挨拶をすることなくペペルイの森を離れることになった。
来た時と違うのは、エルフの兵士が護衛につき、馬車を使用できることだ。カナデがエルフの姫であるからではない。今は学生の身分なので特別扱いはしないのが建前だ。理由は国宝を輸送するからである。
ただし、特別扱いはしないとはいえ折角の馬車である。エルフの姫であり一番地位が高いカナデと、異世界から来た客人扱いである俺だけ乗車できることになった。
アマデオは鬼であるため馬車に乗るには大きすぎるので除外、ダイキチは御者の交代要員となり御者席に座っている。意外と器用な奴である。
馬車に乗ってみると、中世から近世っぽい世界の産物のわりに、乗り心地は快適だった。尻が痛くなったり車酔いになる様な事はなく、静かに揺られていると眠気が襲ってくるくらいだ。
技術的に発達していて何らかのサスペンションが付いているようには見えないので、魔術的な衝撃を和らげる装置が付属しているのかもしれない。
一週間カナデと一緒に馬車に乗っていたわけだが、これと言って話題がなかった。
雑談するような話題はこれまでの学院生活で話し尽くしてしまったし、何となくお互い距離感を図る様なところがあるのだ。
原因はカナデの今後の進路などだろう。
カナデがエルフの支配者階層としての責務を果たすため、陰陽道を諦めなくてはならないのはカナデ自身の口からは明らかになっていないが、多分その通りなのだろう。そして、カナデは俺が感づいていることを察しているはずだ。
カナデが何も言わない以上俺からその事に触れるわけにはいかないし、何より俺だって陰陽道の一門の未来を背負う者としての運命に縛られているのだ。何も言えることなど無い。それに俺だってカナデだって自由を求める事よりも、重責を担える事を光栄と考える側の人間である。余計な事など言う必要はない。
ただ、そうであってもつかの間の自由は欲しくなってしまうものだが、それはもはや諦めるより他に無い。
また、カナデが陰陽道を志すきっかけとなった、魔王を相打ちとなりカナデの命を救った陰陽師の事で俺の心が乱れていたのも話が弾まない原因の一つだ。
墓標代わりに地面に突き刺さっていた錫杖、その形式は紛れもなく我が九頭刃家の物であり、それの所有者と成り得る人物は限られている。
九頭刃一族であの錫杖を持つことの出来るのは、現当主である祖父と次期当主である俺、そして俺が幼い頃に行方不明になった俺の父親だ。
行方不明になった当時、世界の魔術師の中でも有数の実力を誇る父が突如として姿を消した事は、かなりの騒ぎになったそうだ。魔術の失敗による失踪から、敵対関係や競争関係にある他の魔術師の一派による陰謀まで様々な説が流れた。
場合により魔術師同士の抗争に発展しかねなかったそうであり、そうでなくとも魔術師の世界におけるパワーバランスを大きく揺るがした大事件だったらしい。もしかしたら世界魔術啓蒙団が勢力を伸ばし、世界征服を目指して大戦争を起こす遠因ともなったかもしれない。
そして、一番原因を与えたのは俺の人生だ。姉のコマチと俺しか残さずに父が消え、俺の他に後継者になり得る人物がいなかったため、その分俺への期待は大なるものとなった。
結果的に俺は若くして最強と謳われるほどの魔術師に成長し、近年ではなかった若年での当主への就任となった。かなり苦労したが、スパルタ教育を叩き込んだ祖父や失踪した父を恨んでいる訳ではない。ただ、どうしていなくなってしまったのかという疑問はずっと心の片隅に残っていた。
それがこの異世界であっさりと疑問が氷解してしまった。
俺と同じようにこの世界に迷い込み、そして強敵と戦い命を落としていたのだ。異世界で死んだなどとは流石に誰も予想していない。これまで事実が明らかになっていなかったのは当然と言えよう。
不思議なほど父が既に死んでいた事について、負の感情が湧きおこる事は無かった。父がいなくなったのは、もう正確に顔を思い出せない程昔の事であるし、弱い者を守って戦い、戦果を残して死んだのならとやかく言うことは無い。名誉に思うべきだろう。
しかし、それでも心のどこかに引っかかる物があるのは、致し方無いことだろう。
カナデは自分を守って死に、自分が目標としていた陰陽師が、俺の父であったことは知らない。昨晩俺がその事に気が付いてもその事は話さなかったからだ。
何故話さなかったのかは自分でも分からない。単に話す必要性が無いからとも言えるし、カナデが俺の父の死に責任感を感じてしまうのを防ぐためとも言える。だが、正確なところは分からない。
ただ、俺が何かを隠していることに、カナデは何となく感づいているような気はする。あえて聞いてこないだけだ。
カナデにも俺にも互いに隠し事があり、お互い相手に隠し事がある事に気が付いている。そんな状況では会話が成立するわけがない。
何となく気まずい雰囲気のまま、魔術学院への行程を進む事となった。
