悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。

ちんすこう

文字の大きさ
42 / 53

30【決戦】

しおりを挟む
 妄想の邪魔をしたフレデリックは死んだとして、残るはデイビッドだ。
 ここへあの怪獣を召喚したのはあいつだろう。

「ここで変態伯爵まで出てきたら対処しきれないな。
 あいつ、あんなの呼べるくらい強いなんて知らなかった……」

 途方に暮れながらぼやくと、離れたところに立っていたエドワードが首をひねる。

「いえ……妙です」

 俺と奏が見ると、顎に指を当てて考え込む。

「妙って、伯爵が?」

 エドワードは頷き、透き通ったグレーの瞳を頭上の竜に向けた。

「あまりに強すぎるんです」
「強すぎるって……そんなに敵わない相手ってことか?」
「いいえ、そうではなく。
 いくら強大な力を持った術者でも、まともなやり方ではあれだけの魔獣を呼び出すのは不可能だと思われます」


 相手の言わんとすることを察して、言葉にした。


「つまり、まともじゃないやり方をした?」


 俺が訊ねた瞬間、庭園の土が割れた。


「な――――!」


 竜が地に降り立ち、巨駆が地面に叩きつけられたからだ。


「奏!」
「分かってる!」


 悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たちを尻目に、奏が剣を構える。
 鼓膜が破れそうな雄叫びとともに竜が突き出した口に刃を刺して、力技で押し込む。巨体が刺された口を振り解こうとのたうち回る間に、もう一つの頭が奏に迫った。

 ――今度は噛ませない。


静止イポーロイポ!」


 『止まれ』と念じると、口から自然と呪文が発されていた。
 残りの魔力のいくらかを使って波動が放出され、奏に襲いかかっていた頭が食い止められる。
 この隙に反撃に出れば――と様子をうかがうが、奏の剣は大元の頭に刺さったままだ。


 ――どう動けばいい?


 思考を巡らせていると、横から執事が駆けていく。


「エドワード!?」


 軽やかな跳躍で空中に躍り出た男は、敵の目の前に向かう。
 身にまとう燕尾服がひらりと華麗に舞ったかと思うと、えた臙脂えんじ色の鼻先に見事な蹴りが決まった。

「なっ――」

 おまけに魔法陣で踵にブーストがかけられていて、蹴られた竜の鼻が勢いよく燃え出す。
 地割れのような叫び声を上げて横殴りに暴れる巨体を見て、俺はただただ呟くしかできなかった。


「えっ……強ぉ……」

「力不足ながら、この執事も手助け程度はいたします。
 私は単なる歯車ですから敵を倒すことはできませんが」


 とどめは俺たちで刺してくれ、ってことだろう。エドワードは口惜しそうに言うが、これだけ戦えるなら充分だと思うんだけど……。

 口をあんぐりと開けていた俺は、エドワードに伸された頭が地面に伏しているのを見て、ふと気付いた。
 双頭はほとんど同じサイズだが、後から生えてきた竜頭には大きなこぶがついている。


「あれ……?」


 違和感を覚えて、よく目を凝らす。

 頭頂部から隆起したその瘤は、肉色をしていた。

 質感がやけに生々しい。
 大きさはちょうど人の上半身くらいの大きさをしていて……。

 瘤のてっぺんには溶けて崩れかかっているが、口をガッと開けた人の頭のような塊がくっついていた。

 それが“ような”ではなく苦悶の表情を浮かべた人の顔だと分かった瞬間――ザーッと顔から血の気が引いていく。


「こいつ――デ、デイビッド!?」


 奏とエドワードが俺の声に反応して、瘤を見る。

「なるほど。自分の身体を生贄にしたのですね」

 エドワードは自分が蹴りつけた頭を見、淡々と分析する。

「それなら得心がいきます。
 この大きさのものを制御しようとするなら、術者自身の体を犠牲にしなければ釣り合わない――モーリス伯爵はこの邪竜と同化されたのですね」


 この人、なんでそんな冷静でいられるんだよ……。

 改めて観察してみると、やっぱり竜の首にくっついているのは変態伯爵だった。なんか溶けた粘土みたい。


「キモッ!!!」


 俺の叫びに呼応するように竜が咆哮する。
 うなじに溶け込んだデイビッドの体はほとんど泥人形のようになっていて、とても生きているようには思えない。
 だが、どこからか奴の声が響いてきた。


『ユー……リ』


 ユーリ、ユーリ、と鳴き声のように唸る。
 声は泥人形伯爵のほうじゃなく、竜の大きく裂けた口から発されていた。

『ユーリ……ユーリ』

 怨念すら感じられる呼びかけ。
 ユーリへの深い執念がその声音にこめられているようだった。

「思ったより捨て身の行動に出たね」

 奏が顔を顰めつつ言う。

「爆発で体がぼろぼろに傷んでいても、こうして魔獣と同化すれば生き長らえられる。
 そうすれば、またユーリを追うことができる」

 だからといって普通の人間は、そんな理由で化け物になろうとは考えない。
 デイビッドと同化した竜は牙を剥いて、殺意の滲む絶叫でユーリを呼ぶ。

 頭を振り回して奏の剣から逃れたデイビッドは、トカゲのようになった手で掴みかかってきた。俺たちは魔法や剣で猛攻を躱し、すかさず距離を取る。

 獲物を仕留められなかった怒りで、あいつは爬虫類の目を猛らせながら怒号を上げた。


「あんな姿になって、ユーリをどうしたかったんだ」


 伯爵はユーリを恋愛的な意味で好きだったんじゃないのか?
 あんな姿になったら、億が一にでも希望が成就したときにどうにもならないじゃないか。
 俺の疑問に、エドワードが底冷えする声で答える。


「手に入らないなら殺す。
 気に入らない玩具は捨てる。
 あの男の考えそうなことです。
 あれはユーリ様を愛してなどいない……自分の気に入ったものを堕落させて汚したいだけの、独り善がりな変態です」


 禍々しい体に変わって突進してくるデイビッドに、奏が剣を構える。


「まあ、こいつがモーリス伯爵だって分かったんなら丁度いい」


 そして唇を緩めて、パチンと指を鳴らした。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...