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31【決戦2】
しおりを挟む奏が指を弾いたのに合わせて、庭園に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
そして、会場を光のウェーブが流れていく。
そこで起こったことは――。
困惑して立ち往生していた出席者の上を、光線が通りすぎる。
その部分から、人々の姿がパッと消失していった。
数十人の貴族たちも、司会の人も忽然と姿を消す。
俺と奏、エドワードとユマ、フレデリック、そしてデイビッドだけを残して。
「こっ、これはどういうことだ!」
その場で声を荒らげたのはでこっぱち野郎だけで、俺たちは最初から織り込み済みの出来事だった。
フレデリックはユマの拘束から転がり出るように脱けだすと、広いおでこに汗を浮かべながら庭園をぐるりと見回す。
客で賑わっていたはずの式場は、がらんと寂しい光景に様変わりしている。
「投影魔法だよ」
奏が言って、もう一度指を弾く。
すると、消えた客たちが再び現れる。
「お前らが攻め込んでくるかもしれない危険な場所に、国王様を招待するはずないだろ?
姿をここに投射してるだけで本当はみんな宮殿の外にいるよ」
式の前日になって奏から聞かされた作戦とは。
デイビッドは間違いなく結婚式当日に仕掛けてくるから、会場自体を罠にして誘い出そうという婚約会見のときと似たものだ。
ただし、前回の反省を踏まえて今回は規模が違う。
「王様に許可をもらって、この宮殿全体を魔法陣の基盤とさせてもらった。
ここは式場じゃなく――デイビッド・モーリスの処刑場なんだよ。
他の人は姿だけ投影して結婚式を装ってもらうのと同時に、モーリス伯爵の蛮行を実際にその目で確かめてもらいたかった」
首魁のデイビッドが来ないことには陣の発動ができず、竜に苦戦させられたんだ。
けれど、その竜が伯爵本人だというなら作戦を実行できる。
「オズワルド公の悪行もしっかり見られたな」
「なっ……!」
青くなっていくフレデリックに、椅子に掛けた王様が言う。
「オズワルド男爵の処分については、この場が収まった後で改めて行う。公は逃亡するでないぞ」
「そんな……!」
奏は実体のない王様を振り向き、尋ねる。
「陛下。
モーリス伯爵は陛下もおられると承知していながら、このように禁術を用いて蛮行に及びました。
伯爵については他にもホワイトハート子爵への脅迫容疑があり、前当主の事故死についても関与が疑われます。
私に、断罪の許可をいただけませんか」
「うむ。モーリス公の話も伺いたいところだが……あの姿ではそれは難しいだろう」
竜と化した伯爵を見て、王様は奏に力強く頷いた。
「私の名をもって、ウィングフィールド伯爵にデイビッド・モーリスの征伐を命ずる」
誰もがその言葉を受け入れる。
ぱくぱくと口を開閉するフレデリックも、怪物と化した竜を見て何も言えないようだった。
――これでデイビッドを正々堂々、正面から討てる。
後々貴族同士で諍いを起こしたことが問題にならないように、デイビッドを王の面前で排除するのが奏の目的だった。
事態を察したのか、あちこちに傷を負い興奮状態になった竜が走り寄ってくる。
そいつに向かって奏は剣を横に構え、声を張り上げた。
「ホワイトハート家を陥れ、その領地の民から搾取し苛み続けた悪逆非道の冷血漢、デイビッド・モーリス!