来た時と違うのは、エルフの兵士が護衛につき、馬車を使用できることだ。カナデがエルフの姫であるからではない。今は学生の身分なので特別扱いはしないのが建前だ。理由は国宝を輸送するからである。
ただし、特別扱いはしないとはいえ折角の馬車である。エルフの姫であり一番地位が高いカナデと、異世界から来た客人扱いである俺だけ乗車できることになった。
アマデオは鬼であるため馬車に乗るには大きすぎるので除外、ダイキチは御者の交代要員となり御者席に座っている。意外と器用な奴である。
馬車に乗ってみると、中世から近世っぽい世界の産物のわりに、乗り心地は快適だった。尻が痛くなったり車酔いになる様な事はなく、静かに揺られていると眠気が襲ってくるくらいだ。
技術的に発達していて何らかのサスペンションが付いているようには見えないので、魔術的な衝撃を和らげる装置が付属しているのかもしれない。
一週間カナデと一緒に馬車に乗っていたわけだが、これと言って話題がなかった。
雑談するような話題はこれまでの学院生活で話し尽くしてしまったし、何となくお互い距離感を図る様なところがあるのだ。
原因はカナデの今後の進路などだろう。
カナデがエルフの支配者階層としての責務を果たすため、陰陽道を諦めなくてはならないのはカナデ自身の口からは明らかになっていないが、多分その通りなのだろう。そして、カナデは俺が感づいていることを察しているはずだ。
カナデが何も言わない以上俺からその事に触れるわけにはいかないし、何より俺だって陰陽道の一門の未来を背負う者としての運命に縛られているのだ。何も言えることなど無い。それに俺だってカナデだって自由を求める事よりも、重責を担える事を光栄と考える側の人間である。余計な事など言う必要はない。
ただ、そうであってもつかの間の自由は欲しくなってしまうものだが、それはもはや諦めるより他に無い。
また、カナデが陰陽道を志すきっかけとなった、魔王を相打ちとなりカナデの命を救った陰陽師の事で俺の心が乱れていたのも話が弾まない原因の一つだ。
墓標代わりに地面に突き刺さっていた錫杖、その形式は紛れもなく我が九頭刃家の物であり、それの所有者と成り得る人物は限られている。
九頭刃一族であの錫杖を持つことの出来るのは、現当主である祖父と次期当主である俺、そして俺が幼い頃に行方不明になった俺の父親だ。
行方不明になった当時、世界の魔術師の中でも有数の実力を誇る父が突如として姿を消した事は、かなりの騒ぎになったそうだ。魔術の失敗による失踪から、敵対関係や競争関係にある他の魔術師の一派による陰謀まで様々な説が流れた。
場合により魔術師同士の抗争に発展しかねなかったそうであり、そうでなくとも魔術師の世界におけるパワーバランスを大きく揺るがした大事件だったらしい。もしかしたら世界魔術啓蒙団が勢力を伸ばし、世界征服を目指して大戦争を起こす遠因ともなったかもしれない。
そして、一番原因を与えたのは俺の人生だ。姉のコマチと俺しか残さずに父が消え、俺の他に後継者になり得る人物がいなかったため、その分俺への期待は大なるものとなった。
結果的に俺は若くして最強と謳われるほどの魔術師に成長し、近年ではなかった若年での当主への就任となった。かなり苦労したが、スパルタ教育を叩き込んだ祖父や失踪した父を恨んでいる訳ではない。ただ、どうしていなくなってしまったのかという疑問はずっと心の片隅に残っていた。
それがこの異世界であっさりと疑問が氷解してしまった。
俺と同じようにこの世界に迷い込み、そして強敵と戦い命を落としていたのだ。異世界で死んだなどとは流石に誰も予想していない。これまで事実が明らかになっていなかったのは当然と言えよう。
不思議なほど父が既に死んでいた事について、負の感情が湧きおこる事は無かった。父がいなくなったのは、もう正確に顔を思い出せない程昔の事であるし、弱い者を守って戦い、戦果を残して死んだのならとやかく言うことは無い。名誉に思うべきだろう。
しかし、それでも心のどこかに引っかかる物があるのは、致し方無いことだろう。
カナデは自分を守って死に、自分が目標としていた陰陽師が、俺の父であったことは知らない。昨晩俺がその事に気が付いてもその事は話さなかったからだ。
何故話さなかったのかは自分でも分からない。単に話す必要性が無いからとも言えるし、カナデが俺の父の死に責任感を感じてしまうのを防ぐためとも言える。だが、正確なところは分からない。
ただ、俺が何かを隠していることに、カナデは何となく感づいているような気はする。あえて聞いてこないだけだ。
カナデにも俺にも互いに隠し事があり、お互い相手に隠し事がある事に気が付いている。そんな状況では会話が成立するわけがない。
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