お前の命運は今日ここに尽きる!」
『えっ、それ私のセリフ……』と放心状態で囁くフレデリックを無視して、奏と双頭の竜・モーリス伯爵の最終決戦が始まった。
竜の牙と奏の剣が噛み合い、火花を散らす。
「展開!」
奏が命令式を叫ぶと庭園に張られていた結界が七色に輝き、カゴ状に広がる。
竜が吹く炎も振りかぶる鉤爪も、虹色の網にかかると弾かれ、攻撃が無効化する。
剣で竜の動きを抑制しながら、奏は徐々にデイビッドを魔法陣の中心へ誘導していった。
白銀の剣が褐色のうろこを裂く。
黄ばんだ爪が奏の首を狙う。
「奏!」
俺は咄嗟に『守れ!』と念じて、残された力の半分を奏に向ける。
念は白い膜となって奏を覆い、一回限り爪の威力を削いだ。
その振動で竜の手が迫っていることに気付いた奏は、距離を空けながら相手の胴体を突き刺す。
グオオォと地から響く重低音で呻く竜の腕を駆け上がり、デイビッドの本体側の頭に飛び移った。
「兄ちゃんを舐め回した罪! ここで償ってもらうぞ!」
いやそこ!? とツッコむ間もなく奏が剣の柄を縦に握り直す。
きらりと光る切っ先をデイビッド本体の顔に向けて。
頭から剣で一直線に串刺しにするように、全力で刃を突き立てた。
断末魔、というのはこういう叫びを言うんだろう。
「う、うるせえ……!!」
竜の悲鳴で、局地的な地震が起きる。
ゴゴゴと宮殿全体が揺れ、建物を支える石の柱に亀裂が入る。
視界がぶれるほどの絶叫を上げながら、双頭竜は体をよじらせていた。
デイビッド本体は赤黒い血飛沫をあげて痙攣する。
奏は刺した剣を頼りにして揺れに耐えていたが、今にも振り落とされそうだ。
デイビッドの翼が虫のようにせわしく羽ばたき、飛び去る準備に入ると、奏はもう一度呪文を唱えた。
「圧縮」
するとデイビッドを包囲するように張られていた網が、一気にぎゅっと収縮する。
今にも飛び立とうとしていた灰褐色の羽をギチギチに縛り付け、羽ばたけないようにした。
ギャアギャアと烏に似た甲高い声が響くなかで、奏が叫ぶ。
「急所には当たってる! もっと深く、中の核まで届けば倒せるんだけど! コイツ硬くて無理かも!」
「補助がいるってことか!?」
そう、と大声で奏が答えると、デイビッドの体がデロリと溶けはじめた。
「なっ――なんだそのキモイのは!?」
「……形態変化だ! 心臓を守ろうとしてる!」
ヒエ、と息を呑む。
人間をやめてる。やめすぎだろ。
防衛のために溶ける人間がいてたまるか、と思うが、実際に伯爵の身体は自分を貫く剣ごと内側に飲み込んで、一体化しようとしている。
このままじゃ奏まで肉塊に取り込まれてしまいそうだ。
……俺の残り少ない魔力で助けになるか分からない。
けれど何もしなければ、デイビッドを取り逃がしてしまう。
「効いてくれよ……!」
俺は願掛けしながら、ありったけの力をこめて右腕を振りかぶった。
その手を――隣に立ったエドワードが下ろさせる。
「えっ……?」
「ここは、私にお任せを」
微笑を浮かべた執事がデイビッドの頭に向かって跳躍し、ふわりと奏の元に降り立った。
「エドワード」
「貴方の力を私の補助魔法で増強すれば、デイビッドを仕留められます」
奏が押し込んでいた剣の柄にエドワードも手を添えて、詠唱する。
「プロス・テース」
詠唱によって、突き立てられていた剣にぐんと重力が加わり、より深くデイビッドの肉塊の中にめり込んでいった。
しかも。
それだけに留まらず――。
「【斬撃】」
「【酸】」
「【燃焼】」
ブシブシと飛沫を散らしながら蠢くデイビッドに、エドワードは短い呪文を次々に唱えて攻撃を追加していった。
切り裂かれ、酸で溶かされ、燃やされて凄まじい悲鳴を上げる肉人形を、美麗の執事が凍り固まった瞳で見下ろした。
「百三十六。
貴様がユーリ様を追い詰めた世界の数、同じだけその身をもって償わせよう」
エドワードの手から数十個の氷柱が生まれて、全方位から肉塊めがけて飛んでいく。
デイビッドの身体は八つ裂きにされ、さらに八個それぞれの塊が五、十、十五……それくらいの数に切り刻まれる。
伯爵は三十個あまりの欠片に分解されて、竜の体の上に散らばった。
そんな血の海の中に、最後の塊が現れた。
それは心臓の形をして、弱々しく脈を打っている。
エドワードは奏を見て頷く。
「これは、私には潰すことはできません。
カイ・ウィングフィールドでなければ――奏様でなければ。
後は、頼めますか?」
「任せろ」
奏は無邪気な少年の笑みを浮かべて、剣を振り上げた。
「――こいつで終わり、だ!」
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